魔法少女&仮面ライダー育成計画 〜Episode of Mirror Rider〜   作:スターダストライダー

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大変長らくお待たせしました。 遅ればせながら、本年度最初の投稿になります。

この辺りで、因縁の対決に決着をつけようと思っておりますので、ご意見・ご感想をお待ちしてます!


122.人質救出作戦

人は快楽を求める時、何かしらの基準や目標を立てる。その域に達した時に得られる満足度は、他者からは計り知れないものとなる。

快楽の求め方は人それぞれだ。ありきたりな例で言うならば、小さな事でも良いから人助けをする。そうして自他共にある種の幸福を掴んだ気分を味わえる。他にも、苦手な事でも我慢を積み重ねて、時が来たら吹っ切れたように解放する。更には、どんな手を使ってでも、欲しいものを手にする。などと、例えを挙げ始めたらキリがない。

山元 奈緒子の場合は、強者をその手でいたぶる事を、快楽と捉えていた。

しかし、彼女は弱かった。周りの連中がそう評価してしまったからだ。それを克服するべく、アルコールに手を出したものの、万能薬として働いてくれた時期は、そう長くない。金銭的な問題や、酩酊が抜けた後の倦怠感、不平タラタラの亭主。これらの要素がアルコールを万能薬たらしめなかったと、奈緒子は愚痴る。

そうして彼女が次に手を出したのは、一人娘だった。弱者だからこそ、弱者しかいじめる事が出来ず、それが娘であり、不満の捌け口となった。本心ではそこまでするつもりもなかったが、本来求めていたものではなく、代用品に近い形だったから、ひたすら暴力を振るい続けた。

しつけと称して蹴り、殴り、タバコの火を押し付け、食事を抜く。これらの要素は、アルコールと組み合わせると事で時たまにストレス解消となったが、我慢の限界が来た亭主が、娘を連れて家から出て行った。それが、約1年くらい前の事。

甲斐性のない愚図だ、と吐き散らしながら、2人が颯爽と扉を開けて立ち去っていく後ろ姿をジッと見つめ、それ以上追いかける事はしなかった。一瞬だけ、娘がこちらを見てきたが、どんな表情をしていたかなど、今はもう覚えていない。

丁度その頃、彼女の手元ではリリースしてから1週間しか経っていない新作アプリゲーム『魔法少女育成計画』が起動されていた。新たなストレス発散になるのでは、と多少期待していたが、アルコールや娘への虐待に勝る事はなかった。それでも、彼女は夢見ていた。自分も、アバターとして設定していたガンマンのように、強者を圧倒し、辱めを与えられれば、どれほど満たされるだろうか、と。

そしてその夢は、なんの前触れもなく訪れた。

 

『おめでとうぽん! あなたは本物の魔法少女に選ばれたぽん!』

 

最初は、過度なアルコール摂取のせいで、幻覚でも見ているのでは、と思いながら、面倒だと言ってタップしていたが、次の瞬間、光に包まれた奈緒子は、先ほどまで画面に映っていた、豊満なバストとビキニ、テンガロンハットなどといった、30代後半のくたびれた女性の面影をすっかり失くした、若々しさが残る、魔法少女『カラミティ・メアリ』へと変貌していた。

しかし、それ以上驚いたりも、喜ぶ事もなかった。マスコットキャラクターであるファヴが10分ほど何かを言っていたが、ほとんど耳に入っていない。ただ、「あぁそうかい」と言いたげな表情で口元だけを歪めて、笑っていた。

その後、彼女はファヴの紹介である魔法少女からレクチャーを受ける事となった。それが、『森の音楽家クラムベリー』と呼ばれる魔法少女だった。やる気のなさそうな説明を聞きながら、メアリは不満を募らせていた。

