後編までもつれ込みます。ごめんなさい。
あと、あからさまに重要っぽい話が無理やり差し込まれてますが、ノリで書いた結果なので深く考えないで下さい。これはあくまで”おまけ”です。
2019/04/03
寮の説明に漏れがありましたので加筆。
さて、私が監督責任とかの話題でひとしきり怒られた後。
問題の……来る125ケース、約1トン、スパ子換算で5~6年分、常人なら一生かかっても食い尽くせない大量のスパムの扱いをどうするか、という話になった。
一応食料品の寄贈とか、そういう体で処理することになるだろう……という順当な話になったんだけれど、そうなると結局今仕入れている食肉の扱いをどうするか、ということになった。
ぶっちゃけ、いきなり取引停止は無理。あまり民間企業に喧嘩を売りたくはないし、打撃を与えるのも寝覚めが悪い。
それにかなりいい肉を回してくれているわけで、私自身半ばその味が生きがいの一つにもなっている。
こんなもん止められるか。肉って素晴らしい。もっと食わせろ。特に牛ランプ。
けれどスパム、テメーはだめだ。
私はこいつを肉とは認めない。油っこさは国産牛に勝ってるとしてもそもそも豚だし、豚肉としても別物すぎる。
スパムおにぎりなんてのは割と好きだけど、それでも毎日食べたいとは微塵も思わない。
ゴーヤーチャンプル?夏しか食べられないじゃない。もう時期終わってるし、あれも毎日はキツい。
というわけで、毎日スパムは御免こうむる。そうなるならストを起こす。まぁ私が起こされる側なんだけど。
ともかく、水川中将と話しているだけじゃ落とし所が見つからなくって、結局この電話をお開きにすることにしたのだった。
●
電話が終わって一息。
「はぁ……」
とりあえず緊張が解けたので煙草で一息……しそうになって、手を止める。
ヘビースモーカーって人生真っ暗じゃない、普通。肺だって真っ黒だし。
税金だって年々上がっていくから、どこかで落とし所を作って減らしたり辞めたりしないと。
「喫煙者って辛いわー……」
なんでまた吸っちゃったんだろう。やめときゃよかった。
口が寂しくて仕方がない。
もともとなかったものなのに、なくなると急に恋しくなるのはなんでだろう。
イライラしてきた。
ついでに……私は悪くない。全部あのクソ女が悪い。寝込みを襲うとは卑怯なり。
よし、大義名分は出来た。普通なら一発で揚げ足取られて破壊されそうな気がするけど、こっちだって取ってやれる。つまり相手とは大体イーヴンの条件だ。気にしない。
というわけで私は戦艦寮へと向かうことにした。
この落とし前をつけさせてやるために。
電話でブチ切れるだけじゃちょっと気がすまない。
いきなり行って一発かますくらいはしてやる。
●
実はずっと寝巻きのまんまだったから、それは流石に人としてアカンだろうと思って私服に着替えた。
外に行くのに灰のスウェットにサンダルはマズい。
いくら非番で、かつ勝手に棲み着いてる感じだったとしても、執務室にそれで居たのは……まぁ、マズいと言われればマズい。でも私が主だ。一国一城の主である。控えおろ。……前提督のマニュアル通りに動いているだけ、という傀儡政権もいいとこなんだけど。
司令部の私の部屋で、備え付けのデスク、その椅子にぽいっと脱ぎ捨ててあった上下を手に取り、ベッドに放り投げる。代わりと言ってはなんだけどスウェットを脱いで置いていく。どうだ暖かくなったろう。……椅子にお恵みをくれてやるとは、私の未婚街道も登り始めたばかりどころか半ばに来つつあるような。まぁ自分より稼ぐ旦那は必須条件だ。具体的には大佐クラスと結婚したいところ。
……出会い?そんな先のことは知るものか。女所帯かつ人間の職員が守衛しか常駐していないともなれば、次は大湊警備府を去るときだろう。でもそんなのやなこった。私は永遠に本州北端でアバンチュールを過ごしつつ大阪に仕送りをして過ごすつもりなのだ。
でもたまには外出というのも悪くないかもしれない。
まぁ順当に行けばそれは仕事で出るときで……横須賀に出張?
