魔法少女&仮面ライダー育成計画 〜Episode of Mirror Rider〜   作:スターダストライダー

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大変長らくお待たせしました。

今更ですけど、現在放送中の『リリース・ザ・スパイス』、通称『リリスパ』は観てますか?
そこでリップル役の沼倉 愛美さんが、半蔵門 雪役を演じているのですが……。

設定が忍者のスパイと聞いて思わず、『えっ? リップルさん、あんた魔法少女から正義のスパイに転職したの?』と思わず呟いてしまったのは、私だけではないはず。


……どうでもいい話になりましたが、今回は久々にあのペアが登場します。


119.進化する脅威

「……っ!」

「どうした?」

「また、スイムスイムから……」

「またか……!」

 

アビスの脱落が発表されてから、早くも3日が経過した頃。スノーホワイトの変身者、姫河 小雪の持つマジカルフォンにメッセージが届き、彼女は顔をしかめる。側にいる大地や颯太もまた然り。

アビスの1つ前に脱落した魔法少女、たまを殺害したスイムスイムから、スノーホワイトがサバイブの力を使いこなして、レアアイテムの薙刀を没収したその日から、彼女宛に執拗にメッセージが届くようになった。送ってくる相手は言わずもがな。

文言はただ一言。『ルーラを返して』のみ。メッセージを受け取った当初は首を傾げていたスノーホワイトだったが、何度も送られてくるうちに、『薙刀=ルーラ』と結びつき、尚更返すわけにはいかないと、決意を固めて無視を続けた。あの武器でまた人を殺させるわけにはいかない。そんな魔法少女は、作り出してはいけない。

 

「これ以上、この武器で人は殺させない……! 私が、守るんだ……!」

「……あぁ」

 

現在、生き残っている魔法少女と仮面ライダーは、合計16名。丁度半分が脱落した事となる。ここまで来れば、残っているのはそれ相応の実力者だ。それも血の気が多い者が半分近くを占めている。戦いは避けられない。生き残る為にも、そういった面々を倒していかなければならない。

 

「(……でも、それが終わったら? 他の奴らを倒した後、最後の1人を決めなきゃならなくなる……)」

 

パートナーである大地の脳裏に、自身を含めた9人の仲間が映し出される。生存の枠は8名だと、ファヴとシローは言っていた。おそらくそれ以上の生存枠を増やすつもりは毛頭ない筈だ。そうなれば、9人いるチームメイトの中から、最低限1人は脱落を余儀なくされる。

つまりは、身代わりだ。それが向こうの方針であるならば仕方のない事だが、この数ヶ月で苦楽を共にして、生き抜いてきた面々を見捨てる事など、大地だけでなく、小雪も望んではいない。

一体どうするのが正解なのか。大地が小雪や颯太に気づかれないように、眉間に皺を寄せていると、大地の持つマジカルフォンから、マスコットキャラクター兼運営担当のシローが飛び出してきた。

 

『随分と深刻そうな顔をしているな』

「何の用だ。呼び出しなんてしていないぞ」

 

冷ややかに返す刀でそう呟く大地。小雪も警戒心を捨てきれていない様子だ。

 

『あまり歓迎されてはいないようだな。まぁ良い。君達に頼み事と言ってはなんだが、話しておきたい事がある』

「話?」

『オーディンについてだ』

 

それを聞いて、半ば強制的に電源を落とそうかと考えていた大地の手がピタリと止まった。同じ仮面ライダーであり、一度対峙した敵でもあり、依然として素性が全くと言って良いほど明かされていない、謎多き存在。そんな人物に関する事とあっては、聞いておいて損はないだろう。

 

『最近、私やファヴに隠れて、妙な動きが見られる。奴はこの状況下においても、基本的に傍観に徹しているが、時たまに消息を眩まし、何事もなかったかのように戻ってくる事が多い。尋ねてもはぐらかすばかりだ。我々の目が届かない所で、何かを企んでいる可能性も否定できない。そしてその一件に、パートナーであるクラムベリーが絡んでいるとも考えられる』

 

それを聞いて、小雪と颯太は思わず拳をギュッと握りしめる。この2人は一度、スノーホワイトはクラムベリーに、ラ・ピュセルは両方に殺されかけた事がある。あの時の忌まわしい記憶がこびりついており、自然と力が入ってしまうのだ。

