ホワイトデーをお題にして、リハビリとしてツイッターで書いたものとなります。
ご査収ください。書いたのは当日だからセーフです。
2018/07/28
忘れていましたが、これも後日談です。
ネタバレ回避のために大きく改行します。お許しください!
ボルガ博士死んだ
UFOから落ちた
落ちたら爆発したから
あいつ人間じゃねぇ!
”どうしようかな” そんなことをタブレットの画面に打ち込んでみた。独り言の代わりだ。本当なら吐き出すのは音の世界に向ければいいはずなんだけれど……あいにく、私は音の世界から締め出されている。声も出なければ、耳も聞こえないから。
そろそろ日も暮れる頃だ。定時は有るけれど、私にとっては―――――――まぁ、守れと言われるからには守らなきゃいけない。あと1時間くらい仕事をしたら暗くなる。工廠を一旦閉めたら食堂で食事、それから戻ってきて……どうしたものか。
工廠に戻ってきた所で遊ぶわけにはいかない。資材は軍の保有物であって、私のものではない。ちょろまかしてプールする、なんてことをしたならばもちろん横領の罪に問われるだろう。この警備府、そういうところは結構厳しいのである。前提督の方針から全く変わっていない。
一応前提督は”死んだことになっている”。そう、死んだことになっている、ということは実際には生きているということで、私はそれを知る数少ない艦娘の一人だ。もちろん、新提督、元”叢雲”だった坂神少佐もそれは承知よ、と言っていた。少し前、昼休みの終わりかけの時にそういう話をされたから。ともかく未だ存命している前提督に気を遣ってなのか、体制変更を面倒がったのかはともかく、私達の行動方針は以前と一切変化がない。まぁ、その方がお互いやりやすいのは間違いない。
つまり、ルーズそうな雰囲気とは裏腹に、彼女はルールに結構厳格なのである。融通を利かせるのも面倒臭いんだろう。まぁ決まりを変えたとして……良いこともなさそうだし。
と、言うことであれば私は食事後はお風呂に入って夜更かしもせずにすぐに寝たほうが良いんだろう。きっとそのはずだ。けれど、工廠の仕事は私の天職なのである。私の趣味や過去の経験や、そういったものをほとんどフルに活かせて、かつ新しいことも発見できる。この工廠の仕事をやっていて一番楽しいことは新奇なことに出会うことかも知れない。……と、新奇なこと、という単語が頭に引っ掛かる。新奇とは新規性があることだし、それはとどのつまり、
”開発だ”
その言葉をまたタブレットに打ち込んで表示させる。そりゃ、装備の開発は普段から出来ることだ。開発……というか、生産だけれど。生成物を全く制御できない、ギャンブルのようなもので、使う分だけの資材を妖精さんに委ねて謎の霊的反応を起こさせて作るという。
こんな辺鄙な鎮守府で、物資の調達もろくにしていないから、もっぱら支給される最低限の資材、装備開発に要する必要最低限の量で謎の物体を作るだけの仕事なんだけれど……はて、あの謎の物体は本当になんなのだろうか。溶かして資材に還元する、なんてことも出来ないし……やっぱりアレはぬいぐるみだろう。
油、鋼材、弾薬、ボーキサイトを混ぜたものを妖精さんに手渡すだけで出来上がる、というとんだ自動調理システムがいわゆる”装備開発”と呼ばれるものなんだけれど、その面影のカケラもない謎のぬいぐるみ一組が生成されるのは全く解せない。
ああ、なんて理不尽なギャンブル……と思っていたけれど、そんな殆どがゴミになる成果物に混じって、ソナーが出てくる。これがまた、レアな割には低性能のオンボロで、私は一体何をしているのだろう……と自問自答したくなる。対潜のベテランはウチには2人もいるし。そのベテランに持たせる装備は、当然最大の効率を挙げるためにも高性能なものであるべきだと思う。これは真理だ。
……さて、ここで私は発想をぐるりと転回させる。ギャンブルになっている現在を鑑みると、こちらでアセンブルしてやれば良いのでは、ということだ。
ここで話を最初に戻す。”どうしようかな ホワイトデーのお返し” そう、私は確かに色々他にも悩ましかったのでそれに乗って悩んでみたけれど、始まりはこうだ。
大淀に貰ったゴディバのチョコレートアソート10箱……これにどう報いたものか、と。
それで悩んだのが始まりだった。なんで私は工廠でどうこうすることに悩んでいたんだろう、と思うけれど、本当はそうだなぁ、大淀用の装備を妖精さんの手を借りずに私の手でハンドメイドできれば良いな、と思ったのだ。
