ゴールデンカイトウィッチーズ   作:帝都造営

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第五話 「エイティ~たたかい~」前編

 ストライカーユニットに足を通す。魔力増幅機の接続を確認。レスポンスノーマル。

 

「プリエンジンスタートチェックリスト……」

 

 短期間ではあるが、何度も繰り返してきた流れを思い出す。出力最小(スロットルミニマム)敵味方識別装置(I F F)オフ、VHF航法装置オフ、Vmaxスイッチオフ……。

 

 視線を忙しなく動かしながら、確認を進めていくひとみ。その間にも加藤中尉が武装の安全ピンを引き抜いた。飛行脚の中に収納されるようにリベリオン-ライセニアン製JANAAMMミーティア対空魔導ミサイルが隠れる。爆弾槽(ウェポンベイ)の扉が閉鎖されてロックしたことがマルチバイザーに表示される。

 

「大丈夫?」

 

 加藤中尉がひとみに耳打ちした。それに頷いて答える。ジェットエーテルスターター始動、出力計が動きだす。必要トルクが得られたら外部電源切り離し。慣性航法装置(INS)が無事に動いていることを確認する。

 

「ちゃんと、生きて帰ってきなさい。わかった?」

 

 その言葉と共に渡されたのは64式7.62mm小銃。頷きながら受け取る。幼年学校の行進訓練で背負ったことしかないそれは、本当に重い。それでもこれに命を預けて戦うことになるのだ。とすればこの重みもある意味では当然のものなのかもしれない。そんなことをどこか冷静に考えている自分に驚いた。

 

「……いける?」

 

 確認するように声が聞こえてきた。ひとみが返事をしなかったからだろう。

 

「はい!」

 

 カラ元気かもしれない。それでも声を張る。

 

「ランプ展開。ひとみちゃん、ストライク管制にコンタクト」

 

 加藤中尉がオスプレイのスロープを操作した。今日も皮肉なぐらいの青空が後ろに現れる。深呼吸を一つ。今からわたしは、あの空を飛ぶ。

 

「了解です。えと……カガストライク・ディス・イズ・カイト・ツー、チェックイン・フォー・ホットスクランブル」

 

《KITE2, KAGA-STRIKE, Check-In roger. Your flight is approved. Cleared to take off by GATE.》

 

 加賀の管制からの指示はゲイト出力……機体の出せる最大出力をもって現場に向かえという意味だ。オーグメンター、いわゆるアフターバーナーの使用が指示された。

 噴流式魔導エンジンは反応器の中で個人の魔力と大気中のエーテルを反応させ、飛行魔法を断続的に反応させる仕組みだ。しかし吸気中に含まれる全てのエーテルを反応させると、魔導エンジンはその反応量に耐えられず破壊されてしまう。使えるのはせいぜい30%程度、70%は未反応のまま排出される。それを魔導エンジンの()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()爆発的な推力を得るのが推力増強装置(オーグメンター)だ。魔力を高速で消費する代わりに、高速での行動が可能になる。

 

 唾を飲む。苦い。

 

「ラジャー・クリアードテイクオフ・バイゲイト。カイト・ツー」

 

 復唱を返すと同時、魔導エンジンの回転率が規定値に達したことをマルチバイザーが告げた。警告音が骨伝導イヤフォンで頭に響く。機関出火警報装置試験(ファイア・ワーニング・テスト)、実施。警告灯が瞬いて消える。火災警報装置の正常起動を確認。主警報灯(マスターワーニングランプ)が消灯していることを確認。

 

「システムグリーンライト。用意良しです!」

 

《生きて帰ってきなさいよ。ひとみちゃん!》

 

 なぜか辛そうな顔をしている加藤中尉の声がイヤフォン越しに聞こえる。すぐピープ音。バック転をするように体が弾き飛ばされる。エーテルと空気の混合器(ミクスチャー)の値はエーテル多め(リッチ)。その値を見るころには頭は真下を向いていた。そのまま4分の1回転。ジェットエーテルスターターの出力をメインエンジンに繋げる。これでいつでも吹かすことが出来る。

 

