タイムアタックが終了すると、コース内やパドックエリアでは別のイベントが進んでいく。
その中でも、思わぬ伏兵となった内藤自動車のピットには、十数名の野次馬が集まっていた。
他チームのドライバーやメカニック、雑誌関係者などが、興味津々にスープラと久永に視線を送る。
その中で、何人かは内藤の姿に気が付いていた。
「……ほー。ドライバーの事はよく分からないが、あいつが車を作ったとなるなら話は別になるな」
視線の主は、宮川雷斗。ライジングのテストドライバーとしてR35を駆り、予選二番手のタイムを叩き出した。しかし、かつてはトップレベルの首都高ランナーだったのだ。
「確かに、出てくるって噂は聞いてた。だけど、まさかスープラを持ち込んでるとは思わなかったぜ」
それに答えるのは、舘渡。MADSPEEDのオーナードライバーで、彼もまた首都高では名の知られた走り屋だった。
「まぁ……一番の標的は、ファクトリーFUJIの方だがな」
宮川はそう呟く。
「岩崎基矢……GTドライバーだからか?」
舘の言葉に、宮川は頷く。
「ああ。それに……あの蒼いR34は、随分昔に首都高で見たあのマシンと同じオーラを持っている気がしてる」
「……迅帝か。あのマシンとドライバーの事は、俺たちは片時も忘れちゃいないぜ。
本当にあいつかは確かめる術もないが……。あいつかどうか確かめるには、いい機会だ……」
宮川の言葉に、舘はニヤリと笑う。
「今回は、お前の出番は無いぜ。そのニューマシンじゃ、苦しいだろう」
「……うるせー。こっちも色々あるんだよ」
そう言い残し、お互い自分のピットに戻っていった。
ファクトリーFUJIのピット内。雑誌の取材に応対した美世は、出来るだけ波風の立たない受け答えで済ませた。
アイドルとレーサーの二刀流を務める彼女の場合、色眼鏡で見られる事も多々ある。当たり障りの無い答えですら、あらぬ方向に捉えられてしまう事だってある。
「……ふぅ」
一通りの取材が終わると、ドッと疲れが押し寄せてきた。
「アイドルって職業も難儀だね」
横から岩崎の茶々が入る。
「仕方ないですよ……。でも、ドライバーの活動もやりだしてから、アイドル関係の仕事も急に増えだしたんです。
良いんだか悪いんだか、よくわからないですね……」
美世は、首をかしげながらぼやいた。
「意外とそういうもんさ。
だけど、原田さんは間違いなくレーサーとしての素質の方が高いと思うよ」
岩崎は、そうフォローを入れた。
「……ありがとうございます」
そう答える美世だが、目線はR32をずっと捉えていた。
内藤自動車とWINDYが陣取る15番ピット内。
満足のいく結果をだし、一息つく久永。
「すげぇよな……。久永さんが、まさかポールポジションとれるなんて、思わなかったぜ」
改めて結果を見る拓海は、そう言葉をだした。
「……たまたま、上手くいった結果ですよ」
久永は謙遜するように答えた。
「でも、日本最速を決める大会でトップタイムですよね?」
夏樹は、興奮冷めやらぬ様子でそう言うが。
「……でも、これからが本番ですから」
「その通りだぜ」
久永の言葉に追従したのは、内藤だった。
「一番速いタイムを叩き出したとは言え、決勝レースとなるとまた走り方が変わってくるんだぜ。
タイムアタックとレースじゃ、勝手が違うんだからな」
念を押す内藤に、久永は頷いた。
隣の16番ピット。WINDYが陣取るピットに、とある来訪者が現れた。
彼の放つ独特のオーラを受けて、周囲を取り囲むギャラリーたちが、モーゼの十戒の如く道を開ける。
「……おう。随分と久しぶりだな」
高橋はニヤリと笑いながら、その男を出迎える。
「……ああ」
その男。赤崎翔は、言葉少な目に答えた。
そして、赤崎の視線の先には、漆黒のフェアレディZが静かに待っていた。
(……この人が、カミカゼショウ)
トップレーサーの放つその雰囲気に、拓海は圧倒されてしまう。
「……えっと、今日ゲストで来てる人ぽよ?」
なんとなくで、里奈はそう聞いた。
「ああ。アメリカの大スターだぞ」
茶化すように、高橋はそう言った。しかし、赤崎は特に反応はしなかった。
赤崎の視線は、Zから拓海へと切り替わった。そのまま、フッと小さな笑みを溢して、拓海の肩をポンと叩き一言だけ告げた。
「……大事に乗ってやってくれ」
「…………はい!!」
拓海の言葉に満足したのか。赤崎はそのまま、WINDYのピットを立ち去って行った。
「高橋さん……このZの前の持ち主と、チューニングしたのは……?」
「まぁ……それ以上は言わんでいいぞ。お前さんの思ったとおりだからな」
