ゴールデンカイトウィッチーズ   作:帝都造営

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Chap3-1-1 "Go to an advance base"


تیسری باب
پیشگی بیس پر جانے پہلا حصہ


 ゆるゆると煙が上がった。それは砲煙でもないし、砂嵐でもない。

 

 カラカラに乾いた大地には草など見当たらない。いや昔は確かにあったのだ。ろくに雨も降らないこの気候でも、人々は地下水によって、雄大な文明の母である大河の下で生きてきた。草の一つや二つ、生存を許されないはずがないのである。

 

 だが、その草木というのはもはやどこにも見当たらない。草という草は緑色であろうと黄色であろうと、それこそ水分を失い茶色となっていても誰かしらの飢えを凌ぐのには丁度良かったし、木という木は枯れ木であろうと夜の寒さを凌ぐのには役に立つ。波のような人垣の向こうに立ち上る煙も、恐らくはその燃え残りが燻っているのであろう。

 

 東から立ち上る朝日。夜明け時は礼拝の時間である。遙か地平線の向こうへと一斉に頭を垂れる。この儀式にはいくつかのルールが存在するらしいが、これだけの人間が屋根もない台地の上に詰めかけ、さらに食料にも事欠く状況となっては、それらを全て達成することは叶わないだろう。

 それでも、礼拝を止めようなどと考える人間はいない。

 

 

 シャッターを切る。心地の良い音が耳朶を打ち、ファインダーに映し出された景色が切り取られる。

 注釈(キャプション)ナシのただ景色だけを切り取った一枚。電子化されたそれは即座に衛星通信で本国へと。その後は自宅のパソコンに繋がれたハードディスクに収められる寸法となっている。一連の行程はいやに高く付くが、いつネウロイのビームで焼かれるとも知れないカメラ、そこに収められた絵の価値を考えれば安いものだ。

 

 朝焼けの中の即席宿営地は静まり返っている。ゆっくりと退いていく紫色の空がどこか人々に重くのしかかるようで、誰もが息を殺したようにゆっくりと身支度を調える。

 

 

 ふとカメラを持ち上げる。ファインダー越しに見えた子供は一瞬だけこちらを覗く。こんな世界じゃ貴重品なカメラに好奇心が沸いたのだろうか。それとも、ただ貪欲に絵を求めるこちらの視線に気付いたのだろうか。とにかくシャッター音が鳴り止むころには、その双眼は朝日の方向。ゆっくりと空へ昇ってゆく太陽が生まれた場所へと注がれていた。

 

 この先に何があるのか。この子は知っているのだろうか。いや知るはずがない。

 ネウロイが宇宙までもを侵していないおかげで衛星経由の電波は届くが、電波が届いたところで端末を充電する電気がないのだ。太陽光発電で動く便利な端末も存在するのだが、そんなものを持っているのは外国人である私だけだろう。

 支援物資が行き渡っていないのだ。時折リベリオンの輸送機が地面に物資を落としていくが、それらは全て食料品。しかも私の端末が示す通りなら、あの支援は正式なものではないらしい。

 

 

 国土の喪失、物流の混乱。情報は致命的なほど足りない。明日明後日が仮に来るとして、彼らはどこへ行けばいいのかも把握できないのだ。

 ただ今言えることはただ一つ、東へ。ただ東へ。

 

 人類の所業には目を見張るものが確かにある。しかし人類は私の同類である。怪異の殺戮には絶対の信用がおけるが、しかし人間というものは同族への信頼という賭けを選ぶのである。

 

 そして私もその賭けに上乗せ(レイズ)なのである。

 端末を開く。政治家のスキャンダルと同じくらいに重要な前線リポートに目を通す暇はない。河を作らんばかりの避難民に続く。

 

 目前に迫ったビルディングの群れ。国道を埋め尽くすヒト、ヒト、ヒト。この国最後の街は彼らを歓迎も拒みもせず、ただただ荒野の中に佇んでいる。

 

 

 ここはウルディスタン共和国。パンジャーブ州は州都ラホール。

 

 私――――アーネスト・T・クロンカイトは、真実を切り取るためにここに()る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 いくら州都とはいえ、外国人の私がラホールを知るはずもない。最後の街、辺境の街と聞かされていた私がラホールに抱いていたイメージは片田舎の寂れた町そのものであったのだが、そんなことは全くなかった。

 

