インフィニット・ストラトス ただあの空を自由に飛びたくて 作:如月ユウ
勢いでシャルルのことを抱き締めたけど、このあとどうすればいいかわからない。
というか女の子ってこんなに柔らかいんだ。ずっと抱き締めていたいというか離したくないというか。
「しゃ、シャルル」
「なに?」
上目遣いで僕を見てくる。シャルルってけっこう胸、大きい。僕に抱き付いてるから胸も同じように僕にくっついていて、少し身体を動けば胸も同じように形をかえてついてくる。
最初は男の娘に見えたけど女の子だからすごく可愛い。
「裾、離してくれるかな」
「う、うん……」
服の裾を離してくれたので僕はシャルルから離れる。けど……。
ジャージのジッパーが鎖骨下までおろされているのでその大きい胸の肌が見えてしまう。
「その……ジッパーあげてくれると僕からしてうれしいかな……」
「……悠人のえっち」
「ごめん……」
だって男の子だもん。仕方ないじゃないか。
ジッパーをあげて胸が隠れるとようやく落ち着いて話せる。
「とりあえずこのことはまだ秘密のほうがいいよね」
「そうだね……まだ、みんなに伝えるのは先かな。まだ頭の中の整理も出来てないし」
「それと」
コンコン
「「……ッ!?」」
MGSで敵兵士に見つかったような緊張が一気に走る。
ビッ!ビッ!
僕は腕を真っ直ぐ一直線にして指で洗面所兼脱衣場の部屋に行けと指示する。シャルルもコクコクと頷いて洗面所に行った。
「はーい」
なるべく慌てたような表情をしないように扉を開けた。
「悠人」
「鈴、どうしたの?」
「あんた、ご飯まだなんでしょう?ついでだから悠人も一緒にどうかなって」
「あぁ~ごめん。実は部屋でもう食べたんだ」
この部屋には誰もいれてはいけない。なんとか誤魔化してさっさと行ってほしい。
「そうなんだ……シャルルは?」
「シャワー浴びてる」
「そう……わかったわ」
「ごめん鈴、先に言っとけばよかったよね?」
「気にしないで、それと食堂で食べないならアタシに言いなよ。中華作るのに」
「たまに自分で料理しないと腕が落ちるからね」
「じゃ、アタシ行くね」
鈴が行くと扉を閉めて深く息をついた。ポーカーフェイスは少しだけ得意だからよかった。
「シャルル、もう行ったから大丈夫だよ」
シャルルが洗面所から出てくる。
「ご飯なんだけど先に食べたって言ったから食堂にはいけないんだ、ごめん……」
咄嗟の判断で先に食べたと言ってしまった。本当は何も食べてないのに……。
「だ、大丈夫だよ。冷蔵庫に食材はある?」
「軽い物とか作るからそれなりに」
「なら待ってて、僕が作るから」
「いいって僕が作るよ」
「悠人には迷惑かかってるから僕が作るよ」
「僕は気にしてないから」
「僕が気にするの」
う~む、この子かなり強情だな。男だって台所に立って戦うことが出来るんだ。
「なら妥協案として一緒に作るのはどう?」
「それならいいよ。悠人の料理も気になるし」
ほう、男が料理するのがそんなに珍しいのか。なら、見せてやろう!小学校の頃から料理をしていた実力というものを!
◇
「このムニエルうまいね」
「悠人が作っただし巻き玉子も美味しいよ」
テーブルには僕が作っただし巻き玉子とお握り。シャルルが作った鮭のムニエルが並べられている。
「シャルルも料理上手なんだね」
「お母さんの手伝いとかよくしてたからね」
また鮭のムニエルを口にいれる。お握りの具を作る用に入れておいた鮭がこんな美味しいおかずになるとは
「ムニエルってフランスの料理だったとは知らなかった」
「ムニエル以外にもポトフやキッシュ、ガレットもフランスの家庭料理なんだよ」
「ガレット?」
「簡単いれば軽食用クレープだと思えばいいよ。そば粉を使ってハムやチーズを乗せて食べるんだ。クレープと違うのはクレープが小麦粉でガレットはそば粉を使うこと」
「へぇ~」
「僕が一番好きな料理はアシ・パルマンティエかな。お母さんがよく作ってくれたの」
「名前からしてなんかすごそうな料理だね」
「悠人が思うほど高級な料理じゃないよ。むしろ、庶民だよ。挽き肉を底に敷き詰めて刻んだジャガイモをいっぱい入れて、オーブンで焼く家庭料理なんだよ」
ミートグラタンみたいな料理なのかな?今度調べて見て機会があったら、本場の味を知ってるシャルルに教えてもらおう。
◇
「話がある、山田悠人」
放課後、ISの自主練習を終えて寮に戻り、食堂に行こうとしらボーデヴィッヒさんに呼ばれた。
彼女の制服だが、上が僕と同じ男性用の制服で下がズボンじゃなくて軍袴のようなズボンをはいている。
「話すのはいいけど食堂で食べ終わってからでいいかな?」
「私も同行していいか?」
「別にいいけど……」
食堂に行くと女子の視線が僕達に刺さる。
軍人気質の女子と普通の男子という周りからして、とても異様な組合わせだと思われているだろう。
「それで話ってなに?」
