正真正銘、”おまけ”です。
同世界観の他作品との整合性についてはあまり考えてません。
一応時間軸では……2017年9月中旬と10月下旬頃ですかねぇ。
他の作品で今回のネタを拾えるなら拾いますが……。
ともかく、あまり深く考えないで下さい。
前後編と分けておりますが、とりあえず手付けとして前編を。
どうか楽しんで頂ければ幸いです。
……一応伏せ字は使いましたが……規約違反になった場合は別のところに載せます。
ご了承下さい。
2018/09/01
日曜の出来事ということを踏まえてちょっと追記。
2019/05/13
坂神提督が中将の顔を知っていることにしました。
<おまけ>起
私付きの秘書艦はちょっと異例だけど、二人で担当させている。
金剛とアレ。
二人にしてるのは……単純に、金剛だけを秘書艦に付けたままにするとまたオーバーワークされかねないからだ。
あとは……片方だけにしておくと、アレの気に障ることになるから。
二人の世界を私から進んで用意しているというわけだ。私はそいつらを秘書艦用のオフィスに叩き込んで蚊帳の外である。
蚊帳を張ってやった本人がその外というのはなかなか訳のわからない状況なんだけど。
まぁそれはともかく、この二人はかなり仕事が出来るのである。
よって私は毎日概ね暇である。
煙草を吸って、
比叡がおつかいで書類を持ってくるから判子を押してついでに飴をあげて、
煙草を吸って、
ネットサーフィンして、
大淀が金の運用に関する書類を持ってくるから判子を押して、
お茶飲んで、
映画見て、
居眠りして、
アレが金剛とお手手繋いで書類を持ってくるから判子を押して、
煙草休憩して、
見放題サービスでバラエティ見て、
居眠りして、
目覚めに煙草を吸って、
……ハイ定時。お疲れじゃないけどお疲れ様でしたー……だ。
後は風呂、ご飯、酒をかっ食らって寝る。
……暇だ。
私が望んだ暇とは言っても。
お祈りの時間でも作ってみようか。まぁ信心なんてほとんどないようなもんだけど。
●
そんなある日、残暑も厳しいものがあったからエアコンガンガンに効かせて、ボケーッと映画を見ていた。
部屋についてるスクリーンをぶら下げて、プロジェクターで投影して、である。椅子もリクライニングでかなり倒して。
見ているのは……何度ローテーションしてんのか分かんないんだけど、”ダイ・ハード”だ。
アレがブルーレイを執務室に置いていたから自動的に私が接収することになったから、そういうことで見ている。
ただ何度見ても面白いには面白いんだけど、やっぱり少しだけ慣れない。
吹き替えが違うのである。どっちもべらんめぇな感じなんだけど、情けなさがこっちはちょっと足りない。
口の悪さはシーンによって5割増しでぶっちゃけちょっとストロングすぎる。
そんなソフト版の吹き替えも最初は新鮮だったと思う。でももう子守唄感覚だ。
今日に至っては……第9が聞こえる頃に、私はもう寝ていた。
……そこに、ドアを開ける音が聞こえて、私は目を開ける。
アレが入ってきていた。サボってるのを見られるのも最早なんとも思わない。そもそもスクリーンを設置した張本人である。私の怠慢を責める権利は一切ない。
ただまぁ、人が入ってきたんだからなんか用があるんだろうなーって思って、私は右手側をちょっと手探りして判子を探す。
「んぁ……なんか決裁する書類あったっけ?」
「ないわよ?」
……ないんかい。というわけで私はムカついたのでふて寝の体勢に入る。リクライニングチェアで寝返り……は流石に危険かもしれない。けど構うものか。そう思って体を横にひねる。左肩から背もたれに荷重が掛かって……あー、肩にかかる負荷がちょっとクセになりそう。でもコレちょっとふわーっと眠気が覚めていくやつ……やっぱ普通に仰向けに。うぁー眠気が復活して……
「SPAMを買うの」
「……あ゛?だから?」
なにいってんだこいつ。
ねかせろ。
「楽しみ」
「……勝手にしてよ、もー……」
そのまま寝る。
「くひっ」
…………。
●
しかし……何を当然のことを言い出すのか、である。
そこで嫌な予感を感じているべきだった。
いや、”当然のこと”と考えるのもおかしいのだけれど、アレがよほどのスパムフリークだったからで。
私はそんな”当然のこと”を何故楽しそうに報告するのかを怪しむべきだったのだ。
そもそもスパム、実質アレ専用に今も仕入れているんだし。
なんでそもそもあるものを更に買い足すのか、と問うべきだったのだ。
そして、私は。