拓海は、静かに首を縦に振った。
14時10分。
TCFのメインイベント。チューニングカースーパーバトルのスタートまで、残り20分と迫る。
各マシン、ピットロードにマシンを整列させ、臨戦態勢を整えていた。
そして、ピットレーンオープン。
己の牙を隠すかのように、ゆっくりと静かにコースへとなだれ込んでいく。
初のレースが大舞台。
しかし、拓海は不思議とリラックスしていた。
(……このZは赤崎さんが乗っていたんだ。そんで、作ったのは……高橋さんだった)
大昔に憧れた、一瞬の情景が蘇った時。拓海は不思議と、ヘルメットの中で笑みを作っていた。
「……頑張ろうぜ……相棒!!」
拓海は声を張り上げた。
ポールポジションを獲得したのは久永のスープラ。
しかし、本番のレースとなれば、FRの弱点が浮き彫りになると美世は考えていた。
(……スタートから勝負だよ)
美世は勝負を仕掛けるタイミングは、最初からだと定めていた。
バイザーから見える風景に、彼女は何を思うのか。
先を行く各マシンのテールランプの列を、無言で見つめる岩崎。
「…………」
ジッと真っすぐに前を見つめ、ひたすらに集中力を高めていく。
その瞳に宿る闘志は、外からではわからない。
スタックのレーシングメーターは、水温、油温、油圧等、全ての数値が安定してる事を示していた。
久永の目前に見えるマシン達は、日本で屈指の走り屋達だと形容しても差し支えは無い。
(……ここが僕にとっての終着点)
そう思った瞬間、ステアリングを握る手に力が籠る。
(……夢にまで見た舞台なんだ!!)
各車、グリッドに整列。カテゴリーに縛られない、モンスターマシンの群れ。周囲を威圧するかの様な迫力、オーラの様な物がホームストレート上に漂っていた。
これこそが、本物のチューニングカーの証である。
「さあ、全車グリッドに着いきました。フォーメーションラップを挟んだ後に、いよいよスタートです」
ターボ佐藤も、興奮を隠しきれない様で、単語の一字一句に力が籠っていく。
「この決勝のレースですが、菊地さんと赤崎さんは、どのマシンに注目しますか?」
「……そうですね。自分は、やはり予選12位のZ32ですね」
「Zですか……意外ですね」
「個人的なことですが、昔乗ってたんですよ、Zに。良いクルマでしたよ」
赤崎の答えは、至極個人的な意見だった。
「そうでしたか。やはり、自分が乗っていた車には、思い入れがありますもんね。
では、菊地さんは、どのマシンに注目していますか?」
「自分は……ポールポジションのスープラでしょうね。
マシンメイキングを見る限りは、かつてのGT選手権に出ていたスープラと遜色がないですし。予選の走りを見る限り、ドライバーの腕も確かです」
「なるほど……。
では、いよいよフォーメーションラップ開始。いよいよ、スタートが切られます」
14時30分。フォーメーションラップ。
勢ぞろいした各マシンは、ゆっくりとローリングラップを開始した。
ポールポジションの久永は、ゆっくりとマシンをスタートさせた。
(まずは、タイヤを温めないと……)
左右にマシンを振って、フロントタイヤに熱をいれる。更に、2速のハーフアクセルで軽くホイールスピンを誘発させて、リアタイヤを発熱させる。時折、一気に減速させ、ブレーキも適正温度に上げる。
モンスターマシンを手なずける為の、儀式のような物だ。
(……ドキドキするな)
心臓が、口から飛び出そうなほど大きく動いているのが分かった。
≪……久永。聞こえるか?≫
無線から、内藤の声が聞こえる。
「……聞こえます」
答えた久永は、やや上ずった口調だ。
≪……良いか。間違いなく、スタートの時点で他のGT-R勢には先行される。だから、スタートは焦る必要はないぞ≫
「…………」
内藤の指示に、久永は反応しない。
≪……それとな。一個アドバイスしとくぜ≫
「……何でしょう?」
そのアドバイスの内容とは。
≪……気合だけは負けんなよ≫
「…………はい」
久永は、静かに答えた。
セカンドグリッドの宮川雷斗。ライジングR35は、スープラのテールを見つめつつも、バックミラーに映されたR34GT-Rも見つめていた。
(……楽しませてもらおうか。今ここに並んでいる奴らには……あの頃と同じモノを感じとれるからな……)
宮川は、若かりし頃の熱い思いが蘇っていた。
セカンドローを分け合った、ファクトリーFUJIの2台。
岩崎は、ただ前を見据えるのみ。今の岩崎はレーシングドライバーでもない。
(さあ……遊ぼうぜ!!)