 ちょうど水平線が視線の少し下に入る位置で、一気に加速。そのままオスプレイを追い抜いた。速度が安定する。出力を最大値まで上げて、もう一度強く魔力をストライカーに込める。警告音がした後、さらに出力が上がる。オーグメンターが無事に点火した。さらに加速。

 

「カガストライク、カイト・ツー。テイクオフシーケンス・コンプリート」

 

《Roger. Push Ch.6》

 

「チャンネルシックス、カイト・ツー」

 

 無線の6番(チャンネル・シックス)は早期警戒機との通信チャンネルに割り振られている。この部隊の管制をするのはひとみのはるか上空を飛んでいるであろう……オラーシャ空軍のA100飛行脚を使う早期警戒管制ウィッチ。

 

「コ―ニャちゃん!」

 

《ん》

 

 レーダー等のデータ共有の許可申請が表示される。ひとみがそれを承認すれば、バイザーに白い矢印が一本表示された。

 

《そこに飛んで》

 

「わかりました!」

 

 オーグメンター全開でその方向に向かう。すぐに減速の指示が出た。オーグメンターカット、指定された時速720キロまで減速していく。遠くにキラリと何かが光った。すぐにバイザーに情報が表示される。F-35FB、コールサイン・カイト・ワン。

 

「のぞみ先輩! 遅くなりました!」

 

「戦闘前ギリギリね。まぁ間に合ったから及第点かな」

 

 のぞみの横に並べるように一瞬だけエアブレーキを展開、相対速度をゼロにする。ちらりとひとみの姿を認めたのぞみは、確認するように武器を持ち直した。

 

「それで、あんたも64式小銃(ロクヨン)か。……米川、シールドは張れたっけ?」

 

「は、はい!」

 

「じゃぁ自分の身は自分で守れるわね。……米川、離散隊形(スタガット)ポイントツーファイブ(0 . 2 5)マイル、高度を取って付いてきて。私の背中頼むわよ、僚機殿(ウィングマン)

 

「はい!」

 

 機首上げで高度を取りながら速度を落とす。気をつけないとあっという間に引き離される。位置につくか付かないかのところでテキストメッセージが届いた。

 

 

 KITE1 TO 2 REQ AAM SLV

 

 

《空対空ミサイルの一斉射の指示とは最初からかっ飛ばしてくるじゃん! ポリプロピレン中尉》

 

《……Покрышкин(ポクルィシュキン)

 

 のぞみの無線にどこか不満げな声が答える。

 

《いそいで》

 

《はいはい、わかってるよボルシチ中尉》

 

《Покрышкин》

 

《米川、マスターアーム・トゥ・オン! カイトフライト・インゲージング!》

 

 コ―ニャの抗議には一切答えず、のぞみが高らかに宣言する。交戦可能距離、ミサイルの交戦距離に入った。

 

「ツー!」

 

《スリー》

 

《文字通り『流星墜とし』と行こうか。ミーティアミサイル一斉射いくよ! 共食い事件とかやめてよね》

 

《……がんばる》

 

 武装の安全装置解除、武装選択(セレクタ)は空対空魔導ミサイル。ストライカーユニットの爆弾槽が開く。速度を合わせるように僅かに出力を上げた。

 

 

《FOX1!》

「フォックス・ワン!」

 

 

 ミサイルを切り離す。1秒ほどのラグがあって、白煙を退いて高速で飛びぬけていくそれ。JANAAMMミーティア空対空魔導ミサイルは音速の何倍も早く飛んでいくミサイルだ。ライトニングよりずっと早い。

 

《これで落ちてくれれば、楽なんだけどね》

 

 どこか呑気にそう言うのぞみの声を聞く。飛んでいった全部で8本の白煙を見ながらひとみは手にした小銃を握り直した。手の汗で銃が滑り落ちてしまいそうだ。銃の肩紐(スリング)を肩に掛けて、手汗を制服でぬぐう。本当はハンカチでも使うべきなのだろうが……時速800キロを超える飛行中にそんなことをする度胸はない。

 

 コ―ニャの声が割り込む。

 

《……撃墜6。残4。フレスコが3、ブローランプが1》

 

《わざわざNATOコードでどうも。小型高速型が3、中型爆撃型1ってところか。福岡かどこかに襲撃するつもりかな、これは》

 

