私が申告のやり直しを金剛型の妹三人に命ずると、金剛から聞いた内容とそのままそっくりのものが述べられた。問題ないと判断したので、
「よろしい。虚偽がないことは確認済みなので結構。繰り返すが、これは手続きに過ぎない」
情報訂正と前任者としての最低限の責任は前提督からの引き継ぎによって完遂されている。この三人の訂正機会は厳重注意の意味合いしかない。私がどう思うにしろ、彼女達は絶対の庇護者たる姉を失った。それどころか、構図から言えば人質に取られているとも。だが私にしてみれば、仕事をサボった部下の話を聞いていて、そうしたら本人を偶然見かけたのでその場で叱っている、それと同じだ。実に常識的で、何の問題もない。
「さて。叢雲に問い合わせて、復帰する時間を確認したら定刻より業務を再開したまえ」
「……はい、提督」
また比叡が代表して答えると、妹達3人はフラフラと立ち上がって私に一礼して部屋を後にした。背中は心なしか丸かった。扉が閉まると、
「ひ、と、ひ、こ」
金剛がうめき始めた。虚ろな目だ。薬が切れてから何一つ変わらない、壊れた目だ。か細い息で、絞り出すように一音ずつ、ぎこちなく。まるで言葉の足りない赤ん坊みたいに、子音の発音もままならないで。
「ど、し、あ、い」
やはり息も喉も口も力が足りないのか。発音は濁っていたりはっきりしなかったり、発せられる言葉、音の全てが判然としない。だが、
「え……お、へ、か、ひ」
最後の音まで言葉を出し尽くすと、気の抜けていく風船みたいに息を吹いた。
ひどいことしないで。
お願い。
お優しい金剛のその言葉は、自身に向けたものであるはずがない。
妹達だ。姉として妹を守らなければならない、それだけなのだ。
だが、やはり君は愚かなのだ。私は私の業務を実行するだけで、そこに悪意も善意もない。ただ定義に則っているだけなのだ。浅慮な君は何もかもを抱え込んだが私はそうはしない。君の努力も苦しみも懊悩も、それらの全てに意味を認めない。君の背負った重みなど賽の河原の石塊だ。それに如何程の値が付くというのか、ありはしない。分かるだろうか、潰れて屍を河原に沈めた君よ、鬼の助けも借りずに全てを崩した阿呆よ。ふむ、置き去りにしたのは親ではなくて妹のようだが。例えに疎い私の教養を笑いたまえよ。
「私は不要なことはしない主義だ」
そう。私は全てを、成るべきとして為す。必要か不要かを勘案し、そして最低限の手数、最小のリスクで事を為す。全ては管理だ。君が一等下手だったそれだ。私が大佐をバカと断ずる究極の理由だ。如何にダイヤモンドとて、たった一粒では簡単に潰れる。
だからこそ、まことの情けと良識とで生きている君のような存在には、私による正論の世界を示そう。全てが理不尽なまでに正しく、そして理不尽の全てを正しく駆逐し尽くした、あらゆることが成るべくして成る私の場所を。
「全ては“そうあれかし”。従って全てが為される。いい加減君も学びたまえ」
それにようやく納得を得たのだろうか。金剛は首を一度力なく揺らして頭を垂らすと、静かな呼吸を繰り返すようになった。
私は、今度は起こさなかった。
「そうだ、不要だ。君はもはや不要だ。き、ひひひ」
私は扉を開けて出ると、そっと彼女を閉じ込めた。
●
廊下に出ると、私は左のポケットの入れていたスマートフォンで瑞鶴を呼び出した。おそらく叢雲も側に居ただろうから、そちらには掛けない。一人に伝えれば十分だ。
電話機能を開いて通話履歴の一番目をプッシュ。履歴は同じ番号だけでほぼ埋まっている。役職を与えた部下の携帯電話の番号は記録してあるが、履歴はほぼ瑞鶴だけだ。ただ時たま人事管理トップの叢雲や資産・資源運用管理トップの大淀にも掛けるが、それは伝言という形での連絡に不安要素があるときだけだ。それ以外は瑞鶴を通せば鎮守府全体を一度でコントロール出来る。
