女提督は金剛だけを愛しすぎてる。   作:黒灰

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仕事場はいい塩梅

 提督が休みを作って、2日外出すると言って軽自動車で出て行った。

 たまには羽を伸ばしたいときもあるんだろう、と私達は揃って安心した。

 この私達というのは、本当に私達艦娘達のことで、みんな揃ってなんだかんだ提督の心配をしていたのだ。人徳からして宜なるかな、と言ったところ。いや、流石、かな?

 

 私達は神様のような提督にかなりの信頼を置いている。その理由としてあるのが、彼女が私達の話し相手になってくれることだ。私は必然的に大体の艦娘と話をする立場、艤装の整備責任者なので、いろんな話を聴けた。

 

 ●

 

 あ、そのちょっと前に、同じ特務艦娘の大鯨という子が来た。本営によると、使い道がないんだって。

 紫がかった綺麗な髪が両横に跳ね上がってる子。凄くスタイルがいい。

 この子、なかなか厄介な性癖を持ってるとカミングアウトしてくれてしまった。

 幼い女の子しか好きになれないって言ってて、正直私もわぁおという感じで引いてしまった。声は出ないけど。けれど、提督と話をしたということ、そしてどうしてそうなるに至ったかということまで私に話をしてくれた。なんというか、こういうときは”ワケアリ”のシンパシーが上手く働くみたい。私もそれは嫌じゃない。私達の一線ある人間関係の中で一本の糸のようにつながるそれは。

 

 彼女も元々軍人。私も元々軍人だ。というか現役のつもりでいる。

 彼女は海軍の主計科の出だ。元は性癖に似合ってと言うか不適格だと思うけれど小学校教諭をしていて、まだ新任だったんだそうだ。それが深海棲艦出現に合わせていきなり志願兵制が敷かれて、彼女は半ば徴兵のように軍に入った。何故かと言うと、教育者としての……手本という名の生贄にさせられたって。

 彼女が担当していたのは家庭科だったから、身体的に問題がないことがわかるとそのまま主計科の糧食や被服関連の仕事を主に覚えさせられた。

 それについては手際も覚えも良かったから別にいいのだけれど、彼女は艦で手酷いセクハラ、いやセクハラどころじゃない仕打ちを受けたのだそうだ。老若幅広い男達から。まさに少年から老人まで。……彼女は見目麗しいだけじゃなく、元々男を引き寄せやすい質だったそうで、まるで蝿に群がられる火のように艦を淫蕩で燃やし尽くしてしまったのだそうな。しかもそれを助ける女の同僚はおらず、彼女の男好きするような容姿に嫉妬して何もしなかったのだとか。

 それで、彼女は同境遇つまり”自分と同じくらい不幸な女性”と”汚れのない女の子”くらいしか恐れずに向き合える人間が居なくなったのだそうだ。ちなみにロリコンについてはあとから目覚めたとか。『もしかすると本能的に小学生教諭を選んでいたのかもしれませんね』と茶化していた。

 でもとにかく通販の工廠留めは本当に辞めてほしい。9歳のジュニアアイドルのDVDを買うのは正直凄くヤバいと思う。ガチだ。ガチすぎる。え、だってこの子10代じゃないんでしょ?ビキニ?なんで?てか似合ってないよ。色々と突っ込んでみると彼女は、

『だって、10歳以上は枕してる可能性がありますよ、体も出来上がってきてて。私の時なんかも視線がすごく気になりました』

 やめて!そういう闇に関する想像を掻き立てないで!確かになんか歪んだビジネスの感はあるけれど!あと自分の闇を曝け出しすぎないで!