事態がヤバいことになっていることに、そこから数週間経って気付かされた。
●
そろそろ秋めいてきて、ご飯がより一層美味しくなってきた時期。その日曜。
私は煙草吸ったり映画見たりするのに都合が良いから、なんとなく執務室に居た。別に仕事はしてない。
それで私は一人でしみじみとお茶したあと、眠くなって居眠りしていたのだ。
ぶっちゃけもう連日居眠りしてるけど。
それでなんだかブルブルうるさいなーとか、トゥルトゥル、トゥルトゥル、ってやかましいわーって思いながら寝ていて……、
「提督!十条からお電話です!」
「うぇっ!?何、何よ!?」
突然入ってきたのは大淀だった。今日も金の世話に精の出ることである。
日曜だから為替・株は取引が止まっているんだけど、最近は仮想通貨なる投機対象が大盛り上がりだそうな。アンテナの強力な大淀は、その前から当然のようにある程度の量を確保していた。しかし、ここのところはもう暴力のレベルで急騰しているらしい。よって大淀の週休二日は現在形骸化している。銀行とかが介在しないとかいう、私からすると常識外れの投機対象に、大淀は今かなりお熱なのである。
それに……今日は秘書艦二人が非番だった。片方だけを拘束しておくことは出来ないし、仕方なしにそういうシフトにはしていたんだけれど……。
ともかく、見かねて大淀が自分のオフィス側で取ってくれたというわけか。でも、即応性重視だし携帯に来るのが普通のはずじゃ……それに直通の番号だって存在するわけで、
「提督が携帯電話も直通にもお出にならないのでこちらで取りました!」
「……うぇ、マジ?」
そう思ってリクライニングを起こしてから机の上の携帯電話を見てみると、
「うっは……」
ロック画面に不在着信15件。
ロックを解いて履歴を見ると……知らない番号だった。しかしこれはひどい。
我ながらヤバいことをやらかしてしまった……。
でも、十条?……あそこは補給本部のはずだけれど。
本営じゃなくてなんで補給本部が出てくる?
ともかく、
「……用件聞いた?」
「あの、ものすごい剣幕だったので……」
いやマジで何があった。
……私ゃ何も悪いことはしてないぜ。なんでこんな目に遭わなきゃならねぇんだ。
なんだかマクレーンみたいだ。
じゃあそれなら次は消火ホースでバンジージャンプして『あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁ!』か。
嫌だわそんなもん。クリスマスはケーキとシャンパンで乾杯したいのに。
ともかく、机の右端に鎮座している固定電話の出番となる。無駄に高機能だ。
どうせ普通は携帯に掛かるのに……いや出なかったから掛かってきたんだけど。
とりあえず、使い方は覚えている。点滅したボタンを押せば保留状態からこっちに繋がる。
それくらいは昔に電話取りで学んだことだ。機材が統一されているってのは便利だと思う。機材更新も数年単位だけど。まぁいざとなったらこっちの採算でなんとかすればいい。せっかく金持ち基地なんだし。
そう言えば大淀が所在なさげに立っている。というか帰りたいらしい。なので、
「あー、後はこっちでやるから。戻っていいわよ」
「分かりました。では提督、後はよろしくお願い致します」
「あいー」
とにかく右手で受話器を上げてボタンを押す。
……着任してから数ヶ月、全く触らなかったからかホコリを被ってて、手にベッタリとくっついた。
幸先が悪い上に経過も順当に悪いと来たか。もう何が来ても驚かない。
繋がる。
「……はい、こちら大湊警備府。坂神です」
『とっとと出んかぁ――――――――!』
「うひぃ!?」
右耳が吹っ飛ぶかと思った。ヤバい。これは相当頭にキテるらしい。
受話器を左手に持ち直して耳を替えて、
「……えーっと、お電話口の方はどなた様でしょうか?」
『……ゲェッホン、げほ、げほ……失礼、げほっ』
……なんだこの状況。ちょっとわけが分からない。
ともかく一喝したらかなり気が晴れたらしく、一気にトーンダウン、しかもメッチャクチャ咳き込んでるし。
それが落ち着くと、
『げほ……申し、遅れました。海軍中将、水川です。……ウチの娘達がいつも大変お世話になっております』
かなりダンディで色気たっぷりな声だ。雷親父かと思ったら全くイメージが違う。
しかし、水川……あー、
「あ……あー、そういやそうでしたねぇ、ええ。こちらこそ非常によくやってもらっていますし。お電話頂いていたのに出られず、大変申し訳ありませんでした」
