女提督は金剛だけを愛しすぎてる。   作:黒灰

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やキ神

2016/11/06 誤字報告反映。


瑞は無慈悲な鶴の女王

「ねぇ」

「何よ」

「提督さんってさ、人間っぽくないよね」

「ああ、アレって人でなしだから。一応初期艦として割り当てられたから、私が一番人となりを知ってるかもしれないわ。早々に割り切ったけど」

「あー、やっぱりそうなんだ。でも、だからって文句は全然ないんだよね」

「文句付けようがない見事な改革だったもの。私達自身それに乗っかったし、随分助かってる。で、それが?」

「文句はないけど気になることがあるって言うか」

「何よそれ」

「提督さんさ、あの金剛さんには随分ご執心じゃないかなーって」

「……アレは他人に関心なんて持たない質のはずだけど」

「じゃあ尚更ヤバいじゃん。そんなのが他人に関心持つって、ロクなことになると思えない」

「……」

「人でなしって、叢雲、アンタ言ったけど。……人でなしが人にすることって碌でもないじゃない」

「……誰が休養中?」

「無理。“休養で手一杯”。だから、関係なしに理由があるやつを差し向けるしかないと思うけど」

「あんたも大概酷いわよね」

「悪いけど。私は幸せになりたいの。……誰に連絡しようかな」

「誰でも大して変わんないわよ」

「叢雲、アンタも大概悪よね」

「気にしないけど。――――そもそも、その三人共、提督に手出しできる立場だと思う?」

「無理。――――だから行かせる」

「趣味悪っ」

「幸運の女神様はね、一人より二人、二人より三人よ。四人、五人……多ければ多いほどいいんだから」

 

 

「ひ、っ」

「どうした―――――“テイトク”。君のことだ。返事をしろ。なぁ、さみしいじゃないか」

 

 歪んだ顔で絶句している金剛。いやぁ、凄い。可愛い……。長いまつげに付いた雫が震えて破裂、下瞼を這っていく様、実に趣がある。

 それはそうと、これで前任者が見つかった。それによって私の仕事が出来たわけだ。

 

「さて、“テイトク”……いや、大佐。役職は降りたのだから階級でいいか。君の方が格上だが今は私の部下だ。敬語は抜きにしよう。――――業務の引き継ぎの時間だ。私は仕事熱心でね。片付けられるものは片付けてしまいたい。いい機会だ、今日で〆る」

 

 これを片付け、それを元に私が少しマニュアルに手を入れなければ気楽な生活に戻れないのだ。そのために今回協力を頂かなくてはならない。

 

「まずはだ、大佐。君の病歴、履歴を訂正したまえ。こればかりは嘘を許さん。可愛いからと看過はしない」

「……は、い」

 

 諦めて項垂れ、見開いた眼が萎れていく。元気が足りない。それはそれで好きだが先が思いやられる。なのでテーブルの上の注射器を摘んで揺らしチラつかせると、大佐は元気に体を跳ねさせた。

 

 

「どうした。く、ひっ……もう1つ欲しいのか」

「や、や、めて……やめ、てください……ひ、もう、もういや……いや、デス……」

「き、ひひ、その意気だ。気楽に行こう」

 

 メモは取らない。

 私はとても、とても記憶力がいい。

 

 そもそも、ほぼ私が集めたデータの確認に過ぎないのだ。

 

 

「さて、ようやく正確なデータが揃ったところで、だ。喜べ大佐、いや“金剛”。鎮守府の運営はようやく君も含めて定義し直される」

 

 大佐からありったけ、引き継ぎにあたっての事柄を吐き出してもらったところで引き継ぎは完了だ。現状把握している部下の”事情”についても本人の口から“前任者による所感”が得られた。……そのついでに別に言わんでも良いことまで言ってきたせいで新事実が発覚したのは印象的だ。メモの必要もないくらい。

 さて、前提督である大佐の行っていた業務は大方把握しているが、確認が取れたので改めて整理だ。

 