 ともかく、秘密が私と本人で留まるのは確かだけれど。私も守るし。これは新しい形の信頼の証なのかもしれない。明石だけに、ってバカ私。”明石”が怒りそう。それにしても斬新だし嫌な信頼だ。……本人を嫌いなわけじゃないけれど、ね。ご飯も美味しいし。間宮羊羹だけがヤバい間宮さんの域にはあと一歩ってところだ。頑張れ。ついでに聞かされたけど、間宮さんもなんか似たような境遇だったって。

 

 で、そんな彼女が提督を信頼する理由といえば、『ロリコンを否定しなかった』ことだ。『手を出していないなら、誰も貴女を咎める権利はありません』って。そう言ってもらえたんだそうだ。彼女自身も歪んでいる自覚はあったそうだし、”もう学校に戻れない”って二重の意味で絶望しているらしいから、その言葉は結構な救いになったって。確かに彼女自身も思っていることだったけれど、誰かの肯定を貰うというのが重要だったみたい。

『ああ、私はロリコンのゲスでもいいんですね、って思いました』ってさ。

 ……字面はサイッテーだったけど。文字通り。

 罪深い彼女の性癖に、それに似合わぬ彼女のそこそこの善良さに、南無。

 そして彼女の嫁力を完全に腐らせたクソ少年壮年共にファック。

 

 あ、いつも洗濯ありがとう。

 でも『実害は無い実害は無いでもでもでもでも』って呟きながら洗濯機と向き合って葛藤するのは辞めてね。

 私、聞こえなくても唇読めちゃうから。

 

 あと見られたのが恥ずかしいからって逆ギレはやめよう。

 

 ●

 

 それと、那珂っていう子も。

 彼女は川内さんと神通さんの実の妹なんだそうだ。

 ……そう言えば三人共どこかで見たような、見なかったような顔をしている。最近テレビで見たような。

 

 そうだ、殺人か正当防衛かが裁判で争われているロックバンドの人だ。一応芸能人だからってのと殺人ってことでニュースになっていたんだ。耳が聞こえていたころは何曲か聞いたことがあるけれど、ものすごいドラムが激しいバンドだったと思う。美人のドラマーが長い黒髪を振り乱して一心不乱にドラムをブッ叩き続けるPV、あれはもう凄かった。朝のテレビでちょっと取り上げられていたこともあったっけ。……確かそのドラマーが被告だったはず。公判中にパニックを起こしたとか、そういうのが法廷画家の、あのなんとも言えない絵のついたニュースで出てきてて、すごく痛ましい感じの裁判だったみたい。それに加えてプライベートも色々スッパ抜かれていたな。パニック障害持ちだとか、海軍重鎮の娘だとか、売れたのもそのコネだったんじゃとか勘ぐりを受けたりとか。でも不思議と最近のニュースには何も取り上げられていないなぁ。

 もしかして艦娘になっていたり、とか馬鹿なことを考えたけれど、裁判って時間がかかるものだそうだし、そんなすぐに続報が来ることもないよね。

 

 で、その美人ドラマーに微妙に似ている那珂さんは、ちょっと暗い人だった。

 

 来た次の日には川内さんと神通さんに引っ張られて夜の演習に連れ出されて、もんのすごい傷を負って帰ってきた。三人揃って。川内さんは日が出ると動けないし、神通さんは意識がないし、それで那珂さんがものすごいパニックを起こしながら帰ってきた。仕事を始めようと私がやってきたところに、なんか影が伸びてきているなーって思って振り返ったら酷い有様だった。

 

 それで那珂さんは工廠で二人を放り出すと、彼女もその場で倒れて痙攣みたいな呼吸を始めた。

 もうどうしていいかこっちがパニック。それで取り急ぎ全員の艤装を外して、まず川内さんを”梱包”して、それから夕張と暇していた北上大井コンビを呼び出して、夕張に川内さん、大北コンビに神通さんを背負わせ、私は那珂さんを背負って”入渠ドック”、治療室へと持って行った。いきなり夜警部隊の主力が居なくなっちゃったから、提督も大慌てしちゃって、見舞いに行って”ごめんなさい、ごめんなさい”って言うばかりだった。いや、多分これ悪いのは那珂さん以外じゃないかなーと思ったんだけど、責任者は確かに提督だ。……でも、頭を下げる先が違う気がするなぁ。提督は謝り屋さんだ。過剰なくらい。人の痛みに敏感すぎるのかもしれない。

 