ワンコール。すぐに呼び出し音が途切れ、
「もう着いてます」
慇懃無礼、何を言うでもなくそれだけ。
話が何になるかは分かっていないはずだが、何か話があることは分かっているようだ。
では当然瑞鶴の側には、
「叢雲は」
「既に居ます。3人への伝達も済ませました」
「よろしい。ではあと30秒ほど待て」
そう言って通話終了をタッチ。あっという間の会話を終了し、スマートフォンをまたポケットに仕舞う。
そして私は右手でレバーを倒し、来た道を戻り始めた。
モーターの静かな音、タイヤと床板の摩擦の音。張り付いては剥がれて転がる転輪の面がキシキシと音を鳴らしている。
廊下には誰もいない。既に3人は自分の持ち場に戻っているのだろう。いつまでも廊下で立ち往生されているのは問題だ。これでいい。
●
執務室に入る。
ドアを開いたときに右手に瑞鶴、左手に叢雲がおり、ドアに向かって振り返っていた。そして私が車椅子を部屋に入れると敬礼で迎える。私もまたそれに同じく返す。
瑞鶴が私の入った後のドアを閉め、私は叢雲の背を掠めるように通って机に就く。
今回の問題は叢雲による恣意的な業務組み換えについて。結果的には効率よく私の仕事が進んだのでどうこう処分を下す必要はないと思われるが、そう、これは手続きだ。私は効率を求めるが同時に手続きも重要であると考えている。虚飾は不要だが、儀礼は必要だからだ。釈明については聞くつもりがない。明らかに恣意的であるため、彼女達も理由を用意などしていないだろう。
「さて。……結論から言えば私は君達に何らかの処分を下すつもりはない。少なくとも今はだが。何故ならば結果的に私の仕事の手伝いになった上、業務を乱していないからだ。あの3人にはいずれ面談が必要だった」
ふたりとも、特に安堵している様子はない。だが、ふたりとも眉を上げて少々意表を突かれたような顔だ。
これを見る限り、やはり私が金剛を尋ねる理由を理解していない。叢雲は私と同じく完全な外様であるから当然だが、瑞鶴も理解していなかったのは意外だった。いや、入って分かったことだが、やはりと言うべきだろう。察するに趣味的な意図であの3人を差し向けた。私が金剛に何をするか推測が付かないが、とりあえずショッキングな光景が広がっていることに賭けて妹の3人を差し向けたのだろう。実に悪辣だ。趣味も私を見る目も悪い。
それはどうでもいいとして、
「そこについては一般的に言えば手伝いとして上出来だし、だが私の業務定義からすれば逸脱だ。今回は処分なしとする。あくまで報奨と処罰の足し引きだ。今後もほぼ完全に同様のことがあれば、無論処罰と報奨の相殺になる。あくまで結果的にそうなったということを心得るように。君達の独断専行についても、私の手伝いだったということにしておこう。これを君達が認めることで釈明に代える。繰り返す、実害がなかった以上私個人は咎めない。これはあくまで手続きだ。以上――――――質問は?」
そう言って少し。私が腕を組んで右手の人差し指を跳ねさせて遊んでいると、叢雲が一声。
「3人について行うつもりだった面談というのは?」
「私の考えでは瑞鶴。君は十分把握していただろうと思うのだが、金剛からの申請・履歴に虚偽と不正があったと判明、問い詰めたところ正直に彼女が妹3人の不正と正確な情報を述べてくれた。後は手続きとして本人、あの3人から訂正した申告を受ける必要があった。あくまで手続きとして。後々その面談の分だけシフトの組み換えがあるはずだったが、君らが勝手にそれを前倒した。結果として、業務進行に影響はない」
おそらく、外様である私と叢雲以外、全ての艦娘が“金剛が何者か”を知っていたと推察される。今や私の知るところでも有るが。従って瑞鶴が知らないというのは考えにくいのだ。となると、全ての部下を“不正の見逃し”で処罰すべきなのだろう、本来ならば。正直面倒くさいし利が伴わないので行わないが。せいぜいまとめて厳重注意するのが関の山だ。
