女提督は金剛だけを愛しすぎてる。   作:黒灰

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Who What What Who

 朝ごはんは白いご飯、焼き魚はマスの切り身。それに味噌汁は赤味噌でほうれん草、豆腐、しめじと具だくさん。付け合せはお漬物で蕪と大根。糠漬けだった。

 全部美味しかった。多分。下姉ちゃんと一緒だから緊張感がものすごくって味がよくわからなかった。恐れのあまり、お箸を何度か手元から落としてしまって行儀が悪いと怒られた。お姉ちゃんだよ原因は。絶対言えないけど。殺される。

 

 伊良湖さん、という人が今日の飯炊き担当で、他の日には大鯨さん、間宮さん、という人がやっているんだそうだ。3交代制らしい。印象は普通のかわいいお姉さん。青みがかった髪をポニーテールにしている。

 そんなだから、ここにどうして来たのか疑問になった。私も含めて不良品ばかりだってことだし。下姉ちゃんに聞いてみると、男性恐怖症になるようなことがあった、とだけ。だから男が入ってこない極秘任務、つまり“艦娘への改造”を受け入れたんだそうだ。そしてここは提督も女で完全に女所帯。彼女にとってはうってつけの職場だったということだ。……他の鎮守府だとこうは行かないらしい。人の出入りが多いから男性も必然的に入り込んでくる。ここはそこまで重要な拠点じゃないから、めったに男の偉い人が来ない。

 それで、彼女達には戦闘に出ない代わりに陸で皆の世話役という激務が待っていたわけだけれど、彼女達のような特務艦娘はそれに特化しているらしく、別に苦労だとは思っていないそうだ。この人達にも頭が下がる。というか、提督がそこまでも受け持ってなくて安心した。流石にどうしても出来ないことは他人に任せてくれるんだ。

 

 さて、朝食が終わったあとは下姉ちゃん、神通に工廠へ挨拶に行け、と言われた。そこも場所は分かるから一人で大丈夫、と言うと、彼女は笑って言ってらっしゃいと言ってくれた。下姉ちゃんは、いつもそうだ。”いい子”してくれるときはいつも笑ってくれた。だから、私はその顔を見るとどうしても誇らしくなって、嬉しくなる。安心する。

 

 ●

 

 昨晩歩いた、雪の退かされた道を歩く。真上は青いけれど、遠くの空には黒い雲が見える。風も相変わらず強い。水面は荒れている。それでも、なんだかんだで昼に近づくにつれて気温は上がっているみたいで、夜に氷の礫を踏んだ道は少し濡れていた。これ、乾かないと凍結するから転びそう。風のお陰で乾きそうではあるけれど。

 ……転ぶ、といえば、私の運命を決した最悪のムーブだ。……PTSDは無いって言われたけど、転んでトラウマ発動、とかは御免被りたい。トリガーが軽すぎる。

 

 工廠前に着く。戸の脇の吸殻入れは今も出ていた。けれど、今は煙草が手元にない。まぁ、別に吸うという用があるわけじゃないからスルーした。

 

 引き戸のガラスから中を覗き込む。……居た。多分、この人だと思う。壁にぴったり着けるように置いた、教員机みたいな灰色のデスクで、何かを書いている。

 容姿はピンク色の髪、ハイネックのインナーの上にセーラー服を着た女の人。

 もう少し目を凝らして見ると、タブレットをペンで操作しているらしい。顔は……そこまで気を張ってないみたい。のんびりした感じ。

 

 ……あのタブ、高いんだろうな。お金持ちかな。そういえば今は仕事の時間だよね。アレを使って仕事してるんだろう。すごく待遇がいい職場なんだろうな。……提督の負担と引き換えに。

 

 さて、今は込み入った作業中じゃないみたいだ。話しかけていいだろう。まぁ、聞こえないみたいなんだけど。一応下姉ちゃんからは明石さんは聴覚障害者だってことを聞いてる。……そういや、どうやって自分の存在を知らせるかは聞いてなかった。どうしよう。……まぁいいや。とりあえず入ってしまおう。寒い。

 

