首都高のシンデレラ 2nd   作:囃子とも

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13th TCF決勝

 

 タイムアタックが終了すると、コース内やパドックエリアでは別のイベントが進んでいく。

 その中でも、思わぬ伏兵となった内藤自動車のピットには、十数名の野次馬が集まっていた。

 他チームのドライバーやメカニック、雑誌関係者などが、興味津々にスープラと久永に視線を送る。

 

 その中で、何人かは内藤の姿に気が付いていた。

「……ほー。ドライバーの事はよく分からないが、あいつが車を作ったとなるなら話は別になるな」

 視線の主は、宮川雷斗。ライジングのテストドライバーとしてR35を駆り、予選二番手のタイムを叩き出した。しかし、かつてはトップレベルの首都高ランナーだったのだ。

「確かに、出てくるって噂は聞いてた。だけど、まさかスープラを持ち込んでるとは思わなかったぜ」

 それに答えるのは、舘渡。MADSPEEDのオーナードライバーで、彼もまた首都高では名の知られた走り屋だった。

「まぁ……一番の標的は、ファクトリーFUJIの方だがな」

 宮川はそう呟く。

「岩崎基矢……GTドライバーだからか?」

 舘の言葉に、宮川は頷く。

「ああ。それに……あの蒼いR34は、随分昔に首都高で見たあのマシンと同じオーラを持っている気がしてる」

「……迅帝か。あのマシンとドライバーの事は、俺たちは片時も忘れちゃいないぜ。

 本当にあいつかは確かめる術もないが……。あいつかどうか確かめるには、いい機会だ……」

 宮川の言葉に、舘はニヤリと笑う。

「今回は、お前の出番は無いぜ。そのニューマシンじゃ、苦しいだろう」

「……うるせー。こっちも色々あるんだよ」

 そう言い残し、お互い自分のピットに戻っていった。

 

 ファクトリーFUJIのピット内。雑誌の取材に応対した美世は、出来るだけ波風の立たない受け答えで済ませた。

 アイドルとレーサーの二刀流を務める彼女の場合、色眼鏡で見られる事も多々ある。当たり障りの無い答えですら、あらぬ方向に捉えられてしまう事だってある。

「……ふぅ」

 一通りの取材が終わると、ドッと疲れが押し寄せてきた。

「アイドルって職業も難儀だね」

 横から岩崎の茶々が入る。

「仕方ないですよ……。でも、ドライバーの活動もやりだしてから、アイドル関係の仕事も急に増えだしたんです。

 良いんだか悪いんだか、よくわからないですね……」

 美世は、首をかしげながらぼやいた。

「意外とそういうもんさ。

 だけど、原田さんは間違いなくレーサーとしての素質の方が高いと思うよ」

 岩崎は、そうフォローを入れた。

「……ありがとうございます」

 そう答える美世だが、目線はR32をずっと捉えていた。

 

 

 内藤自動車とWINDYが陣取る15番ピット内。

 満足のいく結果をだし、一息つく久永。

「すげぇよな……。久永さんが、まさかポールポジションとれるなんて、思わなかったぜ」

 改めて結果を見る拓海は、そう言葉をだした。

「……たまたま、上手くいった結果ですよ」

 久永は謙遜するように答えた。

「でも、日本最速を決める大会でトップタイムですよね?」

 夏樹は、興奮冷めやらぬ様子でそう言うが。

「……でも、これからが本番ですから」

「その通りだぜ」

 久永の言葉に追従したのは、内藤だった。

「一番速いタイムを叩き出したとは言え、決勝レースとなるとまた走り方が変わってくるんだぜ。

タイムアタックとレースじゃ、勝手が違うんだからな」

 念を押す内藤に、久永は頷いた。

 

 

 隣の16番ピット。WINDYが陣取るピットに、とある来訪者が現れた。

 彼の放つ独特のオーラを受けて、周囲を取り囲むギャラリーたちが、モーゼの十戒の如く道を開ける。

「……おう。随分と久しぶりだな」

 高橋はニヤリと笑いながら、その男を出迎える。

「……ああ」

 その男。赤崎翔は、言葉少な目に答えた。

 そして、赤崎の視線の先には、漆黒のフェアレディZが静かに待っていた。

(……この人が、カミカゼショウ)

 トップレーサーの放つその雰囲気に、拓海は圧倒されてしまう。

「……えっと、今日ゲストで来てる人ぽよ?」

 なんとなくで、里奈はそう聞いた。

「ああ。アメリカの大スターだぞ」

 茶化すように、高橋はそう言った。しかし、赤崎は特に反応はしなかった。

 