『いえ、よくよく思えば日曜ですから致し方ないかと。しかし、一番上のヤンチャ娘が小職の手元から離れまして久しく、もう怒鳴り方までも忘れてしまって……イヤ、お恥ずかしい』
「……」
どうリアクションしろと。流石にこのパターンへのツッコミ方法は知らない。しかも上官相手に。
しかし、そういやあの三姉妹って水川中将の娘だった。ぶっちゃけ忘れてた。
中将の顔は当然知ってる。生で見たこともあるし。超男前だった。
着任した時に詳細な出自のデータとかも私の手元に転がり込んできたわけで、それに那珂の”裁判”とか”復活ライブ”の件でも色々あった……つまり忘れてたのは寝ぼけてるからか。
ということは酒の送り主も実質この水川中将ってわけだ……奉らねばならない。
しかし。
そもそもなんで私に電話してきたってのか。
日曜にこんな電話掛けてくるんだからなんか切迫した事態ってことだろう。
「……あの、どういったご用向だったんでしょうか?」
『ああ、失礼。……その、藤峰中佐の件でお話が』
「……え?」
どうして
『フルネームと”現在の名前”でも申し上げます。藤峰-ウィンストン・"エリザベス"理沙海軍中佐、現艦娘”ウォースパイト”、その人の件になります』
藤峰、というのはアレの本名である。一応それくらいは覚えている。珍しい名字だったから印象に残った。けど英名は初めて聞く。
……というか、”エリザベス”で”ウィンストン”かよ。チャーチルと女王で結婚でもしたのか。それになんでウィンストンを吸わない。
で、なんでアレが関わるというのか。
「あの……最近何かやらかしてましたっけ?大人しくしてるはずなんですけど……」
『……まず、彼女は提督だった時にとある加工食品の仕入れを開始したそうですね。その時のコネクションを使って商社と今回調達の契約を進めていたようですが……その様子だとご存知でない。ふむ……』
「は?」
やっべ、『は?』とか言っちゃった。上官相手に。お偉いさんに。
『……続けます』
「あ、失礼しました。どうぞ」
気にしたかはともかく、相当気に障ったとかではないらしい。
けど、商社?何か仕入れるものあったっけ?というかなんで私を通さないのか。
「いややっぱりちょっと待ってください」
『分かりました。どうぞ』
考えタイムを頂いたので頭をちょっと回転。
……私を通さない、ってことはだ。
要は警備府の運営には関係ないということである。
そこは確実だろう。でも……つまりは”個人で”商社と取引?何を買う。意味が分からない。
買う。
買う。
「スパム?」
口に出た。……いや、なんでスパムが。
……なんでだっけ。
そんな私の独り言を聞いた水川中将は、
『お分かりのようでしたら説明を省きます。――――――――125ケース、日本へ向かっています。調査したところ最終仕向地は大湊警備府と判明しました』
――――――――絶句、しかけたけど待ったを掛けないといけないので、
「省いた分説明してください」
『では説明致します。スパムとは米国はホー○ル社が1937年に開発したランチョンミート、つまり腸詰めではなく缶詰にした、ソーセージの一種であり――――――――』
「そこは省いて結構です」
『ではお言葉に甘えまして。亜硝酸ナトリウムを添加しておりボツリヌス菌等への対策を万全とした、安心の伝統と実績を誇る米国、英国の国民食――――――――』
「それも結構です」
『ではそこも省略します。国内における歴史ですが、在日米軍向けに沖縄にまず持ち込まれそこから沖縄県民の県民食としてランチョンミートは普及、更にはホー○ルが現地で法人を設立し製造拠点も置き、そこでもスパムが製造されており、しかも塩分を控えめにした減塩スパムもラインナップ――――――――』
「本題まであと何マイルくらいありますか」
『申し訳ありませんが小職の手元の資料が無闇に詳細なものでして感覚としてはあと10マイルほどかと』
「もうワープしましょう」
『ではワープします。――――――――というわけで125ケースが大湊に向かっております』
「どういうわけですか」
いきすぎ。
●
お互い一度リラックスしてからもう一度話をしよう、ということで一旦電話を切ることになった。
それで煙草でも吸って気分を変えようと思ったわけなんだけど、なんか口にゴチャっと違和感が。
「うげ、逆さ」
煙草を逆さに吸うバカがどこにいるってのよ。ここに居たわアホか私。
ともかく口に入った葉っぱをペッペッとしてから咥え直して火を着けようとしたんだけど、