けれど前提問題として大淀はそもそも戦闘要員じゃないし、加えてハンドメイドした装備が艤装としてちゃんと役に立つのかということだ。私達の艤装は妖精さんの力が宿っている。妖精さん自身が作っているものなのだから、当然なのかもしれない。逆に、人が作ったものに妖精さんの力が入るのか?全くさっぱり分からない。装備の品質の均一さも工業製品の範疇を超えた精度だし、魔法のように完璧に揃っているんだから……ああ、確かに魔法なのかもしれない。けれどもああ、――――――――
●
と、懊悩は意外にも私の時間を蝕んでいた。ふと画面から顔を上げてドアの方を向くと、ガラスの窓の向こうはすっかり紺色だった。ああ……時間を無駄にしたなぁ。でも定時は定時だ。仕事はまぁ、終わっているし。そもそも終わっているからこうして余計なことを考えていたわけで。
半ば机に突っ伏すようにしていた姿勢を正し、少し背伸び。姿勢が悪すぎたのか、肩が凝っている気がする。腰もちょっとバキッとした感覚が背筋を伝って首筋へ、そして首を回すとさらにゴキッと。聞こえなくても、衝撃はちゃんと感じるものなのだ。
タブレットを小脇に抱えて、私は工廠の電気を消して戸締まりをして食堂へと歩き出した。……春になりつつあるとは言え、風がこうも吹きっぱなしだと寒さが骨身に染みる。おおぅ、と思わず漏らしたくなるけれど、溜息しか出てこない。ふわりと漂った白い息は、すぐに風に散らされた。
食堂に着くと、少し暑いくらいに暖房が焚かれていた。ここが広すぎると思うのは、多分私達の頭数が少ないからだと思う。いや、まぁ……ここの頭数が少ないのは良いことでは有るのだけれど。歩留まりがいいのはいいことだ。私にも、仲間たちにも失礼なのは当然分かっているとして。
……それで暑さとは別に、なんだか空気の震えが肌に吸い付くな、と思って少し見回す。すると、キーボード・ベース・ドラムの三人バンドが楽器を演奏していた。何の曲をやっているのかは全く分からないけれど、まばらに居る他の艦娘達の雰囲気が緩やかなのを見ると、多分、いい曲をやっているんだろうと思う。
そこに私は一抹の寂しさを感じて、だからすぐに厨房のカウンターへと向かった。すると、間宮が顔を出してきて、”何にしますか”と微笑みかけてくる。カウンターの少しむこう、盆の上に乗った沢山の色とりどりの小鉢が私の目に入る。見ているとそれだけで楽しい。せっかくなので、そういうことなら、と私は色鮮やかなものを選んでどんどんピックアップ。私の盆に沢山の小鉢が並んでいく。瑞々しい緑のほうれん草のおひたし、人参と大根を和えたなます、トマトのマリネと。そしてなんだか肉っぽいものが欲しかったから大皿に乗ったトンテキ。そして、たまにしか見ない、見たら絶対に選んでしまう赤出汁の味噌汁に……これは選択肢がなかったか。少し多目に盛られた麦入り飯。次々と載せていったら、なんだか意外とバランスがいい食事になった気がする。特に私はトンテキがあったのが嬉しかった。揃ったので、間宮に向けて私は笑いかけながら会釈。そのままレーンを出て適当な机に。座っていただきます、だ。……背中からビリビリと空気の震えを感じる。やっぱり、寂しい気持ちにはなった。
私が赤出汁の味噌汁に口を付けて、それからトンテキの付け合せの粉吹き芋に肉汁を染ませて口に含むと、眼の前に大淀が座った。彼女もちょうど仕事が終わっていたらしい。私が顔を上げると、彼女はいつもの綺麗な顔で、”豪勢ですね”と微笑んだ。なんでこんな贅沢をしているんだろう、と自分でも疑問になったけれど、だから恥ずかしくなった。私は思わず左手で頬をかいて、心持ちうつむく。大淀はまた微笑んで、”これからまだ仕事ですか?”と私に問い掛けた。
多分、また工廠に行って時間を潰すだろうな、とは思っていた。自室は当然有るけれど、私はあいにく工廠のほうが家のような安心感を感じるたちなのだ。だから、大淀の問い掛けに頷いた。すると、彼女は微笑みを深くして、”私はこれから自分のお金の世話をします”
やっぱり、とは思っていたし、加えて私は彼女の何を返せば良いのかな、と疑問になった。何かを買って渡すというのは……いや、プレゼントは気持ちと一緒に渡すものなんだから、それでいいじゃないか、とも言えるんだけれど、彼女のようなブルジョワにものを贈るのは気が引ける。欲しいものはなんだって買えるんだから……と。だからお金に変えられないものを贈るのが妥当かもしれないけれど……はて、一体何がそれに当てはまるんだろう。やっぱり、私の手作り?いやいや、既成品のほうがよっぽど立派だ。ああもう、悩む。
