なぜなら、Xboxを持っていない。貧乏だから(笑)
Z32型フェアレディZがデビューしたのは、1989年の半ばの事だった。
フェアレディZの四代目として産声を上げたZ32は、国産車で初めて280馬力の自主規制を導入した車両であり、当時としては屈指の走行性能を誇っていた。
同時期にデビューしたR32GT-Rは、レースで勝つ為のツーリングカーと言う側壁を持っていた事とは対照的で、どちらかと言えば高性能GTカーと言う色合いが強かった。
また、GT-Rと異なり日産の販売の世界戦略を担っていた為、海外への輸出も積極的だった事も付け加えておく。
夜9時。
完成当日に早速試走へと、湾岸線へと繰り出した。巡航速度で前を走る、フェアレディZ。拓海は今日乗り始めたとは思えない程、スムーズにマシンを走らせる。
「……いいねぇ」
ステアリングを握りしめ、拓海は浸っていた。野太いエキゾーストは、車内に容赦なく飛び込んでくる。
「お前、本当に運転“は”上手いよな……」
助手席の夏樹は、感心しつつもちょっと皮肉を入れた。
「まぁな。昔先輩らに教わってたし、ちょいちょいプロデューサーに運転させて貰ってたしな」
「……呆れるな」
得意顔の拓海に、夏樹は突っ込んだ。
「バーカ、時効だよ!!」
そう返してアクセルを踏み込むと、夏樹は助手席で仰け反った。
勝手にペースを上げるZに対して、美世は淡々とドライブする。
「……捕まっても知らないよ~」
離れだした横長のテールランプを見つめながら、美世はぼやいた。
「ねぇ、美世っつあん……。あの車、何か有るんじゃないかな……」
今一つ浮かない表情の里奈が、そう切り出した。
「ん~……。まあ、最初からかなりハードにイジッてあったみたいだし……」
「そうじゃないんだ……。
あの車の置いてあった店の社長は言ってた……。曰く憑きで、ここまで流れてきたって……」
里奈の言葉に、美世は静かに耳を傾けた。
「あの車を見つけた時も、そうだったけど……。
……たくみんがたまたまキーを拾ったら、あの車のキーだったんだ。しかも、美世っつあんが直さなきゃ、かからなかったエンジンも一回だけかかったの……」
「…………」
「マジでヤバい系の車じゃないかって……。ぶっちゃけ、怖いんだ……」
里奈はうつむきながら、そう伝えた。
「……大丈夫だよ。それに……」
「……?」
「もし何か車にトラブルが有れば、それは整備したあたしが原因になるんだ。絶対に、事故らせないさ。
拓海はあたしが守るよ」
美世は、強く言いきった。
湾岸線市川パーキングエリアに、2台は滑り込んだ。
駐車場に停めた愛機をマジマジと眺めた後、拓海はスマートフォンのカメラでその姿をおさめた。
「いいねぇ……」
おもちゃを手に入れた子供の様に、とてもご満悦だ。
「それにしても……Zって古い筈だけど、そこまで古いって感じもしないな」
夏樹は、そのシルエットにそう呟いた。何せフェアレディZは、四半世紀も前の車だ。
「飽きのこないデザインって奴だよ。この頃の車って、世界に目を向けて作られた車が多かったからね~。
特に80年代後半から90年代中盤に販売された車って、色んな進化が見えたから面白い時代だったんだよ」
美世は見てきたかの様に言うが、実際は生まれていない。
「……美世さん。それは内藤さんの受け売りじゃないんですか?」
夏樹は、そう突っ込んだ。
「あ、バレた?」
美世はペロッと舌をみせた。
「そりゃ、わかるっしょ~。美世っつぁんも、あたしらと二つしか変わんないし~」
里奈は、美世を肘で突っついた。
「なぁ……美世」
唐突に、拓海は美世に声をかける。
「どうしたの?」
「あたし……コイツ選んで良かったよ。
美世にもおっちゃんにも、無理言って安値で直してもらったしさ。……ありがとうな」
拓海は、礼を述べた。
その様子を見ながら、美世達は胸が熱くなったような気がした。
翌日。
346プロダクションに、新しいプロデューサーが入社した。規模の大きな芸能プロダクションの割に、慢性的にプロデューサー等の裏方が足りていないという問題を抱える346プロ。
今回新たに入ったプロデューサーは、随分と期待できる……と勝手な噂も流れていた。
「え~……今日から、我が346プロダクションで働いてくれる事になった、久永一(ひさながはじめ)くんです」
「今日からお世話になります、久永一と言います。
至らない点も多いかと思いますが、皆さんご鞭撻の方をよろしくお願いします」
部長に紹介され、久永は深々と頭を下げると、同僚達からパラパラと拍手が起こった。