……あるのかどうか分からない。あったとして定期的なのかどうかも分からない。
横須賀で普通の艦娘をやっていた頃、一度各鎮守府から提督が集まった記憶があるけれど。
ベッドに置いた、少しだけ緩いジーンズを穿きながらちょっと考え始める。
確かあの時集まったのは……、
舞鶴の大佐、表情筋が死滅してるとしか思えない。
呉のモヤシ少佐”もどき”、瑞鶴にとっては前の”提督さん”。
佐世保の”元”ワハハの少将、鳳翔の元旦那。
そして横須賀のジジイ、”退役”元帥。なんで退役したのが居座ってるのか最後まで分からなかった。
……錚々たる、というには著しく凸凹。なんとも言えない面子なんだけれど……ともかく、その時各所のトップが一堂に会したわけだ。16年の……2月の半ばか、その辺りだったと記憶している。
当時大湊の提督だった金剛は来なかった。
大湊は各鎮守府からの部隊の集合と補給に使うだけで実質蚊帳の外だったというわけだ。
これからもそういう感じだろう。閑職?気にしない。厄介事が少ないことに越したことはない。特に戦況という化物とほとんど無縁でいられるここは非常にやりやすい。
だってその16年の2月下旬頃。
北海道方面に展開したらしいその精鋭部隊は大負けに負けたのだから。
挙げ句横須賀が出した艦娘は、一人も戻らなかった。
本当に酷かった。
それで私は、艦娘が”資産”でしかないということを理解させられたのだ。
死んでも特損で済まされる、そういう存在だと。
……ロンTを被って、髪を外に出す。それで目を見開いてみて、けどやっぱり眠い。
そしてうっかり考え事に沈んでいく。
――――――そう言えばそのわずかな生存者だけれど、実はウチに流れ着いている。
それが時雨。
舞鶴から出された有力な艦娘の一人だったし、実際練度は改二に達しているほどの強者なのだ。
けれど、彼女は戦いが嫌になってしまった。というか生きることすら嫌になっていた。
それで療養院まがいの大湊にやってきた。
私がアレと着任した時に面談したんだけれど、言うには確か……。
「もうあんな地獄は耐えられない、見たくないよ」
それで、馴染みの舞鶴を離れ、大湊に流れ着いたのである。
今では津軽海峡を渡る船の警護をやっている。木曾の交代要員として入った。
木曾が一人っきりを貫き通すせいで、時雨も仕方なしに一人でやることになったのは誤算だったろう。私からしたら踏んだり蹴ったりだ。
そんな彼女だけれど、向かってくる敵に対処するくらいの責任感は当然ある。
一度かなり危ない状況になったこともあったらしいけれど、結局一人で解決した。それくらいには強い。
実はそこまで戦えるほどに精神を立て直せたのは、雪風と会ったからだそうだ。
雪風も雪風で……提督として着任して知ったけれど、地獄には飽き飽きするような生い立ちである。
そんなのと比較しちゃったもんだから、警護くらいは出来る心境になったというわけだ。
あの嘘みたいな経歴と自分の不幸を比べてしまったのである。それで、”自分のほうがマシ”と。
雪風とも比較できる、その”あんな地獄”が如何程だったのかは、……まぁ、聞く必要もなかったから誰も知らない。
……いや、そうじゃないな。少なくとももう一人いる。
思いついて目がちょっと覚めた。
いや、それより足元が寒いかもだから靴下も履こう。
細々としたものを片付ける、最低限のマメさは維持していて良かった。クローゼットを開けて足元のカラーボックスから黒いハイソックスを一足取り出して、履く。
そして思い出す。
山城だ。
実は彼女もその時の生き残り。不幸不幸言う割には肝心なところで悪運に救われている。
彼女は佐世保から流された組。そういや夕張も佐世保からの島流しだ。全く別の理由だけど。
それで姉の扶桑は……今でも佐世保にいるはずだ。最近は連絡を取り合うようになったらしいし。
彼女は本当なら、精鋭と言うにはちょっと足りないと思う。
実際彼女は改二には達していない。練度の高めようがないから今も改艤装のままだ。
姉の扶桑は当時既に改二に達していた強者だったらしい。
でも山城が出たのである。そのへんの事情は……分からない。
経歴について纏めた資料はあるけれど、この件についての記述はやけに乏しかった。
……ともかく彼女は扶桑の代わりに地獄を見てきた。
数少ない彼女の口述によると……庇ったと思った味方がどんどんやられていくとか、そういう感じに地獄だったらしい。死人のことをあんまり責めたくないけれど、まぁぶっちゃけ瑞鶴のせいだったんだろう。
あいつは悪くないけど、あいつのせい。まず間違いなく。そこを捻じ曲げられるほどあいつを知らないわけじゃない。
そしてそんな中、ついに一人だけは庇い切ることが出来た。それが時雨だった。
だから彼女は時雨の命の恩人なのである。同時に精神的支柱にすり替わった。山城の。
……なんで庇った側が相手に依存するのか。逆じゃないの?