アプリがリリースしてから1週間しか経っていないのなら、いくら自分よりも早く魔法少女になったとはいえ、ほぼ同期に近い。上から見下ろすような態度が、どうしても気に入らなかった。その事を、不自然に開いた距離感で指摘した結果、クラムベリーは謝った。ただし、本気でない事には気づいた。向こうもそれを見越しているようだ。ギスギスした空気が立ち込め、しかしお互いに敵意はないと判断し、その場は御開きとなった。

それ以降、クラムベリーとはほとんど顔を合わせなかった。一度だけ、彼女と共闘した事はあった。隣県で行われた試験の最中に逃げ出したとされる、魔法で生み出された生物がN市に潜伏しており、その対処にあたっていたクラムベリーに協力する形で戦場に出向いたのである。別にクラムベリーを助ける為に来たのではなく、「力を振るうのに相応しい場所があったから」という理由で引き金を引き続けたのだ。事態はあっという間に終息し、気がつけば、戦いだったものが一方的な虐殺に変わっていた。

その際、彼女は見たことの無い、黄金色の仮面の人物と出会っていた。それが『仮面ライダー育成計画』を経て誕生する『仮面ライダー』と呼ばれる存在である事を知ったのは、少し後の事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「新しい仮面ライダーを増やす事に、協力してもらいたい」

 

黄金色の仮面ライダー『オーディン』にそんな話が持ちかけられたのは、魔法少女になって1ヶ月ほど経った頃だった。その頃になれば、魔法少女姿ならどれほどアルコールを摂取しても人体に害はなく、美貌も維持できる事も、自覚できるようになっていた。

そうして暴力のプロを自称し、肩で風を切って歩くヤクザ者の命乞いを見て恍惚する事に楽しみを覚え、遂には『鉄輪会』と呼ばれる暴力団グループに雇われて、金や酒にも困らなくなってきて、別の刺激を追い求めかけていた時、それは訪れた。

 

「……何が目的だい?」

『この街は、ミラーモンスターの出現率が極めて高い事が、魔法の国の調査で判明した。そこで我々は、このN市にて魔法少女及び仮面ライダーの数を増やし、効率良く対処する事に決定した』

 

そう説明しているのは、オーディンの持つ魔法の国特製の端末から浮かび上がっている、『仮面ライダー育成計画』のマスコットキャラクターであるシローだった。

 

「……んで、あたしにその候補者を探せ、と? 随分と生意気な事を言ってくれるじゃないか。あんたらみたいに、得体の知れない奴らの言う事を、素直に聞くとでも思ったのかい? そもそも、あたしはそういう上から目線で語られるのが1番気にくわないのさね」

 

そう呟いて、暴力団から拝借した銃をオーディンに向ける。が、彼は動じる事なく、腕を組みながら、平然と口を開く。

 

「無論、闇雲に探してもらう必要はない。そもそも、この街に住む誰もが選ばれるわけではない。適正値の高い人物を、シローとファヴがリストアップして、その力を与える。いわばお前も、選ばれし者なのだよ」

『そして次に仮面ライダーとして候補に挙がっている人物を、我々は見つける事に成功した。……ただ、問題が1つあってね』

「何だい?」

『その人物がいるのは、ここから少し離れた場所に位置する拘置所だ。数ヶ月ほど前に、そこに放り込まれている。本来なら私が出向くべき所だが、当然ながら、彼は端末など一切持ち合わせていない。そこで、君の腕を見込んで、彼の脱獄に手を貸してもらいたい。彼を仮面ライダーにすれば、これほど頼もしい者は他にいない』

「無論、それ相応の報酬は弾ませておく。奴の力は、お前にとっても必要とする日が来るはずだ」

 

これを聞いたメアリは、少し考える素振りを見せてから、次なる候補者に関する情報を聞き出した後、オーディンとシローの依頼に応じる事に。最初は「いたぶりがいのある奴をサンドバッグ代わりにこき使う為に助けてやるか」とも考えていたのだが、彼らから聞かされた人物は、メアリの興味をそそる事となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カラミティミラクルクルクルリン! 魔法のガンマン、カラミティ・メアリにな〜れ!」