 ……彼女は、全艦娘の精神状態やバックグラウンドを正確に把握しているし、“治療”を試みていた。聞きしに勝る頭の良さだ。カウンセリングの真似事もお手の物だったらしい。数が多すぎてどうしようもなくなっていたが。私ならば迷わず外注する。面倒だから。

 ただ、その外注へ発想が向かわなかった原因の一つとして、彼女の家族の事情がある。隠しておきたいからだ、最悪鎮守府内では露見しても、その外に対しては。

 

 そもそも、金剛型四姉妹は元々血を分けた実の姉妹だ。そして金剛を含めて彼女達全員が所謂”障害“を抱えているし、それを理由に艦娘への改造を受けていた。それも、全て大佐の独断と手回しによってだ。別に言わなくても良かったのに。生真面目すぎる。アホだ。

 

 まずは比叡。原因不明かつ突発的な”意識障害”。いきなり昏睡したり上の空になったりだ。私自身アレは白痴の類かと初見で疑ったが、とりあえず問題があった。たまにここの誰よりも聡いことを言うこともあるが。ただ、それが何を意味しているのかは理解できず、底が知れない。だから私はコイツも宛にしていない。現在は〆切の特に無い雑務に類するものを任せている。承認書類の保管や分類とかだ。それに自己申告の中に気になる内容があったので、検証中でもあるが。

 

 次に榛名。双子の姉の方。大破の後遺症による発作的な”歩行障害”。目の前で突然足の痛みを訴えて崩れ落ちたのを見たこともあるし、自己申告も正確だった。もちろんコイツも戦闘に出すことは出来ないので、歩く必要がそもそも薄い事務方へと回している。

 

 そして霧島。双子の妹の方。こちらも大破の後遺症による発作的な”失明現象”、”難聴”。突然眼が見えなくなり、同時に聴覚が弱まって更に平衡感覚が失われる。榛名と同じくこれも実際に目にした。こちらも榛名と同じで事務方だが、その発作の質から余剰要員扱いだ。いてもいいが、いなくても特に問題はない。そういう分類の仕事を扱わせている。

 

 ここまでは履歴や彼女達の自己申告で分かっていることだが、ここに大きな虚偽と不正がある。

 比叡は生来より、残り二人は後天的に。いずれも人間だった時から障害を負っている。艦娘への改造には明らかに不適格であり、大佐の私情によるということが強く示唆されている。まぁ示唆も何も本人がそう言っているのだが。ともかく、そんな状態で改造されて完成した艦娘はカタログスペックを満たせていないのだ。現に榛名はその足の障害のせいで平時より期待される速力が出ていない。霧島も視覚・聴覚が弱いので命中・回避率がイマイチ、比叡に至っては問題外だ。

 

 さぁ、最後に”金剛”だ。

 大佐は提督を務めていたころから常軌を逸した過労で数度昏倒しており、最後には回復が望めなくなった。そこで艦娘への改造だ。元々戦艦適格と判定が出ていた彼女は一応改造に手続き上の問題はなかった。回復力を無理やり底上げしての復活を目論んだのだ。しかし最早ほぼ手遅れであり、艦娘化後は私の部下として薬物に頼ることで出撃や事務処理を無理やり消化していた。入渠時間が前例のないレベルで長過ぎると思っていたが、それは当然のことだ。薬の離脱による疲労の蓄積、また人間時代に背負った回復力低下が原因だ。修復そのものは完了していても、体力回復に数日の昏睡を要していたのだ。そういえば“レディのお風呂には時間が掛かるのデース”とか言っていたが嘘つけバカにしているのか。負傷前の私は長くて30分だ。今もそれくらいだし。

 で、人間だったときの最終病歴はざっとこんなものだ。自立神経失調症、鬱病、パニック障害、過換気症候群、摂食障害、肺炎、胃潰瘍、逆流性食道炎、ついでに帯状疱疹。あと生理不順だったらしい。半年ないとか妊婦か。それにしても“ストレスと過労で起こりそう症候群”と纏めていいくらい面白いことになっている。バカだ。あと語呂が良い。……医者に掛かる脳があっただけマシか、いや多分最後に倒れた時に纏めて診断が出たんだろう。やっぱりバカだ。