 のぞみが不満そうにそう言う。

 

「福岡が……」

 

《やらせるわけないじゃん。まずは護衛のフラスコ型をやる。護衛を落としてから決めるよ》

 

「は、はいっ!」

 

《そんな緊張しないの、大丈夫。前衛(ポイントマン)は私がやるんだから。バックアップよろしくね》

 

 距離を取っているせいでかなり小さく見えるのぞみがくるりとその場でロールを決めた。その時の笑顔がどこか楽しそうに見える。

 

《……くる》

 

 その声にハッとして前を見る。慌ててシールドを張った。瞬間的に感じた衝撃に息が詰まる。体が軋む。

 

「くぁ……っ!」

 

《よく耐えた米川! ナイスガッツ!》

 

 その声が聞こえてやっとシールドの抵抗がなくなっていることに気が付く。シールド解除。速度が落ちている。再加速。

 

「ネウロイのビームって、あんなに……」

 

《ビームは実体弾じゃないけど高エネルギー体だよ! 真正面から受けたら減速Gがかかる! 気をつけなさい!》

 

 のぞみの言葉にハッとする。シールドで受けたはずなのに、全身に痛みが走った理由はそれか。ビーム兵器をシールドで真正面から受け止めれば、当然そのビームの運動量はすべてシールド……そしてそれを張った術者で受け止める必要がある。ストライカーはウィッチを飛ばそうと前に体を押し付け続けるから、真逆の方向に向かうネウロイのビームとストライカーの推進力でひとみの体は押しつぶされそうになったのだ。

 

「了解……!」

 

《ネウロイ視認! カイト・ワン交戦開始!》

 

 のぞみがオーグメンターに点火。急加速した後、垂直に距離を稼ぐ。ズーム上昇。高度を急速に稼ぐ常套手段だ。それを認めたネウロイが上昇する。上に付いていったのは小型が1機だけ。ひとみの方にも小型ネウロイが一機飛んでくる。

 

「か、カイト・ツー! 交戦開始!」

 

 バイザーの端に表示してあったストップウォッチを起動させる。戦闘の経過時間を把握するためだ。動きだしたのを確認してから小銃のセーフティを引いて、回す。セレクタは『レ』、連射にセット。

 

《無茶しないでよ、米川!》

 

「わかって、ます!」

 

 シールドの展開の用意だけして、加速。左へブレイク。天地が入れ替わる。そのまま加速し続けながらゆっくりと回転をかけ続ける。バレルロールだ。機体は透明な樽の内側を撫ぜるかのように回り込んでいく。

 ネウロイがひとみの後ろにつこうと大振りに回り込んできた。昇降舵(スタビレーター)で蹴るように方向を変える。普通に飛んでいれば真上に吹っ飛ぶように方向を変える動作だが、海面が左手真横に見える横向きの姿勢でそれをやれば右に急激に頭を振るような動作になる。

 

「うぅ……っ!」

 

 体にかかるGで息が浅くなる。腹筋に力を入れてなければ次の空気を吸えない。視界がクラクラする。それを抑え込むように息を吸って、小銃を構える。小銃を撃つ訓練なんてしたことがない。見よう見まねだが、撃たないよりはマシだろう。

 ネウロイがひとみの急激な軌道変更についてこれず、ひとみを追い越した。超過飛行(オーバーシュート)だ。旋回率ならネウロイよりもウィッチに分がある。

 ハーフロール。海面の位置が左から右へ急激に動く。追い越した相手を正面に見れる位置についた。

 

「あたれ……!?」

 

 ネウロイが赤く光っていた。話に聞いたことがある。光学攻撃の前兆。それがまばゆい光を放つのと、ひとみがシールドを張るのはほぼ同時。

 

「きゃぁあっ!」

 

 予想よりも強い力を受けて弾き飛ばされる。補助翼が耳障りな音を立てる。空力限界ギリギリなのだろう。ストライカーユニットがねじられるような感覚。太ももが少し痛いが、そのおかげで気を失わずに済んだ。目を開ける。水平線がひとみの周りを飛び回っている。

 