 

今でこそ唱える機会もなくなったが、魔法少女になったとファヴに告げられた時、自然に心の中に浮かんできた呪文を唱えながら、奈緒子は魔法少女に変身する。

拘置所に侵入する事は造作もなかった。魔法の力を使えば、回りくどい事をせずとも、歯向かってくる警官隊を、銃を乱射する形で薙ぎ払う事も可能だ。改めて、素晴らしい力を手に入れたものだ、と自分に酔いしれるメアリ。

自分を捕まえようとした警官を返り討ちにした後、悠々と、目的の人物がいるであろう場所に、バズーカの砲弾を撃ち込んだ。その威力は、自身に与えられた魔法によって強化されており、鉄の牢屋など何の役にも立たないほどだ。

その人物は、家族を含めて何人もの人を無差別に殺してきたそうだが、そんな彼をもってしても、目の前で起きた謎の爆発や、正面から現れたガンマン風の女性の出現に、驚きを隠せないようだ。

 

「何だ、お前はぁ……」

「ちょいと依頼を受けてね。あんたにチャンスを与えてやりに来たのさ」

「チャンス……?」

 

首を傾げる男性に、メアリは躊躇う事なく銃口を向ける。男性は動じる様子を見せない。

 

「言っとくけど社会の負け犬に拒否権はないよ。つまりは逆らう事も許されない。死にたくなかったら、あたしをムカつかせない事だ。オーケイ?」

「……」

「ほら、返事は? あんまりあたしをイラ」

 

右手に銃を構え、左手にウイスキーの瓶を持ち、そのまま口に運ぼうとした瞬間、メアリの頬を何かが掠めた。

一体何が、と目を見開くメアリは、左手に持っていたはずの瓶がなくなっている事に気づく。目の前を見ると、男性がギラついた目つきで自分に睨んでいるのが確認できる。その右拳はメアリの左頬に触れるか触れないかの瀬戸際を通り越して、後ろにあった、瓦礫の壁に突き刺さっており、ウイスキーの瓶がその下で砕けており、中身が地面に染み込んでいく。事前に景気付けでウォッカを飲んでいたのに、一瞬で酔いが覚めてしまったようだ。

 

「……俺をあまり、イラつかせるなぁ。助けてくれた事には礼を言うが、そこから先は別だ」

 

自分が死ぬかもしれない立ち位置にいるにもかかわらず、そんな死の概念に恐れる事なく、ただの人間が魔法少女である自分に殴りかかってきた。

その事が、メアリをより刺激する起爆剤となった。

 

「……クックック。アッハッハッハッハ!」

「何がおかしい」

「いやぁ、あんたほど面白い奴に出くわした事がないんでね! 思わずブルっちまったよ! ヒャアッハッハッハ!」

 

あいつらも面白い逸材に目をつけたものだ、とこの時ばかりはオーディン達を賞賛するメアリ。彼もまた、社会的に1番地位の低い所まで堕とされ、強者への復讐を望んでいるに違いない。自らの快楽と合致しているからこそ、メアリは彼に興味を抱くようになったのだろう。

ならば、答えは1つだ。

 

「気に入ったよ! こき使ってやろうかと思ったが、あんたにはそれ以上の価値がありそうだ。あたしと一緒に、このクソッタレな世界に、イライラするもんを全部ぶつけてやろうじゃないか!」

「……戦える場所が、祭りの場所があるんなら、俺は構わないぜ」

 

そうして、自然とがっちり手を組む2人。不敵な笑い声が、半壊した拘置所の一角に響き渡る。

これが、後に最凶最悪のコンビと謳われる『カラミティ・メアリ』と『王蛇』、すなわち山元 奈緒子と浅倉 陸のファーストコンタクトであり、N市に恐怖の種を植え付けたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(……そうさ。あたしは強い。魔法少女や仮面ライダーみたいに、『何よりも強く立派な存在』を辱め、蹂躙する事が出来るんだ。それを今から証明してやるのさ……!)」