 赤崎の視線は、Zから拓海へと切り替わった。そのまま、フッと小さな笑みを溢して、拓海の肩をポンと叩き一言だけ告げた。

「……大事に乗ってやってくれ」

「…………はい!!」

 拓海の言葉に満足したのか。赤崎はそのまま、WINDYのピットを立ち去って行った。

 

「高橋さん……このZの前の持ち主と、チューニングしたのは……?」

「まぁ……それ以上は言わんでいいぞ。お前さんの思ったとおりだからな」

 拓海は、静かに首を縦に振った。

 

 

 14時10分。

 TCFのメインイベント。チューニングカースーパーバトルのスタートまで、残り20分と迫る。

 各マシン、ピットロードにマシンを整列させ、臨戦態勢を整えていた。

 そして、ピットレーンオープン。

 己の牙を隠すかのように、ゆっくりと静かにコースへとなだれ込んでいく。

 

 初のレースが大舞台。

 しかし、拓海は不思議とリラックスしていた。

(……このZは赤崎さんが乗っていたんだ。そんで、作ったのは……高橋さんだった)

 大昔に憧れた、一瞬の情景が蘇った時。拓海は不思議と、ヘルメットの中で笑みを作っていた。

「……頑張ろうぜ……相棒!!」

 拓海は声を張り上げた。

 

 ポールポジションを獲得したのは久永のスープラ。

 しかし、本番のレースとなれば、FRの弱点が浮き彫りになると美世は考えていた。

(……スタートから勝負だよ)

 美世は勝負を仕掛けるタイミングは、最初からだと定めていた。

 バイザーから見える風景に、彼女は何を思うのか。

 

 先を行く各マシンのテールランプの列を、無言で見つめる岩崎。

「…………」

 ジッと真っすぐに前を見つめ、ひたすらに集中力を高めていく。

 その瞳に宿る闘志は、外からではわからない。

 

 

 スタックのレーシングメーターは、水温、油温、油圧等、全ての数値が安定してる事を示していた。

 久永の目前に見えるマシン達は、日本で屈指の走り屋達だと形容しても差し支えは無い。

(……ここが僕にとっての終着点)

 そう思った瞬間、ステアリングを握る手に力が籠る。

(……夢にまで見た舞台なんだ!!)

 

 

 各車、グリッドに整列。カテゴリーに縛られない、モンスターマシンの群れ。周囲を威圧するかの様な迫力、オーラの様な物がホームストレート上に漂っていた。

 これこそが、本物のチューニングカーの証である。

 

「さあ、全車グリッドに着いきました。フォーメーションラップを挟んだ後に、いよいよスタートです」

 ターボ佐藤も、興奮を隠しきれない様で、単語の一字一句に力が籠っていく。

「この決勝のレースですが、菊地さんと赤崎さんは、どのマシンに注目しますか?」

「……そうですね。自分は、やはり予選12位のZ32ですね」

「Zですか……意外ですね」

「個人的なことですが、昔乗ってたんですよ、Zに。良いクルマでしたよ」

 赤崎の答えは、至極個人的な意見だった。

「そうでしたか。やはり、自分が乗っていた車には、思い入れがありますもんね。

 では、菊地さんは、どのマシンに注目していますか?」

「自分は……ポールポジションのスープラでしょうね。

 マシンメイキングを見る限りは、かつてのGT選手権に出ていたスープラと遜色がないですし。予選の走りを見る限り、ドライバーの腕も確かです」

「なるほど……。

 では、いよいよフォーメーションラップ開始。いよいよ、スタートが切られます」

 

 

 14時30分。フォーメーションラップ。

 勢ぞろいした各マシンは、ゆっくりとローリングラップを開始した。

 

 ポールポジションの久永は、ゆっくりとマシンをスタートさせた。

(まずは、タイヤを温めないと……)

 左右にマシンを振って、フロントタイヤに熱をいれる。更に、2速のハーフアクセルで軽くホイールスピンを誘発させて、リアタイヤを発熱させる。時折、一気に減速させ、ブレーキも適正温度に上げる。

 モンスターマシンを手なずける為の、儀式のような物だ。

(……ドキドキするな)

