「中隊長へ意見具申、一個小隊を貸してください。後藤少佐を援護します!」
地平が燃えていた。都市部のあった方角からは黒煙が何本も伸び、纏まって一つの樹のようになる。砂で黄ばんだ青空に向けて成長していくその姿はどこかの童話に出てくる豆の木のよう。
「C小隊を任せます! 行って!」
クウェート共和国。1961年にブリタニアより独立したメソポタミア共和国連邦の構成国で、同国の最南端に位置する共和国。かの湾岸戦争の激戦地であることから扶桑人にとってはメソポタミア以上に有名な国名。
砂漠に広がる街に、どこか明るい海水を湛えた雄大なるペルシア湾。歴史ある石造りの町並みは、ネウロイの瘴気に数年沈んだ程度で朽ちたりはしない。元より人類連合の抵抗がロクに行われなかった地域であることもあり破壊が最小限に抑えられたことも、《ペルシアの自由作戦》発動後にすぐ再入植が始まる大きな理由にもなったであろう。
それにしても、賑やかだ。
空には黒い太陽に紅い月――扶桑軍の国籍マーク――が描かれた丸っこいデザインの回転翼機が、しきりに高度や向きを変えながら回避機動に勤しんでいる。このアリ・アル・セーラム空軍基地から4km東に位置するジャフラの市街地でデモ団体が暴徒化したとの報を受けたのが30分前。基地のゲートに迫撃砲弾が降り注いだのが僅かに10分前。
「大隊長の返答は!?」
しきりに続く爆発音にかき消されないように叫ぶ。半分以上憤りに任せた叫びは、少なくとも伝わらないということはない。
「『シールド出力に全魔力を集中し、使用武器は小口径弾でかつ警察比例の法則を厳守せよ』と!」
通信機で背嚢を大きく膨らませた部下が叫び返す。その言葉に扶桑皇国第七師団大村支隊第一魔導大隊第三中隊長、
麾下のC小隊を後藤少佐――分からず屋の大隊長――の元に向かわせたのが何のためだと思っているのだ。目下
所詮は偵察機に過ぎない回転翼機が遂に火を噴いた。いや決して機体に被弾したのではない。
「ああもう、これのどこが暴徒だっての!」
叫べど泣けど、攻撃の手が緩められることはない。ついに回転翼機は飛行場への着陸も許されぬままに被弾を許し、独楽のようにぐるぐると回りながら砂漠へと墜ちていく。
魔導インカムのスイッチを入れたのは、もはや反射だった。
「3中隊高峰です。至急、陸戦脚主砲の使用許可を」
《大尉、何度も言わせないでちょうだい。向こうにウィッチは確認されていない。実力の行使は通常の警察行動に留めるの。そう言ってるでしょ!》
ノイズの向こうに顔面蒼白なモヤシ
「大隊長! 状況を理解しておられないようですが、たったいま友軍ヘリが墜落しております。これ以上武装した暴徒を放置すれば、我が軍にも致命的な損害が――――」
《76mmの迫撃砲ではシールドは抜けないわ。対
大隊長の後藤少佐は数ある機械化陸戦歩兵の指揮官の中でも特に臆病な方と言われている。貧血気味で、いつも顔が白い。魔眼と臆病ながらも堅実な指揮という如何にも平時向きな将校だ。実際、20前後ばかりで皆血気盛んなウィッチの中では相当に
「そのようなことを言っていては手遅れになります! 直ちに反撃を!」
その声に応えるのは大隊長ではない。空を切り裂く魔導エンジンの音。直後に耳を切り裂く衝撃音、続いて心地よい爆発音。
人類連合空軍による空爆が開始されたのだ。もちろん狙いは暴徒と称する武装集団。
「大隊長! 空軍が攻撃を開始しました、もはや迷っている場合ではないでしょう!」
《ええ迷いなどしませんわ。攻撃は行いません》
「何故です!? 空爆部隊には皇国空軍のウィッチも参加しております! 栄光ある我が陸軍が――――」
そこまで言って、高峰大尉は自らの過ちに気付く。この台詞は高級将校には効く。たかが設立数十年の空軍に、設立百年を超える皇国陸軍、その最精鋭たる第七師団が遅れを取ることは許されないからだ。
