インフィニット・ストラトス ただあの空を自由に飛びたくて   作:如月ユウ

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20話 ヴァルキリー・トレース・システム

深い闇が僕を包む。

周りは黒一色、それ以外の色はない。

 

「ここは」

 

僕はストライクを外していた。着ている服もなく、裸体の身体だった。足に浮遊感はなく、しっかりと地面を踏んでいる。歩くこと出来そうだ。

 

「進んでみよう」

 

ここにとどまるより歩いたほうがなにか見つけられるかもしれない。

歩く、歩く、ただひたすら歩く。

 

「ふぅ……」

 

歩き続けて1分?1時間?はたまた1日?どれくらい歩いたかわからない。だけど僕は歩く足を止めない。

 

「あれは……」

 

遠くから人を見つけた。僕と同じく裸体だった。

 

「あの人に聞いてみよう」

 

ここは何処か分かるかもしれない。僕は歩いて近付いた。

その人は少女だった。長い銀髪でとても細い身体つき、少女は身を縮こませて顔を隠して座っていた。

 

「大丈夫?」

 

少女に声をかける。

顔をあげると片目だけは赤く、もう片目は金色だった。

 

「おまえは……」

「えっと……ここに迷いこんだ人かな?」

 

ここは何処かわからないので迷ったと言っておこう。

 

「君はどうしてここに?」

「私は……誰なのかわからない」

「わからない?」

「私は誰で誰なのか……わからないんだ……」

 

この子、自分が何者か分からないままずっとここにいたのかな?

 

「うーん……わからないなら探してみたらいいんじゃない?」

「探す?」

「わからないままだとどうすればいいか考えられないよね?ならこんな場所にいないで立って探してみればいいよ」

 

僕は少女に手を差し伸べる。

 

「こんな暗い場所よりも光がある場所に行ってみようよ。そこなら君が求めるなにかがあるかわかるかも」

「…………」

 

少女は口を閉ざして黙る。

 

「その一歩が踏めないなら僕と一緒に踏み込んでみようよ」

「お前と一緒に?」

「そう。ほら、僕の手に触れて」

 

ゆっくりとぎこちないが少女は僕の手に触れた。

 

 

 

 

「なんだよ…あれ」

 

ラウラと悠人を包んだ『あれ』は一度溶かしてから再度作り直して泥人形と化した。その手には一振りの刀を持っている。

 

「雪片……」

 

あれは千冬姉が使っていた雪片にそっくりの刀だ。

 

「てめぇ……よくも悠人を!」

「待て一夏!」

 

あのISに近付こうとしたら箒が止めにくる。

 

「離せ、箒! あいつは悠人を!」

「お前がやらなくても」

『非常事態発令! トーナメントの全試合は中止!状況レベルをDと認定! 鎮圧のため教師部隊を送り込む! 来賓、生徒はすぐに避難すること! 繰り返す!』

「先生達が2人を助けに来る。だからお前が」

「助ける必要がないとでも? ふざけるな!」

 

あいつは悠人だけじゃなくて千冬姉の雪片まで持っていきやがった。こんなことされて黙って見てられるわけがない!

 

『……ちか……! 一夏! 聞こえる?』

「悠人!」

 

個別回線(プライベート・チャンネル)から悠人の声が聞こえる。

 

「悠人、大丈夫か!」

『心配しないで、ボーデヴィッヒさんだけどなんとか意識は保ってる』

「一夏、悠人は大丈夫なのか?」

 

そうだった、俺にしか回線開いてないから箒はどういう状態かわかってないんだった。

 

「悠人は大丈夫って言ってる」

「そうか…」

『一夏、白式のシールドエネルギーはまだ残ってる?』

「シールドエネルギーは大丈夫だ」

『なら、零落白夜を使って僕ごと斬りつけて』

「斬りつけろ……ってお前はどうなるんだよ!」

『大丈夫、ストライクの装甲はフェイズシフト装甲。シールドエネルギーが無くてもストライクのバッテリーは残ってるから零落白夜の攻撃にも耐えられるよ』

「だけど悠人」

『僕を信じなくていいよ。僕よりストライクを信じて。僕とボーデヴィッヒさんを守るストライクを』

 