その一方で、大地は立ち上がってこう聞き返した。

 

「随分回りくどい言い方をしているようだが、つまりは俺達の手でそれを調べてくれ、って事か」

『話が早くて助かる。私やファヴだけでは調査の手が届かないものでな』

「けど待ってくれよ大地! 相手はあのペアだぞ⁉︎ それに、シローが何か企んでいるかもしれないとは思わないのか⁉︎」

 

颯太が待ったをかけるように立ち上がる。それは小雪も同じだった。シローが何かしらの嘘をついて、大地達を陥れようとしているのではないか。或いは接触する機会を与えて、戦いを強要させるのが目的か。何れにせよ、無理にシローの提案に乗るような、危ない橋を渡る必要はない。もし裏があるのであれば、小雪がスノーホワイトに変身して、魔法を行使してシローの本音を聞き取れば良い。

そう提案する小雪だったが、大地は首を横に振った。

 

「生き残る為の枠が定められている以上、どの道、戦いは避けられない。少しでも奴らの情報が欲しいのは事実だしな」

「でも……!」

「その代わり、だ。俺からも奴らについて、シローに聞きたい事がある。それがお前の依頼に乗る条件だと思え」

『可能な範囲でなら構わない。……で、何だ?』

「……あの2人は、何でこの街で活動をしてきたんだ? 何が目的で、この地で活動を続けてきたんだ?」

 

大地が聞きたかった事。それは謎多きペアが、この戦いで望んでいるもの。生存、と答えるのが筋だろうが、恐らくあの2人に関してはそうではないだろう、と大地は推測している。

 

「この戦いは、マジカルキャンディーの所持数を競い合い、少なかった者から脱落していく、というルールにのっとって全てが始まった。その脱落が死を意味すると知る事となったキッカケは、お前らとあの2人のやり取りの記録だ」

「……あっ!」

 

小雪は思い出す。ねむりんが脱落した次の日、龍騎の変身者である正史が、彼女の死について情報を開示した際、今は亡き恩師のオルタナティブが見せてくれたもの。それがたった今、大地が語ったものであった。全員が集まった後も、龍騎が2人に対して情報を集めようと問い詰めてみたが、彼らははぐらかすように首を横に振っていた。

 

「あの2人は、最初からこうなる事を分かっていて、この街に居座っていた。だとしたら、奴らがこの戦いにおいて鍵を握る存在だとしたら、俺達は奴らと向き合う必要がある……! 奴らがこの戦いで何を求めているのかも、全部……!」

『中々に良い観察眼を持っている。やはりクラムベリーが目をつけるだけの事はあるな』

「! クラムベリーが、だいちゃんを……!」

「じゃあお前は、あの2人が何を目的としているのか、知っているんだな⁉︎」

 

颯太がシローに問い詰めた。

 

『それは君達も何度か耳にした事があるだろう? 最強の魔法少女や仮面ライダーを完成させ、育て上げる。それが奴らの、特にクラムベリーが願ってやまない事だ。それ以外に生き甲斐が無くなってしまったのが、あの2人だ』

「どうして、そんな事を……」

『詳しい事は、彼らから直接聞き出すと良い。……あまり長話は好きじゃないので、私はこの辺で失礼させてもらう。因みにだが、彼らは今、船賀山の山小屋を拠点としている。そこに行けば彼らと会える。この情報開示は、一種の前払いだと思っておいてくれ』

 

諸君らの健闘を祈る。

そう言ってシローの立体映像は、マジカルフォンからも姿を消してしまった。

静まり返った部屋の中で、呆然としていた3人だったが、オーディンが何かを企んでいるとあっては、事前に阻止する必要があるかもしれない。

可能な限り、動ける人員だけでも会いに行こう。そう考えた大地は、この後合流するはずの亜子を初め、他のメンバーに一報を入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「船賀山、かぁ……。こんな所に、本当にあの2人がいるのかな?」

「シローはこういう事に関しては、嘘をつくような奴とは思えません。罠だとしても、痕跡ぐらいは残っているはずです」

 