 魔導エンジンは幸いにも失火(ストール)していない。加速して、ラダーをキック。回転を止める。重力に引かれるように頭を下にした姿勢になる。そのまま海面ギリギリまで加速する。速度も高度も失えば、空中戦闘では致命的だ。

 

「……、上がって!」

 

 背を逸らすようにして水面をなぞるように水平飛行へ。オーグメンター、オン。追いかけるようにビームが駆けていく。ビームが海を割って、水蒸気に変えていく。

 

 背面飛行に入り、上に向けて引金を引く。ネウロイは案外遠くにいた。狙えない。またビーム。

 

「きゃっ!」

 

 慌ててシールドを張る。シールドをの端に当たったのか、左につんのめるように体が回った。慌てて機首上げ。海面から距離を取る。時速700キロ以上の速さで海面に突っ込めばいくら魔女でも木っ端微塵だ。機首上げを読んでいたのか、目の前にビームが迫る。シールドを張ればそれに弾かれてビームが明後日の方向に消える。

 

「しょ、小銃が……!」

 

 目の端で水柱が立った海面を見る。バランスを崩した拍子に取り落としてしまった。それを悔やむ間もなく、ビームの嵐が飛んでくる。

 

《キル・フラスコ1! 米川! 2分耐えなさい!》

 

「りょ、了解……!」

 

 小形ネウロイを1機撃墜したらしいのぞみの声を聞きながらひとみは高度を上げる。オーグメンターで無理矢理加速。ストップウォッチの表示を見ればまだ1分、やっと1分だ……この2倍の時間を耐えねばならない。翼端から雲を曳いて上昇。曳光弾の光の筋がかなり上空で揺れていた。その射線に入らない様に動きを変える。綿雲を突っ切るように雲の中を一度潜り抜けた。一瞬敵の目から逃れ、息を整える。雲もあまり大きくはない。その小さな雲も強い風に吹き飛ばされそうだ。

 

 ずっと雲に隠れるわけにも行かない。すぐに外に飛び出す。追いかけるように飛んでくるレーザーの嵐。さっきよりも太い。中型がこちらを狙っていた。光った瞬間、自分の前に影が割り込む。

 

「のぞみ先輩!?」

 

 左手一本でシールドを展開したのぞみがひとみの前にいた。空中でホバリングした姿勢のまま、右腕が振るわれる。握られた64式小銃が火を噴いて、ひとみを追ってきた小型のネウロイを粉砕した。

 

「キル・フレスコ! 米川、あんたロクヨンはどうしたの!?」

 

「攻撃よけてたら手からすっぽ抜けちゃいました!」

 

「馬鹿! サブウェポンなんか持ってないの?」

 

「渡されたのはあれだけです!」

 

「サバイバルキットは!?」

 

 墜落した時用の装備を言われ一瞬ぽかんとするひとみ。

 

「も、持ってますけど……!」

 

「そん中にM550ESが入ってるはず! 50口径の短銃身回転式拳銃(ショートリボルバー)! 弾5発しかないから慎重に使いなさいよ!」

 

 言われて後ろに回していたサバイバルキットを開ける。キットのケースと吊り紐(ランヤード)で繋がれた拳銃が出てきた。ド派手というか、目に痛いオレンジ色のゴム製のグリップを握る。エマージェンシーサバイバルという名前どおりすごく目立つものだ。銀色眩しいステンレスの銃身も太陽光を反射してしまいそう。

 

 だが、それよりも重大な問題がこの銃にはあった。

 

「お、大きいし太いし……持ちにくいです!」

 

 グリップが太すぎるのだ。ただでさえひとみは小柄な方で、手も体型相応のサイズである。片手で持つのはほぼ不可能だ。

 

「無いよりましでしょ! とりあえずアンタは自分の身だけ守ってなさい!」

 

 中型が妖しく赤く輝いた。のぞみの放つ弾丸は当たっているはずだが、相手が衰える様子はない。

 

「ロクヨンの威力じゃ中型は抜けないか。仕方ない」

 

 のぞみの左手が腰に回る。引き抜かれたのは刃渡りの長い、短刀。

 

「……直接ぶち抜くしか、ないね」

 