「火、付かない……」
がっつり湿気ったらしい。もったいないけどこいつは灰皿へ捨てる。もう一本取り出して、火を着けて……
「ふぅー……」
落ち着く。しかしマズい。煙草がないとリラックス出来ない体になりつつあるってのが。
金も無限じゃない。それくらいは理解してるけど、このままだと収入アップに支出が追いつきかねない。
「なんか考えないといけないわね……」
と、そんなことを考えて現実逃避している場合じゃなかった。
でもリラックスのためだから仕方ない。少しずつ覚悟を決めて、次の着信を待つ。
「……スパム、125ケースねぇ」
ケースときたか。125個ならまぁバカだなぁと済ませるんだけど、話はそういうもんじゃ済まならしい。
1ケース、何個なのやら。まぁ予想では……1ケース6入りとかがメジャーだし、そんなところだろうと思うんだけれど……750個。これは大量だ。頭がイカれているとしか思えない。救いはコレが缶詰食品ってとこくらいか。賞味期限はかなり長い。一応アレ一人でも期限中に消費しきれるだろう。一日一缶以上のペースで消費してるわけだから。
そう考えるとまぁ落ち着いた。
最初から大湊の財政に影響を及ぼすわけでもなかったし、不良在庫になるわけでもないのだ。
ちょっと安心して煙草を愉しむ余裕も出てきたところで、
「あ、電話来た来た」
とりあえず煙草を灰皿でもみ消し、携帯を左手に持って通話開始。
「はい大湊警備府、坂神です」
『まとまりました』
「まとまりましたか」
『ええ、ようやく落ち着いて話が出来るかと』
なんでバラエティ番組みたいになってるのか。というか中将のノリが不思議系だ。お堅いと思ってたのにさっきから天然入りっぱなしだし。やっぱあの無軌道三姉妹を育ててる内にアホになったんだろうか。ありうる。
「こっちも覚悟は出来ておりますので……お願いします」
私が話の再開を促すと、中将は一度咳払いをして、
『では――――――――まず、先程述べたとおり、藤峰中佐が提督として着任してすぐ、スパムの調達を始めたのは坂神提督もご存知のとおりです』
「ええ、まぁそれは勿論存じております。それで……その時のコネクションを”個人的取引”に利用したと……いったところでしょうか?」
『はい。資料の備考欄に記載がありましたが……着任してすぐ、調達開始にあたって付いた営業担当者もどうやらスパムフリークだったらしく……』
「へ、へぇ……」
『それで今回、そこを通してアメリカのホー○ルに125ケースの発注を掛けた……ようなのです』
……なるほど、念願叶ってホー○ルの担当になった類の人か。普通商社マンと言っても”某との取引に関わりたい”とピンポイントな志望動機でなる人間はそう居ないと思うのだ。そのうち”良さに目覚めたから売りたい”とか、”これは売れる”とか、そういうのはあるだろうけど。……この営業担当者はスパムを売りたくて商社マンになったのか。
どうかしてるぜ。
そしてウチのスパ子さんと同調して、このアホみたいな契約に乗り出した、と……。
「……なるほど、経緯は理解しました。提督として、軍として取引をしたことがあることから、身元の確かさ・支払能力などが保証されており……今回の大量発注についてもゴーサインが出てしまったと」
『まぁ、その辺りは想像にはなりますが。……今回の把握に至ったのは日本税関へ貨物明細が届いたことによるものです。この量で輸入者が個人、というのが少々怪しまれたそうですが……旧財閥系商社が代理人となっており、そこからして違法性はないと判断、とりあえず通してしまったわけです』
「やっぱ間に有名商社入ってると強いですね……」
『全くです。……しかし、125ケースとは』
ものすごい大きなため息が聞こえた。ついでに天を仰いでるのも見えてきそうだ。日曜にこんなバカバカしい貿易の話を、なんでする必要があるのかっていう。
でもまぁ、私が考える限りこれはそう大事でもない。だって、
「あー、こちらでちょっと見積もりましたが、多分中佐一人で期限内に消費できる量ですし……」
そこで中将、「え?」と思わず口をついて出たらしく、それに続けて、
『スパムの期限は……何年間でしたか?』
缶詰ってかなり持つ方だし、今回メーカーに直接発注なら出来たてが来るはずだから……多分、
「えーと、3年くらいでしたっけ」
中将、またも少し黙って、恐る恐るといったトーンで、
『……中佐の、一日の消費量は?』
「一缶以上ですね」
『……んん?』
あれ?