だが、今の会話相手は若干20の
咄嗟に言い直す。
「――――いえ、我が陸軍に損害が出ることは避けねばなりません」
《だから言ってるでしょ、私たちのシールドは抜けないわ》
「違います、支隊には2300の人員が随伴しているのをお忘れですか。2300人は76mm迫撃砲弾の直撃に耐えられるのですか!」
説得には、可能な限りの数字。そして相手の想像力と罪悪感を巧く利用するのが肝要。こればかりは相手が中高年だろうと青年だろうと変わらない。
「使用許可を下さい。支隊の皆を、護らせて下さい!」
《――――――ダメよ、私たちの刃はネウロイを討つためのモノ。私たちはウィッチとして戦ってはいけないの。貴女なら分かるでしょう高峰大尉。とにかく――――――》
通信がそこで途切れる。魔導インカムを押す、正常に作動した機構がマイクをミュートにし、その通知音だけが聞こえる。ミュートを解除しようとした瞬間、爆発音。
音の方角を見る。一際大きな煙が上がっていた。迫撃砲なんて比じゃない。
瞬時に計算する。通信途絶から爆発音まで約4秒。音速換算すると、爆発位置からは約1500m。
その方角と距離は、後藤少佐の居場所。先ほどC小隊を送り込んだ場所。
「少佐? 応答願います、少佐」
マイクのミュートは確かに解除されている。が、返事はない。ただ虚無と僅かなノイズのみ。
チャンネルを切り替えた。
「古河中尉、C小隊応答せよ。古河応答しろ、応答して!」
副隊長の名を叫ぶが、理性は理解している。爆発の大きさは目算でも120mm越えの榴弾砲。重機関銃に釘付けにされた後藤少佐と本部中隊、そしてC小隊をまとめて吹き飛ばしたのだ。
それが”敵”の狙いだったのだ。
《……後藤大隊……名誉の戦…………られた、これよ…………隊長の高…………の指揮を執る。大隊長代理の判…………可、主砲魔…………開け。各中隊阻止砲…………は任せる》
そんなノイズまみれの扶桑語による通信が狼煙であった。扶桑皇国の担当する東地区の戦線が一気に切り開かれる。どうやら原因は指揮系統の崩壊とそれにより始まった独断専行らしい。
「それでもあの統制具合とは、流石は《北鎮部隊》とでも言うべきなのかねぇ」
第301統合戦闘航空団の戦闘隊長、霧堂明日菜大尉はさも他人事のように言い放つ。文面は単なる暴動とあったのに出動命令が下るなんてどうもおかしいと思えば、暴徒とやらは野戦砲まで投入しての大攻城戦だったのだから笑えない。
「でも、まだ滑走路や
隣を飛ぶオーガスタ・マクファーレン中尉が冷静に分析する。人類連合という名の多国籍軍部隊は押されていても崩壊はしていない。「暴徒」の切り札であったに違いない120mm野砲がリベリオン砲兵の速やかなる応射により撃破されたのは確認済みだ。
「流石は湾岸戦争の絶対防衛線と名高いアリ・アル・セーラム基地。生まれ変わっても難攻不落は変わらないのね」
徹底された防御態勢に明日菜は舌を巻く。ここに進出した地上兵力は扶桑とブリタニアとリベリオンの合同部隊合計3800。ここに50の陸戦ウィッチと70を数える航空ウィッチが付き添っているのだ。ネウロイであっても早々負けない布陣といえるだろう。いや、本来なら負けるはずもない戦いなのだ。
しかし航空兵力が移動・偵察用の回転翼機を除いて航空ウィッチに頼り切りだったことが裏目に出た。「暴徒」の襲撃にウィッチはその大半が精神的な原因により出撃が出来ず、先ほどの空爆だって切羽詰まった一部の志願ウィッチが爆弾を落としたに過ぎない。しかも阻止爆撃だから敵に被害が出たわけでもない。
状況は絶望的だ。
「でも、間に合ったみたいで良かったじゃない」
