女提督は金剛だけを愛しすぎてる。   作:黒灰

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朝景の記憶

 陸に上がってからは、明石さんが私達を見つけてくれた。パニックになった私が最後の力で工廠に二人を放り出すと、そのまま私もその場で倒れた。後で彼女に聞いたら、痙攣してたって言ってた。多分、過呼吸で体が跳ねていたんだと思う。

 

 それから気がつくと、お風呂みたいなところに入れられていた。水は緑色で、冬のお風呂にしてはぬるくて人肌くらいだったけれど。どんどん傷が塞がっていく感覚があったから、これが私を治すためのものだってことは良くわかった。

 あたりを見回すと、右手には上姉ちゃん、左手には下姉ちゃんがいた。上姉ちゃんはアイマスクを着けられて。二人共、今は眠っているみたいだった。

 

 しばらくボーっとして体を治していると、というか、直していると、明石さんと提督がお見舞いに来た。で、提督からものすごい謝られた。……謝るのはこっちの方なんだけど。やらかしたのは私なんだし。けど、提督は『ごめんなさい、ごめんなさい』って言うばかり。何がごめんなさいなのかも分からない。でも、多分提督はここの責任者だから、謝るときはこの人が一番先なんだろうな、と上の空でそれを聞いていた。

 あ、私も当然謝った。

 

 それから、私は戦うときに”那珂ちゃん”になりたくないと神通、下姉ちゃんに反発した。すると、その度に下姉ちゃんは私を追い詰めた。暴力と言葉で私を痛め付けて、私を”那珂”に変えようとしてくる。それを繰り返しているうち、私は”那珂”と言われるだけで震え上がり、そうして”変身”することもままある状態になった。

 情緒不安定、発狂ピエロの完成だ。はは。

 

 ●

 

 で、今晩も私はサーカスバカのアイドルとなって深海棲艦をボッコボコに叩きのめしてしまったわけだ。

 今回は下姉ちゃんの”那珂”攻撃が変化して、『私が神通だからあなたは那珂ちゃん』と来た。

 なるほど、正気の私には意味が全くわからない。どういう理屈なんだ。

 とにかく、夜明けが来たから私は正気に戻った。戦いが終わったからだ。

 ひどく虚脱感に襲われている。

 煙草が吸いたい。早く、工廠に戻らないと。

 

 ……今日まで、いろいろな出来事がやって来た。

 

 レイプという言葉も生易しい、そんな拷問を受けて瑞鶴さんがやって来た。

 提督が過労死した。

 と思ったら艦娘になって、金剛として復活した。

 新しい超絶美人提督がやってきた。

 喫煙所の増設。

 私の衣装と装備の改造。

 金剛さんが、過労と鬱で再起不能になった。

 

 でも私は、相変わらず”那珂”になりたくなかった。

 

 ●

 

 工廠で今日のメンバーと別れる。

 大井さんはフラストレーションを爆発させて北上さんと盛り上がるんだそうだ。朝なのに?

 五十鈴さんはいつもどおり、私のバンドの曲を聞いて寝る。カナルイヤホンで。

 神通、下姉ちゃんは提督に報告に行く。

 私は、やることがないから司令部で煙草を吸ってお姉ちゃんの報告が終わるのを待つことにした。一緒に帰ろうと思って。

 

 しばらく待っていたら、お姉ちゃんが出て来た。一通の封筒を持って。私は慌てて煙草を吸殻入れに入れる。

 敬礼。

 

「お疲れ様でした」

「ええ、お疲れ様でした。それと、あなたに手紙が届いていました」

「私に?なんで……」

「さぁ。お父様からですけれど。お返事も出しておきなさい」

「うん……」

 

 私にそれを手渡すと、下姉ちゃんはスタスタと寮へ歩いて行く。私は、まだ煙草を吸うつもりだったからここに残った。そして、封筒を開ける。端に爪を差し込んで切れ目を入れ、広げる。