「この久永くんは、アメリカでプロデュース業を学んでいたという事なので、我が346プロダクションでもその手腕を発揮してくれると思います。
それと……」
少々長めの紹介を聞き流しながら、久永は内心で苦笑いをしていた。
久永一。大学時代にアメリカへ留学していた彼は、その地でアイドルのプロデュース修業を始めた。
小さな島国から大国へ夢を追いかけた男は、隠れた原石を見つける事に長け、銀幕で活躍するスターを何人も見出した。彼と面識のあるハリウッドスターが居る事も事実で、久永を未だに恩人と崇めている。
それ程の実績を持つならば、現地でフリーランスのプロデューサーになった方が、余程稼げる。アメリカンドリームと形容できる高額なオファーも有ったのだが、何故かそれを蹴って346プロと契約したのだ。
とは言え、帰国して一ヶ月も経過していないし、入社初日では右も左も解らない。
一通りの挨拶を終え、久永は事務所で資料に目を通す事にした。
(……在籍人数200人近く居る。だけど、レッスン生が3割弱か)
所属するアイドル達に関する資料を、ペラペラとチェックしていく。
「精が出ますね」
不意に後ろから声をかけられ、久永は振り返った。
「……お久しぶりですね。木場さん」
久永は、立ち上がって真奈美に握手を求めた。
真奈美は、両手でガッチリと手を取ってから、深く頭を下げた。
「お久しぶりです、久永さん。あなたがここに来てくれるなんて、夢にも思っていなかったよ」
「木場さん……そこまで丁寧にしなくても良いですよ」
「いや……良いんだ。こうでもしなければ、私の気が済まないのさ……」
真奈美は、感極まった様に神妙な面持ちだった。対して、何も答えない久永。
しかし、真奈美は言葉を続ける。
「……大学を中退して、辞典片手にロサンゼルスに渡ったまでは良かったさ。
日払いのアルバイトをしながら、場末のバーで歌っていた。その日の暮らしさえ困り果てていた私を、見い出してくれたのは久永さんだから……。
久永さんに会わなければ、今の自分は居なかった……。私にとっては、掛け替えの無い恩人なんだ」
真奈美はそう語った。
「……木場さん、それは違いますよ。
今の貴女がいるのは、紛れも無く貴女自身の力ですから。僕自身は、切っ掛けを作っただけにしか過ぎません」
謙虚に答える久永だが、真奈美は首を横に振るしか出来なかった。
真奈美が挨拶を済ませた所で、久永は再び資料を漁り出した。所属するアイドル達のプロフィールや生い立ちを、事細かに見ていく。
「……どうですか? この事務所に所属する子達は?」
それとなく真奈美に聞かれたが、久永はプロフィール表から目を離さない。
「良くも悪くも個性的ですね」
久永がそう答えた時、真奈美は少々苦笑いを見せていた。
「……そうだろうね。何分、問題児が多く在籍している事も事実さ」
「問題児と言っても、可愛いレベルですよ」
そう言いながら、久永はニヤリと笑っていた。
「……と言いますと?」
真奈美はキョトンとしながら聞き返す。
「薬物や殺人に手を出していないだけ、更生の余地が有りますからね」
「……」
極端すぎる例を出されて、真奈美は固まってしまう。
「実際、アメリカなんて明るい繁華街から一本路地を外れれば、ならず者たちがたむろっているじゃないですか。
一本裏通りを歩いてたら、銃声が聞こえるなんて日常茶飯事。そんな日々に比べたら、日本は平和そのものですよ」
久永はさも当然の様に答えた。
「ふふ。相変わらずですね……」
真奈美は押し殺すように、笑っていた。
同じ頃。
346プロ内のトレーニングルームで、美世はウエイトトレーニングに励んでいた。
マスタートレーナーに頼んで考案して貰った、特別トレーニングを黙々とこなしている最中だ。
トレーニングルームで、エクササイズしているアイドルは他にも居るが、美世のトレーニング内容は桁が違っていた。むしろアイドルと言うよりは、アスリートと形容するべきメニューだった。
吸水性の高いアンダーウェアでも吸いきれない程汗を掻き、徹底的に己の肉体を鍛え抜いた跡が垣間見える。
一通りのメニューを終わらせ、椅子に座った。肩で息を切らせながらも、どうにか呼吸を整えようとしている。
「……しっかし、すげえメニューだな」
同じトレーニングルームでエクササイズしていた拓海は、へたり込んでいる美世に500ccのスポーツドリンクを差し出した。
「……あんがと」
美世はありがたく受け取って、新品のペットボトルのキャップを開けようとするが……。
「……ッ。…………~ッ!!」
開けられない。それほどまで、美世の体力は消耗しきっていた。
「おいおい……。貸せって」
