女提督は金剛だけを愛しすぎてる。   作:黒灰

23 / 65
2016/12/06
予約投稿の設定ミスで変なところに挿入投稿されてしまっていました。
現在は修正済みです。
大変申し訳ありませんでした。

2018/08/08
自分から当たりに行く戦艦はまだいないことになりました。
ご了承下さい。


君よ 私で変われ

 美人で、神様みたいにいい人の提督は、色んな子を拾ってきちゃった。

 

 生まれた子がどうとかで子供を取り上げられたり大怪我させられたりした空母の人とか、水上機をバカにされたからって仲間を殺しかけた航空戦艦2人組とか、聴覚が過敏すぎて発狂した軽巡、同性を襲いまくって風紀を乱した軽巡、特定の人物に依存しすぎる軽巡、などなど……もうどこからでも拾ってくる。いや、多分、生まれた不良品達を全部引き取らされていたんだろう。可哀想だと思ってはいけない。それは回り回って、自分自身を憐れむことになる。そんな情けないことは言っていられない。

 

 同性を襲いまくってたという軽巡は、夕張と言う。

 緑がかったアッシュブロンドを緑のリボンでポニーテール。

 制服は黒いセーラー、襟はベージュ。胸下のリボンは橙色で、スカートは緑。

 彼女はやけに私に懐いてきたんだけれど、私がフリーじゃないことを伝えると流石に引き下がってくれた。どういうことと聞かれて、お医者様の彼が居るんですと言った。すると、なんとなく思い当たったのか、へぇー、みたいな顔をしていた。彼女も彼の所で改造されたんだろうか。

 彼女は機械いじりが私より得意で、暇な時は私の仕事を手伝ってくれることになった。特に武装開発には並々ならぬ感心があるらしい。私とは分野が違うから助かる。ただ、色々試すのは武装だけにしてほしい。通販のアダルトグッズを工廠留め置きにした上その場で開封とかしないでほしい。うん、私は何も見なかった。……シングルプレイ用じゃないっぽいのがあったから背筋がゾワッとした。いや、同性愛者だからって同性ならなんでもターゲットになるわけじゃ……なりかけたから怖い。誰も餌食になりませんように!

 

 

 ……提督は毎日鎮守府のそばの自宅からこの鎮守府、もとい警備府に通っている。家族がこっちにいるんだとか。着任にあたって、全員をこっちに連れてきたと言っていた。けれどその話をする時、提督はいつも切なそうな顔をしていた。

 

 仕事の量が増えて労働時間が嵩んでいくと、彼女の背負った影が大きくなっていくようだった。普段からやつれているようなものだったけれど、その具合も日に日にひどくなっていった。眼鏡を外してこめかみを揉んでいた時を見たけれど、皮肉にも、蒼白さを増した肌と覇気のない目が、途方もなく美しかった。もはや人形めいていて、触れれば壊れそうな。よく見ると化粧をしていなくって、そんな暇もないのか、どこまで美人なんだ、と二重に驚いたなぁ。

 

 ……ある日から、彼女は家に帰らなくなった。鎮守府に身の回りのものを持ってきて、そちらで暮らすようになったのだ。家族はどうしたんですか、と聞くと、

 

 “世話をしてくれる人が見つかりましたので“

 

 そう一言だけ。次の話題に無理やり切り替えてきた。

 聞いてほしくなかったんだろう。分かりやすいけれど、それは彼女自身も知ったこと。意思表示だったんだと思う。……複雑な家庭事情らしい。

 その時の顔は、罪悪感に染まっていた。何でだろう。人に頼ることは、悪いことじゃないはずなのに。どうしてそんなに思い詰めているんだろう。疑問に思ったけれど、わざわざ突いて蛇を出すこともない。いや、この人のことだからそんなことにはならないか。多分、この人を傷つけておしまいだ。そんなこと、私は望まない。

 その日からしばらく、彼女の顔色は少しだけ好転した。家のことをしなくなった分だけ自分に気が回るようになったのかもしれない。そうだと思いたい。

 

 ●

 