今ステアリングを握る岩崎基矢は、かつての首都高の王者“迅帝”である。つまり“走り屋”なのだ。
美世はマシンを大きく振って、フロントタイヤに執拗に熱を入れる。
伝説の走り屋が駆ったマシンを、富士で乗る。そうなれば、決して恥ずかしい走りをする事など出来ない。
(……岩崎さん。借りは返させてもらいますよ)
そう。彼女もまた、迅帝に敗れ去った走り屋の一人なのだ。
スペンサーのR35を駆る山田。
しかし、スペンサーのR35GT-Rは、他のマシンと毛並みが大きく異なる。
(……他と同じペースで走ったら、タイヤが持たないじゃんか)
完全なストリート仕様の為、フル装備に加えてロールバーも追加している。他のマシンと比較して、300kgはハンデを背負っている。同じなのは精々Sタイヤくらいの物。
(ま、自走でサーキット入りしてるのは、こいつくらいだし……少しくらいは良い所見せないと不味いじゃん!!)
しかし、それでも挑む事に意義がある。山田も、そしてスペンサーも、また挑戦者なのである。
MADSPEEDの看板を背負う、ロータリーチューナーとして名高い舘渡。
今回の為に、新たなマシンとしてRX-8を製作した。
(……究極のロータリー仕様として、こいつを投入したんだ。まだ勝てるほど煮詰まっては居ないが……やるだけやってやるぜ!!)
4ローターのNAマシン。そのソプラノのエキゾーストは、今回の参加車両の中でも群を抜く注目度だった。
しかし、それでも上位にタイムを刻むあたりは流石と言う他に無い。
ローリングラップを終えて、全車グリッドに整列する。
「ついに、全てのマシンが整列しました。5ラップ先のチェッカーフラッグは、どのマシンが一番先に受けるのでしょうか!!」
レッドシグナルが、一つ、二つ、三つと点灯していくと、各マシンのエキゾーストノートが一層鳴り響く。
シグナルオールレッド。
そして……ブラックアウト。
「……オールジャパン・チューニングカー・フェスティバル!! 今年のレースを制するのはどのマシンでしょうか!!
その幕が、今切って落とされました!!」
轟音とスキール音がサーキット中を支配した。解き放たれた野獣の咆哮に、全ての観客は釘付けとなった。
ポールポジションのスープラは、FRという事もあり、ゼロスタートは相当に不利である。ホイールスピンが収まらず、前に進まない。
(……やっぱりスタートはダメですね)
1速、2速は、ハーフアクセルで待っているしか出来ない。三台のGT-Rに先行を許し、スペンサーのGT-Rにも並びかけられた。
対してロケットスタートを決めたのは、美世の駆るR32だ。岩崎のR34に先行し。フロントローの2台の真ん中に割って入る。
そのまま、スープラを抜きさってライジングのR35にも並びかけた。
1コーナーまでの加速勝負。
(悪いが、ラインは開けんぞ!!)