見かねた拓海がペットボトルを引っ手繰って、キャップを開けてから、再び美世へ手渡した。
「……ごめん」
小さく美世は呟く。
「良いって事よ……」
そう返した後、拓海はふぅと息を吐いた。
美世がアスリート並みのトレーニングを積んでいる理由は、レーシングドライバーとして体を鍛える必要が有ると、自分でも解っているからだ。
美世自身、所属アイドル達の中でも、決して体力的に劣っている訳では無い。仮にアイドル全員で長距離走をすれば、20番以内に入れる程度のスタミナは持ち合わせている。
しかし、レーシングドライバーとして考えれば、話は別問題だ。
レーシングスピードで走行するマシンは、瞬間的には最大2Gという力がかかる。当然、そのGに耐える為には、大きく筋力を使う。当然、強くGがかかる状態で、長時間ドライビングを続ける必要が有る。
その間、心拍数は通常では考えられない程跳ね上がるし、緊張等で体が強張る事だってある。その中で、数センチ単位のマシンコントロールが求められるのだ。
一般的に、モータースポーツは機械を使う競技である為スポーツとは違う、という意見も存在する。しかし、実質的に肉体にかかる負担は、他の球技や陸上競技等のアスリート達と遜色は無い。
特に最高峰のF1では、1レースでフルマラソンを走りきる位、体を酷使すると言われる。
例に挙げれば、2009年のF1ワールドチャンピオンのジェンソン・バトンのちょっとしたエピソード。
オフシーズンに、トライアスロンに飛び入り参加して、軽く上位入賞したという逸話さえ有るのだ。
レーシングドライバーは、ただ運転しているだけ等と勘違いしている人は多い。しかし、その内容や本質を深く掘り下げて行けば、彼らもまたアスリートなのである。
少しのインターバルを挟んで、ようやく美世は動ける程度まで回復した。
「良く、そこまでやるよな……」
感心しつつも、拓海は茶々を入れた。
「まぁ……仕方ないさ。自分で選んだ事だもん」
美世は、真っ直ぐな瞳で答えた。
(……やっぱすげえな、美世は)
拓海は、心の内でそう呟いた。
「……? どうしたの?」
「なんでもねえさ……。さっさとサウナで汗でも流そうぜ!!」
拓海は、いそいそとトレーニングルームを後にした。
「……なんなのかな?」
美世はポカーンとしながら、拓海の後ろ姿を見つめていた。
全てのトレーニングを終わらせると、時刻は午後1時を過ぎていた。
ピーク時間を超えたカフェの客入りはまばらだったお蔭で、美世と拓海は窓際の席に席を取れた。若干遅めの昼食に入ったが、その間の話題はもっぱら新しく入って来たプロデューサーの事だった。
「……新しいプロデューサーが入ったの?」
美世は皿に盛られたペペロンチーノを、フォークで刺しながら拓海に聞き返した。
「知らなかったのか?」
そう返してから、拓海はBLTサンドを一口頬張った。
「いや~……全く知らなかったよ~」
あっけらかんとしている美世に向けて、拓海は口の中の物を飲み込んでから言葉を出す。
「ここんとこ、美世はあんまり来なかったからな。たまに来ても、トレーニング室にこもりっきりだったし。
ま、あたしの車の事も理由だけど……」
「ん~……本業がそんなに忙しく無かったからね~」
美世は、苦笑いしながら告げる。原田美世の本職は、一応アイドルだ。
「……ま、それはそうとしてな」
拓海は咄嗟に話題を、戻そうとする。
「今度入ってきたプロデューサーは、アメリカで仕事してたって話らしいんだ。
何でも、ハリウッドスターとかとも知り合いだとかって噂も有るみたいだし……」
拓海は聞いた噂を、そのまま口に出す。
「……そうなんだ」
そう答え、美世はパスタを一口頬張りながら、難しい表情をみせる。
「……どうしたんだよ?」
突然深刻そうな顔を見せる美世に、拓海は思わず詰め寄る。
ゴクリと、パスタを飲み込んで、美世は口を開いた。
「……アメ車が好きかな? それとも、スーパーカーが好きなのかな? でも、スポコンって選択肢もあるよね!!」
「…………」
キラキラした目で美世が答えた時、拓海は反射的に頭を抱えていた。
午後からは予定が入っていない拓海と美世は、あえて新しいプロデューサーに挨拶に行く事にした。
新入社員と面識を作っておくのは、社会人として、組織に属する人間としての基本である。もっとも、最大の理由を上げれば、興味本位というだけだろうが。
「……で、新しいプロデューサーってのは、どこに居るんだ?」
先を歩く拓海は、そう聞いた。
「ん~……検討つかないからね~。とりあえず、探してみよっか」
美世は、そう提案した。