叢雲は細い目で瑞鶴を見て、瑞鶴は目が右に逸れている。
左目は当然動いていない。
そこで私は茶目っ気を出して、
「叢雲、答えは以上だ。ところで瑞鶴。……器用な目をしているな」
「あ、っ」
「申請漏れだ。器用な目をしていると追記したまえ」
身を一度震わせて、頭を振って私の目線を逃れた。今は左足元に視線を遣っている。今の一瞬、まさしく彼女の油断だった。
瑞鶴。
彼女についてだが、傷については「戦闘に別状なし」とあって、そこについて私は認めたが、目については申請がなかった。「アウトレンジ攻撃が得意、それ以外は苦手」ということも認めたが、その理由については問わなかった。隠したところで特に問題はない。私の方針としては、「結果として何が出来て何が出来ないか」が把握できればそれで良いからだ。「こういう障害があります」は受け取る側の解釈を通すことで誤解、無用な励ましや無茶な運用に繋がっていく。だからこんな指摘はただの悪戯に過ぎない。そう、逸脱への個人的な意趣返しだ。
彼女はそのまま顔の左半分を左手で覆って、
「……っ、左目は……これは、義眼、です……」
「前々から知っていたとも。ただ、君も言わなくても良いことまで言うのだな。正直で感心だ」
瑞鶴は歯ぎしりして、私を見ずにそのまま床を睨む。今の今まで誤魔化しきれると思っていたのだろうか。指摘されてそこまで機嫌を損ねるとは思わなかった。深呼吸して少し落ち着いたのか、瑞鶴はまた口を開いた。
「っ、これが、アウトレンジ攻撃の理由、です」
「それも理解している。“偵察機を飛ばして発見次第攻撃部隊を即発艦。即時撃滅。視界に見える前に叩き潰すのが信条”――――――と言えば耳触りは良いが、まぁ距離感が掴めない、だから最高効率となるタイミングが掴めない、結果それしか出来ない訳だ。私もそれ以外させていないが」
「っ……」
自明の事実に機嫌を悪くするとは。教科書を見て、既に知っていることを改めて読んで怒るようなものだ。確かに無駄ではあるが。ふむン、今日はそういう日なのだろうか。……瑞鶴は生理周期が不定期なのでもしかしたら今日だったのかもしれない。覚悟なしにいきなり始まればそれはストレスになるか。私はそういったストレスとは無縁なのだが。すぐ終わるし。
それもどうでもいいとして。
「今回の申請漏れは業務に問題を来さない。処分の対象外となる。理由はなくとも、その結果は正確に述べられているからだ。で、義眼の手入れを医療費支給として経費にしたいなら、訂正の書面を提出するといい。それを以て即時承認する。遡って申請することも許可する。領収書がなければレシートでも品目が記載されていれば認める。不満は?」
「っ……了解、しました、ありがとう、ございます」
そこでようやく瑞鶴は顔をまた私に向け、言葉では承服した。表情は依然不機嫌だが。
瑞鶴当人について私から話すことはもう特に無い。話題を戻す。
「ところで瑞鶴、君からは質問はないのか。叢雲、君もだ。他の質問は」
「……ありません。業務に戻ります」
「そうか。ではご苦労」
瑞鶴は私に一度敬礼し、そのまま退室。無表情で叢雲に一度目配せをして出て行った。
「……提督さんだって、混ざってるのを皆に言ってないでしょ」
ドアが閉まるか閉まらないか、そこで聞こえたことは互いに知り得ていることなので特に気にしなかった。
叢雲が難しい顔で首を傾げて独りごち、
「……混ざってる?」
「そういう言い回しだ」
●
さて、叢雲である。
置き去りで話を進めていたが、彼女は終始、呆れたような表情で居た。私自身つまらない話をした自覚はあるが。彼女は息を少し吸って、鼻を鳴らして呼気。腕組み、瞑目して答える。