イン側のラインをキープした、ライジングR35が2コーナー立ち上がりで前に出る。
(……まだチャンスはあるよ)
しかし、美世のR32もぴったりと後ろに喰らいついた。
3番手には岩崎のR34が続く。
久永のスープラは、一度はスペンサーのR35に並ばれたが、1コーナーの飛び込みで前に出る事ができた。
(少し離されてる……何とか、追いつかなきゃ)
久永はスープラのステアリングを、一度握り直した。
トップ3台が、均等な間隔で100Rとヘアピンを駆け抜ける。
しかし、コーナリング速度の高さを生かして、久永のスープラはジリジリと差を詰めていく。
岩崎は300R手前で、ミラーでスープラとの差を確認した。
(……やっぱり、コーナーは向こうの方が速いな)
久永の速さに敬意を表しながら、次の一手を模索する。
(…………おそらく、原田さんがストレートで仕掛けるから。次の1コーナーで仕掛けるしかないな)
先手先手を読む事。すなわち、駆け引き。
これこそが、岩崎が本番のレースで結果を残せるファクターである。そして、首都高でトップを走った、最大の要因がそれなのだ。
トップ四台から少し離された、5位争いも熾烈。
山田の駆るスペンサーのR35と、MADSPEEDのRX-8が激しいデッドヒートを繰り広げていた。
コーナーでスピードを稼ぐRX-8を、見事に封じ込める山田。
(……こっちは重量が大ハンデになるじゃんか。悪いけど、ここは抑えさせてもらうじゃん!!)
ブレーキングでは飛び込めない、絶妙なライン取りで付け入る隙を与えない。
コーナー進入でこそ、RX-8は差を詰めるが、立ち上がり加速は圧倒的にスペンサーのR35が上回っていた。
(……さすがは、ツーリングカーのスペシャリストだな……。全然入れねぇ!!)
700馬力を絞り出す、4ローターの咆哮が唸りをあげる。しかし、VR38DETTの圧倒的な中間トルクには、お手上げだった。
舘は先の展開を予想し、山田のR35をぴったりとマークする。
(……ただ、ストリート仕様だけあって重量は段違いに重たいんだ。Sタイヤを履いてるとはいえ、間違いなく後半は厳しくなる筈だ……)
目前のマシンを撃墜するには、あらゆる要素が含まれる。こちらのバトルも、当分目が離せなくなりそうだ。
セクター3のテクニカルセクションで、トップ4の差はさらに縮まる。
均等な間隔で最終コーナーを立ち上がった。
ここからが、富士スピードウェイ名物の、スリップストリーム合戦だ。
(立ち上がりで離される……)
トップの中で、1台だけのFR。スープラは、立ち上がりの加速が泣き所だ。
3速にシフトアップして、ハイブーストに切り替える。2,2キロの加給圧で、トップスピードを稼いで食い下がる。
その僅か前方。
美世はR32に鞭を入れ、ライジングR35のスリップストリームに入った。
(……インは開けんぞ!!)
宮川もインにマシンを寄せてブロックラインを通る。
その後方。岩崎のR34も、美世のテールに張り付いて、2台の隙を覗き見る。
3台縦一列でコントロールラインを駆け抜ける。
LAP2。迫りくる1コーナー。
(……インは開かないなら……アウトだ!!)
美世はR32をアウトラインに寄せる。
その動きを見て、宮川もR35をアウトに寄せてブロック。
(……ここだ!!)
2台の動きを見て、岩崎はブレーキングでR35のインへ切り込む。
「おおっと!! ここで三台並び……スリーワイドになったぁ!!」
実況席も、興奮の坩堝となる。2週目の1コーナー、トップ三台が並んだまま1コーナーに飛び込んだ。
(……いただき!!)
一番有利なラインを奪った岩崎。R34は、一気に二台を抜き去ってトップを奪取した。
(インに居ただと!?)
R32ばかりに気を取られ、岩崎のR34に隙を見せてしまった宮川。悔やんでも、今更遅い。
立ち上がりで、岩崎のR34のテールを拝んでしまう。
その更に外側。美世のR32は、結局前には出られず、つい舌打ちが出てしまった。
(ライジングの35を料理しないと、岩崎さんに逃げられちゃう……)
気を取り直して、シフトアップ。R35の後方に喰らいついて、隙を探る。
1コーナーでの三台並びを、マジマジと見せられた久永。しかし、前方でバトルがあったおかげで、大きく差を詰められた。
(……逃がさない)
ベストラインでクリアし、コカコーラコーナーまでの加速勝負で、美世のR32のテールに張り付いた。
四台が等間隔のまま、コカコーラコーナーを立ち上がり、100Rに飛び込んでいく。
イン側のラインをキープする美世のR32。
(抑えさせてもらいますよ!!)