 心臓が、口から飛び出そうなほど大きく動いているのが分かった。

≪……久永。聞こえるか?≫

 無線から、内藤の声が聞こえる。

「……聞こえます」

 答えた久永は、やや上ずった口調だ。

≪……良いか。間違いなく、スタートの時点で他のGT-R勢には先行される。だから、スタートは焦る必要はないぞ≫

「…………」

 内藤の指示に、久永は反応しない。

≪……それとな。一個アドバイスしとくぜ≫

「……何でしょう?」

 そのアドバイスの内容とは。

 

≪……気合だけは負けんなよ≫

 

「…………はい」

 久永は、静かに答えた。

 

 

 セカンドグリッドの宮川雷斗。ライジングR35は、スープラのテールを見つめつつも、バックミラーに映されたR34GT-Rも見つめていた。

(……楽しませてもらおうか。今ここに並んでいる奴らには……あの頃と同じモノを感じとれるからな……)

 宮川は、若かりし頃の熱い思いが蘇っていた。

 

 セカンドローを分け合った、ファクトリーFUJIの2台。

 岩崎は、ただ前を見据えるのみ。今の岩崎はレーシングドライバーでもない。

(さあ……遊ぼうぜ!!)

 今ステアリングを握る岩崎基矢は、かつての首都高の王者“迅帝”である。つまり“走り屋”なのだ。

 

 美世はマシンを大きく振って、フロントタイヤに執拗に熱を入れる。

 伝説の走り屋が駆ったマシンを、富士で乗る。そうなれば、決して恥ずかしい走りをする事など出来ない。

(……岩崎さん。借りは返させてもらいますよ)

 そう。彼女もまた、迅帝に敗れ去った走り屋の一人なのだ。

 

 スペンサーのR35を駆る山田。

 しかし、スペンサーのR35GT-Rは、他のマシンと毛並みが大きく異なる。

(……他と同じペースで走ったら、タイヤが持たないじゃんか)

 完全なストリート仕様の為、フル装備に加えてロールバーも追加している。他のマシンと比較して、300kgはハンデを背負っている。同じなのは精々Sタイヤくらいの物。

(ま、自走でサーキット入りしてるのは、こいつくらいだし……少しくらいは良い所見せないと不味いじゃん!!)

 しかし、それでも挑む事に意義がある。山田も、そしてスペンサーも、また挑戦者なのである。

 

 MADSPEEDの看板を背負う、ロータリーチューナーとして名高い舘渡。

 今回の為に、新たなマシンとしてRX-8を製作した。

(……究極のロータリー仕様として、こいつを投入したんだ。まだ勝てるほど煮詰まっては居ないが……やるだけやってやるぜ!!)

 4ローターのNAマシン。そのソプラノのエキゾーストは、今回の参加車両の中でも群を抜く注目度だった。

 しかし、それでも上位にタイムを刻むあたりは流石と言う他に無い。

 

 

 ローリングラップを終えて、全車グリッドに整列する。

「ついに、全てのマシンが整列しました。5ラップ先のチェッカーフラッグは、どのマシンが一番先に受けるのでしょうか!!」

 

 レッドシグナルが、一つ、二つ、三つと点灯していくと、各マシンのエキゾーストノートが一層鳴り響く。

 

 シグナルオールレッド。

 そして……ブラックアウト。

 

 

「……オールジャパン・チューニングカー・フェスティバル!!  今年のレースを制するのはどのマシンでしょうか!!

 その幕が、今切って落とされました!!」

 轟音とスキール音がサーキット中を支配した。解き放たれた野獣の咆哮に、全ての観客は釘付けとなった。

 

 ポールポジションのスープラは、FRという事もあり、ゼロスタートは相当に不利である。ホイールスピンが収まらず、前に進まない。

(……やっぱりスタートはダメですね)

 1速、2速は、ハーフアクセルで待っているしか出来ない。三台のGT-Rに先行を許し、スペンサーのGT-Rにも並びかけられた。

 

 対してロケットスタートを決めたのは、美世の駆るR32だ。岩崎のR34に先行し。フロントローの2台の真ん中に割って入る。

 そのまま、スープラを抜きさってライジングのR35にも並びかけた。

 1コーナーまでの加速勝負。

(悪いが、ラインは開けんぞ!!)