 引き戸をガラリと開けて入ると、数秒して彼女はタブレットから目を離して私の方を見た。なんで分かったの?ビックリして体が強張ってしまった。変なポーズだ。彼女はそれにクスリと笑った。……しっかし艦娘ってみんな別嬪さんだ。いや、私も鏡で見たらかなり可愛くなってて凄いと思ったんだけど。

 

 彼女が指差す。その先は……引き戸の上。ファミレスやコンビニみたいにセンサーがついている。そうか、それで気付いたんだ。そしてそのまま私に手招きしてくる。こっち来い、って意味だろう。どう見ても。それで、私は彼女のデスクに近寄っていく。

 

 机の上は整理整頓がされていて、ブックエンドで何個かのバインダーが立てられている。あとはペンとメモパッドが右脇に置かれてて、それくらいだ。提督の机と見比べてしまうから、書類はどこだ、と思ってしまった。机に脇には大きな棚が何個も並んでいた。ファイルがぎっしり。……本当に提督の机とは大違い。私の部屋ともダンチだ。……情けなくなってきた。一応、私の場合は病気というか障害のせいらしいんだけど。

 

 彼女がタブにペンじゃなくてキーボードで文字を打ち込んで、それで私に見せてきた。

 

 ”私は耳が聞こえないんですけど

 一応唇も読めますから普通に話してもいいですよ”

 

 凄い。努力したんだろうな、と思う。だって読唇術があれば補聴器もペンもいらないってことは普通ありえない。あれはフィクションの中のことだけだと思っていたから。

 

「すごいですね」

 

 私がそう口に出すと、彼女は一度目を指差し、

 

 ”目が特別製なので、そんなに苦労しませんでした”

 

 そう書いて見せて、はにかんだ。SFみたいな特殊能力ありきだったらしい。それはそれで凄いけれど。

 

 ともかく、私は挨拶をしなくちゃ。

 

「はじめまして、晩にここに来ました……あの、型名は那珂です」

 

 ”聞いてますよ

 吸い殻入れも見ましたけど、2本入ってたから

 もしかして と思いました。あなたも吸うんですね”

 

 へぇ、凄い洞察力だ。お姉ちゃんはここだと1本くらいしか吸わないらしい。

 ”鳳翔”では結構スパスパ吸ってたけど。やっぱりここの喫煙所は寒いからかな。

 

 それはそうと、私はまた伝えなきゃいけない。

 

「私のことは、その、“那珂”と呼ばないでほしいんです」

 ”なんでです?”

 

 疑問はそりゃあ尤もだ。だから、

 

「”那珂”に、『あなたには”那珂ちゃん”はあげられない』って言われまして」

「――――――――!?」

 

 ものすごく驚いていた。この人もお姉ちゃんみたいに相性バッチリだったらしい。やっぱり私は本当に珍しい例なんだ。それを実感する。

 

 ”私なんて、今でも夢でお話しますよ”

「え?」

 

 そんなこともあるのか。お姉ちゃんもそんな話はしてくれなかったけれど。

 私もそのうち”那珂”が夢にやって来るんだろうか。私を見放したくせに。

 

 ともかく、

 

「あの、だから、好きな呼び方で呼んで欲しいんです。お姉ちゃんはカナって呼んでくれてますけど」

 

 その言葉に、彼女はうーん、と考え込むポーズ。

 そして何か打ち込むと、ひらめいたような目になり、今打った文字を消して打ち直す。

 で、

 

 ”じゃあ、ちゅーさんで”

 

 なんだそれ。ネズミか。あれか、頭の団子が耳ってか。私の鳴き声はそんなんじゃない。

 はは。

 ……危ない。呼び名くらいは著作権から逃げ切れると思うけど。あのアメリカマルミミオオネズミから。

 で、そんなことを考えている他所で明石は、

 

 ”変換ミスで中って出たからそのまんまです”

 

 そう書いて、舌を出して笑った。

 そっちか。もっと安直で思わずがっくり来た。

 まぁとにかく、用事は挨拶だけじゃない。

 夜の訓練の準備のこともある。

 

「夜に訓練するから、試しに艤装?……を装備したいんですけど」

 ”届いてますよ

 ちょっと待っててください”