 

外から複数のサイレン音が聞こえてくるのを確認しながら、すぐそばで震えるだけしかできない、哀れな人間達を見下ろすメアリ。

彼女がいるのは、市内のとあるファミレス。魔法少女姿で堂々とやってきたわけだが、勿論食事をしに来たわけではない。でなければ、わざわざ脱獄犯として指名手配されている浅倉を連れて来たりなどしない。

彼女が求めているのは、同じ魔法少女であり、因縁深い『リップル』の殺害。しかしこちらから誘っても、向こうが素直に応じるとは思えない。ならば、彼女のくだらない正義感を利用して、引き寄せれば良い。メアリに迷いはなかった。

最初に銃弾を天井に向けて撃つと、一瞬で店内が静まり返り、一瞬でパニックに陥った。次はそんな客達に向かって銃弾を撃ち込む。足や腕を撃たれて倒れこむ弱者達。やはり面白みに欠けた。魔法少女や仮面ライダーを撃ち殺す方がよほど面白い。

そこで彼女は、偶然近くにいた幼い女の子を捕らえて、銃口を突きつける事で、その場にいた全員を沈黙化させた。

 

「ママぁ……!」

「チカぁ……! お願いです! この子を離してください! お願いします……!」

「何であんたが頼み事してんのさ。立場を理解しな。あたしに逆らうな。煩わせるな。ムカつかせるなよ」

 

チカと呼ばれる少女の返還を必死に懇願する、母親らしき人物に、メアリは銃口を向ける。

店内の椅子で作られたバリケードの中に、浅倉の姿はない。厨房でイライラを解消するべく、飯を漁っているのだろう。時折、唸り声が響いてきて、その度に客達は畏怖を覚える。

メアリもボトルのワインを口にしながら、窓の外を確認する。すでに周りは特殊部隊を含めた警官達に囲まれており、その奥では野次馬に交じって、カメラマンや新聞記者達が注目している。思ったより派手に暴れすぎたようだ。

 

「……まぁ、これも全部、あのガキ共のせいだけどな」

 

メアリがそう毒づく理由。

ここ最近脱落する魔法少女は皆、自分よりもずっと歳下の少女だった。例を挙げるなら、たまやマジカロイド44だ。彼女達には、ここに至るまでずっとナメられ続けた。それが、彼女の中の憎しみを煮えたぎらせた。今も生き残っているリップルもそうだ。言動からして、まだ未成年である確信は抱いている。何度も戦う機会があったにもかかわらず、命乞いをする姿を見ていない。龍騎も標的だが、先ずはリップルを痛めつけたい。が、このまま待ち続けても拉致があかない。だからこそ、メアリは今回の計画を実行に移した。

 

「さぁ来いよ……! 今度こそ、お前の息の根を止めてやろうじゃないか……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、店外は打って変わって慌ただしい雰囲気に包まれていた。野次馬達も、思わず息を呑むほどだ。

やがて駐車場近くに、連絡を受けて駆けつけた刑事が到着した。彼がこの事件を担当するようだ。

 

「中の様子はどうだ⁉︎」

「子供とその母親がいる事以外は何も……。一応、連絡用の携帯を中に入れさせましたが、要求はありません」

「浅倉と、その共犯らしき女の姿は?」

「時折、共犯の女が窓から顔を見せたりする事はありますが、浅倉の姿はまだ確認できません。店の奥にいる可能性があるかと」

「城南地区で目撃情報の多かったあの脱獄犯が、まさかこんな所に出るとはなぁ……。それに女の方も、西洋風のガンマンのコスプレをして立てこもり、か……。こんな事例は初めてだな……」

 

