女提督は金剛だけを愛しすぎてる。   作:黒灰

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姉登場。
文量は今までの番外編より増やしています。
今までと違ってあからさまなパロディが含まれています。ご了承ください。
2016/12/12
ルビタグを付け間違えてました。大変申し訳ありませんでした。
2016/12/15
先生が言う大湊の提督が素人ではないという風に描写を変更しました。申し訳ありません。
2019/08/27
那珂ちゃんのアーティスト活動歴について齟齬がありましたので修正しました。
次回作で触れていますが、彼女は専門学校卒業後デビューしていました。


DISCO VOYAGE

 艦娘という存在と精神のミスマッチを起こした一方、艤装を扱えるかというハード面の問題は全く起きなかった。私は装備した艤装を十全に扱えるし、脚のスクリューも何事もなく回転させられた。試験稼働は全部クリアしてしまった。というか最高出力テストでオーバーロードさせた。申し訳ない。

 ちなみにこれ、制御は電気だけど、動力自体はオカルトパワーらしい。私にはよくわからない。

 それでなんとなく考え始めると止まらなくなって、また先生の入室に気付かなかった。

 ……多分、先生がこっそり入ってくるんじゃなくって私が本当に気付かないんだろうと、ようやく考え至った。それを先生に言うと、先生は『まぁ、そうなのであろうな』と答えるだけだった。

 なんで正解を知っている顔で肝心のそれを私に誤魔化すんだろう。知っているんでしょうに。手首切るぞーって脅しになっていない脅しを言ったら、物凄いげんこつを食らった。痛かった。身も心も。結局そのことについては、『専門外であるから診断は下せぬ』とは言ってくれた。

 

 ……診断。

 

『診断って、なんですか』と私が聞き返すと、先生は苦虫を噛み潰した表情になった。あれは“口を滑らせた”という顔だ。私、何かの病気なんだろうか。先生はそれっきり、何も答えてくれなくなった。私ももう聞くのはやめた。これ以上問い詰めると、先生のプライドを傷つける。

 

 それはともかく、私の目に見えるようになったものがある。

 “妖精さん”だ。

 先生曰く、艦娘を艦娘たらしめるものとは畢竟、”妖精さんを扱えること”らしい。

 私の意思は妖精さん達と交信出来たし、妖精さんからもレスポンスを感じられた。そういう定義で言うと、私はちゃんと艦娘の条件を満たしている。

 でも絶望の気だるさといじけた気持ちに任せて衝動的に、『ゆあーん、ゆよーん、ゆあゆよーん、セイ』とか言ってコール・アンド・レスポンスを彼ら、あるいは彼女らに求めてみたら、ものすごく困惑していた。『ゆ、ゆあよん?』って。こんなコールじゃそうなるよね。知ってた。でも言ってみたかった。中也のパクリだけど。

 案の定先生に怒られた。ごめんなさい。

 

 ……あの後、先生は言っていた。

 艦娘の魂を体に受け入れ、人格を合一することが艦娘化の最終段階である、と。

 だから、私は―――――失敗作だ。艦娘の意思に見捨てられたのだから。

 

 艦娘、失格。

 人間でなくなって、人間以外でもなくなって、結局何であるか分からない。

 残ったのは、何でもない。

 

 それなのにこうして艤装を扱い、妖精さんと対話できるのは、確実に体が艦娘となってしまったからで、私はもう解体されるかこのまま運用されるか、ふたつにひとつだった。

 機能だけは問題ない。人格の統合に失敗しただけで。

 加えて、この現象について研究する必要がある、と、後ろ向きな理由があったから、私は解体されなかった。

 そんな私は不良品のまま、艦娘失格のままに“出荷”されることになったのだった。

 

 

 ●

 

 出荷準備は色々あった。

 

 まず髪を”那珂”のように結い上げて、姿を近付ける。十分すぎるくらい髪は伸びていたから、足りないということはなかった。でも、そろそろ頭がちょっとだけ重い。今までも黒髪ロングで通してきたけど、これは伸びすぎだ。ちょっとで済むあたり、やっぱり体が強化されて感覚も変わってるんだろうか。しかし……両サイドお団子って、なんだこれネズミかな?“那珂”って徹頭徹尾あざとい。その割に、言動は諭すようでなんか、釈然としない。オフだからか。

 

 そして艦娘としての衣装……あの世界にいた“那珂”とは違う、川内シリーズ共通の制服が私に渡されたので、それを着用した。……けれど、なんだかフィットが悪いというか、妖精さんが過負荷を訴えてきた。