普通なら自分を信じろというが悠人は自分ではなく機体を信じてほしいと言っている。悠人は自分に自信を持てないと言ってるが悠人が言う言葉には説得力がある。

 

『僕達2人はストライクが守ってくれる。だから零落白夜を使ってこの泥を取り除いてほしい』

「……わかった。お前の機体を信じる」

『うん、僕とボーデヴィッヒさんを守るストライクを信じて零落白夜を使って』

「あぁ」

 

回線を切り、俺は雪片弐型を構えて零落白夜を発動させる。

 

『織斑、そいつは教師部隊が相手をする』

「千冬ね……織斑先生、こいつは俺にやらせてください。悠人から託されました。ストライクを信じてほしいと」

『……よかろう』

『織斑先生! 織斑君にやらせるつもりですか!?』

 

回線から山田先生の声も聞こえる。

 

『真耶、お前の弟は織斑に任せてほしいと言った。弟を信じろ』

『……わかりました。織斑君、悠人をお願い』

「はい」

 

回線を切られ、俺は黒いISと対峙する。

 

「いくぞ真似事野郎」

 

白式を加速させて接近するとISは大きく雪片を振る。

 

「千冬姉の真似事なら!」

 

斬り上げて雪片を弾き。

 

「俺は!」

 

勢いをつけたまま雪片弐型を大きく振り

 

「負けない!」

 

縦に一閃して断ち斬る。

黒いISは真っ二つに割れるとラウラを抱き締めたストライクが出てきた。

 

「悠人!」

「大丈夫、ボーデヴィッヒさんの意識はあるよ」

 

悠人に抱き締められたラウラは気を失っていたが意識はあった。

 

 

 

 

「もし、私の弟とその友達に会うときは気を付けろよ?あいつらは妙に女を刺激するような事をしてくる。特に友達のほうはあの人と同じ信念を持ってる。気持ちが弱っているとき、手を差し伸べられたらすぐ惚れてしまう」

「教官も惚れているんですか?」

「年下のあいつらに惚れるわけないだろ。まあ…友達のほうは大人になってあの人と同じ姿になっていたら惚れるかもしれない」

 

私から視線をそらして誤魔化している。なんというか羨ましいと感じた。

教官の姿が見えなくなり、教官の弟の姿が私の前に出てくる。

 

『強さってのは心の存処。己の拠り所。自分がどうありたいか常に思うことだと俺は思う』

 

そう……なのか?

 

『俺はそうだが他はどう思っているか知らない。だが、俺はその強さを求めて強くなろうと思ってる。お前はどうなんだ?』

 

私は……わからない。

 

『そうか……まあ、仕方ないさ。なら、自分がやってみたいことをやってみろよ。人生1度きりなんだから好きにやらなきゃ損だろ?』

 

私が……好きなこと……。

 

『俺は強くなってみんなを守りたい。だから強くなるんだ』

 

そう言うと姿を消して、別の男が現れる。教官が言っていたあの人に似ている青年だった。

お前はあの人と同じように誰かを助けたいのか?

 

『あの人って?』

 

織斑教官が今も憧れている人のことだ。

 

『もしかしてお父さんのこと?う~ん…お父さんみたいになれるならなりたいけど僕には無理かな』

 

どうしてだ?

 

『簡単な話だよ。僕が弱いからね』

 

お前が弱い?

 

『うん、僕は一夏と違って運動は出来ないし勉強も駄目だし…でもね、そんな僕のことを好きって言ってくれた人がいるんだ』

 

そいつを守りたいのか?

 

『そうだね……守りたいかな。その子のために強くなりたいとは思う。でも……』

 

どうした?

 

『僕よりも他の人を選んで欲しいかな。誰かに必要とされるのはいいけど、それ以上の関係にはなりたくないんだ。僕以上に良い人はたくさんいる』

 

どうしてだ?そいつはお前のことを想っているんだろ?