 この国が隣国と上流の水使用権を巡って対立しているという河を渡り、ラホールの中心街区へと。途中あちらこちらで市の様子をカメラに収めていたこともあり、恐らくは仮設であろう防衛軍の司令部へとたどり着いたのはそろそろ日も沈もうかという頃だった。

 

 取材の許可を取り付けるべく報道担当官を探す。祖国リベリオンでは軍が報道官どころか戦地へのヘリコプターまで用意してくれたものだが、もちろんそんな至れり尽くせりはこの国に望んではいけない。それでも基地、しかもウィッチ部隊が駐屯するという基地の取材許可が下りた。

 

「驚いてるだろう?」

 

 サスペンションの効きが悪いジープから腰を守っていたとき、訛り気味のブリタニア語で話しかけてきたのは運転手兼通訳兼通行手形のウルディスタン兵士。

 

「なにがです?」

 

「ウィッチを取材する許可が下りたことにだ。ウルディスタンの恥をさらすようなもんだからな」

 

「恥、ですか……」

 

 いまいち要領を得ずに私がそう言えば、兵士は心底不満げに毒づいた。

 

「恥以外の何者でもなない。聖法(シャリーア)をねじ曲げてまで女を戦場に立たせ、足を晒させた。まるで娼婦だ。預言者の書(ハディース)の教えすら忘れたムスリムの恥としか言い表せやしない」

 

 ストライカーユニットを履くためにはローライズのズボンを履かねばならない。それは仕方ない処置のはずだ。

 

「女子は顔と手を除き、晒すべからず、でしたか」

 

「彼女たちの奮闘の精神(ジハード)は称えられるべきものだが、それを盾にして、彼女たちにシャリーアを破らせる奴ら。後方に逃げふんぞり返る奴らはすべからくジャハンナムへ下るべきだ」

 

 イスラームの専門用語が多くて、聞き取りには時間がかかる。たぶん地獄に落ちろとかそんなところだろう。

 

「そんなやつらがこの国でふんぞりかえっているかと思うと腸が煮えくりかえる」

 

 そういって運転手はちらりと横を見た。

 

「記者さんよ、この国の恥をさらすことになるだろうが、しっかり見てきてくれよ。遠くのムスリムの兄弟達にこの国の惨状を伝えてほしい。少女に頼らなければ聖戦を続けることすらできないこの国の惨状を知らせてやってくれ」

 

 それには頷いて答える。元からそうするつもりだ。私を乗せたジープはそれに答えるかのように加速する。砂埃が舞い、サスペンションで殺しきれなかった振動が骨に響く。

 この国を護っているという少女たちの基地、そのゲートが間近に迫っていた。

 

 基地はヒトでごった返していた。しかし身なりはとてもじゃないが正規兵のそれには見えない。案の定写真撮影の許可も下りず、その区画から逃げるようにして走る。ウィッチのことではあんなに饒舌だった兵士も、何も言わずに車を走らせている。

 

 しかし、この景色こそ評価されるべきではないのだろうか? 人類が、これまで互いにいがみ合っていた人々が危機を前に手を取り合う光景こそが。

 ネウロイという怪異、戦艦すらも簡単に屠るその存在が表れて以来、人類はただひたすらにおのれの生存をかけて戦ってきた。これまでの人生で知り合った多くの知人たちの故郷が焼かれ、今なお家に帰れない人が大勢いる。

 

 だからこそ戦うのだ。太陽が照り付ける砂漠で、輝く水を湛えた河川で、荒涼としたサバンナで。人類は決して降伏しない。最後の一人になっても抵抗し続けることだろう。

 この光景はその決意を表すものではないのか。

 

 

 ……いや、そんなことは言うまい。彼の言い分が間違っていると糾弾するのは私の役目ではない。この場所で起きている全てを知った世界中の人々だ。私の記事はこの世界の真実を広めるためにあるのだ。

 

 

 ヘリコプターが爆音を羽ばたかせながら頭上を過ぎ去っていく。胴体からせり出した小翼(スタブウィング)にぶら下げられた無数のロケット弾やミサイルはまるでブドウの房のよう。

 

 それにしても、攻撃ヘリか。

 ネウロイの攻撃にはめっぽう弱いはずの攻撃ヘリを見るのは久しぶりだ。なぜこんな所に……いや、問うまでもない。ここは元より紛争の絶えなかった地域。ここラホールでは今となってこそ対ネウロイ戦争の最前線、そして全世界の注目を浴びる街であるが、二ヶ月も前まではインディア帝国との国境を接する街に過ぎなかった。私を初めとして誰も目を向けることはない街だった。