そう思って、そして背筋をひんやりしたものが通り抜けたように感じて身震いする。
ちょっと待て。と私が思っていたら、電話口からもその台詞が聞こえてきた。そして何かをタンタンと叩く音。リズムからして電卓だろう。
そして、最後にバシンとイコールを押し終わったのか、
『……いや、それでは全く計算が合いません。期限内の消費は間違いなく不可能……』
声が震えている。
いや、
その、
――――――――ちょっと待った。嫌な予感が肩を叩いている。ちくしょう振り向いてたまるか。
でも、
「……景気よく一日二缶食べるようになる、とかもあるかもしれませんし?」
『いえ、それでもです!絶対に消費が追いつきませんよ……!』
「えっ」
もしかして……6入りの125ケース、750缶、じゃないの?
いや待て待て待て、まさか。
嘘でしょ?
私はあんまりにも遅すぎる、今更の質問を恐る恐る投げかけて、
「1ケースって、何個入りですか……?」
『明細を確認したところ、24缶入りです。125ケースを掛けまして3000缶、ボリュームは約2㎥、重量に換算して1トン強です!』
「――――――――」
今度こそ絶句。
あの、倉庫とか、どうすんの。いや缶詰だから暗所スペースだけあればいいのか。さっすが缶詰、保存食の星。
でも個人の所有物を軍で保管?アホか。汚職みたいなもんじゃないソレ。いや寄贈みたいな感じで押し付ける気か。テロか。
しかも消費しきれなかったら間違いなく処分。ゴミ。
というか食肉の仕入れ全部止めないと。出来るか。肉が全部スパムに置き換わるとか、死ぬ気か。非難轟々じゃ済まない。
じゃあどうする。どうする。どうする。
どうすんのよ。
「と」
口が思うように動かない。何よ”と”って。何を言おうとしてるっての。
『……どうしました?』
泡食ったように口がパクパクしているけど、ようやく空回りが終わって、深呼吸。
さぁ声高らかに悲鳴を上げろ、
「止めて!今すぐ、止めて下さいそれ!」
『――――――――残念ながら、先程申し上げたとおり”向かっている”のです。船積み完了、既に出港しています。よりによって貨物明細が船積み24時間前きっかりに届いたのも災いしました。輸入そのものに違法性がなかったのですが、念の為身元の裏取りがなされ、それに伴ってようやくこちら十条に確認が来て……そういうわけで小職の把握が遅れることになりました』
「もうコンテナ海に捨てりゃいいじゃない!?」
『どうやらそのコンテナですが、国内小売店の分と混載しているようでして、それをやると小売店からスパムが消えてしまうかと……』
「消えりゃいいのよあんなもん!やたら高いくせに存在がみみっちいし、脂っこいし、それでもしょっぱいし、絶対不健康だし、あの女最近ずっとスパムスパムスパムスパム歌ってるし、あんまりしょうもなさすぎて覚えちゃったし!あー何なのよもー!」
肩で息をして……ここで言葉のダム決壊が止まった。少し冷静になってきた気がする。大きな声も出して少しだけスッキリした。人間素直が一番だ。
ただし素直にも常識的限度というものはあって、私はまた背筋に寒いものが走った。
上官相手、しかも超格上に何を言ったのか私は。
けれど、
『……このくだりは聞かなかったことにしましょう。しかし、解せない。こんな暴挙に出るとは……極めて折り目正しいという評判を聞いておりますし。それにおそらく、自室では収納しきれない上に食料品ですから、警備府の食料庫を間借りすることになるはず。それを分かっていない彼女ではないでしょう』
「……確かに」
中将こそ至って冷静。あの三姉妹の親なだけある。基本的には器がデカい。
私もそれに合わせてテンションと血圧を落とす。けど頭が痛いのはいかんともしがたい。
しかし……アレは基本的に嘘はつかないし、断りなくそこまでの勝手をする人間でもないと思うのだ。
だから暴挙には必ず根拠がある。……それは何?
間宮?伊良湖?大鯨?
いや、この3人は絶対に承服しないだろう。
じゃあ誰が承認した?……私か!
でも……ここ最近で、何か許可を出した?
出した覚えはないけれど……。
………………んん?
ん?
ん!?
うん。
あれかぁ~~~~~~~~~!!!!!
「こ、こ、心当たり、が……」
『……少佐、何か理由がわかるのでしょうか?』
「いや、記憶がちょーっと定かではないんですけど……”スパム買う”って言うから”勝手にしろ”って言っちゃった……みたいなんですよねー……」
中将。黙る。というか、多分絶句。
そうよね、私が最終安全装置だものね。
それが機能してなかったって分かったんだから、
『しょ、しょ……しょ、少佐ァ――――――――!!!』
「申し訳ありませんでしたぁ――――――――!」
大人としてどうかと思うけど、学生みたいな怒られ方した。