 改造で身体的な方の病気はなんとか治癒したらしいが、精神系の病気はほぼ据え置きだ。むしろ薬物で悪化した。アホか。

 

 ああ、それとちょっとした興味本位でだったのだが、瑞鶴に関して私の所見を述べてみたところ、ほぼ完全に大佐の把握している情報と一致した。ここに招き入れたのも大佐だったらしい。随分と強引な手まで使ったのだとか。その強引な手についてはどうでもいいし、私でも考えつきそうなので聞かなかった。

 

 こんなところか、と。私が納得する素振りを見せると大佐は震えながら大きく息を吐き、

 

「モウ、いい、デスよ、ね」

「想像以上だ。君の業務は果たされた。……お疲れ様でした、大佐」

 

 儀礼的に私は海軍式敬礼。間違えそうになった時期もあるが陸軍式から既に矯正済みだ。そして軽く一礼。

 

 それを見届けると、薬効が切れたのか彼女はまた物言わぬ体になっていた。やはりかなり耐性が付いているらしい。投与量も確かに加減はしたのだが、それにしても早すぎる。

ともかく私は仕事が終わったので、一度伸びをし、笑った。

 

「く、きひひひひ、良く頑張ったな金剛。ああ、素晴らしい働きぶりだったよ。……とでも言えば君は喜ぶかな?誰もそう言ってくれなかったのだろうから。しかし別に必要ないことまで言う必要はなかったぞ。真面目すぎだ」

 

 反応はない。おそらくは話に聞く自己嫌悪だとか虚脱感とかでまた意識が混濁しているのだろう。次に会話をするには、また結晶を打ち込まなければならないはずだ。

 しかし、どうしたものか。ようやく正確な申告が得られたので、私の業務方針としては彼女を治療して復帰させるべく動く必要があるはずなのだが。言うことを聞かせられる前提ではあるが、処理能力は極めて高いし病的に勤勉だ。しかし、

 

 

「直してやるのもなかなか口惜しいな」

 

 私は腕を組んで真顔で考え込んだ。難しい顔とも言うかもしれない。ああ、黄色い熊のビデオで昔見た顔だ。多分そんな感じだ。風に吹かれてたような気がする。……あのポーズ、どうしたらそんな動きをしようと思うのか想像もつかないのだが。それより下を穿けと言われなかったのだろうか。ついてないけど。

 ともかく、せっかく好みのタイプになったのにわざわざそれを台無しにするというのは、どうにもやる気が出ない。元気な方が可愛い、というのが一般的な意見だろうが私はこんな金剛にしか性的に興奮しないのだから、大変悩ましい。となると、同時に私に治療が必要なのではないか。かつて放り投げた私の矯正に取り組むときが来たかな、と本気で考えてしまう。それと今までナチュラルに金剛に愛を囁いていたが私は同性愛者かもしれない。どちらかと言えば、だが。何せほぼほぼ初めて関心を持ったのが彼女なので、判断材料が少ない。どうせなら異性愛者に矯正するとかも出来たら良いのだが。

 

 

 

 

 しばらく私が考え込んでいると、ノックが3度鳴った。

 

「入りたまえ」

 

 私が部屋の主に代わって許可を出す。

 

 数秒ほど間が空いて、入ってきた。霧島だ。続いて比叡、榛名が来た。まずは霧島から話しかけてくる。

 

「……提督?なぜここ……え、それは何を?」

「プーさんの真似」

「は?」

「気にするな」

 

 右腕を左脇に、それに左肘をついて人差し指で頭をつつくというあのポーズを実践していた。それに至る心境を慮ってみようと考えたのだが失敗だ。やっぱり理解できない。そうでなくてもあまり理解力はないのだけれど。

 

 しかし、なんだ。

 

「霧島、比叡、榛名。仕事はどうした。霧島、君は現在財政経理の業務中だ。榛名も同様。比叡、君は今の時間は資料室にいなければならないはずだが」

 