「……というか、そもそもの話としてよ。金剛に会話が出来るとは思えないけど?」
「元気にした」
「なによそれ」
私の即答に一時眉を顰めたが、すぐに緩めて、
「いいわ、私からもこれで十分よ」
気だるげに左目だけを開け、続けて、
「けどね、提督。あんたは本当にアレね。アレよ。きっちり言うと私自身どうなるかわからないから言わないけど、アレよ」
「心外だな。君も大概ワルではないか。話によく上がる越後屋のようだ」
「何勘違いしてんの。ワルの一言で済むなら今きっちり言うわよ」
「ほう」
本当に心外だ。私は仕事に忠実なだけだが。今回少し悪戯心を見せてはみたが、概ね私は仕事をするだけの人間だ。そこに何か他の形容詞が挟まるのだろうか。
「怒らないから言ってみたまえ、さぁ」
「は?……まぁ、あんたは本当に怒らないとは思うけれど、やめておくわ。でも、そうね」
彼女は首を傾げて少し考えて、
「じゃあこれがもう一つの質問ね。その私の言う”アレ”って、何だと思う」
「む」
困った。私にしては珍しくかなり本気で困った。
私は、私の名前は分かる。階級も分かる。ネーミングセンスのないあだ名をつけられたことも覚えている。数だってちゃんと数えられる。多分ソーセージの中身を腸じゃなくて缶に積めたものが好きだと思う、味が凄絶に濃くて絶望的にハイカロリーなのが。今まで食べてきたスパムの缶数を私は知らない。つまりスパムが好きだ。でも若きあの日に飲んだスパームは口に合わなかった。声に出して読みたいジョークは数知れない。出身地も、ランチョンミートが好きだということも、それに生年月日と今の歳も分かる。どこの学校を卒業してきたかとか、ソーセージミートが好きだとか、職務の経歴とか、減塩スパムが好きじゃないとか、今までの成績表の数字とか、それに道徳のテストの問題文とその解答とか、スパムが好きだとか大方記憶してはいるのだが。それと普通の人の5倍スパムが好きだ。正確な計算だ。数字には強い。
けれど、私が自分自身どういう人間か、と聞かれると。
どうだろう。何というのだろう。
無感情。無表情。そして例えて言うなら置物。さらに日本流の粋に倣って言うならば、そう。
「地蔵」
「なんでまたどうして」
「最近仕事がなかったからな。座って話を聞いているだけだから差し当たって座り地蔵か。存在するだろうか」
「お地蔵様バカにしてんの穀潰し」
「定年退職した人間にも言うのか君は。本来なら私は退役しているんだから言い方によっては定年後だ」
「家事くらいしないとボケるから働きなさいって言うわ。そうよ提督、働きなさい」
「なるほど」
道理だ。だからそれでさっき仕事を見つけて片付けたのだが。
しかしながら、如何ともしがたい私の察しの悪さ。……私には自分がそこまでよくわからない。
久々の人生への懊悩を、ため息1つで押し流す。結論はこうだ、“どうでもいい”。
「私には察しの良さを要求するな」
「他人のことは勝手にアレコレ穿り返すくせに自分のことはトンと駄目なのね」
「だが健康管理は万全だ。バカのつもりはない。風邪も引かんが」
「分かってるだろうけど体のこと言ってんじゃないわよオッパイタンク」
「私はオッパイではないし車椅子はどちらかと言うとチャリオットに近い」
「うっさいわよほとんどオッパイのくせに」
「少し大きいだけで主体になるのか胸は。なるほど男が熱中していたわけだ」
「少しってのがどれだけ少しなのか分からないあたりも駄目ね、あんた」
「で、それが私の仕事に必要か。最初に君の言ったことに任せれば、部下の把握が出来る以上実務能力に問題はない」
「いや、常識的に考えてこう、無自覚に他人を煽るのは求心力に差し支え……ないわ。あんた、そういう運営してないから要らないのね」
「契約を履行するのに必要なのは十分なリソースと正常な契約内容、業務マニュアル。その他は私自身すら不要だ」