ベテランの雰囲気を匂わせる刑事も、この非常事態を前に、苦悶の表情を浮かべていた。

そしてその様子を取材する記者達の中に、『OREジャーナル』が含まれているのは言わずもがな。

 

「とんでもない事になったわね……」

 

そう呟いたのは、先日、悪徳弁護士として名高い北岡とのデートに誘われた令子。もっともその彼も、つい先日原因不明の病に倒れて、そのまま息を引き取っており、彼と色々な意味で関係の深かった令子も当初はそれなりにショックを受けていたようだ。それでもすぐに開き直って、記者として再び立ち上がったあたり、メンタル面は誰よりも強そうだが。

そしてもう1人、令子の隣で拳を握りしめている正史の姿もあった。

 

「あいつら……!」

 

少し前に見えた、女の子に銃口を突きつけながら外を確認するメアリの姿を思い出し、怒りに震えていた。同じ目的を持って誕生したはずの魔法少女や仮面ライダーが、人質を取って悪さをしているという事実が、正史の中の正義感を逆撫でていく。

これ以上、彼らの悪行は見過ごせないし、何としてでも、中にいる人質達を助け出してみせる。そう決意を固めていると、懐のマジカルフォンにメッセージが送られてきた。仲間からの連絡に目を通した正史は、令子に気づかれないように、そっとその場を離れて、人目のつかないビルの屋上に駆けつけた。

屋上には既に変身しているナイト、トップスピード、リップルの姿があった。他の面々は後から合流するようだ。

 

「そっちでは何か掴んだのか?」

 

開口一番、ナイトが正史に調査の結果を尋ねる。

 

「女の子がメアリに捕まえられて、銃を向けられている事以外は、何も……。浅倉は、店の奥にいるかもって話だ……」

「まだ中にいるのは確実、か」

 

下界に見えるファミレスを睨みつけながらそう呟くリップルの口調は、明らかに尖っていた。メアリが何を目的にこの騒ぎを起こしたのか、気づいている様子だ。

 

「にしてもひでぇな……! 姐さん、マジで頭イカれたのか……⁉︎ ここまでするなんて……」

「……中宿の時と同じだ。私や龍騎をおびき寄せて、倒す為に、人の命を弄ぼうとしている……!」

「そんな事絶対させるもんか! こうなったらミラーワールドからあいつらを無理矢理にでも引き寄せて……!」

「待て」

「な、何だよナイト! 邪魔すんなよ!」

「バカが。もう少し冷静になれ。真正面からいけば、あいつらが確実に手を出してくる」

 

ナイトが指をさした先に目をやると、正史は息を呑んだ。窓には、時折ベノスネーカーや黒いメタルゲラス、黒いエビルダイバーが見え隠れしているのが分かる。周囲を監視しているのだろう。当然、周りの面々にはそれが見えていない。

 

「見つかったら、確実に面倒な事になる。人質の命の保証は先ずないだろうな」

「最悪の場合、突入したサツ達も巻き込まれるって事か……!」

 

トップスピードも、この状況を前に、地団駄を踏むばかり。この状況下で、契約モンスター達を上手く巻いて、且つ店内に侵入して人質を救出する為にも、分担の采配が重要となる。

 

「ライア達の到着を待ってから動く手もあるが……」

「それじゃあダメだ! 多分子供が保たなくなるに決まってる……! 今すぐにでも、助けに行かなきゃならねぇんだ……! オレのプライドが、そうさせるんだ……!」

「トップスピード……」

 

トップスピードの、その瞳から溢れ出る決意は、『最低でも後半年は絶対に死ねない』と豪語していた時と似たようなものを、リップルは感じ取った。

 

「オレは行くぜ。姐さんとは、腹を割って話さねぇといけない事もあるしな」

「……私も、ケリをつけなきゃならない。これ以上、あいつらのせいで誰かが泣く姿を見たくない……!」

「だ、だったら俺も!」

 