 

 中身は三つ折りの便箋1枚、それとコピー用紙。そっちには手書きの文章が写っている。

 

 ●

 

 中身は、こうだ。

 

 私が殺した子の遺書が見つかった。コピー用紙はその写し。

 

 遺書の中身は、単純。私を殺して自身も死ぬ。あるいは殺してもらう。それで始まっていた。

 

 無理心中の企図の証拠が見つかった。

 となると、あの『死んでください』だけど、本当は『一緒に死んでください』だったのか。どちらにせよ、あの晩あの子が死ぬことは決定されていたということだ。私と出会う限りは。

 

 これでどうなったか、というと、求刑に際して弁護側の要求を後押しする、と遺族が宣言してしまったのだ。

 お父さん達が遺族から聞いた話、見せてもらった遺書で明らかになった背景はこんな感じ。

 

 あの子が吃音症だったこと。

 いじめを受け続けたこと。

 一番好きな芸能人が私だったこと。

 私の追っかけになったこと。

 そして、私に恋をしたこと。

 ほとんど話さない芸能人としての私を見て、言葉を口に出さなくてもいいんだとわかったこと。

 それでもいじめは受け続けたこと。

 私が好きだと公言してる三島の作品の中から、金閣寺を読んだこと。

 私を金閣寺に見立てて、殺して、死ぬことにしたこと。

 

 だから、あの子自身の目的は自殺にある。それに、付き合ってほしいというのが、あの殺意の正体だった。

 で、まとめると遺族の意見としては、

 

 子供の自殺にあなたを巻き込んで済まなかった

 正当防衛という弁護側の主張、あるいは過剰防衛への情状酌量での無罪判決を後押しする

 

 つまり、奇しくもあの子は金閣寺に殺し返されたというわけだ。

 一方で、私は彼女を救った。この世という苦の世界から。

 

 ……救った?

 そうだろうか。

 本当に、そうなんだろうか?

 

 私は今、この手紙に救われてしまった。

 救った、という他人の言葉に救われた。

 救ったことそのものに、私が救われているにすぎない。

 そう思った。

 だって、私は何があろうと殺人者だ。それに罰が与えられないとしても、それだけは変わらない。

 あの子を殺した。

 そう、殺してしまった。

 

 お姉ちゃんは言った。

 私は天才だと。

 多分あれは、戦いの天才。言い換えれば、殺しの天才なんだ。

 ……おっちょこちょい障害で軍人になれなかった私は、その肩書無しで人を殺したから殺人者。

 

 思い出せる。

 今なら思い出せる。

 

 あの夜の記憶を。

 

 ●

 

 時雨降り注ぐ中、轟音に掻き消えそうな声で、包丁をいなして奪い取った私にあの子はこう言った。

 

「ありがとう」

 

 私は、それに気付かずに、あの子を刺した。なりふり構わず。

 そして、あの子の願いを叶えた。

 

 心臓を貫かれたあの子の、最後の言葉もやっぱり、

 

「ありがとう」

 

 それだった。

 

 ●

 

 今更思い出しても、良い証言にはならない。

 遺書はこの記憶を思い出す後押しになったけれど、それも私自身でもなんというかそれが、取ってつけたものにしか思えない。

 だから、その『ありがとう』は、私だけのものにすることにした。

 

 私は、ただその便箋を読み返し続けた。

 

 私は今、救ったということに救われているに過ぎない。

 あの時あの雨の中で、私があの子の太陽になったのだとしても、それは本当の太陽じゃない。

 まやかしだ。私は太陽なんかじゃない。

 だからこそ、私は、あの子が本当に殺されてよかったのか、死んでよかったのか、考える必要がある。

 

 考える。もう一度あの場面があるとして、正気の私がどうするのか。

 彼女を殺してあげるのか、生きろと諭すのか。

 