 それで、回復した那珂さんはすごい変な人になっていた。暗かったり、突然パニックになったり、出撃のときはものすごい笑顔だったり。“艦隊のアイドル”とか、“サーカスのヒロイン”とか、そういう名乗りを上げているのが、唇を読むと分かった。……すごい豹変ぶりだ。あと、たまに隠れて工廠にタバコを吸いに来る。川内さんも日が沈むとちょいちょい来ていたんだけれど、彼女も吸うとは思わなかった。しかも川内さんより量がものすごい。

 

 話をしてみると、ものすごい文学タイプな人だった。私は理系だからあんまり話が合わなくって、身の上話でつなごうと思ったんだけれど、彼女はその話を拒否した。やんわりと、じゃなくって、強硬に。……ワケアリの私達の中でも、まだ過去を消化できていない人なんだ。そう思って、その話はしないことにした。左手首の傷も、見ないことにした。

 

 

 ●

 

 提督が居ない間、私達はずっと暇だった。業務を代行できる秘書艦というものが、ここには居なかった。提督が全て仕事をやってしまうから、代わりが出来る艦娘が一人も居なかったのだ。一応掃海艦隊だけは2日分組まれていたんだけれど、それ以外の業務はストップ。それに皆、”これでいいのかな”と不安に思い出したのが分かった。皆、休もうと思っても気分良く休めないのだ。私もその一人。やることはないか、と皆が戸惑っている間、私だけ工廠で仕事をしているのが申し訳なかった。本当なら休みは気持ちの良い物のはずなのに。

 ……この鎮守府の歪みが見えたように思った。

 

 だから、私は思い切って工廠の大掃除をしよう、と皆に伝えた。そろそろものが多くて手狭になってきていたから、掃除が必要な時期だったのだ。それにここ2日で出撃は2回だけだ。私の仕事量も減っていたから、一時的に使えるスペースが狭くなっても良かったというのがある。

 皆の”やることが出来た”という意気込みを感じて、私はこれで良かった、と思った。

 

 高速戦艦3姉妹には電話番を任せて、今組まれている艦隊以外の皆を工廠に集め、床掃除と資材整理に掛かった。重油、鋼材、弾薬、ボーキサイト。最近は使いやすいからって作業場に雑然と置いていたんだけれど、今回はそれを織り込んだレイアウトにし直そうと思ったのだ。基本は今まで通りだけれど、その資材置き場を4エリア全部に作れて、かつ倉庫から持ってくるときに不都合しないような感じに。すると、フリーなスペースは少し狭まったけど、普段使いにはすごく良くなった。

 そしてクレーンの定位置、工具の置き場、バーナーの置き場とか、色々と変えて更に合理化を進めた。

 

 ……分かったことだけれど、多分レイアウトは大規模作戦前と平時で使い分けるといいと思う。今は小規模な整備や開発がメインだから資材を小出しにして使える今回のレイアウトがいいけれど、大規模作戦時には作業量が増えるからスペースそのものを大きく取りたくなる。かつ、資材の使用量が多くなるなら一気に倉庫から資材を運び入れればいい。平時のレイアウトでは出来ないことだし、そのためのスペースでもある。

 レイアウト替えのときには、今回のように皆に手伝ってもらえればお祭り感覚でテキパキと進んでいく。それもわかっただけ、今日は収穫があったと思う。すぐに現在のレイアウトを記録し、その後で図面に両方を書き起こした。

 

 こうして工廠は床もピカピカ、工具類もきっちり整理整頓、効率もマシマシ。今までよりも使い心地のいい仕事場になった、というわけ。皆も仕事が出来た達成感で安心していた。こういうところだから、提督の目を盗んで仕事をしないといけない。なんというか、立場が逆だ。私達が部下なのに、提督はまるで奴隷みたい。それを進んで引き受けるのも、とても危なっかしい。それは皆も一致する見解で、これからはなんとか出来る仕事を自分から引っ張ってこよう、ということを提案すると、皆喜んでそれを誓ってくれた。

 

 そんな時、比叡が工廠に走ってくるのが見えた。どうしたんだろう、と思ったんだけれど、向かって来たのは私の方だ。

 

 どうしたの、ってタブレットとペンを差し出すと、

 

 ”明日の晩 ていとくが戻ってきます

 救命の準備を していてほしいと ”

 

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