眼下には、「殺さねば殺される」という状況に陥ったことで撃てるようになった、いや撃てるようになってしまったウィッチ達の姿。砂漠の砂を巻き上げながら突撃する陸戦ウィッチと歩兵たちが、練度と個人装備で劣る「暴徒」たちを撃退していく。
《皇国万歳! 皇帝陛下万歳! 皇国陸軍万歳!》
「……とにかく、私たちはやるべきことをやるわよ。ブリジットは広域警戒、
その言葉と共に
《隊長……イイ知らせとワルイ知らせ、どっち知る》
片言のブリタニア語はモリジアナ・スマイール少尉。メソポタミア共和国連邦はサンクチュアリ共和国の出身で、301空では情報解析役も務めるナイトウィッチ。
「めんどうね、じゃあいい方から」
《フソウの大佐。オオムラが目を覚ました》
「それ悪い知らせって言わない?」
「
明日菜の呆れ声にマクファーレンが応じる。
扶桑皇国陸軍の大村大佐。この基地での最大勢力を誇る大村支隊の支隊長は、明日菜にとっては目の上のたんこぶ以外の何物でもない。一介の陸軍大佐の癖して301空に対して何度無茶ぶりを振ってきたことか……正直、今回の暴徒による襲撃で意識を失ったと聞いたときは密かにガッツポーズしたものだ。
加えて言えば、彼の復活は心情面以外にも悪い知らせである。基本的に猪突猛進な扶桑陸軍において、大村大佐はその急先鋒。そもそもクウェート共和国に彼らが駐留するのはペルシア湾岸を抑える第一段階作戦において彼らが文字通りの「一番槍」であったからである。
防衛戦において、突撃思考の指揮官が復活するのは非常に面倒だ。というか既に突出気味になっている東地区の戦線がこれ以上伸びるのは止めてほしい。
「……まあ、いいわ。で、悪い方は」
「オオムラ、チヌーク乗らない言ってる」
「知ってた。ブリジット、命令変更。大村とかいう阿呆、鼻をへし折ってでもいいからチヌークに叩き込め! あれを助けることが今回の命令なんだから!」
《イェス、マァム!》
その言葉と共にブリジットが飛び込んでいく。味方も敵にもロクな航空戦力はいない。野戦砲や迫撃砲の砲弾にさえ気をつけていればまさか撃墜はあり得ないだろう。
地上には地獄絵図が広がっていた。
明日菜にとっては厄介でしかない指揮官の復活は、しかし支隊にとっては最高のサプライズだったらしい。更に増した銃声と怒号と共に、扶桑陸軍は戦線を切り開く。
一方で元より数も少ない南地区のブリタニアやリベリオン軍は徐々に勢いを削がれつつある。いや違う。勢いを削がれつつあるように
そもそも今回の『救出任務』はこの地獄絵図の原因の八割方を占めるとある連邦評議会議員サマを基地から連れ出すこと、そしてこれを機にクウェート共和国より人類連合を
ということはつまり、別に基地を保持する意味はないしこれ以上戦い続ける必要もないのだ。
301空のウィッチ達の直掩を受けつつ、ヘリポートへと落着するチヌーク。西アジア司令部直々のお達しである評議会議員を回収する。
《アスナ! オオムラというか取り巻きがウザいんだけど! 人類連合の命令って伝えてあるんでしょうね!?》
「伝えてるわけないでしょ本人が今さっきまで伸びてたんだから」
《ふっざけんなアスナ! 覚えときなさいよ!》
「あーはいはい覚えとくね」
声にならない罵声と共に通信が途切れる。まあ格闘戦ならブリジットが一番得意だろうし、任せるに限る。
流れるように
そしてカーキ色に染められた回転翼機飛び立つ。妨害するように飛んでくるミサイルはシールドでたたき割る。
《アスナ、南地区が突破されたよ。暴徒が雪崩れ込んでくる》
「よろしい、
《はいっ!》
「事前の作戦通りだ。アリ・アル・セーラムの重要施設へのマッピングは済ませてあるな?」
後ろを振り返る。
戦場での経験が浅い石川少尉を如何に
《は、はいっ……あの、その》
「案ずるな石川。爆破のことは既に通達してあるし、既に放棄が決まった基地だ」