加えて、それから山城はとにかく“当たりたがる”ようになった。仲間を守れなかった後悔のあまりに。
最終的にその面倒を見きれなくなった佐世保が大湊に押し付けて今に至る。ここはまさにゴミ捨て場。
でも私からすれば住めば都である。何せ私の都なのだから!風呂トイレ別どころか実質的なベーシックインカム、食事、摂政までサービス!こんな物件他にはない!
……まぁそれはともかく。
そんな二人組だけれどまぁ、それなりに健全な関係だと思う。実際どうなのかまでは踏み込むつもりはない。
瑞鶴なら知ってたんだろうけど……彼女はようやくたどり着いた”ゴール”でおねんねである。死人に口なし。
上着も一応着ておこうか、と思ったのでクローゼットから適当に見繕う。……なんだか黒ばっかりになっちゃったけれど、黒のカーディガンに目が留まったのでそれに決定。あんまりよくないけど、ハンガーに掛けたまんま引っ張って外す。袖を通しながら、なんとなく独りごち、
「まぁ、今の問題とは本当に関係ないわね……」
最後、ドアの横。革靴の隣に並べていたスニーカーを履いて、自室の外へ出る。
しかし、あいつがもう居ないというのは、不幸なのか、幸運なのか……。
こんなに笑える事態が巻き起こるなんて思ってもみなかった。笑えないけど。
でも、ついに傍から劇を見られる立場になったあいつは、笑うんだろう。
そうであって欲しい。
だって、悲劇の当事者であり続けたあいつが、ようやく天国でお笑い番組を見られるのだ。
だからなんとなく、これは間違いなく感傷だけれど。
血の跡の残る廊下に向かって、
「どう?面白い?」
そう言ってみた。
――――――――私は全ッ然面白くないけど。
●
司令部の外に出る。
……今日も相変わらず大湊は風が吹き晒す。
上着を着たのは正解……とは言ってもカーディガンは風を通すから意味がなかったかも。かと言ってコートはちょっと重武装が過ぎる……と思ったけれど、どうやらそっちのほうが正しかったか。
とは言え、別にずっと歩き回るわけじゃないし、取りに行くのはなんだか億劫。
体を少し丸めながら、みっともなく歩いていく。日曜の昼になんてざまだ。
そして着いたのは戦艦寮。正確には、戦艦・空母寮。
空母はもうここには暮らしていない。あいつが居なくなったし。
ちなみに鳳翔は元々店に住んでいるから、ここは暮らしたことがあるというだけ。
しかし、提督が寮に直接出向くとかは普通ないから、思わずまじまじと見てしまう。
私は駆逐艦だったからなおさらここに縁がなかったわけで。
ちょっと見上げてみて……つまり、一応2階建て。安っぽい作りだけど。
鉄骨とベージュのタイルっぽい外壁でお豆腐作りました、みたいな。
ここであいつが一度死んで、それから蘇って走り出したと思うと……うーん、それでも感慨は湧かない。
それくらいチープ。
大湊というゴミ捨て場は、住居に関してはやたら待遇が低い。それ以外は良いけど。
戦艦と空母は一人一部屋とは言えこんなのだ。
給糧艦、特務艦、工作艦の輩は長屋かプレハブか分からないアパートで一人一部屋。
軽巡達、というか巡洋艦は三人一部屋。建物自体はあそこが立派っぽいけど。
とは言えそのとおり使っているのは川内三姉妹だけ。大井・北上は二人、夕張と五十鈴、それに木曾は一人。大淀に至っては司令部の自分のオフィスで生活している。だから人の住めるスペースが一番余っているのはあそこだ。
そして駆逐艦は更にしょっぱく、木造2階建て、六条間の一人一部屋。部屋は当然余っているけど、物置が関の山。
私と雪風は粗末な暮らしが板についてるからともかくとして、時雨はなかなかに堪えただろう。私は横須賀が基準だけど、鎮守府とここは雲泥の差だし。
ちなみに、一応全部の寮に”共用スペース”が一部屋ある。テレビなんかはそこに。部屋のサイズに見合ったのが。
当時”叢雲”だった私は……そこで律儀にモンティ・パイソン見てて、そしたら何が始まったのかと時雨と雪風がやってきて、衆人環視の状態になったというわけ。
そして、これは共通だけれど、全室キッチンと風呂なし。司令部近くの大浴場を使え、飯は食堂に行けと。
極めつけの共同洗面所。もう何をか言わんや。本格的に水回りをケチっている。
……雪風をそそのかして一山当てて、それで大きな立派な寮を建てて全員住ませる?