龍騎も、メアリとの戦いに赴く意思を示すが、ナイトがそれを遮った。

 

「奴らの相手はこの2人に任せるんだ。それよりも俺達は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(取り敢えず、ここまでは上手くいったか……)」

 

音を立てないように、鏡の中から現実世界に戻ってきたトップスピードは、小さく息を吐いてから、こっそりと店内を確認する。

ミラーワールドを徘徊していた契約モンスター達は、龍騎とナイトが挑発する形でファミレスから引き離し、それを確認したトップスピードは、リップルとは二手に分かれて、ミラーワールドを通じて中に入る事に成功した。

周りに気づかれないように顔を出したトップスピードは、すっかり怯えきっている客達の無事を確認する。

 

「ママ……!」

「ガキだからって、ギャアギャア喚くなよ。泣いたって、ヒーローのいないこの世界じゃ、誰も助けにきやしないのさ」

 

メアリはそう叱りつけながら、ワインを一本飲み干す。

 

「結局最後に頼れるのは、自分の力しかない。だから追い求めたのさ。あたしみたいに、最初から何も持てなかった奴が、1人でも生きていけるような力をね。悔しかったら、あんたもあたしみたいに、力を恐れず、求めてみる事だね」

 

勿論、あんたらにも言える事だけどな。

女の子にだけでなく、周りの客達にもそう論ずるメアリに、誰一人口応えできなかった。

 

「(姐さん……)」

 

メアリがどのような境遇にいたのか、トップスピードは知る由もない。トップスピード自身は、どちらかと言えば恵まれていた方になるだろう。それに自惚れて、大切な人を一度失くしてしまった事もある。そんな自分が魔法の力を手に入れた事に、メアリはどこかで腹を立てていたのではないだろうか。

 

「(けど、だからって、こんなやり方は、間違ってる筈だ……! 姐さんは、今だって、オレにとっての……!)」

 

この気持ちは、メアリに直接ぶつける他ない。その為には先ず……。

青ざめ始めている少女を見て、トップスピードは先ず、彼女のケアを始める事に。冷静に周りを見渡し、レジの側に置かれていた人形を手に取ると、少女にだけ見えるように、その人形を動かした。

彼女も、間も無く母親になる為、母性に溢れた行動で、少女を落ち着かせようと、必死になっているようだ。

少女もそれに気づいたのを確認したトップスピードは、口パクだけでこう伝えた。

 

『がんばれ』と。

少女は、魔女のような格好の人に励まされた事で、落ち着きを取り戻し、泣き止んだ。トップスピードも微笑み、絶対に助け出すと誓った。

しかし……。

 

「誰だいそこにいるのは!」

 

少女の様子が変わったのを見逃していなかったメアリが、少女の目線を辿り、誰かがいる事に気付いた。

怒声をあげたメアリは華麗にバリケードを乗り越えて、奥に隠れていた人物を確認し、口元をつりあげた。

 

「あんたか……。ご苦労なこっ」

 

不意に殺気を背後から感じたメアリは、振り返って手裏剣が向かってきているのに気づいて、トンファーの要領で叩き落とした。僅か数秒間の一手だったが、それだけあれば充分だった。

 

「ウォォォォォォォォ!」

 

客達からは見えない位置の窓から姿を現したリップルが、メアリに飛びかかる。咄嗟に銃口を向けて引き金を引くが、体当たりされた事で軌道がズレて、天井付近に着弾した。

外でどよめきが起きているのが、窓越しに分かった。突然銃声が聞こえてきた事が要因だろう。

 

「クソ……がぁ!」

「来い!」

 

そのままリップルはメアリにしがみついて、近場の鏡に吸い込まれるようにして、ミラーワールドに突入した。

ここまでは作戦通りだった。中に侵入したトップスピードとリップル、どちらか一方に注意が惹きつけられたら、その隙にもう片方がメアリをミラーワールドに連れて行く。ようやく少女が母親のもとに戻っていったのを見て、ホッと安心するトップスピード。