 すると先生はすぐにもう一着を持ってきた。

 それが、あの世界で見た”那珂”の制服だった。アイドルみたいなオレンジと白のセーラー服みたいな衣装。そんなんを達磨様みたいな先生が持ってきたのに思わず吹き出して、またゲンコツを貰った。痛い。

 で、着ると妖精さんはみんなしてOKサインを出してきた。先生は驚嘆して、ベッドの縁に座る私に言った。

 

「これは改二艤装である。本来ならば練度上昇の果てに着用することになる高性能武装であるが、君は精製した時点から既に練度数値50前後に相当すると考えられる。詳しくは妖精さんが教えてくれるだろうから、問い合わせてみたまえ」

「問い合わせって」

 

 そんなカスタマーサービスに言うみたいに。ともかく、私は妖精さんと意思を通わせると、

 

『よん、じゅう、はちです?』

『よんじゅうはちです?』

『しじゅうはちです?』

『よんぱちです?』

 

 おい。それは違う。

 

『よんぱちでかっこかりです?』

『どちかというとせんせいです?』

 

 だから違うっての。ナントカ先生も違う。というかなんで知ってる。

 まぁともかく、

 

「48だそうですけど」

「やはり驚異的な数値である」

 

 そう言って、先生は私を見て考え込んだ。何故だろう。いや、私がどうしてそんな数字なのかもわからないけど。高いのは分かったけど、どれくらい高いかはマックス値が分からないと。

 

「その、練度数値って最大でいくつなんですか」

「……99である」

「じゃあえっと、普通の人はいくつからスタートで?」

「1から10、平均的にはその間に収まるものである」

「え?」

 

 こう言ったらなんだけれど、強くてニューゲームもいいところだ。そんな数字。

 しかもキリ悪っ。とにかく、私の練度が異常だということは分かった。

 それで、お姉ちゃん達がどうだったかにもちょっとだけ興味が湧いた。

 

「先生」

「何であるか」

「お姉ちゃん達は、どうだったんですか」

「上の姉が38、下のほうが40であったな。君達姉妹は外れ値の範囲にあるが、特に君は極めつけである」

「……」

 

 勝った。

 そんな、どうでもいい感情が私に湧き上がった。

 確かに、勝った。最初の段階では。けれど、それはスタート地点に過ぎない。

 私はいつだってスタートでは姉達を凌駕していた。けれど、私は飽きっぽいし鈍くさいから、そこからの伸びが甚だよろしくなかった。だから、また追い越されている。それくらい分かっている。だから、この優越感は素晴らしくどうでもよく、けれど私のコンプレックスを刺激した。

 溜息。

 

「でも、どうせ追い越されて、私は追いつけないんですよ」

「何を言うか。……集中したまえ。ただそれをせよ。君にはそれ以外、姉達に優る方法はない」

「いや、別に優位に立とうなんて思ってませんけど。立てるという発想が、そもそもないですし」

「……まぁいい。君の集中力はおそらく彼女らとは異質だ。それ故に、上手くコントロールする術を身に着ける必要があるであろう」

「そんなもんですか」

「それ以外ないと言ったであろう」

「はぁ」

 

 ……集中力。そう、確かに私にはその異常な集中力がある。学生のときはテストを、ショウを乗り切るだけの力と言ってもいい。練習は続かないけれど、必要に迫られれば3日でセットリスト全てを完全に記憶してステージに上がれる。それで、ショウが終われば集中力がほぼ完全に枯渇して、アレだ。身の回りの整理が普段に増して出来なくなるから、ライブハウスの店長に手伝って貰ったりしてしまった。加えてのダラダラとした雨宿りだ。少し疲れが取れるとまた読書に集中。どうにも治らない悪癖。

 

 その悪癖が巡り巡って私による殺人を招いたとするなら、因果は酷いものだとひしひし感じる。

 だから私はベッドの上で縮こまり、

 

「それが、私が人を殺す原因になったんですよ」

「ならば、それをせよ。君は誓った。殺すと。あの深海棲艦を殺すと。君の懊悩はその利便性によって代替される。受け入れよ。そして生き残るがいい。君にはその義務がある」

「義務」

 

 ……義務。苦手だ。何が苦手って、自由がないことじゃない。私がそれを果たすことに関してまるで適性がないからだ。あわてないあわてない、後回し後回し、そんな人生を送ってきた私に、義務という荷物はひどく重い。持ち上がらないくらいだ。死ぬ気で引き摺ってなんとかなるかならないか。そんなもの。