僕は選んだのは肉じゃが定食。出汁でしっかりと煮込んで甘味を出したニンジンやほくほくのジャガイモを食べる。
「織斑一夏についてだ」
彼女が選んだのはカリーブルストというソーセージをぶつ切りにして焼いてケチャップとカレー粉をかけたドイツの家庭料理らしい。
「お前は織斑一夏を恨んでいないのか」
アリーナで聞いてきた同じことを僕に聞いてくる。
藍越学園の合格を取り消しにされたことを千冬さんに聞いたならまだ分かる。けど、そのことを聞いていないならどうして僕が一夏を恨まないといけないか聞きたい。
「まず、僕が一夏を恨む理由を聞きたいかな?」
「目を見れば分かる。お前の目は望んでここに来たわけじゃないと語っているからな」
これは予想外の答えだ。確かに僕はこのIS学園に望んで入学したわけじゃない。
「確かに僕はここに来たくなかったさ。もし、可能なら僕が行こうとした高校に行きたいしね」
でも、と言って僕は付け加えた。
「一夏だって僕と同じ考えだと思うよ。本当なら僕と同じ高校に行く予定だったし」
「そうだったのか」
「僕も質問してもいいかな?」
「なんだ」
「千冬さんとはどういう関係なの?アリーナで言ったあのことだけど、どうにもファンの一人のような感じに見えない。むしろそれ以上の関係に見えるような」
なんていうかボーデヴィッヒさんの場合はなにか違う理由だと思う。千冬さんに敬服しているような感じに見えるし
「……私はかつてあの人の元で訓練を受けた軍人だ」
軍人気質に見えたけど本当に軍人だったとは思わなかった。
「教官に会うまでは軍の底辺という立場で出来損ないとも言われた。教官が私の元にきて、鍛えてくれたおかげで私は特殊部隊の隊長という座に着くことが出来た」
「必死に努力したんだね」
「いや、教官がいてくれたおかげで隊長という座を得た。私、1人で努力しても底辺のままだっただろう」
それならなんというか納得出来る。1人で頑張っても結果は得られる可能性は低い。教えてもらえる人がいるから強くなれたんだろう。
僕も同じだ。ロシア代表の更識先輩や候補生である鈴やセシリアさん、シャルルがいるから強くなれる。
彼女もそうやって強くなったんだ。
「だから私はあいつが許せない。あのとき織斑一夏が誘拐されなければ……」
持っているフォークを今でも曲げそうな怒りの表情をする。
「ん~でも、それは仕方ないんじゃないかな。一夏はただの一般人だよ?そんな人がプロの誘拐犯に勝てるわけないじゃないか」
「だが、あいつがいなければ」
「ボーデヴィッヒさん」
僕は冷たい声でボーデヴィッヒさんに聞く。
「もし、もしもだよ?千冬さんが一夏のことを助けに行かないで大会に出場したら、君はそんな人を憧れたりする?君は軍人だから市民を守るのが仕事だよね?その意味は分かるよね?」
「それは……」
「僕はしないね。むしろ名誉のために家族を売った最低野郎って罵るね」
「教官を侮辱するな!」
テーブルを強く叩き、立ち上がって僕を睨みつける。その姿に驚いた女子は僕達が座っている席を見る。
「そう、そうやって僕も怒るよ。なんで一夏を放っておいて大会に出たんだ。なんで家族を見捨てたんだってね」
「っ……」
奥歯を噛み締めてボーデヴィッヒさんは乱暴に座る。
「千冬さんの家族は一夏しかいないんだ。だから名誉よりも唯一の肉親である一夏の安全を選んだ」
それから僕達は一言も話さず、ご飯を食べる。食べ終わるとトレーを返して部屋に戻ろうとしたら。
「山田悠人、お前は家族がいるのか?」
ボーデヴィッヒさんが僕に家族がいるのかと聞いてきた。
他の人が聞いたら当たり前過ぎて何言っているんだ?と言われるだろう。
けど、僕や一夏の場合は姉だけが唯一の肉親。
だから……。
「僕の家族は姉ちゃんただ一人だけだよ」
僕はそう答えた。
「お前も……織斑一夏と同じなんだな……」
「ボーデヴィッヒさんも家族がいるんでしょう?」
「私の場合は……」
そう言って口を閉ざしてしまう。ボーデヴィッヒさんの家族はどういう家庭事情なのはわからない。
可能性として虐待や僕と同じように兄弟姉妹しかいないかもしれない。
「もしかして親から虐待されたとか?あり得ないかもしれないけど愛人の子とか」
「それはない……」
「ボーデヴィッヒさんも家族が姉妹だけって言うの?」
「私には姉妹はいない……」
なんだろう……なにか附に落ちない。虐待もされてないし兄弟姉妹もいないのにどうして家族という言葉に暗い表情をするんだろう。
「ボーデヴィッヒさん、その……僕でよければ相談にのるよ?嫌なこと吐き出すだけでも気分は晴れると思うし」
「少し長い話になるがいいか?」
「いいよ」
「なら、ついてこい」
食堂を出てるとなぜか寮にも出てしまう。それほど誰にも聞かれたくない話なのか?
寮から離れると蛍光灯のあるベンチに座った。
「山田悠人、実は私は……」
ボーデヴィッヒさんの話を聞くと疑い深い内容だった。
まさか……こんなことがあったなんて思わなかったから。