しかしまだ油断はできない。直後に浅倉が厨房から顔を出し、悲鳴が客達の間で飛び交った。騒ぎを聞きつけて戻ってきたのだ。そんな浅倉も、トップスピードの姿を見つけて、ニヤリと笑みを浮かべる。

 

「魔法少女か……。丁度良い」

 

次なる獲物を見つけた浅倉が飛びかかる前に、近くの鏡から、3つの人影が姿を見せて、逆に浅倉を押し倒した。龍騎とナイト、そしてライアだった。

 

「大丈夫⁉︎」

「お、おう!」

「ここは俺達に任せて、お前はリップルの所へ!」

「け、けどモンスターは⁉︎」

「向こうは、九尾達が対処してくれている。増援は無用との事だ」

 

ライアがそう呟くように、3体のモンスター達の足止めは、後から合流した九尾、スノーホワイト、ラ・ピュセル、ハードゴア・アリスが受け持ってくれているようだ。

 

「分かった! そっちは任せたからな!」

「トップスピードも、無理するなよ!」

 

龍騎に見送られながら、トップスピードもミラーワールドに突入する。そして振り返り、立ち上がる浅倉を睨みつけた。

 

「浅倉……! 関係ない人をこれ以上巻き込むな!」

「俺をイラつかせるなぁ! 変身!」

 

[挿入歌:Revolution]

 

カードデッキを取り出した浅倉は、王蛇に変身すると、龍騎達に飛びかかった。そして4人はそのままミラーワールドへ。

 

「戦いは良いなぁ……! ゾクゾクする……!」

 

ベノサーベルを振り回しながら、ドラグセイバーを持つ龍騎に殴りかかるが、すかさずウィングランサーを突き出したナイトがそれを遮り、エビルウィップを持つライアが王蛇にダメージを与えていく。しかし王蛇も、元からの狂気性を剥き出しにして、3人を相手に回し蹴りを打ち込む。

 

「日に日に強くなっているな……! これでもまだ、奴もメアリもモンスターじゃないと言い切れるのか、龍騎!」

「そんなの分かんねぇよ……! けど、こいつらがやってる事を止めるのが、ライダーと魔法少女の責務だろ!」

 

『STRIKE VENT』

 

「ハァァァァァ……! ダァァァァァァァ!」

 

反撃とばかりに、ドラグクローを装着した龍騎は、ドラグクローファイヤーを放ち、王蛇は後方に吹き飛んだ。

尚も立ち上がって首を鳴らす王蛇に向かって、龍騎は叫んだ。

 

「浅倉……! 大人しく刑務所に戻れ!」

「どこに行っても……! 俺をイラつかせる奴らばかりだなぁ!」

 

ミラーワールドに、獣の雄叫びが響き渡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、現実世界でも動きが見られた。銃声の後に続いて大きな物音がしたので、警官隊は、強行突入を試みる事に。

煙幕を店内に張り、統制のとれた動きで盾を持った特殊部隊が、先陣を切る。

しかし店内を見回しても、銃を持った女の姿はなく、バリケードの中で縮こまっていた人質しかいない。人質の安全を確保した後、店内をくまなく探したが、日暮れになっても、女も浅倉も、その痕跡すら確認する事は出来なかった。

後に、魔法少女や仮面ライダーに関するまとめサイトに、当時の事件に関する書き込みが投稿されており、このような見出しとなっていた。

 

『レストランで、人形を持った西洋の魔女が、お母さんのように子供を元気付けようとしていた』

 

 

 




『ジオウ』でも龍騎が登場し、さらにはスピンオフで『仮面ライダー龍騎』の続編(かもしれない)が公開されるそうなので、個人的には嬉しいです! どんな物語が繰り広げられるのか、楽しみです。

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