 イン側のラインをキープした、ライジングR35が2コーナー立ち上がりで前に出る。

(……まだチャンスはあるよ)

 しかし、美世のR32もぴったりと後ろに喰らいついた。

 3番手には岩崎のR34が続く。

 久永のスープラは、一度はスペンサーのR35に並ばれたが、1コーナーの飛び込みで前に出る事ができた。

(少し離されてる……何とか、追いつかなきゃ)

 久永はスープラのステアリングを、一度握り直した。

 

 トップ3台が、均等な間隔で100Rとヘアピンを駆け抜ける。

 しかし、コーナリング速度の高さを生かして、久永のスープラはジリジリと差を詰めていく。

 岩崎は300R手前で、ミラーでスープラとの差を確認した。

(……やっぱり、コーナーは向こうの方が速いな)

 久永の速さに敬意を表しながら、次の一手を模索する。

(…………おそらく、原田さんがストレートで仕掛けるから。次の1コーナーで仕掛けるしかないな)

 先手先手を読む事。すなわち、駆け引き。

 これこそが、岩崎が本番のレースで結果を残せるファクターである。そして、首都高でトップを走った、最大の要因がそれなのだ。

 

 

 トップ四台から少し離された、5位争いも熾烈。

 山田の駆るスペンサーのR35と、MADSPEEDのRX-8が激しいデッドヒートを繰り広げていた。

 コーナーでスピードを稼ぐRX-8を、見事に封じ込める山田。

(……こっちは重量が大ハンデになるじゃんか。悪いけど、ここは抑えさせてもらうじゃん!!)

 ブレーキングでは飛び込めない、絶妙なライン取りで付け入る隙を与えない。

 コーナー進入でこそ、RX-8は差を詰めるが、立ち上がり加速は圧倒的にスペンサーのR35が上回っていた。

(……さすがは、ツーリングカーのスペシャリストだな……。全然入れねぇ!!)

 700馬力を絞り出す、4ローターの咆哮が唸りをあげる。しかし、VR38DETTの圧倒的な中間トルクには、お手上げだった。

 舘は先の展開を予想し、山田のR35をぴったりとマークする。

(……ただ、ストリート仕様だけあって重量は段違いに重たいんだ。Sタイヤを履いてるとはいえ、間違いなく後半は厳しくなる筈だ……)

 目前のマシンを撃墜するには、あらゆる要素が含まれる。こちらのバトルも、当分目が離せなくなりそうだ。

 

 

 セクター3のテクニカルセクションで、トップ4の差はさらに縮まる。

 均等な間隔で最終コーナーを立ち上がった。

 ここからが、富士スピードウェイ名物の、スリップストリーム合戦だ。

 

(立ち上がりで離される……)

 トップの中で、1台だけのFR。スープラは、立ち上がりの加速が泣き所だ。

 3速にシフトアップして、ハイブーストに切り替える。2,2キロの加給圧で、トップスピードを稼いで食い下がる。

 

 その僅か前方。

 美世はR32に鞭を入れ、ライジングR35のスリップストリームに入った。

(……インは開けんぞ!!)

 宮川もインにマシンを寄せてブロックラインを通る。

 その後方。岩崎のR34も、美世のテールに張り付いて、2台の隙を覗き見る。

 3台縦一列でコントロールラインを駆け抜ける。

 

 LAP2。迫りくる1コーナー。

(……インは開かないなら……アウトだ!!)

 美世はR32をアウトラインに寄せる。

 その動きを見て、宮川もR35をアウトに寄せてブロック。

 

(……ここだ!!)

 2台の動きを見て、岩崎はブレーキングでR35のインへ切り込む。

「おおっと!! ここで三台並び……スリーワイドになったぁ!!」

 実況席も、興奮の坩堝となる。2週目の1コーナー、トップ三台が並んだまま1コーナーに飛び込んだ。

(……いただき!!)

 一番有利なラインを奪った岩崎。R34は、一気に二台を抜き去ってトップを奪取した。

(インに居ただと!?)

 R32ばかりに気を取られ、岩崎のR34に隙を見せてしまった宮川。悔やんでも、今更遅い。

 立ち上がりで、岩崎のR34のテールを拝んでしまう。

 

 その更に外側。美世のR32は、結局前には出られず、つい舌打ちが出てしまった。

(ライジングの35を料理しないと、岩崎さんに逃げられちゃう……)

 気を取り直して、シフトアップ。R35の後方に喰らいついて、隙を探る。

 

 

 1コーナーでの三台並びを、マジマジと見せられた久永。しかし、前方でバトルがあったおかげで、大きく差を詰められた。

(……逃がさない)

 ベストラインでクリアし、コカコーラコーナーまでの加速勝負で、美世のR32のテールに張り付いた。

 

 四台が等間隔のまま、コカコーラコーナーを立ち上がり、100Rに飛び込んでいく。

 イン側のラインをキープする美世のR32。

(抑えさせてもらいますよ!!)