それから数時間後の夕方。船賀山の北側に、5人の人影が、険しい山道を難なく登っている姿が。

船賀山は、N市内では2番目に高い山として、冬場はスキーやスノーボードを目的とした観光客が県の内外から訪れるスポットだ。とはいえそのように整備されているのは山の南側であり、北側は人の手が全く加えられていない。その為、草木が生い茂り、未舗装の林道が1本あるだけで、他は獣道しかない。加えて高角度で切り立っている為、人間が踏み込むにはそれなりの専門的知識が必要となる。もっとも、身体能力が格段に上がっている魔法少女や仮面ライダーなら、話は別だ。

シローの情報によれば、クラムベリーとオーディンが拠点としているのは、船賀山の中腹に位置する山小屋なのだそうだ。そこに向かって山を登っているのは、最初に連絡を受けた3人に加えて、待ち合わせ場所に到着した亜子と、仕事終わりの正史の5人。華乃や蓮二、手塚、つばめは、仕事や買い物だったりと都合が合わなかった為、真相は伝えずに待機してもらう事となった。険しい山を登る為でもあるが、万が一彼らと接触してすぐに戦闘になった時の事を考えて、山に入る手前で変身を済ませておいた。

 

「……見えました。あれです」

 

ハードゴア・アリスがゆっくりと指をさした先には、確かに山小屋があった。何年か前に起きた、大雨による土砂崩れに巻き込まれて、山小屋の後方が土に埋もれてしまっている。二次災害の危険性もある為、普通の人間ならば、この小屋を見つけても出入りしようとは思わないだろう。逆を返せば、魔法少女や仮面ライダーにとってはうってつけの隠れ家と化す。

 

「ここに2人が……。龍騎さん、どうします?」

「えっ? ど、どうしようって言われても……。大地君は、どう?」

「……向こうの情報は皆無に等しいです。かといってバラバラに分かれていたら向こうの的になるかもしれない。5人全員で動いて、2人を探しましょう。まぁ、目撃情報も少ない相手です。向こうが素直に出てきてくれる保証はないですけど……」

「そうとも限りませんよ? 訪ねてくる相手次第ですが」

 

不意に響いてきた、ネットリとした声色。スノーホワイトの背筋に悪寒が走る。

振り返ると、薄暗くなりつつある森の中でもハッキリとそのシルエットが浮かび上がっている、2つの人影。彼らは腕を組んで、まるでずっとそこで待ち構えていたかのような雰囲気を醸し出す。

 

「こんばんは。お待ちしておりましたよ。……何人か、余計なお客様を連れているようですが、まぁいいでしょう。歓迎の準備は済ませてありますので」

 

いきなり背後を取られた事に驚き、5人は同時に距離を置くように飛び退がり、身構える。龍騎やハードゴア・アリスにとっては、初めて対峙する事となるが、それでも今まで出会ってきた者達は一線を越えている事は容易に想像できてしまった。

クラムベリーは歓迎ムードだが、そのパートナーの方は快い気分ではなさそうだ。

 

「……何をしにきた。我々を倒しに来たのならそれも結構だが、あいにくとこちらも、君達が思っているほど暇ではないのだよ」

「! 何を企んでいる……!」

「知る必要はない。その時が来るまではな。……理解したならば早々にここを」

「まぁまぁ。せっかく向こうからこちらに来てくださったのですから、……少しはおもてなしに興ずるのも、人間である彼らへの礼儀でしょう」

「……強者との戦いを第一に欲するお前らしい、不条理な言葉だな」

「褒めてもらえて何より」

 

クラムベリーに呼び止められて、オーディンもやっとその気になったようだ。九尾はそのやり取りに構わず聞き出す事に専念する。

 

「今、この街で起こっているこのデスゲーム。お前らが絡んでいると見た。それを確かめる為に来たんだ」

「……それを知ってどうするつもりだ」

「もしそれが本当なら……! 私は、この戦いを止めたい! こんな事、誰も望んでいなかったはずのこの戦いを、絶対に止めたい!」

 

九尾に代わって、スノーホワイトが叫ぶが、クラムベリーは聞く耳を傾ける素振りすら見せない。

 

「私達を倒せば戦いが終わる、ですか。……だからあなたは弱いんですよ、スノーホワイト」

「何だと⁉︎」

「私達を倒したところで、この世界の法則は何も変わりません。力がその手にある限り、同じ力を持つ者同士による戦いが終わる事は、永久にありません。それは、決して抗いようのない理なのです。……そして、そんな事にも気づかないで、浅はかな考えでそれを否定するあなたに、私は幻滅しています。あなたのような弱者はこの世界に不必要な存在。障害となる者はとっとと駆除するのが私の主義でしてね」