 そういった顔はどこか笑っていて、左手のむき身の短刀が彼女の掌の上でクルクルと回る。

 

「着剣よーいっ!」

 

「へっ!?」

 

 小銃のアタッチメントに短刀をあてがい、固定。のぞみはそれを一度強く振った。銃剣となったそれが風を切る。

 

「よし!」

 

 満足げにそう言うとのぞみは中型に向き合う。

 

「さーて、お待たせずんぐりむっくり! あんたのコアはどこかしらっ!」

 

「ほ、本当に突撃する気ですか!?」

 

「銃剣術は扶桑ウィッチの魂! 着剣精神舐めてると――――痛い目見るわよ」

 

 そう言い残して、加速。

 

「のぞみ先輩?」

 

「ついてきなさい、ウィングマン! 吶喊!」

 

 のぞみを追いかけるように体を動かしていく。ネウロイのビームが横を掠める。赤い光は遠くを横切っただけでも熱い。のぞみは小さく張ったシールドでうまくいなしながら速度を上げて接近していく。キックラダー。頭からネウロイに突っ込むように速度を上げるのぞみを見て、ひとみは喉が干上がった。

 

「ぶつかるっ!」

 

 耐え切れずにひとみが先に編隊解除(ブレイク)。のぞみのことを目で追いながら左へ転舵して回り込む。

 

《せいっ!》

 

 のぞみの雄叫びが無線に乗る。銃剣の切先が鋭く光って、のぞみはそれをネウロイに向けて叩きつけた。魔道エンジンの唸りが甲高くなった。ネウロイの装甲が白くはじけ飛ぶ。

 

《アンタのコアは、何処だあああああ!》

 

 刺した銃剣を引きずるように飛ぶのぞみ。ネウロイのビームが収束されていく。

 

「のぞみ先輩!」

 

 無線に叫べば、のぞみは小銃の引き金を引いて無理矢理銃剣を引き抜いた。光線の奔流をするりと回避して、のぞみは笑う。

 

《サーンキュ!》

 

「無茶です! 当たったらどうするんですか!」

 

《当たらなければどうということはないでしょ! いいから黙って見てなさい!》

 

 のぞみが再接近。ひとみはその斜め上後方につく。拳銃を構えてはいるが、ひっきりなしにビームが飛んでくると狙っている余裕はない。5発しか弾はないから、ばら撒いて支援というのができないのだ。

 

《米川! どこでもいいからネウロイの装甲破壊して!》

 

「は、はいっ!」

 

 銃を構え直して、引き金を引く。

 

「きゃぁっ!」

 

 肩が吹き飛びそうなほどの衝撃が来た。狙ったところからは大きくずれたが、何とかネウロイの後部に着弾。とりあえずフレンドリーファイアにならずに済んだことを感謝する。ネウロイの破片が飛び散るが、それはすぐに吸い込まれるようにへと戻っていく……再生してるのだ。コアを破壊しなければ、ネウロイは倒せない。

 

《カイト・スリー! コアの位置の確認! 再生速度で予測がつくでしょ!》

 

Роджер(了解)

 

 淡々としたコ―ニャの声が無線に答えた。すぐに視界にフィルターがかかって、ネウロイの影にグラデーションがかかる。

 

《あのあたり》

 

《色の濃いところね、よくやったポリスメン中尉!》

 

《Покрышкин》

 

 コ―ニャの抗議をやはり黙殺し、ネウロイのコアのあるであろうあたりに飛び込んでいくのぞみ。ネウロイもずっとまっすぐ飛んでくれるような馬鹿ではない。急激にロールを打った。横に張り出した翼のようなものがのぞみを叩き落とさんと迫る。

 

《甘いっ!》

 

 それに動きを合わせてその薄い翼を切り捨てる。切り捨てられた翼が白く光って弾けた。その衝撃すら利用して、のぞみは加速。コアがあるであろう位置にとりついた。

 

《墜ちろぉおおおおおおおおおお!》

 

 のぞみはここぞとばかりにシールドを張り、力ずくで接近。ネウロイのビームを押し返しながら小銃の引き金をを引きっぱなしにする。白い破片がどんどん散っていく。

 ひとみがビームを避けながらのぞみを追いかけていると、ネウロイの一部が大きくはじけ飛んだ。

 