 この頃の私はと言うと、読唇術がサマになってきた。今は提督の言葉も筆談無しで理解できる。私は声がないからタブレットで書いて見せなきゃだけれど。私がこういう特訓をしていたことを知らなかった提督はまた大慌てしていて、

 

 “どうしよう、こういうのって能力給で、ああでもこういう読唇術の資格ってないから、どうしよう

 ごめんなさい、そんなに頑張らなくても、私が、頑張るべきなのに”

 

 こういう提督の言葉も読めてしまうのはなかなか切なかった。

 そっか、提督は一人でなんでもしてしまう人なんだ。ちょっと悔しかったし、悲しかった。

 私たちに頼ってほしいなぁ。

 

 覚えるのにはとにかく“目”が効いている。

 口の形ごとに画像を撮影して復習したり、タブレットでちょっと動画を撮らせてもらったり、そんな感じだった。

 なにせ工廠の仕事が効率化出来たから結構暇だったのだ。

 そもそも出撃が掃海程度なのだ。妖精さんと協力して、1日に10基くらいの艤装メンテをしているけれど、たかが10だ。武装開発と合わせても5時間で終わってしまう。この効率で仕事ができるとなれば、一般的な鎮守府に行っても私は仕事が出来るだろう。もし工廠を4棟任せてくれれば、全部を大規模作戦に対応可能に出来る。それだけ私という”明石”は優れているぞ、と自負している。ちなみに残りの時間はさらなる効率化に向けての計画立案に充てている。ふふん、できる女。まだまだこんなものじゃない。

 

 それと、あれから毎晩大淀と化粧の練習をするようになった。艦娘ってのは見た目がすごくいいから化粧なんて本当は要らないんだけれど、化粧のノリも抜群なのだ。お肌テッカテカのツルッツルだから。ファンデーションは使ってません、とか本当に言えちゃう。いや使うけど。……あのCM懐かしいなぁ。

 あ、大淀もすっぴんでもすごく美人だった。眼鏡を取ると近眼だからか目を細くしていたけれど、それがまた印象が変わってすごくクールなのだ。中性的な感じすら受けた。いつもは柔和な感じなのに。多分、メイクでそういう印象に変えようとしているのかも。頬に少し紅を差しているのが効果的みたい。

 

 化粧講座は簡略化してもいい、って言っていたけれど、フルに教えてもらった。艦娘の肌はすごく綺麗だから、ベースで整える必要がない。ニキビ一つ出来ないんだから。

 で、順番だけれど、

 

 1.基礎化粧品。肌の保湿としてクリームで顔を覆っておく。こうしないと肌にも良くないし化粧のノリが悪くなるとか。最後に手のひらで顔を覆うように馴染ませるのがミソらしい。

 

 2.下地。肌の形を整える。私は工廠にこもりっきりであまり日に当たるわけじゃないけれど、UVカット成分入りを使うのがおすすめとか。これはメイク全体を落としやすくするためにもあるって。手の甲に一旦乗せてからなじませて、それから両頬・額・鼻・顎の5ヶ所に一旦乗せて、それから3本指で外に向かうように伸ばしていく。なるほど、鼻を中心にして全部外側配置だから外に伸ばしていくと全体に広がる。鼻はよれやすいから、と言われたのでちょっと鼻先を指で叩いてなじませた。仕上げにスポンジで表面均し。

 

 3.ファンデーション。色々種類があるけれど、扱いが楽だって言うことでパウダータイプ。これが毛穴に溜まるのを防ぐために下地がある。これをパフじゃなくてブラシで塗っていく。艦娘としての肌質の良さを活かすために透明感のある仕上げがいいって言っていた。人間に戻ることがあればまたちょっと変わるかもしれないので、やり方は両方教えてもらった。

 パフは楽で、頬から軽く擦るように塗っていって、これも下地を塗った場所に重ねるように。塗り漏れはパフを畳んで細かく塗り漏れを潰していく。

 ブラシでも基本は同じで、顔の全体にサラッとまぶしてなじませるだけ。塗り漏れはブラシの先がつついて埋めてくれるから、私は楽に感じた。

 

 ここまでが土台作り、これからは本格的に色々と書き加えみたいになってくる。

 