 

『うん……でも、好きな人を優先して他の人を無下にするのは僕自身が許せない。現に僕より苦しい思いをしている人がいる。その人を助けたいんだ』

 

それがお前の強さなのか。自分の幸せを捨てて他人を助けることがお前の……。

 

『強さかどうかは分からない。でも、僕はそれで良いと思ってる』

 

そうか……それは辛い選択だな

 

『ボーデヴィッヒさんはずっと独りでとても辛かったよね』

 

独り……そうかもしれない。教官が日本に帰ってからずっと独りでさびしかった。

 

『そっか……うん、決めた。ボーデヴィッヒさんを支えてくれる人が見つかるまで僕が一緒にいてあげる』

 

私の……側に?

 

『僕なんかよりも良い人はいるけど、その人が見つかるまで僕が居場所になる。こんな僕で良ければ……ね』

 

青年は照れているというより自信なさげに言っているように見えるがその強い信念を持つ彼は私が敬服している教官と同じような姿に見えた。

 

 

 

 

「う……」

 

目を覚ましたラウラはベットから起き上がる

 

「起きたか」

 

傍らに千冬と悠人がいた。

ラウラが気を失ったあとISを解除した悠人はそのまま保健室にラウラを運ばせてラウラが起きるまで看病をしていた。

 

「私は……」

「お前の容態だが全身に無理な負荷がかかったことで筋肉疲労と打撲がある。しばらく動けないだろうから無理はするな」

「何が…起きたのですか?」

「一応重要案件である上に機密事項なのだがな…VTシステムは知ってるな?」

「あの……機密なら僕は席を外したほうがいいですよね?」

 

機密事項なら部外者である悠人は保健室に出たほうが良いと本人は思っていた。

 

「いや、山田はここに残って構わない。ボーデヴィッヒ、説明しろ」

「はい。正式名称はヴァルキリー・トレース・システム。過去のモンド・グロッソの部門受賞者(ヴァルキリー)の動きをトレースするシステムですが」

「IS条約で現在どの国家組織企業においても研究開発使用がすべて禁止されているそれがお前のISに積まれていた」

 

超越した人物の戦闘能力を真似るために造られたシステム。まるで……。

 

「EXAMシステム……」

 

思わず悠人はそう呟いた。

EXAMシステムは能力的にニュータイプに劣るオールドタイプに、NTに対抗できる戦闘能力をシステム補助で付与させることを目的として開発されたニュータイプに似せた能力を発揮するシステム。

そのシステムはパイロットの脳に大きく負荷がかかり最悪の場合、パイロットが死亡して暴走することがある。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ、お前は何者だ?」

 

自分の出身国、所属と階級、搭乗IS、恩師は誰か。

それらを一言逃さず言えるが今の自分は何者なのかわからない。

 

「何者でなければお前はラウラ・ボーデヴィッヒだ」

「えっ?」

「ちょうどこのIS学園に在籍しているんだ。自分は何者なのか自分で探して見つけたらいい」

 

席を立って保健室を出ようとする。

 

「それと」

 

扉に手をかけようとしたところで振り向いた。

 

「お前は私にはなれん。私は私、お前はお前だ」

 

そう言ってニヤリと笑い、保健室を出た。

 

「ボーデヴィッヒさん」

 

千冬がいなくなり2人っきりになった保健室で悠人は口を開いた。

 

「その……ガンダム興味ある?」

「ガンダム?」

「うん、自分を見つけろと千冬さんは言ったけどそれは難しいんじゃないかな?」

 

自分達はまだ二十歳すら超えていない。自分探しなんてまだやらなくてもいいだろう。

 

「だからさ、ガンダムとか興味ないかな?部屋にDVDあるからさ」

「いいのか? 私はお前の友達を傷付けたんだぞ」

「もちろんだよ。僕達友達でしょ?」

「友達……」

「怪我が治ったら僕の部屋に来て、部屋番号は1040だから」

 

悠人も立ち上がり保健室を出ようとする。

 

「まだ怪我しているから大変だけどお大事に」

 

手を振って保健室を出た。




一夏と悠人
どっちがラウラの嫁になるか次回あたりでわかります
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