セオリーに忠実なブロックラインでブレーキング。
しかし、久永はミドルラインからブレーキングを遅らせて、外からR32に並びかける。
(……ここは、僕の方が速いんです!!)
アウト側からオーバーテイクを仕掛ける、大外刈り。かつてのF1GP、鈴鹿の1コーナーで見せた、中島悟の大技だ。
(アウトからなの!?)
100Rをサイドバイサイドで駆け抜けるスープラとR32。
外側のラインを塞がれ、立ち上がりでアクセルを踏めない美世に対し、久永はコーナリング速度をキープしたまま立ち上がる。
そして、ヘアピンの突っ込みではイン側のラインをキープ。スープラの鼻先を前に出した。
(……そんなに速いの!?)
並ばれた美世。左ウインドウ越しに見えた、スープラのシルエットに驚愕するしかなかった。
(でも……立ち上がりはこっちが有利だよ!!)
クリッピングポイントで、スープラのインを狙う。ラインをクロスさせて、立ち上がりで抜き返す狙いだ。
しかしだ。2速でのフルスロットルでは、僅かに挙動を乱してしまう。
対して久永は、早めに3速にシフトアップ。綺麗にリアタイヤを転がして、立ち上がりのトラクション不足をカバー。双方4速にシフトアップすると、スープラが一気に前に出た。
(伸びは向こうの方が上よね……)
300Rで、美世は4位にドロップ。しかし、まだまだレースは始まったばかり。気を取り直して、前を走るマシンの隙を伺う。
等間隔のまま300Rをクリアし、テクニカルなセクター3に入っていく。
低速のダンロップコーナーで、前方との差が大きく縮まる。
(……ここからが勝負所だ!!)
コーナリングマシンへと生まれ変わった、久永のスープラ。
立ち上がりこそGT-R勢に後れを取るが、コーナリング速度を稼ぐ事によって、スーパーラップを叩き出しているのだ。
大きく曲がり込むプリウスコーナーで、ライジングのR35のインを刺そうかと、久永は牽制を入れる。
(……ここで抜けると思ってるのか!? 抜かせるか!!)
宮川は立ち上がり重視のラインをキープし、最短距離でプリウスコーナーへアプローチを試みた。
(……狙い通りだ!!)
久永は、その瞬間を狙いすませていた。
複雑な形状で、奥に行くほどきつくなるネッツコーナーは、クリッピングポイントを二つ取るのが、ベストラインになる。
一度ミドルからインへ切り込むラインから進入し、一つ目のクリッピングポイントを取る。そのままコーナー中ごろで、ブレーキングしながらアウトに一度はらみ、さらにもう一度インへ切り込む。そのまま二度目のクリッピングポイントを通って、アウトまで立ち上がる。
俗に、三角ラインと呼ばれる、複合コーナーの攻略法。これがネッツコーナーを、もっとも速く駆け抜けるラインだ。
宮川は、セオリー通りのスローインファストアウトを徹底した三角ラインで、R35をアプローチさせる。
対して、久永は大きくアウト側からアプローチ。ギリギリまでブレーキングを遅らせて、コーナー全体をインベタで曲がり込んだ。
(……ここでインに入るだと!?)
一度アウトに膨らませるR35のイン側を、えぐり込む様にスープラがインへ刺し込んできた。旋回性能を生かし、小さく回り込んだスープラ。R35とサイドバイサイドで、プリウスコーナーを立ち上がった。
(……舐めるな!!)
意地になった宮川は、フルスロットル。しかし、大パワーにタイヤが耐え切れず、挙動を乱していた。縁石から半車身はみ出し、立ち上がりで後れを取ってしまう。
そのまま、最終コーナーの飛び込みで久永が前に出た。
(……よし!!)
ホームストレートに戻ってきた時。前方に見えるのは、蒼いR34の後姿だけだ。
LAP3。トップを走るのは、ファクトリーFUJIのR34。
その後姿は、若き頃に久永が見たテールランプその物だった。
(……絶対に追いついてやる!!)
ホームストレート。久永は、床を突き破らんばかりの勢いで、アクセルを踏みぬいていた
次回でラストになります。