待遇アップ、みんな平等に、だ。
ほほう、我ながらいい考えだと思う。私にそこまでやろうという気がない以外は。
勝手に考えて勝手にやって欲しい。判子は押すし。
――――――――と、考えがまた吹っ飛んでいた。
てか、勝手にさせた結果私が迷惑を被っているわけじゃない。今のナシ。
というわけで観音開きのドアを開けて入る。アレの部屋は一階だ。金剛はその隣に住んでいる。
……部屋番号すらないんだけど、確かここだったっけ。
そう考えながら、
「
ノックなどしてやるものか。
バターンと開けて……、
「んえ?」
ワンルームの部屋。こうなってるのか。殺風景な部屋にベッド、デスク、そしてドールが5つ……前より多くない?
そしてベッドに寝間着、簡素なワンピースのアレが寝てて……等身大ドールなんて持ってたっけ?添い寝してる。
服は黒くて、フリフリで……ん?ドールがこっちを見てる……、
って。
「……金剛、なにやってんのよ?その格好ハマった?」
「その、提督、これは……」
ドールに扮した金剛だった。こっちを見て相当顔を赤くしている。うん、人間こういう顔色がちょうどいい。赤くなってようやく普通っぽい顔色とか、相変わらず不健康かつ薄幸だ。
それと……夏に見た時とは違うデザインのを着てる。こういうのゴスロリって言うんだっけ。
一方アレは寝っ転がったまま無反応。じゃあ回れ右して、
「
何しようとしてんの私。大阪人か。いや大阪人だけど。
ただしブリティッシュ大阪ピープルなんて聞いたこともない。
「
「続けてんじゃないわよアホ!言わないわよ!?」
「……?じゃあ何をしにきたの?」
「何をって……それはこっちの台詞よ、このスパ子!あんた何してくれちゃったのよ!」
「金剛で遊んでいるのよ?」
「遊ばれています……」
話が通じない。嫌味か。金剛も照れるんじゃない。
確かにまぁ、普通に考えてちゃんと話題を明確にしないと何のこっちゃだ。
でも謝るつもりはない。
私は心の赴くままに、つまるところはブチ切れつつ、
「あー言い方悪かったわね!スパム一トンとかなに注文してくれちゃってんのよ!十条からこっぴどく怒られたのよ!日曜なのに!私の平和な日曜返しなさいよ!」
とりあえずぶちまけてみたけど、アレは至って冷静に、というか心外だという顔をして、
「……でも、許可は取ったわよ?」
「寝込み襲って言質取ったことにするとかあんた確信犯でしょうが!」
「Warspite、提督が寝ているところをなんて……」
突然金剛がうろたえ始める。
……おい、そのリアクションは何よ。あんたたちいわゆる運命のお二人様なんでしょ。
まかり間違ってもコイツに間違いが起きるはずもないでしょうが!私にソの気は一切ないし!ヤラれたら今頃コイツはとっくに獄門だ。
というか、あんな傍迷惑な大恋愛の末に私に浮気だとお?ブチ殺してやる!二人まとめて!
「金剛!変なこと考えてんじゃないわよこの色ボケ!思春期!?十年遅れ!?」
「あう……」
「金剛、あなたが”言い回し”というものを間違えてしまうと、私もどうすれば分からなくなってしまうの」
「ううー……」
かなり顔色を良くしながら、金剛はベッドの壁際に寄せてたブランケットを被って丸くなった。
……しばらくこいつ話出来なさそう。まぁ別に金剛に用はない。問題はこっちだ、アレの方だ。
アレはやっぱり寝転がったまま私を不思議そうな顔で見て、
「でもそう言えば……あなたは言ったわ、”勝手にすれば”って。だから勝手にしたのよ?」
そうよね。それを盾にされるとキツいわね。じゃあ、
「証拠は?」
「あるわ。音声データが。口約束を約束たらしめるには必要でしょう?」
畜生、抜かりない。
念書代わりに録ったものだろう。確かにその辺折り目正しい。嫌味なくらいに。
……いいましたぁ。
みとめますぅ。
わたしのふとくのいたすところでしたぁ。
でもね、
「あんた絶対に酒の席で約束とかするんじゃないわよ……」
「したことないわ。だって興味なかったもの」
「あー……」
……こいつ、社交辞令の『機会があったらまた是非』とかが通じないヤツだった。
しかも質の悪いことに、本気で受け取った上でバッサリ突っぱねるという一番ヤバいパターン、全自動で人の顔に泥を投げつけるスタイル。
……陸軍大学校卒のエリートとは言えよく佐官になれたもんだ!
将官は絶対無理だわコイツ!なんで席次五位が佐官止まりなのよ。アホみたい!