 

 そう言うと、タブレットを机の上に置いて移動。私もそれに着いていく。

 

 装備は専用のラックに据えられている。私がそれに背中を近づけると、明石が高さを調整して腰のコネクタの場所に合わせてくれた。

 

 ドッキングする。

 最初の時のような感覚は起きない。ただ、

 

 ”正常に動作してるみたいですね”

 

 背中のアームは動く。4つ全部。

 どうやら色々換装できるそうだけど、とりあえず今は単装砲が4つ、対空機銃が4つ、高角砲が1つ、カタパルトが一つ。こんな感じだ。太ももにベルトで着けられた魚雷発射管も……回る。発射口が前になるように回せる。足に履いたスクリューも、カラカラと回る。陸上だと空回りで壊れそうだし、ぶん回しはしないけど。

 ……装備の諸元は、頭の中に入ってきた。不思議な感覚。脳に入力するための機械は入っていないから、妖精さんの仕業だ。テレパシーのように伝わってきている。

 

 しばらくぶりの装備だったけれど、違和感は無かった。艦娘の中身には認められていないのに、

 そんな私の複雑な表情に明石が、

 

 ”どこかおかしいところがありますか?”

「いや、”那珂”に見捨てられてるのに、こう、違和感が全然ないから、複雑な気分で」

 ”動くんだからいいじゃないですか

 これから”那珂”にも認められるようにがんばりましょう!”

 

 彼女は満面の笑みで私を励ましてくれる。

 でも、そんなもんなんだろうか。

 “那珂”はあの忌々しい“殺人者の私”を捨てて、今度は私を認めてくれるんだろうか。

『あげられない』、その言葉を覆して、『そんなあなた』、あの言葉を翻して。

 

 ●

 

 装備を外して、私は夜に向けての準備として部屋に戻ってきた。ちゃんと一階は抜き足差し足忍び足で歩いて。私の、物音がダメなファンが在室かどうかは知らないけれど。

 

 部屋に帰ってくると電気はもちろん点いていなくて、二人共寝ているみたいだった。訓練は夜だから、今寝ておかないと体が持たないんだと思う。

 私も早く寝よう。……そう簡単には寝付けないから、荷物の中に入っていた抗不安薬を取り出す。”持っていく物リスト”の中に書いておいたものだ。

 

 効果を引きずるのは良くないから、今回は2錠だ。シートから出して、口に含む。

 苦い。でも、もう慣れた味だ。私を落ち着かせる、大事な救世主だ。提督に貰ったお茶の残りで胃に流し込むと、私はベッドに入って布団に潜った。制服は着たままだ。寝坊してもいいように。シワの1つや2つは許してもらえるだろう。……多分。戦いに身だしなみは特に必要ないでしょ。

 

 ……かくして、私は眠る前の思索に耽るのである。眠くなるおまじないみたいな物。出来れば難しいものを考えるのがコツ。わけがわからなくなったらつまり眠いってこと。哲学について考えると実に眠くなる。理解出来なくて眠い授業と言うか、心が理解を拒もうとするというか。そんな感じで。

 

 ……そういえば訓練。何をするんだろう。何を教えてくれるんだろう。どんな態度で臨めば良いんだろう。

 下姉ちゃんだけがついてくれるのか、上姉ちゃんも居てくれるのか。

 痛いのかな。それとも、痛くないのかな。ぶたれないかな。褒めてもらえるかな。

 怖くないよね、死なないよね、だって、訓練だから。

 訓練。そう、これは訓練だ。私は安全だ。事故が起きない限りは。

 砲塔は4つあったけど、あれは多分回るのかな。テストし忘れたけど、まぁ訓練だし試射は何度かさせてくれると思う。高角砲も、対空機銃も、魚雷もそうだ。ちゃんと発射されていくのか、まっすぐ進むのかもわからないし。ああでも、そのための明石さんだ。彼女が艤装の整備をしているから大丈夫か。彼女は腕が良さそう。性格はおおらかだけれど、仕事はちゃんとやる人だと……思う。多分。パッと見のイメージだけど。

 