 でも、期待されてしまった。……期待じゃないかもしれない。諭している、それくらいなんだろう。

 仕方なしに私は言う。

 

「……善処は、します」

「よろしい。気合を入れてもどうにかなることではない。方法を覚える努力をすることだ。試行錯誤したまえ」

「ちょっとくらい教授してくれたっていいじゃないですか、そこまで言うんですから」

「……あまり言いたくはないものであるが、ワタクシは専門外である。だが、君の配属先の提督は心理分析に長けておる。話を聴くがいい。ワタクシよりは断定的な話が聞けるであろう。ワタクシが得た所感についても引き継ぐこととする」

「……はい」

 

 融通がきかない先生だ。でも、そういうところは嫌いじゃない。高潔な魂はむしろ好むところだ。眩しいから。それに、堅物一辺倒でもないのは実にいい。……いや全然良くない。患者イビリが趣味なのはいただけない。

 

 

 

 そんな他愛の無い話をして、ふと思い出したように私は聞いた。

 

「で、どこに配属なんですか」

「大湊である」

 

 ……大湊。青森!?

 寒そうだな。ちょっと気が滅入る。しかも今頃は豪雪の時期じゃなかろうか。東北だし、青森だし。

 ここに来たのが確か11月くらい、それで今まで大体3ヶ月、ああ、いや、もうすぐ雪解けは近い。楽しい春が待っているはず。気分は新入社員だ。まぁ、実際は匿ってもらってるだけの手配犯みたいなものだけれど。そう思うと、自己嫌悪で沈みそうになるから、あまり考えないことにした。

 

「あの、本とか、携帯とか、持っていきたいものがあるんですけど、それは許可されてるんですか」

「……君の家人に頼むのが自然な流れであろうな。君の住居はすでに引き払い済みである。中将と連絡を取り、大湊に送るよう手はずを整えよう。リストを作りたまえ。それに従って発掘作業が行われるはずである」

「あの発掘ってなんですかそれ」

「聞いただけの話ではあるがゴミ屋敷を取り急ぎ空けたものであるから君の私物類はゴミの塊になっておるらしい」

「……あああ!見られちゃったぁ……!」

 

 私の生活能力のなさをまたまた親に露呈してしまうとは。もう姉は帰ってこないんだから親あるいは親族がいくに決まっている。ああ、なんてことだ。……しかも1冊だけエロ本が混じってたから本当に恥ずかしい。マジで恥ずかしい。しかもそれでかなり興奮してエンジョイマイライフタイムというかなんというか、あああああああ!エグいエロ本一冊だけあるって、最悪だ!上姉ちゃんは大笑いで済むかもしれないけど、下姉ちゃんはダメだ、殺されそう……。

 

「どうしたのであるか」

「え、え、え、え」

「“え”とはなんだ“え”とは」

「え、エロ本……一冊だけ、あって……」

 

 死ぬほど笑われた。うん。笑ってよ。それでいいよ。沈痛な面持ちもドン引きもいらないからそれでオッケー。ありがとう先生。そういう気の利くところは好きだ。イビリをやめればね!

 

 結局リストにそのエロ雑誌も追加することにした。開き直って、さ……。

 どうせ女所帯だし女子高気分でいいや……エグいサムシングも許されるよね……。

 

 

 ●

 

 さて、そういう私物リストを3回作って抜かりがないことを先生に添削してもらって、完成版が出来上がった。ここにはもう用はなくなった。出荷準備完了だ。

 

 最後の夜、というか夕方、先生と話をする機会があって、最初に薬瓶を渡されて飲んだ。

 中身は睡眠薬で、何時間寝る分入っているかは教えてもらえなかった。ここがどこだか分からなくするためだ。

 ルートはかなり遠回りになったり、直行だったりする、それも教えることはないって。

 ここの場所は知らせるわけには行かないから。

 

 で、最後の会話はやっぱりたわいもない話に終止した。

 先生はモテるのか、とか、じゃあ私はモテたのか、とか。

 植毛の毛はどこから来たのか、先生なんで植毛せずに全部剃っちゃったのか、とか。

 

 もうここまで来ると気心知った仲だったから、私も先生をイビるくらいは出来た。

 これでも私はおしゃべりで弁が立つほうだったから、押し込められることはなかった。

 楽しかった。そう、ここでの数ヶ月は、間違いなく楽しかった。

 人間失格、艦娘失格。何でもなくなった、ある意味望みどおりの惨めな私の日々は、楽しかった。人殺しの私には厚かましいほどに。

 でも、それも終わりが来た。

 