それはともかく、
「一トンもスパム買ってどうする気だったのよ、全く……」
「寄贈扱い、実質的には個人的なおすそ分け、というものだけれど?」
ああそうかい。どう扱うかも決めてあったわけだ。
悩むまでもなく、当然のごとくそこを落とし所にすべきと分かってやった、と。つまりは、
「あんたのやったことはテロよテロ」
「不穏な言い草ね。SPAMは美味しいのよ。Admiralも食べればきっと理解できるわ」
「不味いわよあんなもん」
私がバッサリ斬っているはずなのに、なおも気にせず見惚れちゃうような笑顔でアレは続ける。
「だからこそ食べてみてほしいの。考え直すはずよ」
いや無理。
しかし……こいつからは悪意というものを感じない。そこに背筋がゾワッと来る。
本当に人としてどうなんだ。
普通に考えて、肉が全部スパムに置き換わるってのはジョークであって悪夢だし、コントの中の世界と言って差し支えない。
私は……この世が全てジョークだとしても、流石にコントだとは思っていない。そんな世界は流石に御免被る。
ジョークなら遠大な皮肉とかそういうのになるかもしれないけど、コントは往々にして急転直下、抱腹絶倒、笑い死に真っ逆さまだ。いやコントの世界って言うなら死ぬことも許されず腹筋が攣るまで笑わされるとか?地獄か。
それはもう人生としては笑えない。筋書きとしては笑えるだろうけど。
とにかく私の返答はノーなので、
「百歩譲って、たまにはああいう味もいいかなーって思うかもしれないけどね。……普通の肉の代わりに毎日毎食スパムスパムスパムスパム――――――――」
「baked beans」
「―――――スパムスパムスパムスパム……なんでいきなり煮豆なのよ」
「ないわ。代わりにSPAMよ」
あー、あー……そういうことか。実際に体験してみるとまた違う感想になる。
コレ、スパムのアレだ。返された。こりゃ一本……じゃなくて、
「……コントやってる暇なんか無いのよこのスパ子!」
「Sketchと呼ぶほうが本式だわ」
「……なんで現実でスパムスケッチやらされてるのよ私は!」
私が呆れ返りながら吐き捨てると、アレはやはり本当に美しく微笑んで、
「Admiral、今度はちゃんとジョークだって分かってくれるから。……私、好きよ」
「……………………あっそ」
猫飼ったことないからわかんないけど、懐かない猫に懐かれるってこういうことかと。妙な感慨がある。
ただし、コイツの私への”好き”は、”Love”ではない。そうだったらむしろ困るけど。
“Love”は金剛にのみ向かっていくものだ。
それは……多分”too much”が付くもので、つまるところ――――――――”愛しすぎてる”。
弾けるように花開いた”愛”。ガラスの花。そりゃ造花じゃない、って言われると、まぁ否定も出来ないか。そういう、奇妙な形をしている。
コイツはその成就がきっかけだったのか、私達みんなを”like”で見るようになった。見られるようになった。
それは人一人の人生の中で、花が咲くように尊い事だと思う。
孤独の冬は終わり、騒やかな春が来たのだと。
私だって……こいつのことは嫌いじゃない。
実際今だって世話になってるし、ガラスのような危うさも、見えづらい慈しみの心とかも、まぁ少しくらいはわかってる、つもりではいる。
とは言え、その危うさに殺されかけたこともあったけど……私は器がデカイから水に流した。私は偉い。
コイツの心はこわれもので、人を切り裂くこともある。
でもそれは”悪”じゃない。”暴走”や”狂気”ではあっても。
だからこそ、少しでも分かってやれる人がいることが大事で。
……金剛こそが必要なのだ。金剛にだってコイツが必要だ。
私には、そんな二人を守りたいと思うだけの”好き”はある。
それは、きっと。
あいつにもある心のはずだ。
私は天井に少しだけ視線をやって、―――――けれどすぐに戻した。
……感傷だ。今日は、なんでやたらこんなに感傷的なんだ。
すっかり毒気が抜かれちゃった。こんなんで絆されるって、私ってば本当に頭が緩い。
それでもスパム一トンがやってくるのは変わらないけど。
私はため息をつく。……少しだけ震えてしまった。一度鼻をすすって、
「ところで、賞味期限中に一トンのスパム消費する方法……それは考えてたわけ?」
「みんなで食べればすぐでしょう?無くなったらまた買うつもりよ」
――――――――撤回。
やっぱりコイツ、ドス黒い悪じゃない?
ドン引く私の表情を読み取れないのか、アレは、
「くひっ」
花のように、けれど相変わらずの不気味さで笑った。
ホント、直らないな……笑い方。