 それは、私が背負ったもの。罰ではなく、私の生きる意味。

 あの子の幸せは生きることの中には無かったのか。死ぬしか無かったのか。

 それを考え続ける。

 今は、煙草を蒸かしながら。

 

 だから、そのために、私は”那珂”を受け入れることにした。

 殺人者の、私を。

 

 生きよう。

 生きて、私の罪を見定めよう。

 

 

 ●

 

 

「おはよう、―――――“中野さん”」

 

 その声に振り向く。

 “中野さん”と呼ぶのは一人だけだ。私はサンプラザでもピエールでもないけど。

 で、今朝は随分出てくるのが遅かったらしい。叢雲さんだ。

 煙草を吸っているときに会うのは初めてだ。そもそも、私は普段ならもう寝ているんだし。

 

「……叢雲さんじゃん、おはよ。今朝は遅いね」

 

 そう言って軽口を一つ。だって本当に遅いんだから。普段ならほとんど顔を合わせないんだし。

 それに彼女はちょっと眉をしかめて、

 

「うるさい。あんた相変わらずテンション低いわね」

 

 そっちこそうるさい。こっちはこれが普通だし、テンション高いのは”那珂”のときだけだ。まぁ、今や”那珂”も私なんだけれど。とにかく、こっちは疲れている。いくら休憩しているようなものと言っても……と言うか、私は何時間ここに突っ立っていたんだろう。煙草は無意識にどんどんスパスパと吸いまくっているんだけれど。

 とにかく、私は所信を表明することにした。

 

「そりゃ、まぁ。仕事終わりだし。――――――ああ、そうだ。これからは私のこと、“那珂”でいいよ」

「へぇ、どういう風の吹き回し」

 

 彼女が少し目を丸くする。まぁ、頭のおかしい私がそういうんだから、確かに。

 私は笑いながら言う。

 

「うん。ちょっと、たった今心境の変化があってね。”生きよう“と思ったの」

 

 平凡すぎる言葉。私にとって大事な言葉。あの子がそう言えなくなった言葉。

 あの子が本当に言えなかったのか、考えるべき言葉。

 それに叢雲さんは、

「……詩人にでもなったつもり?」

 

 ちょっと冷ややかな目だ。なんというか、彼女はすごくドライだ。私達も関係には一線を置いているけれど、”外様”の彼女はそれがもっとはっきりしている。だから、皆よりもちょっと冷たい。

 でも私は今、少し機嫌が良い。というか安定している。だから目くじらなんて立てない。

 

「まぁ、それでいいよ。“那珂ちゃん”はアイドルだけど、私はそういうものでいいかな」

「気持ち悪いわね。何か賞でも取るつもり?ロックンローラー?」

 

 ロックンローラー。うん。確かに。元はロッカーだ。

 

「私は昔からロッカーだよ。何様かって言われると、そうとしか」

「アイドルじゃなくて?」

 

 それもそうだ。アイドルでロッカーだった。そういうバンドだったから。ガチ過ぎてイロモノになったアイドルバンドだから。今更だけど、普通にロックバンドとして売れば別に問題なかったような気がする。まぁ、今は”那珂”だから、

 

「アイドルでも、あるかな。とりあえず今のところは。……いや、クラウン、ピエロもかな」

 

 “那珂”を演じる私は、道化だ。アイドルを演じる、いやまぁそのものでもあるんだけど、私はそれは張り付いたものだと思っている。“那珂”を借りている。そう思うから。今なら認めてくれるかもしれないけれど、私はレンタルのままでいい。

 

「ふーん。メイクの無いピエロって凄い道化よね」

「あはは、確かに。それはロックだね」

 

 言われてみると。凄く面白かったから笑ってしまった。良い冗談だ。

 それでも彼女はまだまだ冷め気味。ただ、その目は少し優しくて、なんだかお姉ちゃんって感じだった。

 口を開いて、

 

「あんたがそれでいいなら、まぁ、好きにしなさい」

 