 

 しかし、ウルディスタンにとってはその頃から最前線だったのだ。宗教、言語、水の使用権。そのいずれを持ってしても説明しきることの出来ない溝を隔てた前線だったに違いない。

 

「着いたぜ記者さんよ」

 

 

 そこに待っていたのは、物々しい警備に固められた一つの掩体壕(ハンガー)であった。なるほど爆弾やネウロイのビームの直撃に耐えることを前提にした航空機用の倉庫は、確かにウィッチの身の安全を確実に守ってくれることだろう。

 

「ここは空軍だけの飛行場なんですか?」

 

「義勇空軍の、な」

 

 運転手はそう言って歩き出す。私はPRESSの腕章をつけている事を確認してからその後をゆっくりと付いて歩く。掩体の方からちょこんと飛び出した顔に彼が足をとめる。

 

「シャイーフさん! ヒジャブはどうした!」

 

「あっ……」

 

 彼女は驚いたような顔をして顔を引っ込める。

 

「まったく……もうすぐ成人だというのに、はしたない」

 

 運転手はそう言ってため息。慌てて赤い頭巾を被って飛び出してくる彼女。どこか危なっかしい足取り。重心がどこか安定しないというか、見てて不安になる走り方だ。

 

「あの、お呼びでしょうか!」

 

「ルクサーナさんは中か?」

 

「はい、さっき降りてきました。えっと、そちらの人は?」

 

「記者さんだそうだ」

 

「こんにちは、アーネスト・クロンカイトです」

 

「こんにちは、えっと、ウルム・パフシュ・シャイーフといいます」

 

 はにかみながらそういった少女――ウルムという名前らしい――を見て、私は何かが痛むのを感じた。あまりに幼すぎる。エレメンタリースクールに通っているぐらいの年齢だろう。10歳いっていないのはほぼ間違いない。

 

「シャイーフさんは義勇兵の一人だ。シャイーフさん、失礼のないように」

 

「はい。わかりました」

 

「それじゃぁ記者さん。私は他にも用事があるからここでいいか? 帰りは昼の礼拝の後に迎えに来る」

 

「わかりました。ありがとうございます」

 

 運転手はそれだけいうとひらひらと手を振って帰って行った。

 

「えっと……あの人悪い人じゃないんですけど、ぶっきらぼうですよね」

 

 ウルムちゃんはそう言って控えめに笑った。

 

「えっと、クロカトさんは……」

 

「クロンカイト、……言いにくいならアーネストでいいよ」

 

「ごめんなさい……、じゃぁアーネストさんはルクサーナに会いに来たんですよね?」

 

「うん。案内してくれるかい?」

 

「いいですよ。こっちです」

 

 ウルムちゃんはそう言って私を連れて掩体の方に向かう。

 

「えっと、ウルムちゃんはウィッチなのかい?」

 

「ウィッチ見習い、です。体が小さいのと魔力が少なすぎてあと1年はストライカー使っちゃだめだっていわれてるので、今はルクサーナのお世話役兼メカニック見習いです」

 

「レディに歳を聞くのはマナー違反なのは知っているけど……いくつだい?」

 

「8歳です。結婚するなら1年待ってくださいね?」

 

「冗談だろう?」

 

「冗談ですよ。もしアーネストさんがその気なら考えますけど」

 

 茶目っ気たっぷりにそういう彼女に目の前がくらくらしそうだ。古典イスラーム法だと9歳から結婚できたり、ウルディスタンには結婚同意年齢について定めた法がないとは聞いていたが、それでも大問題だ。なんでそんな子どもが前線で軍属なのかと正気を疑う。郷に入れば郷に従えというが、さすがにこれは拒絶反応がでてしまう。

 

「ここでの生活に不便はないかい?」

 

 全力で掩体のスライドドアを引っ張るウルムちゃんを手伝いながら私は声をかける。

 

「ありますよー。よく発電機が壊れるのはなんとかしたいですけど、部品が取り寄せられないの。少し大変です」

 

 ヒジャブを揺らしてくるりと振り返るウルムちゃん。その屈託のない笑みが向けられる。

 

「でも、ルクサーナがいるから寂しくないの。ルクサーナが居れば夜も明るく――――」

 

「ウルム!」

 