「スノーホワイトを、バカに、しないで、ください……!」

 

表情からは読み取れないが、隈の目立つアリスは、明らかに怒りを露わにしているようだ。

 

「スノーホワイトは、私達にとっての、正しい魔法少女の、見本になるべき方です……!」

「右に同じだ! クラムベリー! お前達に何があったのかは知らないが、そんな自分勝手な価値観を人に押し付けるなんて間違ってる!」

「アリス……! ラ・ピュセル……!」

 

スノーホワイトが驚く中、クラムベリーは1人、ため息をつく。

 

「……つくづく人間の思考は理解に苦しみます。魔法少女や仮面ライダーに染まりきっていない証拠ですね」

「ちょっと! あんたらだって同じ人間だろ⁉︎」

「私達をあなた方と一緒にしてほしくはありませんね。私達はもうそんな固有名詞に縛られてなどおりません。……いや、正確にはそこからもう脱却し、人間を越えた存在になったのです。故に……。

 

人間を捨てきれていないあなた方では、私達には勝てない。

龍騎からのツッコミを一蹴したクラムベリーは、次の瞬間、素早くスノーホワイトの眼前まで迫り、拳を突きつけてきた。

 

「!」

 

すかさずアリスが、唖然とするスノーホワイトの前に立ち、彼女の代わりとしてその身に拳を受けた。スノーホワイトを巻き込む形で吹き飛ばされたが、守られたスノーホワイトはもちろん、アリスも頬に痛みこそあるが、魔法によってすぐに引いた。

 

「あ、アリス! 大丈夫⁉︎」

「平気、です。スノーホワイトこそ、無事で何より、です」

「クラムベリー! お前はぁ!」

「ハハッ」

 

逆上したラ・ピュセルが鞘から剣を抜き取り、魔法によって肥大化させ、クラムベリーめがけて振るう。クラムベリーは軽く飛び上がって回避し、ラ・ピュセルを蹴り飛ばし、そのまま3人の魔法少女に向かっていった。

 

「! みんな!」

「余所見をしていると命取りだぞ」

「!」

 

ハッとなって龍騎が前方に目をやると、オーディンが眼前まで迫り、はたき倒そうとするのが見えた。間一髪で九尾が割って入り、両腕を使ってオーディンからの攻撃に耐える。

 

「ハァッ!」

「! 避けて!」

「オワァッ⁉︎」

 

一旦距離を置いた九尾と龍騎に、オーディンは追撃とばかりに右腕を突き出し、衝撃波を放った。黄金色の羽根もそれに乗って拡散し、九尾がかわすように叫ぶ。羽根が地面に触れて小爆発するが、どうにかして回避に成功する。

やはり相手は、自分とラ・ピュセルを追い詰めた事のある敵。ならば出し惜しみは無しだ。そう思った九尾はカードデッキから1枚のカードを取り出す。龍騎も同じ事を思ったのか、九尾が手に持つものと同じ表記のカードを取り出す。

 

『『SURVIVE』』

 

サバイブとなり、ドラグバイザーツバイとフォクスバイザーツバイを構える2人。それに対し、向こうも素手で対抗するつもりはないのか、1枚のカードを取り出して、手元に出現したゴルトバイザーにベントインする。

 

『SWORD VENT』

 

2本のゴルトセイバーを手に持ち、待ち構える。かかって来いと言っているようだ。

 

「「ウォォォォォォォォ!」」

 

2人は同時に駆け出し、オーディンに斬りかかる。が、オーディンは瞬時に2人の背後に移動。勢い余った2人の背中に一太刀を浴びせた。

その後も瞬間移動を駆使して、斬撃を繰り出すオーディン。真正面からやりあった事のない龍騎サバイブは、完全に翻弄されている。唯一九尾サバイブだけが、オーディンの動きを予測してフォクスバイザーツバイで防ぎつつ、カウンターを仕掛けている。

 

『『SURVIVE』』

 

一方、クラムベリーと対峙していた魔法少女達もサバイブを行使し、果敢に立ち向かう。従来の魔法少女よりも強化された相手を前にしても、余裕の表情を崩さないクラムベリー。先んじてラ・ピュセルサバイブが大剣を振り下ろすが、クラムベリーは左手の甲だけで柄の部分を受け止める。