 そう、私は好きにする。この私の生きようという思いに従って、生き続ける。

 考え続ける。

 胎児の夢の続きを、人間という夢を見続ける。

 

「そうする。叢雲さん、あなたも“生きる”といいと思うよ」

「はいはい、言われなくっても」

 

 それだけ言って、彼女は司令部に入っていった。

 私は、煙草を吸殻入れに入れて、寮に戻ることにした。

 

 薬は、必要ないと思う。

 

 ●

 

 

 半透明の水の中にいる。

 青い世界。

 そこに、私は漂っている。

 

 息はできない。けれど苦しくもない。

 知っている感覚。でも、今は明るくて青い世界。

 太陽が、上から差しているような。そんな青さ。

 ここは、私の”なか”の宇宙。

 耳鳴りがするほど静かな。

 

 目の前には、やっぱりいた。

 

「那珂ちゃん」

「うん」

 

 彼女は笑っていた。静かに。

 

「もらうよ」

 

 あなたを、あなたの名前を。

 あなたの力を。

 

「あなたになら、あげられるね」

 

 私達は手を繋いで、離したら抱き合って、額と額を寄せ合った。

 そうすると、私の体も、彼女の体も、プラスチックみたいに溶けて、ひとつになる。

 

「那珂ちゃん、私は、那珂ちゃんになります」

 

 二人で、声が揃う。

 

 別れの日が来るまで、私は那珂ちゃんであると、そう誓った。

 ついにスターが私に入り込んだ。

 今の私は、フェイク・スターだ。彼女の正当なる偽物。レプリカ。フォロワー。そして忠実なパロディ。

 

 形を得た”私”は、”那珂”は、海面へと上がっていく。

 宇宙というトンネルを抜けて。

 耳鳴りを抜けて、潮騒の中へ。

 ああ、スローモーションに進んでいく時間が、こんなにもじれったい。

 生まれたい。私は、この世に生まれたい。

 生きたい。だから、生きよう。

 

 ●

 

 その夜から、私は自分の意思で”那珂ちゃん”に入れるようになった。要はちゃんと自覚を持ったまま最高スペックで戦えるってこと。どういう理屈かわからないけれど、”那珂ちゃん”を肯定したのが大きいんだと思う。人格が統合されたのかもしれない。二重人格の統合ってどういうものかはわからないけれど、私の中の”那珂ちゃん”は役目が終わったんだと思う。私がちゃんと那珂になったから。

 

 それに下姉ちゃんは安心したのか、私に『ごめんなさい、ごめんなさい、今までを許してください、不甲斐ない姉を、許してください』と酒の勢いで私に謝ってきた。

 何のことだろう、と思ったけれど、それは私に暴力を振るってきたことだった。

 今更すぎて、こっちが困惑してしまった。必要なことだって、私も理解そのものはしていたし。

 で、そのまま潰れるまで呑んで、寝てしまった。……呑み比べじゃなかったけれど、自爆。

 

 その後、上姉ちゃんが下姉ちゃんが艦娘になった経緯を話してくれた。

 ……どうやら、自分で言えないらしくて、頼んでおいたんだとか。

 

「あの子はね、訓練中に事故を起こした。新兵を死なせちゃったんだよね。あんまりハードにやるもんだから。先任者としてかなり息巻き過ぎたらしくって、自分の限界と他人の限界を間違えた。そんで、あの子もギリギリの状態だったもんだからフォローが出来なくって、そのままその新兵は疲労もあって溺死。予備役送りにされて、自分を役立たず、一族の恥だってどん底まで沈んでた。それで、どうしても恥を雪ぎたくて、艦娘になった。人間じゃない、って言われたのがトラウマになったらしくって。……艦娘という兵器になろうとしたんだ。なんであの子があんたがこっちに来るのを止めなかったか、分かる?……あの子なりに、あんたを救おうとした。人間じゃなくなりたい、ってあんたの言葉で。聞いてたんだよ。あの電話を」