考える素振りを見せながら私と話していた叢雲だが、目を細めてつぶやくように、
「まぁ、……そういうところね」
「リアリストと呼びたいのか」
「それも一面の事実では有るけれど答えではないわ」
「部分点か」
「そんなもんないわよ。……失礼するわ。お昼が楽しみなの」
「スパムか」
「形はね。じゃあね、スパム大好きスパ―――」
「ネーミングセンスが無い。却下だ」
「……慣れてるのね」
叢雲は敬礼もそこそこに呆れた顔で、くるりと背を向けて出て行った。
……で、結局正解は何だったのだろうか。
纏めると。
穀潰しで、
リアリストで、
感情がない、
関心もない、
それでオッパイ。
「……私は何だ?」
該当する冴えた単語が思い当たらない。
これでは私は「無表情で無関心かつ現実主義者で働かないオッパイ」ということになってしまう。
実に冗長だ。「豚のひき肉・ラード・調味料を混合して缶詰に充填して116℃で65分加熱殺菌、同時に調理したもの」なら「スパム」という単語が用意されているのだが。
「分からない、全く」
ただし、結局は……どうでもいいこと。
自分探しを再び出発前に打ち切ったところで、壁掛け時計の時間を確認した。
視線を右の壁に遣ると、
「まだ10時過ぎか」
叢雲は随分今日のお昼にご執心であったから、もうすぐに食事の時間になる頃かと思ったがそんなことはなかった。
さて、少し仕事をしようか。
そう思ったが、敢えて私は右手側の最上段の引き出しを開く。
中にはコルク栓の小瓶が数本、中身は針のように細い黒の棒が詰まっていて、ラベルには"H"や"HB"とかが貼ってある。ラベルのない瓶も一つある。その脇に、一つの黒いリモコンがある。人差し指ほどの長さで、ボタンの一つ以外は何も付いていない。
私はそれを取り出し、天井に向けてからプッシュ。
すると、蛍光灯の脇からロールスクリーンが降りてくる。
私はその間に机の脇に退けていたプロジェクターを真ん中に置き直し、引き出しの二段目からノートパソコンを取り出し、接続。
スタンバイ状態で維持されていたパソコンはすぐに立ち上がり、デスクトップには数多の動画ファイルのサムネイルが並んでいる。大体20世紀フォックスのロゴ。
その中から一つを選び、タッチパッドを二回叩く。
「これならちょうどいい時間か」
92分。大作とまでは行かないがボリュームは十分だ。かつ何度見ても飽きない。
改めて壁掛け時計を確認したが上映終了時間は間違いない。
画面右下の時計もそれを証明している。
私は背後のカーテンを閉め、
「不条理コメディ、やはりこれに限る」
老後の楽しみというものを満喫し始めた。まだ20代だが。
そして、仕事をするというのは嘘になった。
そこでふと、脈絡なく自分を表す単語が思いついた。
「……ダッチワイフ?」
いや、その響きが、特にダッチというのがなかなか気に食わないのでラブドールということにしておこう。そのほうが好きだ。アレの値段はドールの中でも極め付きに高いのだが。
しかしリアリストというのを抜けばほぼ全ての要素が該当しているように思われる。
いるだけだから。いや、あるだけか。では地蔵というのもあながち外れではない。人型だし。だが性的な地蔵というのはそれこそ訳が分からない。
そんな益体もないことを考えているうちに、やかましい音が執務室に響き渡った。
……親の声とどちらを多く聞いただろうか、このサウンドロゴ。
そのうち本当に親より聞いたことになりそうだ、とふと考えた。
フォックスと親、どちらが先になくなるだろう。
フォックスの普遍性はたかが数百年で完成したアメリカの強さにも似ていて、というかそのアメリカ企業なのだが、日本の小市民である母や舶来品の父よりも、その存在の永遠を信じられそうだった。