「そんじゃ、そうするか……」
二人は、カフェを後にした。
拓海と美世は、考えた末にまずはレッスンルームから捜索を開始した。
ドアを少しだけ開けて、隙間からしれっとルーム内を覗き見る。二人は見える範囲をくまなく探す物の、それらしい人物は見当たらない。
「……つーかよ。別に、こんなコソコソしながら探さなくても良いんじゃねぇの?」
拓海は、そう突っ込んだ。別に部外者では無いのだから、関係者に見つかっても捕まる訳では無い。
「あたしもさ。探しながらそう思ったよ……」
美世も、突っ込まれてから妙に恥ずかしくなっていた。
その後、レッスンルームで聞きまわったものの、まだ見ていない人ばかりだった。
「収穫は無しか……」
口を尖らせながら、拓海はぼやいた。
「ま、仕方ないよ。この事務所も広いし、スタッフも多いもん」
美世はなだめる様に、言葉をかける。
「……それはそうだけどよぉ」
捜すのがだるくなってきたせいか、拓海の言葉の語尾がだらしなくなっている。
適当に歩き回ってる内に、二人はある場所に差し掛かった。
「…………ん?」
美世は自然と、その部屋の前で足を止めていた。
「どうしたんだよ?」
そう言いながら、拓海も釣られて足を止めてしまう。
ドアのプレートには、資料室と記載されていた。
「…………」
美世は、ただジッとその部屋の方を見つめていた。その目付きは、不自然なほど真剣になっていた。
そして、美世は脇目も振らずそのまま資料室へと入って行った。
「……失礼します」
「お邪魔しま~す……」
拓海も釣られる形で、入ってしまう事となる。
資料室でまず目に入ったのは、木場真奈美では無く、もう一人の見慣れない男性だった。
「やあ。美世くんに、拓海くん」
先に声をかけてきたのは、真奈美だった。
「……こんちわ」
拓海は、軽い会釈で真奈美たちに挨拶をした。
「真奈美さん……こちらの方は?」
美世は、挨拶より先に、男性の正体を聞きだした。
「こちらは、久永一さん。今日から346プロに入ってくれた、新しいプロデューサーさ」
真奈美は、簡潔に紹介した。
「久永一です。向井拓海さんに……原田美世さんですね。
プロフィールの方は、資料の方で拝見させていただきました。これから、よろしくお願いしますね」
柔らかい笑みを浮かべながら、久永は右手を差し出した。
「……どうも。向井拓海です」
若干戸惑いながら、拓海は差し出された右手を掴み取った。
「原田美世です。こちらこそ、よろしくお願いします」
続いて美世が、久永と握手を交わした。
「…………」
「…………」
手を取り合った瞬間に、資料室は一瞬だけ沈黙が支配した。
(この人は……)
美世は、この久永と言う男に対して、ある疑惑を抱いた。
「…………」
それは、久永も同じだったのかもしれない。
「では、すいません。僕はまだ、知りたい事が有りますので……」
そう告げて、久永は手を離した。
「そうですか。こちらこそ、お邪魔して申し訳なかったです」
美世は、軽く頭を下げた。
資料室を出た、拓海と美世。新しいプロデューサーと顔合わせ出来て、それなりの収穫はあったのかもしれない。
「……なんか、アメリカ帰りって割には、思ったより優男だったな」
物腰穏やかだと感じた拓海は、少々物足りない様子だった。
しかし、美世は対照的に、険しい表情を作ったままだった。
「……どうだろうね」
美世は、そう返答を出す。
「何で、そんな難しい顔作ってんだよ?」
拓海は、神妙な面持ちの美世に向けて、疑問をぶつけた。
「……いやぁ。何となくだけど、感じたんだ」
美世は、ポツリと溢した。
「まさか……一目ぼれでもしたのか?」
からかうように、拓海は言った。
「……それは無いよ。ただね……」
「……ただ?」
ワンテンポ間を作って、美世は断言した。
「根拠は無いけど、確信したんだよ……同じ匂いのする人だってね」
そう断言した美世の目付きは、鋭く研ぎ澄まされていた。
滅多に見せない美世の表情に、拓海は何も答える事は出来なかった。
拓海と美世が立ち去った後も、久永は集められた資料に目を通し続けていた。
「……彼女達の事が、気になったのかい?」
真奈美は、久永にそう聞いた。
「……ええ。特に原田美世さんは……興味深い人ですよ」
久永はニヤリとした笑みを作って答えた。
「それは、アイドルとして? それとも、単に女性の好みの問題ですか?」
「……どちらでも有りませんね」
笑みを崩さないまま、久永は断言していた。
「……そうですか」
真奈美は、それ以上の追及はしなかった。
半オリキャラの登場です。
名前と設定だけ借りてます。