 だから、安心して寝ていい。寝て良いんだ。

 そう言い聞かせているうちに、眠気と妄想が起こる。

 

 訓練の内容は多分初心者教習みたいなものだと思う。海の上を動く訓練とか。スラロームとかがあるんじゃないかな。機敏に動く練習として。船と同じように、水面を漂うことに推進力をプラスして動くはずだから、地面の上と勝手は違うだろうな。イメージしてみよう。水面を。……踏ん張れない場所で立って、走って、構える。そんなイメージを。ああ、でもイメージが、まとまらない。眠い。寝よう。眠いから……。

 

 ●

 

『那っ珂ちゃんだよー!』

 

 喧しい声で起こされた、と思ったら、起きてはいない。

 初めて艤装と繋がったときに見た、あの空間だ。無重力の水の中みたいな、そんな場所。

 息はしなくていい、苦しくない所。暗い、暗い、本当の真っ黒の世界。

 そこに、彼女が漂っていた。ふわふわと。

 

 ”那珂”。あの”那珂”だ。私を拒んだ、”那珂”だ。なのに、夢に出てくるなんてどうしたって言うんだろう。

 確かに明石さんから『艦娘は夢に出る』って聞いていたけれど、本当だった。お話も出来るってことは、逆に言うと彼女と話を『させられる』ということだ。

 嫌だ。人殺しの私を認めた彼女と、話すことなんて無い。あっちも私を認めなかったんだ。今更何を。

 

「那珂……」

『那珂ちゃんです!』

「何しに来たの」

 

 私がつっけんどんにそう返すと、彼女は無駄に驚くリアクションを取る。オーバーであざとい。こいつ。

 

『いきなりいらない子宣言かな?那珂ちゃんショックだよ!』

 

 ぷんぷん、という擬音が聞こえそうだ。ホントこのアイドルみたいな生物は。

 それはともかく、話したくもないけれど聞くことはある。

 

「那珂、もう一人の―――――――」

『ブッブー。那珂ちゃんです!那珂、じゃなくて那珂ちゃんって呼ぶの!アイドルはー、呼び捨て禁止だよ!』

「……那珂ちゃん」

『オッケー!』

 

 ウインクとサムズアップで私に笑いかける。ムカつく。アンチになりそう、ってかアンチだね。私は。

 何がどうひっくり返ってもファンなんかじゃない。

 もうどうでもいいから用件だけ聞いて夢から出ていって貰おう。起きたら私は訓練なんだ。気合を入れないとドヤされるに決まっているんだ。相手している暇は惜しい。

 

「で、……那珂ちゃん。何の用ですか」

『敬語も禁止!ユー、もっとフランクに話しなYO!なーんてね!キャハッ』

 

 呼び捨て禁止で敬語禁止とかお前殺すぞ。

「ころすぞ」

 

 いけない、口に出た。でもいいやマジでムカつくし。少しスッキリした。

 けれど当の本人はと言うと、

 

『怖―いこと言っちゃダメだよー、殺人予告なんてしたら黒い服の人に連れてかれて事務所でお説教なんだから!』

「……うっざ」

『ま、アイドルは死なないけどね!あは!』

 

 何だコイツ。無敵か。というか黒服がどこから出てくるっていうんだ、いや黒子かな?そこらへんにいる?確かにいても可笑しくないくらい”ここ”は黒いけど。

 しかし、話を進めるには彼女の言うとおりにするしかないみたいだ。話すたびに訂正を受けるかもしれないけれど、仕方ない。耐えよう。

 

「那珂ちゃん、もう一人の私に入ったあなたが、なんで私に会いに来たの」

『一応、今晩訓練みたいだしね。ちょっとしたアドバイスかな』

「……なんで知ってるの」

『那珂ちゃんはアイドルだからだよ!』

 

 理由になってない。それより、何故会いに来たのか。なんで今さらアドバイスなんか。

 

「私を、見捨てたんじゃないの」

『それは違うよ。見捨てたわけじゃなくって、”それじゃダメ”ってだけ。まだ不合格だけど、二次オーディションもあるよ!ってこと』

「オーディションじゃないでしょ」

『ううん』

 