 私は眠気に耐えきれず、ベッドに横たわった。

 先生は最後に、私にこう言った。

 

「生存は君の義務であり、権利でもある。ゆめゆめそれを忘れることなかれ。その生存の強さを以て、君の罪を祓いたまえ」

 

 それを私はおぼろげな意識の中で聞き取り、心に刻んだ。

 

 ●

 

 かくして、私はどういうルートだか知らないけれど、大湊に送られた。

 目が覚めたのはベッドの上だった。部屋の電気は付いている。

 天井はまたベッド。どうやら二段ベッドか三段ベッドらしい。

 視線を横にやると、床が近かった。どうやら下の段みたいだ。視線を少し上げると、壁掛けの時計が見える。日付も映った四角いデジタル時計だ。どうやら今は深夜0時、眠った日から1日と四半日が経っていたころだった。

 

 面白いほどにさっぱりと目が覚めたから、ベッドで伸びをする。しばらく寝かされっぱなしだったから体がちょっとコリコリで、貧血寸前になるくらい体に血が巡っていった。

 

 それに呼応して、物音が鳴った。上からだ。でも、一つ上って感じじゃない。これは三段ベッドだと確証が持てた。私はベッドからのっそりと降りると、揃えられて置いてあった靴を履く。すると、三段目から誰かが降りてくる。私と違って、オレンジと黒のスカート、足は黒いタイツで覆われている。

 見上げると、サングラスの顔。白い肌。

 

「お姉ちゃん?」

「よ」

 二段目のベッドの柵に足を掛けながら降りてくるその人が、私に左手でサムズアップして微笑みかけてきた。

 

「お姉ちゃん!」

「あはは、元気そうでなによりかな」

 

 私は降りてきた彼女の胸に、思わず飛び込んだ。

 そして、泣いた。

 

「っ、ごめん、ごめんなさい、お姉ちゃん、私、私ぃ、私―――――!」

「……うん、よく来たよく来た」

 久々に会う姉の暖かさは、昔と変わらなくって、私はもっと安心して、号泣した。

 

 ●

 

 部屋の一角は一段上がった何畳かの床の間になっていて、私達はそこのちゃぶ台に就いて話を始めることにした。窓の外は月がよく見えていて、姉はそれを一度眺めてにやりと笑った。やはり、上姉ちゃんには夜が似合う。その儀式を済ませると、彼女は私に向き直り、真剣な顔になった。

 口を開く。

 

「経緯は聞いてる。それで、裁判もまだ生きてるってこともね。私達姉妹はお父さんの力で結構外との連絡は円滑に取れる。そこは安心して。裁判の状況、聞きたい?起きたら話そうと思ってたから、聞いてある」

「……うん」

 

 私が頷くと、彼女も頷いた。

 

「……結審までが長引いたから、検証が今も続いてる。正直、検察・弁護もやることがあんまりなくてね。ただ、死んだ子、……大丈夫?」

「大丈夫」

 

 姉はこう言ってはなんだ、ちゃらんぽらんのように見えて気が利くのだ。私はよくこれに甘えてしまった。ちょっと暗いときも、ドライブに連れて行ってくれたり、夜遊びスポットに引っ張っていってくれたり。話を聞いてくれた。

 続ける。

 

「うん。……その子が何かしら日記かなにかを残していないかっていうのを探す動きに入ってる。親御さんの身辺整理も兼ねてね。今のところは見つかってない。というか、あのあとご両親は引っ越してしまったらしくってね。その子の身の回りのものも散逸気味らしくって、見つからないものも結構あるみたい」

「うん」

「だから、今はそういう証拠探しに結構時間が掛かってる。別にむやみに引き伸ばしている状態じゃなくなってるってのは覚えておいて。引き伸ばした結果、そういう機会が生まれたってことでもあるけどね。何か出てくれば、あんたが有利になるかも。例えば、遺書とかさ」

「……遺書?でも、あの子は殺しに来たんじゃ」

「無理心中の可能性、あると思わない?」

「……ある、のかもしれない」

 

 あの子の精神状態は普通じゃなかったと思う。……職業柄、精神的に不安定なミュージシャンとは出会うことも多かった。デビュー当時だと……周りはもうリストカッターアームカッターのバーゲンセールみたいなところもあった。彼ら彼女らの奏でる鬼気迫るメロディに心惹かれるものがあったのも事実。けれど、その様子にあの子も似ているところがあったと思う。しかも何人かは自分から鬼籍に入る方もいて。