「そう、だったんだ……」

「で、その事故をきっかけに、トラウマが出来た。ヒスを起こす。でも、あんたはあの子より才能があったもんだから、受け止めてくれる、自分のしごきを受け止めて、死ぬんじゃなくて生きる糧にしてくれる、って信じたんだ。それで自己弁護してた。現にどうにか死んでないし。結局あの日は私が撃破された時点で頭がイカれちゃって、あんな本気の殺し合いになっちゃったんだけどさ」

「うん、でもあれは私が悪かったし……」

「いや、私だね。あんたを誇りに思うとは言ったけどさ、やっぱ情けないじゃん。一番上が末っ子にこてんぱんだよ。それで訓練っていうタガが外れちゃうんじゃ、ダメだ」

「じゃあ、お姉ちゃんは、なんで艦娘になったの?」

「ん。単に”敵を倒す”ためだよ。そんだけ。私が一番イカれてるのかもね。……ちょうどいいところに敵が居た、アルビノを治して朝昼晩といつでも戦えるようになるかもしれなかった。それだけ。私には、皆のみたいな理由がないんだ。私のほうが、よっぽど兵器らしいよ」

「そっか」

「でも安心しな。結局昔から変わってない。ヤーさんとかチンピラとかをノシてた時とおんなじだよ。何も変わってない。味方に負けるのは別にいいしね。敵に負けないならさ」

「……今更だけど秘密を2つも聞いちゃったのか」

「自分で今バラしておいてなんだけど、女には秘密があるもんじゃん。あんただってさー、あのエロ―――――」

「わー!わー!わー!」

「あんた昔からムッツリスケベだったよね、スるなら昼にしたほうが私にはバレないよ」

「ちょっとぉ―――――!」

 

 

 ●

 

 で、またある日の酒の席でお姉ちゃん達に自分と”那珂”の話をした。給料が上がったお祝いの酒。しばらくは上姉ちゃんイチオシのマズい発泡酒生活だ。ただただ安いやつ。

 あ、下姉ちゃんはまた”お姉ちゃん”と呼ばせてくれるようになった。あの謝り騒ぎのあとから。

 

 ちなみに”居酒屋鳳翔”は姉妹で行くと入れてくれなくなった。『あなた達に飲ませる酒はありません』と言われた。満面の笑みで。

 それでお姉ちゃん達が頭にきて、それで姉妹で台車3つ使って大量に酒を持ち込んだらようやく出入り許可が出るようになった。もちろん”鳳翔”の酒には手を付けないという条件で。そんなめんどくさいことそうそうやってられない、ってことで、休みの今夜は軽巡寮の私達の部屋で厳か……厳か?に呑んでいる。厳かって飲み会の表現じゃないような……。

 

 私がビールをラッパで呑んでその話をしたら、上姉ちゃんは

 

「いや、あんた。多分それ暗示なんだよ。自分で出来るようになったみたいだし何も言わなかったけど」

 

 アブサンをラッパで呑んだあとにそう言った。格が違う。でも、

 

「え?」

 

 私が疑問符を出すと、下姉ちゃんが続いて言う。大吟醸をラッパで呑んで。もったいない。

 

「あなた、追い詰められると極限まで集中力が上がりますから。そこに私が暗示を掛けてスイッチを入れてるんですよ。最初の訓練の時の再現を図った結果、ああいう方法になりました」

 

 いや、納得、いや、理解はした?けど、それが暗示?人格のスイッチとかじゃなくて?

 

「え、え?」

 

 疑問ばかりで何も言えない私を見て上姉ちゃんは笑って、

 

「いや、本当に二重人格ってこともありえなくはないけどさ、記憶自体はどっちもあるわけじゃん。ならさ、考えられるのは2つ。都合よく記憶は繋がってる二重人格者か」

「――――――暗示で”変身”している、その2つですね」

 

 変身?ライダー?ベルトもナシに?ジキルとハイド?薬もないよ?