 横から割り込んできた声はウルムよりも少し低い声。だけどまだまだソプラノと言っていい声だ。黄色いヒジャブの女の子。こっちもまだ子どもが抜けきらない雰囲気だ。

 

「失礼ですよ」

 

「ごめんなさいナシーム……えへへ、怒られちゃいました」

 

 ぺろりと舌を出すウルムちゃん。ナシームと呼ばれた黄色いヒジャブの女の子は少し厳しい目で私を見てきた。

 

「ルクサーナは今、帰還後の身支度をしております。ご面会でしたら、今しばらくお待ちいただけますか」

 

「えぇ……ナシームさん、でいいのかな?」

 

「なんとでもお呼びください」

 

 どこかつっけんどんな感じの女の子というか、思春期真っ只中というか、そんな雰囲気だ。それとなく距離を取るに限る。

 

「ナシームは結構怒りっぽいの」

 

「ウルム!」

 

「ほらね?」

 

 そんな私の心中を知らないでウルムちゃんはナシームちゃんをからかう。目の前で地雷が爆発している感じだ。ほほえましいがとばっちりがこっちに来てくれるなと思う。

 

「賑やかですね。えっと、そちらの方は……」

 

「あ、ルクサーナ!」

 

 凜とした声を響かせながら入ってきた少女にウルムちゃんが飛びつく。それを難なく受け止めながら笑顔で首を傾げる少女を見て、私は一瞬姿勢を正した。

 

「ジャーナリストのアーネスト・T・クロンカイトと言います」

 

「ラホール第7飛行場へようこそ。ルクサーナ A/P アランといいいます」

 

 名乗った少女は、とても気高く見えた。

 

 

 

 

 

 安全圏から眺める戦争ほど、エンタテインメント性の高いものはないと言われたことがあるが、確かにそうかもしれない。敵味方の射線が混じり合い、砲兵が敵をなぎ倒し、戦車が敵を踏みつけて作り上げた街道を歩兵が前進する。これほど痛快で悲惨なエンタテインメントは存在しないだろう。

 

 もっとも、その時代は70年以上も前に終わりを告げたはずだったのだ。目の前で繰り広げられているこの惨状は言うならばタイムカプセルだ。

 

「そんな事を言っていられるのも、ここがまだ層が手厚いからだ」

 

 そう言ったのは連れてきてくれた運転手だ。ちょうどはぐれの地上型が出て支援要請が入ったとのことで連れてきてもらった。予測進行ルート沿いの丘の上から広大な砂漠を見下ろす。望遠レンズの向こうに小型の地上型ネウロイが見えた。

 

「気をつけてくれよ記者さん。こっちから見えると言うことは向こうからも見えるってことだ。赤く光ったら真後ろに向かってダイブだ」

 

「わかってます」

 

 この丘の上は観測所として使われている。塹壕がネウロイ戦でどこまで有効なのかは分らないが、ビームが直撃するのと、ビームのせいでドロドロに溶けたガラス質の砂を被るのはどちらがマシかと聞かれたら、まだ砂を被る方がマシと言える。文句は言うべきじゃないだろう。

 

「偵察Ⅰ型1体のみとはついているな。あれならやろうと思えばウィッチじゃなくても潰せる」

 

「そうなんですか?」

 

 その言葉に、運転手は顔を向けることもなく返す。

 

「本当に君は戦場記者なのかい? 偵察Ⅰ型は火力が低いからこちらの被害を無視して数で押し込めばある程度接近できる。そして至近距離で車を爆破してやれば、詰みだ。市街地なら街道沿いに車を並べておいて爆発させればいい。適度な大きさで爆発に巻き込みやすいしな」

 

「それって自爆テロっって言いません?」

 

「他にウィッチ以外で手段があれば喜んで切り替えるさ」

 

 運転手はそう言って寂しそうに笑って見せた。

 

「もっとも、自分の番がきたら俺も同じように突っ込むつもりだがね。この国土にはもう後が無いんだ」

 

 運転手の言葉が胸に重くのしかかる。それを無視するようにして、ファインダーを覗き込んだ。ネウロイは思ったよりも素早く動いている。

 

「たしかに、砲撃で狙っていたら、当たらないか……」

 

「んで、有効なくらい強力な砲だと動かしている間に向こうからビームが飛んでくる」

 

 運転手がそう言って笑って見せる。

 

「だからこそウィッチの優位性が担保されるわけだ。……噂をすれば、だ」

 