 ……狂気が音楽ではなくて、私への殺意に変わっていたとすれば、たしかに無理心中という可能性も、なくはない。……それが、裁判においてどういう意味を持つのかは、私にはよくわからないけれど。

 

「だからって、何か変わるかな……」

「あー、まぁ、それは……私にもわっかんないけどさ。事件の背景がはっきりするとこの事件の意味合いも変わるんじゃないかな。そう思う、そんだけだよ」

「……そっか」

 

 私が俯いて一度溜息をつくと、お姉ちゃんは少し笑って、

 

「んじゃ、これからの話しをしようか。切り替えよう……今の私は川内。あの子は神通になった。―――――今夜は夜戦で居ないけどね。あと、私のことはお姉ちゃんでもいいけど、本名はナシね。でもいつか娑婆に戻ることがあると思うから、それまで。あの医者も生きろってしつこかったし……元よりそのつもりだけどさ」

 

 ああ、やっぱりみんなに言うんだ、先生は。お姉ちゃんとその言葉でつながっている、それは心地よかった。

 

「その先生、私も会った」

「へぇ、先生か……やっぱり先生だよね、あのおっさん。厳しかったり、妙に甘かったり。ああいうの、高校の恩師っぽいタイプだよねー。神通も言ってた」

「あー、分かるかも」

「で、あんたは何になったのさ。まぁ、見れば分かるけど……しかも改二艤装じゃんそれ……でも、まぁ名乗ってよ」

 

 笑顔で両手を軽く広げて歓迎のポーズをするお姉ちゃん―――――川内。

 それに、私はうつむくことしか出来ない。

 私は、那珂になりそこねた。なりたくなくなった。私の中の殺人者に取り憑いた那珂になんか。

 それを彼女は見咎めて、

 

「どうしたの」

「私、那珂に、なりたくない」

 

 その一つの言葉で、空気が一度凍った。

 それに、

 

「……何があったらそうなるのさ。私なんか”川内”と初回接続した時からさー」

 

 ●

 

 

『よーし、流派!夜戦不敗は!』

『ヤンチャの風よォ!』

『おお、やるじゃん――――――――夜更(エブリナイト)!』

最高(フィーバー)!』

『いいね!――――――――放送(テレビが)!』

休止(レインボー)!』

『見よ!月は白く燃えているゥゥゥゥゥゥ!』

 

『よっしゃ次!月夜の晩に!』

『抜け出して!』

『盗難二輪は!』

『取り返す!』

『ヤクザチンピラ!』

『蹴り倒し!』

『日が出る前に!』

『オネンネだ!』

『いいね!すごくいいね!私は”川内”!夜戦上等ツッパリ娘のアナタには似合いの名だよ!』

『“川内”パイセン押――――ッ忍!御芳名頂きましてェ―――――!』

 

 

 ●

 

「――――――ってな感じ。相性最高過ぎて目ぇ覚めたらウヒョーだよ。あのおっさんドン引きしてた。んで、夜更かし拗れて日が出てる間は何も出来なくなったけどね。そこ悪化した」

「それは、なんか、すごい」

 

 なんでいきなりぴったりとテンションが合うんだろう。凄まじいマッチング具合だ。私のほうが練度高いだなんて信じられないくらい。というかお姉ちゃんの夜型、悪化したんだ。……確かに失敗なのかも。でも、それを嘆く素振りはまるで無い。強い人だ。私と違って。

 

「でしょ?……で、”那珂”と何があったのさ」

 

 ちゃぶ台の向こうから少し身を乗り出して、彼女が顔を近づけてくる。

 私は、正直に話すことにした。

 

「私の中の、あの子を殺した私に、那珂が入った」

「は?あんた、うーん――――――――二重人格?」

「……そう言われると、そうかもしれない」

「あー……そういえば、刺したときの記憶が曖昧とか言ってたっけ……でもあんたそんな素振りは今まで……」

 

 一旦彼女は視線を外すと、右手で頭を掻いて考える素振りをする。

 けれど、すぐにまた私に向き直って、

 

「提督に相談しよう。うちの神様は結構その辺も明るいから、朝になったら会ってみるといいよ」

「なんで神様?」

「すっごい美人なんだよ。おったまげ」

「美人のお姉ちゃんよりも?」

「……あははは、世辞なら受けつけないぞっと!」

 

 そう言って照れて私によってきて、頭をぐりぐり。

 安心させてくれる温かさに、私も笑った。

 ひととき、罪の意識も忘れて。

 

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