 

「クッ……!」

 

そればかりか、反対側から攻め込んできたアリスの攻撃を、足技だけで反撃し、そのままサッカーボールを蹴るようにアリスを蹴り飛ばし、ラ・ピュセルサバイブごと吹き飛ばした。

休ませる暇は与えないとばかりに、ラ・ピュセルサバイブの左腕を掴んで拘束したクラムベリーは、その腹に向かって膝蹴りを叩き込む。

 

「グァッ……!」

 

以前、港でクラムベリーと初めて戦ったあの日も、同じように膝蹴りを腹に受けた事があった。不意の一撃という事もあって血を吐きながら全身に伝わったあの痛みを、彼女は完全に忘れ去ったわけではない。無論、あの時と違ってサバイブの恩恵を受けている為、まだフラつく程、深刻なダメージとはなっていないが、苦痛で顔を歪ませてしまうのはどうしようもない。

動きが鈍くなったラ・ピュセルサバイブの首元を掴んで絞めあげようとするクラムベリーだったが、寸での所でスノーホワイトサバイブが割り込んできた。

 

「ヤァッ!」

「遅いですね」

 

だが魔法によって耳の良いクラムベリーにとって、死角からの奇襲は無意味に等しい。スノーホワイトサバイブの拳をヒラリとかわして、回し蹴りでスノーホワイトサバイブに一撃を与える。が、彼女にも意地があるのか、吹き飛ばされずに、右足にしがみついて身動きを制限させる。思わず舌打ちをするクラムベリー。

そこへ間髪入れずにラ・ピュセルサバイブによる、横一直線の大振りが迫ってくる。が、クラムベリーは勢いよく上半身を反らし、ラ・ピュセルサバイブの渾身の一撃が空を掠める。またしても攻撃が当たらず、ラ・ピュセルサバイブは肘打ちで弾き飛ばされ、足元のスノーホワイトサバイブの腕を掴むと、巴投げで地面に叩きつけた。

体内から酸素が吐き出されて苦痛に顔を歪ませるスノーホワイトサバイブ。が、間一髪で意識を取り戻し、踏みつけてくるクラムベリーの攻撃を、反射的に横に転がって回避する。その事に、クラムベリーは意外そうな表情を見せた。

 

「サバイブを手にしただけでこれほど身軽になるとは。以前とは大違いですね。それにあの時と違って、戦いから迷いが薄れている。少しはやれば出来る子だったのですね、スノーホワイト。……まぁ、それでも私の足元には遠く及びませんけどね!」

 

そう言って右腕を突き出すと、破壊力を持った音波が襲いかかり、3人のいた地面が爆ぜた。ギリギリの所で飛び退いた3人は地面を転がりながら、オーディンと対峙していた仮面ライダー達と合流した。

 

「! 大丈夫か……!」

「何とか、ね……! けど、このままじゃ……!」

「でも、このままやられっ放しでいられるもんか……! 俺達は、絶対に生き残るって決めたんだ!」

「! そう、ですね……! ならこっちは、手数で……!」

 

そう言って九尾サバイブは1枚のカードをベントインする。

 

[挿入歌:Revolution]

 

『BLAST VENT』

 

九尾サバイブが行使したのは、ファムの契約モンスター、ブランウイングが翼を動かして突風を巻き起こす、ブラストベント。オーディンが吹き飛ばされまいと踏ん張っている間に、別のカードをベントインする九尾サバイブ。

 

『WALL VENT』

 

その直後、ヴェス・ウィンタープリズンの魔法によってオーディンの周囲に壁が出現。逃げ場を塞いだ所で、龍騎サバイブも攻撃に加わった。

 

『SHOOT VENT』

『STRIKE VENT』

 

龍騎サバイブの側にドラグランザーが降り立ち、ドラグバイザーツバイの銃口をオーディンに向ける。隣にいる九尾サバイブはその右腕に、アビスの武器であったアビスクローを装着。遠距離攻撃を放とうとしているようだ。

 

『GUARD VENT』

 

これに対し、オーディンは別のカードをベントイン。黄金色の盾『ゴルトシールド』を左腕に装着する。

 

「「ハァッ!」」

 

メテオバレットとアビススマッシュが放たれたが、ゴルトシールドによって阻まれる。攻撃が止んでも、オーディンは無傷だった。かなり高性能な盾のようだ。

 