 私の言葉には否定。

 そして、今までおちゃらけた表情だったのに、急に真剣な顔になって、私にこう言った。

 

『同じことだよ。あなたは、本当のあなたに気付かなきゃいけない。――――――それを見せなきゃ。そういうことだよ』

 

 私を試す言葉だ。

 本当の、私?一体本当の私が何だって言うんだ。私は私だ。私が、そう思うが故に。

 那珂を睨む。すると、彼女は満面の笑みで、

 

『あれは、あなただよ』

「違う」

 

 否定の言葉が口をついて出る。那珂を見る。優しい顔だ。それが、この上なく腹立たしい。

 

「あれは、あれは人殺しの、私の中の、人殺しの、別の私、違う、私じゃ、ない」

『同じだよ』

 

 同じじゃない、同じなんかじゃない。絶対に違う。心臓が、痛い。

 

「違う、違うの、私、殺したくなんてなかった、刺したくなんてなかった、なんで、なんであんなのが」

『あれは、あなただよ』

 

 私じゃない、私、殺してない、殺したけど、殺したくなかった、もう一人の私が悪い、あいつが、あれが、やったんだ、違う。頭が、痛い。

 

「違う、違う、違うの、信じてよ、なんでなの、あんなの、いない、私のなかに、人殺しなんていない、そうだよ、いない、いないの、じゃあなんで私、殺したの、知らない、分かんない」

『違うよ。――――――あなたは、そこにいるよ』

 

 いない。私はもういない。私は、もう居ない。居ないんだ。”那珂”でもない、人間でもない、もう何でもない、あれ?

 

 じゃあ、私は、何?

 

 何?

 何?

 なんだって言うの?

 真実は何も答えてくれない。応答なし。

 意味不明に、この胸が、砕けそう。潰れそう。痛い。痛い。痛い。

 この空白、黒に、溺れる。もがく。

 耳鳴りはサイレンのように、虚しく鳴り、喚くように。

 

「ちがう、ちがう、私、私は、私、私じゃない」

 

 私が私じゃない。何が、何じゃない?何?

 

 誰――――――――?

 何――――――――?

 誰――――――――?

 何――――――――?

 

 分からない。わからなくなって、何かが、壊れた。

 疑問符が心臓を奪った。

 

 ここは、どこ?

 目の前のなにかの声が聴こえる。

 

『――――――――仕方ないなぁ。じゃあ、”那珂ちゃん”を”貸してあげる”』

 

 近づいてくる。黒い影と重なりながら。

 近づいてくる。そして、触れてくる。

 

「いや」

 

 触れてくる、そして、抱いてくる。

 誰か、答えてよ。真実よ、応えてよ。

 

「いやだ」

 

 抱いてきて、侵される。プラスチックみたいに溶けて、心臓に入り込んでくる。

 お願い、助けて、真実、救ってよ。

 

「嫌――――――――!」

 

 そして。

 プラスチックは、いびつさを無くして、一つの形を取った。

 

 ●

 

 那珂ちゃんは目を覚ますと、右手で額の汗を拭った。

 寝汗がびっしょりでちょっと恥ずかしいし、お風呂に入りたい気分。

 でも、これから夜の訓練、ステージのお稽古だ。そんな暇はないから、朝のお風呂を楽しみにしないと。

 

「カナ、魘されてたけど」

「あなた、大丈夫なの」

 

 顔を左に向けると、川内ちゃんと神通ちゃんが覗き込んできてた。

 アイドルの素顔を見られちゃって恥ずかしい。

 

「大丈夫だよ、だって、那珂ちゃんは」

 

 そう、那珂ちゃんは、

 

「艦隊のアイドル、みんなのセンターなんだもん」

 

 そして、今夜のステージの華なんだから。

 

「カナ?あんた、何言ってんの」

「……那珂?」

 

 二人共呆けた顔をしてる。

 そんな顔じゃダメダメさんじゃない。

 もっと笑って、那珂ちゃんに笑いかけて。

 

「絶好調なんだからー、このまま本番でもいいくらいかな?あは!」

 

 那珂ちゃんは、那珂ちゃんだから。

 那珂ちゃん絶好調。

 

 

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