 え?何?

 

「え、え、え?」

 

 もう本当に言葉も無い私に、上姉ちゃんは少し考えて、何かを思いついたのか言う。

 

「えーっと、さ。昔ゲームやったじゃん。他人の腕くっつけたら、腕の元の持ち主に人格乗っ取られたキャラいたよね」

「え、あ、うん。いたね」

「私はやってませんから、なんとも」

 

 アレか。蛇がスニークするやつだ。私はちょっと苦手な系統のゲームだったから上姉ちゃんがやってるのを見てただけだった。

 ちなみに下姉ちゃんはずっと勉強とか色んな習い事とか。私も最初はそれに憧れて一緒についていってたけれど、すぐに飽きてしまって辞めることばっかりだった。だから上姉ちゃんといる時間は長かった。

 落ち物パズルゲームで朝まで盛り上がったこともあったし、電鉄ゲームでリアルファイトもした。……だからあの手のゲームは一緒にやらないことにした。で、

 

「うん。それのネタは分かってるじゃん。”なりきり”だって。要するに、あんたは”本物の那珂”の刷り込みを受けてて、しかもそれがスイッチ式の”なりきり”で表に出て来てたってこと」

「そういうことなら分かります。私も同意見です、姉さん」

 

 意を得たり、そう下姉ちゃんも頷く。

 え、本当にそうなの?

 

「え、え、え、え?」

 

 つまり、なんだ。

 確かに私は解離こそしていても、記憶は保持している。

 だから解離性障害の中でも、

 

「所謂、イタコですね」

「ああ、うん、そう、イタコさんだ」

「えええあああああなるほどぉ―――?」

 

 理解した。納得もしてしまった。そうだったのか。

 私自身メンヘラさんだから色々調べたことはある。

 これ、解離性トランス障害ってやつだ。そうだ、なんで気付かなかったんだろう。

 

 多分、一発目が悪い。

 まず、最初の接続のときに私の後ろにいた何か、あれが悪い。というか、アレが何だったのか、という話だけれど、

 

「やっぱ、あんたの天才性はなんというか、無意識の領域にあるんだよね。つまり、あんたがこうして何か考えているだけで、もうそれだけで封印状態なんだよ」

「だからこそ……追い詰めていたわけです。無意識が表に出るまで」

 

 要するに、あれは私の無意識で、実は今ここに居る私と地続きの存在というわけだ。なーんだ。

 文字通り、私の影というわけだ。影は切っても切り離せない。確かに。

 あの化物を受け入れた今では、もうあまりショックもない。

 

「はぁ」

 

 なんか、私。

 結局おっちょこちょいのおバカだな。

 障害がどうとか、そういうんじゃなくって、早合点のオバカさん。で、万年処女のムッツリスケベ。

 けど、私はどうやら戦いの神様で、それ以外は別にどうでもいい。この戦争を生き抜くためなら。

 

 私は生きる。

 生きて、私の罪を計算する。

 あの子の幸せと、生きる苦しみと、死の安らぎを推測する。

 生きよう。

 前を向いて悩もう。

 そう思って、私は、

 

「那珂ちゃんのバカ」

 

 おバカな私とあのアイドルに、悪態を吐いた。

 

 




番外編-2『Identification is DEAD』、これにて投稿終了です。
読了お疲れ様でした。

少々あっけなく彼女は救われてしまいましたが、それは番外編の連載当初から決めていました。
どうかご留意ください。

話タイトルは『凛として時雨』の曲名の捩りで縛りました。
元になった曲をBGMにもう一度聞いて頂くのもまた一興かと存じます。

番外編-1と合わせて、鎮守府の過去の補完は完了しました。
矛盾点などのご指摘ありましたら、感想欄あるいはメッセージにてご一報ください。
宜しくお願い申し上げます。
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