「だったら……!」

 

『STRANGE VENT』

 

ストレンジベントのカードを使い、その絵柄が別のカードになったのを確認し、再度ベントインする。

 

『STEAL VENT』

 

選ばれたのは、相手の武器を奪える能力を持つスチールベント。これにより、オーディンに装備されていたゴルトシールドは、持ち主の手から離れ、龍騎サバイブに移行する。強力な武装を獲得した龍騎サバイブに対し、向こうは無防備となっている。攻め込むなら今が好機だ。

 

「甘いな」

 

『STEAL VENT』

 

……が、オーディンが焦る事なくベントインしたカードは、あろうことか、龍騎サバイブが行使したカードと同じもの。

目には目を、スチールにはスチール。再びゴルトシールドがオーディンの手元に戻ってしまう。

 

「えぇっ⁉︎ 嘘だろ⁉︎」

「(あの盾は厄介だな……! ここで使うか!)」

 

『CONFINE VENT』

 

相手の武器を無力化する、ガイが所持していたカードをベントインした九尾サバイブ。これによりゴルトシールドは誰の手にも渡らぬまま、その場で消滅する。が、オーディンにとってそんな事はどうでもいいらしく、一瞬の隙をついて彼らの眼前に迫ってきた。

身構える一同だが、オーディンからの一撃は彼らに届く事はなかった。その直前で横手からの攻撃を受けて、吹き飛ばされたからだ。オーディンは涼しい顔をしているかのように、何事もなかったかのように着地する。

一方でオーディンに不意打ちを仕掛けてきた人物が誰なのか、5人が振り返ると、そこには4人の人影が。

 

「! リップルさん! 皆さんも!」

「遅くなってすまねぇ! 上から探しても森に隠れてて見つかんなくてな!」

「でも、どうしてここが?」

「あれだけ派手に暴れていれば、外にいても俺達ならすぐに気づく。詳しい事情は後で聞くとして、今はこの状況を打破しよう」

「おやおや。随分と人数を揃えてきましたね」

 

現れたのは、リップルを初めとした仲間達。全員がサバイブとなっており、先程オーディンを攻撃したのは、ナイトサバイブとリップルサバイブのようだ。

 

「お前ら……!」

「勘違いするな。助けに来たんじゃない。こいつらと戦いに来たんだ」

「……フン」

 

2人は素っ気なく答えると、次なる一手を繰り出そうとする。一気に勝負を決めようとしているようだ。隣にいるライアサバイブとトップスピードサバイブもまた然り。九尾サバイブ達も、これ以上の消耗戦を避けるべく、カードを引き抜いてベントインする。

 

『『『『FINAL VENT』』』』

 

上空から、ドラグランザー、ダークレイダー、エクソダイバー、そしてフォクスローダーの4体が降下して、4人のライダーが飛び乗ると、バイクモードに変形。それぞれのパートナーも、ドラグバイザーツバイ、ダークバイザーツバイ、エビルバイザーツバイ、そしてフォクスバイザーツバイを手に持ち、乗り手の後方に立つ。ハードゴア・アリスは、黒いドラグセイバーを持ってスノーホワイトサバイブの後ろに立った。

 

「これなら……! どぉだァァァァァァァァァ!」

 

龍騎サバイブが叫び、後方の魔法少女達が一斉に飛び上がって、正面と上空から、仁王立ちの2人に向かって一斉に攻撃を繰り出す。

対するクラムベリーとオーディンは……。

 

「少しは見せてくれますね……。ですが、まだ甘い!」

「ハッ!」

 

飛び上がってライダー達の攻撃を回避した後、2人は両手に握られたゴルトセイバーで弾きながら攻撃を受け流した。

 

「! これでもダメなのか……!」

「言ったでしょう? サバイブの力を持っているからと言って、私達には勝てないと!」

 

そう呟いたクラムベリーが、オーディンと共に右腕を突き出すが、不意に目線を外して腕を下ろした。何事かと思った九尾サバイブ達が目線を辿ると、シアゴーストの大群が向かって来ているのが、夜も更け始めた今でもハッキリと見えてきた。

 

「またこいつら……!」

「これって……!」

 

シアゴーストの介入により、クラムベリーとオーディンもそちらの対処に手を回す事に。他の9人も、シアゴーストとの戦闘を始める。

 