《そこだ!》

 

 のぞみを見れば、顔が赤く照らされている。煌々と輝くネウロイのコアが姿を現したらしい。銃床に手を添えそれを担ぐように振り上げるのぞみ。そしてそのまま振り下ろそうとして――――警告音が鳴り響いた。コ―ニャが警告を鳴らしたのだ。

 文字列はUUU KITE-1 LOCKED ON……ロックオン警報。

 

 

 

 この時、のぞみもひとみも失念していたのだ。落としていないはずの小型機が一機、姿を消していた。

 

 

 

《しまっ……!》

 

 ひとみの視界の先でのぞみの顔が驚愕に変わる。のぞみに向け突っ込んでゆく小型ネウロイは既に必殺の間合い。中型も小型もすでに光線を撃てる状況だ。のぞみのシールドはすでに中型に向けて張られていて、小型には対応できない。回避はもう間に合わない。ひとみが飛び込むには距離がありすぎた。

 

 のぞみ先輩が、墜ちる。

 

 まるでコマ送りになったように感じる時間の流れの中、ひとみはとっさにM500ESを構えていた。構える時間がもどかしい。

 

 

「――――やめてぇええええええええええええええ!」

 

 

 音が消えた―――――気がした。

 

 怖くて、目を瞑り、指に力を入れる。撃鉄が落ちた直後、反動で腕が真上に跳ね飛ばされる。何かが砕ける音。

 

 そっと目を開ける。すると辺り一面に舞っているのは白い破片。粉砂糖を散らしたようにキラキラと白く光っている。ネウロイの姿は、何処にもない。

 

 その中で、銃剣を振り抜いた姿勢のままいる、のぞみの姿を認める。

 

《……こちらカイト・ワン、確認されたネウロイの撃破を確認》

 

《カイト・スリー、ボギー・ネガティブコンタクト》

 

 コ―ニャが周囲に国籍不明の飛行体がないことを確認した旨を告げてくる。のぞみの了解の声を、ひとみはどこかぼうっとしたまま聞いていた。そうしているとのぞみがひとみのほうに飛んできた。

 

「やるじゃない、ウィングマン。初撃墜おめでとう」

 

「のぞみ、先輩……」

 

「なあに、米川」

 

「無事、ですよね……?」

 

 ひとみがそう言うと、一瞬面食らった表情をするのぞみ。

 

「見てわからない?」

 

「怪我してませんよね、生きてますよね……?」

 

「あのね、米川。亡霊だったらわざわざこんなところに来てないわよ」

 

「大丈夫なんですよね……?」

 

「ああもうしつこい!」

 

 堪忍袋の緒が切れたのぞみは、手にした64式小銃を吊り紐(スリング)で肩に提げると、真正面からひとみの肩に両手を回し、そのまま強く体を密着させた。

 

「ほら、あったかいでしょ。あと心臓の音、ちゃんと聞こえるでしょ。これで生きてないとか言ったらさすがに怒るからね」

 

「あ……」

 

 石鹸の香りと花火で遊んだあとのような匂いがふわりと鼻をくすぐった。首の後ろに当たるのぞみの腕は確かに熱い程に火照っていて……ひとみよりもかなり早く、強く刻む鼓動に少し驚いた。

 

「のぞみ先輩……」

 

「ありがとね、米川」

 

「え?」

 

「いま生きてられるのは、あんたのおかげだ」

 

 そう言われ、一瞬何のことを言われているかわからなかった。

 

「わたし……」

 

「あんたがフラスコ型を墜としてくれなかったら、私は今頃海の底だ。助かった」

 

 その言葉を聞いて、なぜかひとみの視界が歪んだ。

 

「……のぞみ先輩」

 

「ばか、なんであんたが泣いてんのよ」

 

 背中をポンポンと叩かれて、生きていることを確かめる。二人とも――上空のコ―ニャもいれて三人とも――無事に生き残った。それがこんなにもうれしい。背中を叩かれるのに任せて、少し甘える。体を預けても、少しぐらいなら許されるだろう。

 

 そう思って、目を一度閉じるのだった。

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