……とりあえず、工廠に行くと言ったんだから、工廠には行く。そこでまた考える。けれど……これは本末転倒かな?でも、と思って私は、お盆の右脇に寝かせていたタブレットを立ち上げて、”欲しいものって、あります?”と書いて彼女に見せた。すると、彼女は少し面食らった顔になると、なんだか苦笑いを浮かべながら、少し考え込んだ。……まぁ、日にち的にバレるよね、とは思ったけれど、案の定バレたみたいだ。あーあー、と思って私がやけくそでトンテキにかじりつくと、その頃大淀は何か思い当たったのか、手を合わせた。そして、”指輪って、持ってなかったなと” そう彼女の唇が描いた。指輪、かあ。
鎮守府内では当然ほとんどが寝間着と制服で過ごすから、出来るおしゃれと言えばまぁ、それが限界なんだろうと思う。だから、私はそれに意気揚々と、”作ります!”とタブレットに打ち込んだ。それを見せると彼女は、わぁ、という口の形をして、頬を赤らめながら満面の笑みになった。
そして大淀は、”サイズが何号になるか 後で教えますね”と言って、いそいそと食事に手をつけ始めた。……でも、私、勢いで作るとは言ったけれど、当然作ったことなんてないわけで……と思うと、すぐに調べないと、と思って私も残りの食事にがっつき始めた。
せっかく豪勢にしたから、ゆっくり味わうべきだったのかもしれないけれど、話が決まると焦りだすのが人情ってものである。さっきにましてトンテキにはがっつき、味噌汁は流し込み、小鉢の中身はろくに噛まずに飲み込んだ。……少し、胃が重い気がするけれど、気にしない。
食事が終わると、私達は一旦別れた。私の行き先は当然工廠だった。鍵を開けて電気を点けると、すぐにここにどんな工具があるかをリストアップし始めた。それが終わるとハンドメイドの指輪の作り方の調査だ。……材料になる金属は、そのへんの廃材ってのは嫌だったから並行して通販でお取り寄せ。
と、言うわけで私は定時が終わると夜更かしをしてはじめてのアクセサリー作りに勤しむようになった。工廠の備品を私用で使うのはどうなんだろう、とは思ったけれど、資材には手を付けていないし、機材は消耗品じゃない。減るもんじゃないし、の理論である。
大淀の指に合う号数、それとハンドメイド指輪の作り方がわかったので、幾つか試作して、それから本番に。こういう細工は初めてだけれど、モノクル要らず、目のズーム機能があるから実に楽ちんであった、とさ。そして、納期であるホワイトデーにも間に合って、私は満足して、最後の夜更かしを終えた。
ホワイトデー当日の朝、私は大淀の顔を見ると走り寄って、指輪を手渡した。化粧箱もちょうど用意できていたから、ぱかりと蓋を開けて私の力作をご披露。すると、大淀は満面の笑みになって、”はめてみていいですか”と言った。私は当然大きく頷いて、彼女の手を取る。
そして、彼女の右手の人差指に指輪をはめてあげた。飾り気のない銀色のリングだけれど、何故だろう、私って指フェチなんかじゃなかったと思うんだけれど、指輪があるだけでずいぶんと色っぽい手になるなぁ、と思った。大淀の満面の笑みを浮かべて、私にハグをしてくれた。
とにかく、私は貰ったものに見合ったお返しが出来たな、と思って大満足。……来年も指輪でお返し出来たらいいな、と思った。だって、せっかく作り方を覚えたんだし。今度はもっと凝ってみたいなーと。
で、この話の大オチと言うか。
外から入ってくるものに関して、形式的だけれど提督は検閲を行っている。それで私が何を買ったのかについて後から追及が来て、指輪の材料だということを説明すると、
”あんた、レズビアンだっけ?”
何だか身も蓋もない変な問い詰められ方をした。機材の私的使用の話はどうした。私は正直に”ホワイトデーのお返しを作ったんです”と言ったんだけれど、
”いや、じゃあやっぱりレズなの?”
と、煙草をマズそうに吸いながら言っていたのが非常に解せなかった。
失礼な。私は遠距離恋愛とは言え彼氏持ちで、1日もメールを欠かしたことのない筆まめな女なのである。別に同性愛者に差別的な目線を向けている訳じゃないけれど、誤解は誤解なので解いて置きたかった。でも、
”じゃ、二刀流?しかも同時に振り回すタチの悪いやつ”
全く色々と無礼な提督である。
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――――――――そして、その夜。
大淀が一人で使用しているオフィス。右手のマウスが忙しなく動いている。カチリ、カチリ、と延々と室内でクリック音が響き続ける。しかし、その右手に指輪は無かった。無論、一緒に貰った化粧箱の中にも無い。
クリック音が、唐突に止む。そして、大淀は背もたれに身を任せると、左手を天井に向けて上げた。その左手、薬指には指輪がはまっていた。大淀は頬を緩ませると、その指輪に啄むようにキスをした。