 4.私の場合は普段が陽気な感じの顔なので、ちょっと色っぽくするのにチャレンジしたかった。相談すると、ノーズシャドウで顔立ちをくっきりさせると良いかも、とアドバイスされたのでそれをやってみた。目尻から眉の下を通って鼻筋まで影を書いていく。そうすると、印象がビシっとした感じに変わってなかなかクールな感じになった。これはなかなか面白い。

 

 5.目の力も上げてみると良い、というわけでアイシャドウ。目が横に広がったほうが怜悧さが出てセクシー、みたいなことらしいので、グラデーションは眦を濃くして内側に向かうにつれて薄くなるように。加えてマスカラでまつげを強化。わあ、眼力!ちょっと物憂げな顔してみて、ということで私の考えるその表情をしてみると、実にコレが合う。クールだ。クール系美女が居た。……鏡よ鏡、映っているのはどなたですか!?笑いがこみ上げてきて表情が崩れると、それがまたギャップ感で逆に色ぽかった。うーん、変身って楽しい。

 

 6.チーク。これはどっちも淡いピンクを薄く塗る感じで、とリクエストした。ちょっと寒色気味なピンクを頬骨のあたりから下に向けて入れてみた。知的な印象が強まった気がする。うーむ、とんだイメチェンになってきた。

 

 7.口紅。リップ。これは目を強調してきたから控えめな色使い、ナチュラルカラーで仕上げることに。ピンクを指でなじませながら塗って、それからグロスを唇の中心あたりに塗って、これで仕上がり。

 

 そこでアルカイックな表情で一発、って大淀がタブに書いてきたので、頑張ってそんな感じにしてみた。アルカイックって、私の解釈では魔性の女的なー、そのー、大人な微笑みだ!そんな感じ。

 ついでにベッドの上でモナ・リザのポーズ。なんでだ。ああ、モナ・リザの表情がアルカイックスマイルってやつ?

 それで軽くカメラに向いてー、って、あ、もう撮られた!しかも私のタブレットの方で。あとで大淀も自分の方で撮ってた。

 で、その写真を見てみると、この上なく私のオーダーに合致したメイクかつ我ながら魔性の女感バリバリだった。いいぞこれ。

 あんまりに出来が良かったから当然彼にメールで送ったんだけど、

 

『綺麗です。それしか言う言葉が見つかりません。普段と違うあなたに、少し戸惑ってしまいましたし、惚れ直すというのはこういうことかと実感しています』

 

 うわー!うわー!うわー!やったー!褒められると気持ちいい!なんだか嬉しくって、彼にこのメイクでちゃんと顔を合わせられる日が待ち遠しくて仕方なくなった。それで、貴方の妹さんに教えてもらったの、と送ると

 

『本当に良かったです。妹をこれからもよろしくお願いします』

 

 そう言ってくれたので、

 

『合点承知の助です』と送った。

 すぐに、『心強いです』と返ってきた。

 遠距離恋愛、いいぞ。上手く行けば、毎日がこんなにも嬉しくってたまらない。

 でも、彼とは読唇術じゃなくてメモパッドでお話がしたい。それが私達の始まりで、お決まりだから。

 大淀とはタブレットだ。それもまた、彼女との特別だ。ああでも何より他の人と話すにも楽だし。現金だなー私。

 

 ともかく、私は平和にここで暮らしています。

 

 ●

 

 彼女は綺麗だ。

 前の彼女のように派手さはないのだけれど、向日葵のような陽気さの塊で、純朴な美しさがあった。自分の負った傷、障害にもめげること無く、やれることをやるという、そんな前向きさが綺麗だと思った。

 化粧をした彼女も綺麗で、今度は芸術品のようだった。命の美しさを、その微笑みに見た。

 一緒にいたい。一緒に年を取りたい。隣りに居て欲しい。

 そのために、自分は何を出来るだろうかと、彼女のために何が出来るだろうかと、そればかりを考える。彼女の音のない世界から、自分は遠いところにいるのかもしれないけれど、それならば出来ることは一つだ。

 彼女に言葉を送り続けること。言葉を綴ること。心を送り続けること。

 それが愛ならば、そうしよう。そうしたい。それを、堅く誓った。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。