何を言いたいかは手に取るように分かった。基地を、それも味方の基地を爆撃するのだ。しかし仕方がない。もはや人類連合は攻勢限界を迎えてしまったのだ。
当初こそは悠々と領土を奪還していた人類連合軍であるが、それは即ちネウロイが大きな障害になっていない。即ちネウロイをロクに倒していないことを意味する。
この状況で想定以上に早く進む再入植は輸送網に想定以上の負担をかけ、更にはあり得ない速度での治安悪化が進んでいる。いくらメソポタミア共和国連邦がブリタニア連合構想という政治的事情で発足したという事情を鑑みてもなお、考えられない頻度でデモが、テロが、既にその毒牙は非政府系の団体にまで及んでいる。
残念ながら人類連合の主敵は、今やネウロイではなく反メソポタミア共和国連邦のテロリストと言わざるを得ない訳だ。ネウロイに戦い慣れたウィッチでも治安維持なんて未知の領域だ。
だからこそ、もう畳むしかないのだ。
ネウロイを倒すことは出来なかったが、作戦の主題であるペルシア共和国の軍事的負担は減らされた。ネウロイがそのまま退くならこれほどいいことはないではないか。例え「暴徒」が大量の重火器を持ち出してまで人類連合の戦闘機材や
「やれ」
《
その無線と共にサジタリウスの弓は空を翔る。十数本の
リベリオンが設計した破壊兵器だ。まさかリベリオン製の掩体壕を貫けない訳がない。
「それにしても、まさか友軍基地を焼く日が来るなんてね」
しかし仕方がない。「暴徒」に機密の塊であるストライカーを奪われる訳にはいかないし、既にここは
通信技術の発展は凄まじい。おかげでわざわざ狭苦しい無線室に足を運ばずとも、オフィスで手軽に連絡がとりあえるようになった――――が、今回ばかりは恨ませて貰おう。
もしもこれが電信だったら、こんなアホな文面を叩きつけられることもなかっただろうに。
《はっはっはっ――――! 見たか、これぞ大村家流替え玉術!》
こんなのが栄光の第七師団。その支隊長だというのだから笑えない。明日菜は痛くなるほどに米神を抑えながら、必死で出そうになる罵詈雑言を抑えた。
ブリジットめ。覚えていろよ。観察力がなさ過ぎる部下を恨む。
「大佐、この件につきましては陸軍の方にしっかと報告しておきます故」
《報告? なんだ、君らのウィッチが50越えのおじさんと30手前の若造を間違えたとでも報告するつもりか。これは盛大なジョークだな》
端的に言えば、支隊長である大村大佐の救出には失敗した。
ムサンナー空軍基地へと帰還した明日菜たち。チヌークの「積み荷」を確認すれば、そこに居たのは大村
《まあいいではないか。暴徒とやらの撃退は貴隊のおかげだ。大変感謝しておるぞ》
「ではせめて私の指示に従って欲しかったモノですがね!」
《ははははは! そうそう、若者はそのくらい素直がよろしい!》
もうどうせ考査に響くなんて事はないだろう。言いたいことを言ってやれば、完全に開き直った大村支隊長の笑い声が無線機を超えて明日菜の耳朶を打つ。
しかし。
《それに――――私も部下を見捨てた臆病者にはなりたくないのでな》
支隊長が続けた次の言葉に、明日菜は心臓でも掴まれたように表情を変えた。
「……今、なんて?」
アリ・アル・セーラム基地は放棄される。それは既に決定していることだ。だから移動に必要な機材と携行できるだけの食料弾薬以外は焼き払ったのである。
二日三日遅れて部下も皆帰るというのに、なぜ《見捨てた》と。
《なんだ、知らんのか。中東の狼と呼ばれたこの私を救出だなんておかしな話だろうに》
《ふむ。分からんなら教えてあげよう。我が皇軍の敗北は、兵卒の役不足によるものでなければ、国家の戦略失態でもない――――》
――――ひとえに、無能な指揮官でなければならない。
「まさか……支隊長」
《おっと。それ以上言ってくれるなよ。さらばだ若人、人類連合軍の健闘を祈る》