 運転手が空を仰ぐ。小さく聞こえる音はエンジンの音か。目をこらすと後ろの方から小さな点がやってくるのが見える。大きくズーム。ファインダーから気をつけないとあっという間に抜け去ってしまう。慎重に空を撫でながらピントを合わせた。

 

 

 きれいだと思った。

 

 

 生成り色のシャツに、おそらくは米国からのお下がりだと思われるぼろぼろのタクティカルベスト、足に履いているのは何世代も前のものだというガリア製のストライカーユニット。それでまっすぐと風に乗ってやってくるのは技量のなせる技だろうか。そんなことを思っている間にも近づいてくる。

 いけないいけないとシャッターを切る。デジタルのカメラのおかげでシャッター音は大きくない。さすがにこの程度ならネウロイに聞かれることもあるまい。

 

 かなりの大きなエンジンの音を残して頭上を飛んでいくウィッチ。青いヒジャブ。間違いない。ルクサーナ A/P アラン飛行士だ。

 

 地上型がルクサーナ飛行士に気がついた。上空に向けビームが走る。慌てて絞りを調整。このままでは昼間でもホワイトアウトする。

 

「あれが……ネウロイのビーム」

 

「あんまり直視するなよ。目がやられるぞ」

 

 そう言われ納得すると同時にぞっとした。そのレベルで危ない物をつかうのか。ネウロイは。

 

 ルクサーナ飛行士は危なげなくそれをシールドで受けると明後日の方向にビームが吹っ飛んでいく。ビームの射程は5マイル程度だと聞くから空に向けて散ったビームが誰かに当たることもあるまい。

 

 ときにシールドを張り、ときにかわしながら、距離を詰めていく。

 

「すごいですね、あれ……ランダムに撃たれるビームをほいほいと……」

 

「ルクサーナさんぐらい長いこと飛んでいると、なんとなく撃ってくる場所がわかるんだそうだ」

 

「ルクサーナ飛行士はそんなに長く飛んでいるんですか?」

 

「11ヶ月だよ」

 

 その言葉に黙り込む。11ヶ月で長いと言われるのか。それで彼女は長いと言われるのか。返せる言葉も無くなって、シャッターを切ることに専念した。

 

「そういう意味ではルクサーナちゃんはラッキーだ。皆より少しだけ長く生きて、誰かに覚えてもらえるように写真もとってもらってな」

 

 そういう運転手の顔がどこか遠くを見ている。それを横目でちらりと確認してから、ファインダーを改めて覗き込んだ。

 

「……死ぬことが前提なんですか?」

 

「それ以外の路があるならとっくにそっちを選んでいるさ」

 

 その声にはどこか諦めが滲んでいて。それが無性に神経を逆なでした。

 

「まだ生きているのに。諦めていてはなにもできないじゃないですか」

 

「そんなことを言ってた人が前にもいたよ。俺の指揮官だった」

 

 そう言って彼は手元のライフルを抱えて塹壕の壁に背中を預けた。ルクサーナ飛行士から目をそらす様な姿勢に見えた。

 

「インテリ崩れの隊長殿は『つらくても仲間がいればなんとかなる』と言った。軍隊お決まりの精神論だったな」

 

 ルクサーナ飛行士はぐるりとネウロイを回り込むようにぐるりと飛んでいく。風の音がうるさいが、それでも運転手の話が聞こえていた。

 

「次は『仲間がいなくても希望があれば』と言った。それも叶わず『夢破れても元気があれば』と言った。挙げ句の果てには『元気が無くても生きていれば』と言った」

 

 幸いにも『生きていなくても』と言い始める前にネウロイとお友達になったがね。と言って彼は笑った。

 

「3時間前に一緒に煙草を吸った仲間の葬式に出ることもしょっちゅうだ」

 

「だからって、後退すれば」

 

「インディアに入れば義勇兵は問答無用で銃殺だよ。陸戦条約もへったくれもねぇ。それがたとえ敗残兵で白旗を揚げていても撃ち殺されるだろうさ」

 

 砂が舞い上がる。戦闘しているルクサーナ飛行士の姿も見えないほどにたくさんの砂が舞い上がった。

 

「俺たちにもう、帰る場所もなければ、逃げる場所もないんだ。だからあんたも写真なんて撮りに来たんだろう?」

 

 砂嵐の向こうが光る。風が止んだ時にはネウロイも消えていた。

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