 さて、誰の差し金なのかは分かっている。間違いなく瑞鶴、それと叢雲だ。艦娘の状況を把握している瑞鶴とシフト管理役の一人である叢雲ならば、この三人をここに差し向けられるだろう。なにせ、三人共仕事を放り出してここに来るようなことはしないからだ。自発的に逸脱行動を行う傾向は見られない。ならば、私が既に放り投げた業務のトップ、叢雲と瑞鶴という“私を比較的良く知る”クセモノ達がやったのは明白だ。実に悪趣味なので黙認しよう。……聴取次第でマニュアルの再定義が必要かもしれないが。

 

 質問に対しては、榛名が答えた。

 

「はい、それはそうなのですが……瑞鶴さん、叢雲さんから例外発生としてここに向かえ、と……」

「ふむ。その理由を認めよう。ちょうどいいのもあるが」

 

 彼女達を睥睨しつつ答える。そして、比叡が金剛の変化に気がついた。

 

「……提督、質問があるんですけど」

「比叡、認めよう」

「……お姉様に、何を」

 

 怒りとも悲しみとも違う、ぼそりとした呟き。

 

「ほぉ。もしかしたら、と思ったが。比叡、分かっているのか」

「……あぁ―――」

 

 全てを察していたようで、泣き崩れた。

 なるほど、観念したのか。

 

「正解だ。大佐から業務の引き継ぎを行った」

 

 そう。

 今回の大佐からの引き継ぎによって、姉妹四人全員が不正な理由で艦娘へと改造された、ということが露見した。

 もう二人の妹たちも一度はっとなると、俯いて諦念の表情。三人共、私に膝を屈していた。

 

 ……やはりだ。比叡は想像以上に聡い。テーブルの注射器、腕の血、金剛本人の様子、これだけでは私による私刑や金剛自身による暴走が考えられるかもしれないが、そうではない。その本質を既に理解していた。実際、私の業務定義の上では、私は”金剛”に用などないのだから。あるとすれば、”前提督”だ。私による拷問で済んだなら既に私はここを後にしているんだし、生真面目すぎる彼女が“本当に何もかも”話してしまうだろうこともわかっていたのだろう。

 しかし白痴か何かと勘違いしていて想定値そのものも非常に低かったが、間違いない。四姉妹で一番機微とやらに気が回るのはこの子だ。障害上は不適格だが、能力そのものは上級品だ。下の双子は対人感覚を破壊されているのは間違いなく、それが一番扱いやすいのだが、比叡はそれに準じて扱いやすい。決して厄介ではないのだ。何故ならば立場というものを最も理解している。双子はあまり考えていないようだが。

 

 まぁ、ともかく。美しい姉妹愛とかバカ姉妹だとかそういうことは一顧するにも値しないが。それより仕事だ。

 というわけで、

 

「色々私が把握していない事実も掘り出されたのでね。それで、その本人からも色々確認を取りたいのだが」

 

 やることはさっきと同じ。

 

「比叡、榛名、霧島。君達との契約時に供述してもらった自己申告・履歴の訂正を行う。これは手続きだ」

「……は、い」

 

 会話できる中での最長姉が、それに代表して涙声で答えた。そして私は付け加える。

 

「以降、虚偽・不正は私への最大の辱めと思え」

 

 

「どう?行った?」

「行った行った。もう三人共お話中じゃないかな」

「そう。じゃあ業務組み替えた手間賃、よこしなさい」

「じゃあ間宮」

「昼に羊羹3切れ、抹茶付き。450円」

「で、鳳翔」

「夜に冷酒2合、ホッケ1、お通し付。1800円」

「じゃ両方払うから」

「オーケー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふ、ふ、ひ、また、誰か、ふ、不幸になぁれ」

「ホントアンタって気ッ色悪いし欲張りよね」

「い、言ったでしょ、私はここで幸せに、ひ、なりたいんだって。誰かの代わりに」

 

 

 

「――――――――幸運の女神様の代わりに。ひひ、ひひひ」

 

 




キベ復
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