『『TRICK VENT』』

 

ナイトサバイブと九尾サバイブがシャドーイリュージョンで分身を作り出し、数の差を埋めようと応戦する。

 

『SHOOT VENT』

 

「ハァッ!」

 

ライアサバイブが、ライトニングアローで一体のシアゴーストに攻撃し、シアゴーストはそのままうつ伏せに倒れこむ。

と、次の瞬間、その背中はパックリと割れて、中から青色のトンボをモチーフとした『レイドラグーン』が誕生し、頭部に生えた、4枚の羽を動かして、空に飛び上がった。見れば、倒していったはずのシアゴーストから次々とレイドラグーンが現れて、いつのまにか空を飛ぶ個体の方が上回っていた。両手足の鋭い鉤爪が、地上や空中から容赦なく襲いかかる。

これ以上の長居は危険と判断したライアサバイブが、皆に声をかけた。

 

「一旦退くぞ! 九尾!」

「! はい!」

 

さすがの九尾サバイブも、これだけの数の敵を相手にするのは厳しいと判断し、ライアサバイブの指示に従う事に。あの2人から聞き出したい事は山ほどあったが、それどころではなさそうだ。

 

『BLAZE VENT』

 

ブレイズ・ウィルオ・ザ・ウィスプで幾多もの火球を放ち、レイドラグーンを何体か巻き込む形で爆散させると、残されたレイドラグーンが混乱しているうちに、素早く下山を試みる。途中でクラムベリーとオーディンに追われないか、時折後ろを振り返るが、幸いにも2人が追いかけてくる様子はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フンッ!」

 

最後の一太刀でレイドラグーンの残党が倒れて、ようやく辺りに静けさが戻る。

クラムベリーは耳を立てて、九尾達の足音を辿るが、かなり遠方まで逃げている。追いかけた所で徒労に終わるだろう。

 

「こうも邪魔ばかり入ると、気に入りませんね。私達で仕掛けておいたものとはいえ」

「こちらで用意していたものが何体か羽化した個体だったか。戦いに集中していて、管理を怠ってしまったな。……だが、お陰で進化する個体も確認できた。今のところは順調と言える」

「出来る事なら、アレを使う前に決着をつけたいところですね。特に、九尾とはね」

 

頬についた血を舌で舐めながら、クラムベリーは不敵な笑みを浮かべる。

 

「……」

 

そんな中、オーディンだけは虚空を見つめており、しばらくして、試験マスター専用の端末を通じて、自らのパートナーを呼び出した。

 

『何か用かな」

「……彼らをここに誘ったのは、お前の差し金か?」

『……だとしたら、どうするつもりかね。私を消すか?』

 

シローの堂々とした態度を見て、オーディンはため息をつく。

 

「何を探っているのか知らないが、余計な詮索はしない方が身のためだ。その気になればこの端末を処理する事など容易い」

『ちょ、ちょっと待つぽん! ファヴのもそうだし、魔法の国特製の端末が壊れたら、直ちに向こうの連中が異常を感知してここにやってくるぽん! そうなったら試験は中断するし、ここにいるファヴ達の今までの苦労が全て水の泡になるぽん! それは2人にとっても避けたい事じゃないのかぽん?』

 

オーディンの呟きに対し、今度はクラムベリーの持つ端末から、ファヴがいつにも増して慌てたように出現し、オーディンを説得する。

その必死さが滑稽に思えたのか、オーディンはファヴに向き直る。

 

「お前がそこまで焦る姿はレアだな。心配せずとも、これまで通りにしていれば、問題ない事だ。私もクラムベリーも、このまま試験の監督を続ける。今回はちょっとしたアクシデントもあったが、試験も佳境に入る。少しでも情報が外部に流れないように、頼むぞ」

『やれやれ、脅かすなぽん。ファヴの楽しみが減らされたら、たまったもんじゃないぽん。シローもあまり余計な事をしてほしくないぽん。ファヴ達はあくまでマスコットキャラクターの役を演じきらなきゃダメぽん』

『それは失敬。以後気をつけよう』

 

それ以降、シローは黙り込むわけだが、その目線はオーディンにずっと注がれていた。

 

 

 




久々にこのシリーズを執筆しましたが、間が空いてしまったからか、上手く書けてる自信がない……。


一応年末までには、新たな脱落者が発表されると思いますので、お覚悟を。

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