それだけ言って通信は切れる。向こうから切られる。
何に敗北した? 今はまだ敗北してない。しかし指揮官が『逃げ出す』と同時に敗北する。
その対象といえば、思いつくのは一つだけ。
「アスナ! ヤバいよ、バグダート方面にネウロイ急襲。それだけじゃない、全ての戦線が一斉に攻撃を――――!」
無線室兼司令室から駆け込んできたのであろうマクファーレン。執務室から飛び出す間際だった明日菜はその言葉を最後まで聞かずに飛び出す。遅れたようにサイレンが鳴り響き始めた。
知っていたのか、支隊長は。今日、この瞬間にネウロイが攻め立てると。なら人類連合軍司令部は分かってわざわざ大村支隊長を、人類連合クウェート分遣隊司令である彼を救出させようとしたのか。メソポタミア共和国連邦の最も果てにある共和国の防衛司令官を不在にしようとしたのか。
全ては――――――ネウロイへの敗北に理由をつけるため。
ネウロイだって馬鹿じゃないことは知っている。そりゃ飛行場をあんなに爆撃したのだ。遠目に見ても被害が甚大であること、そして今が最高の「攻め時」であることはネウロイであっても理解できることだろう。
だから攻めてくる。これほどの好機、今をおいて他にはない。
本当に、クソッタレな戦争だ。どうせ人類連合軍は全面的に撤退するのであろう。その犠牲を、戦線を畳む理由を、全て一人の司令官に押し付けようとしていたのだ。
たった一人に押しつけられるほど――――――クウェート分遣隊3800人、そしてこの《ペルシアの自由作戦》に投入される78000人の命は軽いのか。
空を仰ぐ。輝くのは暗黒の空。魔導インカムを手に取っていた。
「飛び出してごめんオーちゃん。ブリーフィングやるよ。全員招集して」
「メソポタミアの太陽は今日までネウロイ以上の難敵であった。しかしそれは向こう方にとっても同じであるらしい。闇夜に乗じてネウロイの襲撃が現在進行形だ。把握した分だけでも一四カ所。それも我々の
ホワイトボードに書き殴られたのはメソポタミアの地図。《ペルシアの自由作戦》の第二段階として北進を始めた人類連合に対し、ネウロイの襲撃を示すバツ印はメソポタミア西部に集中している。見事に軍は横っ腹を殴られた形だ。
「既に西アジア司令部はプランⅦCを発動。守りが薄くなっている南部が突破されて本隊が孤立する前に、ペルシアまで撤退する算段を立てた」
その言葉に全員が息を飲む。
「諸君も疑問に思っていることだろう。先日のバグダード奪還で残すは掃討戦という段にあったというのに、おめおめと全てを捨てて帰るというのか……故に、全面撤退という言葉にはしばし齟齬がある」
そこで一度言葉を切る。そう。《不朽の自由作戦》の教訓をたっぷり生かして編み上げられたのが今回の《ペルシアの自由作戦》であったはずだった。いざという時の撤退作戦が、状況別に様々なシナリオとして組まれていたのだ。
撤退は可能。そのはずだったのに。
「既にここら周辺ですら再入植が済んでいるというのに、どうして軍が下がることが許されるだろうか。許されるはずもない。なにせ我々は
だというのに、入植してしまった民衆がそれを邪魔する。既に人類連合は撤退の手段を失ったも同然だ。計画を発動したところで、一度家に帰った人々がそう簡単に土地を手放すモノだろうか。ありえない。
本当に。
本当に、本当に、本当に――――
「故に我々の目下の目標は、バグダード周辺の戦線維持と言うことになる。不安は多いだろうが、撤退作戦は段階的に進めていく。諸君は決して流言に惑わされることのないよう」
クソッタレな――――――――
「――――待って下さい!」
そこで、一人の魔女が立ち上がる。
2003年6月。メソポタミア共和国連邦に展開した人類連合軍の《
石川桜花の姿は――――中東に在った。