 セオリーに忠実なブロックラインでブレーキング。

 

 しかし、久永はミドルラインからブレーキングを遅らせて、外からR32に並びかける。

(……ここは、僕の方が速いんです!!)

 アウト側からオーバーテイクを仕掛ける、大外刈り。かつてのF1GP、鈴鹿の1コーナーで見せた、中島悟の大技だ。

(アウトからなの!?)

 100Rをサイドバイサイドで駆け抜けるスープラとR32。

 

 外側のラインを塞がれ、立ち上がりでアクセルを踏めない美世に対し、久永はコーナリング速度をキープしたまま立ち上がる。

 そして、ヘアピンの突っ込みではイン側のラインをキープ。スープラの鼻先を前に出した。

(……そんなに速いの!?)

 並ばれた美世。左ウインドウ越しに見えた、スープラのシルエットに驚愕するしかなかった。

(でも……立ち上がりはこっちが有利だよ!!)

 クリッピングポイントで、スープラのインを狙う。ラインをクロスさせて、立ち上がりで抜き返す狙いだ。

 しかしだ。2速でのフルスロットルでは、僅かに挙動を乱してしまう。

 対して久永は、早めに3速にシフトアップ。綺麗にリアタイヤを転がして、立ち上がりのトラクション不足をカバー。双方4速にシフトアップすると、スープラが一気に前に出た。

(伸びは向こうの方が上よね……)

 300Rで、美世は4位にドロップ。しかし、まだまだレースは始まったばかり。気を取り直して、前を走るマシンの隙を伺う。

 

 等間隔のまま300Rをクリアし、テクニカルなセクター3に入っていく。

 低速のダンロップコーナーで、前方との差が大きく縮まる。

(……ここからが勝負所だ!!)

 コーナリングマシンへと生まれ変わった、久永のスープラ。

 立ち上がりこそGT-R勢に後れを取るが、コーナリング速度を稼ぐ事によって、スーパーラップを叩き出しているのだ。

 

 大きく曲がり込むプリウスコーナーで、ライジングのR35のインを刺そうかと、久永は牽制を入れる。

(……ここで抜けると思ってるのか!? 抜かせるか!!)

 宮川は立ち上がり重視のラインをキープし、最短距離でプリウスコーナーへアプローチを試みた。

(……狙い通りだ!!)

 久永は、その瞬間を狙いすませていた。

 

 複雑な形状で、奥に行くほどきつくなるネッツコーナーは、クリッピングポイントを二つ取るのが、ベストラインになる。

 一度ミドルからインへ切り込むラインから進入し、一つ目のクリッピングポイントを取る。そのままコーナー中ごろで、ブレーキングしながらアウトに一度はらみ、さらにもう一度インへ切り込む。そのまま二度目のクリッピングポイントを通って、アウトまで立ち上がる。

 俗に、三角ラインと呼ばれる、複合コーナーの攻略法。これがネッツコーナーを、もっとも速く駆け抜けるラインだ。

 

 

 宮川は、セオリー通りのスローインファストアウトを徹底した三角ラインで、R35をアプローチさせる。

 対して、久永は大きくアウト側からアプローチ。ギリギリまでブレーキングを遅らせて、コーナー全体をインベタで曲がり込んだ。

(……ここでインに入るだと!?)

 一度アウトに膨らませるR35のイン側を、えぐり込む様にスープラがインへ刺し込んできた。旋回性能を生かし、小さく回り込んだスープラ。R35とサイドバイサイドで、プリウスコーナーを立ち上がった。

(……舐めるな!!)

 意地になった宮川は、フルスロットル。しかし、大パワーにタイヤが耐え切れず、挙動を乱していた。縁石から半車身はみ出し、立ち上がりで後れを取ってしまう。

 

 そのまま、最終コーナーの飛び込みで久永が前に出た。

(……よし!!)

 ホームストレートに戻ってきた時。前方に見えるのは、蒼いR34の後姿だけだ。

 

 

 LAP3。トップを走るのは、ファクトリーFUJIのR34。

 その後姿は、若き頃に久永が見たテールランプその物だった。

 

(……絶対に追いついてやる!!)

 ホームストレート。久永は、床を突き破らんばかりの勢いで、アクセルを踏みぬいていた

 

 




次回でラストになります。
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