首都高のシンデレラ 2nd   作:囃子とも

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8th それぞれの思惑

 

 今日もレッスンに励む、マッシブライダーズの面々。しかし、夏樹は別メニューのトレーニングをしている為、この場には不在だった。

「そーいえばさ。たくみん、車はどったの?」

 レッスン場で、里奈は開口一番にそう聞いた。

「今、ちょっと預けてるんだよ。だから、単車で来ただけだ」

 拓海は当り障りの無い回答を述べる。

「……ふ~ん。でもみよっつぁんに頼んでも良かったんじゃない? 今日の朝に、羽田成田空港に着いたって」

「いや……ちょっと、当てが外れててな。

 だけど……あたしはこの選択が間違っちゃいないと思ってる」

 拓海は断言した。

「そっか……。最近、たくみんがさ。少し変わってきた気がするんだ」

 不意に、里奈はそう言った。

「……なにが?」

 拓海は、ピンと来ていないのか、そう聞き返す。

「ん~……。

 前まではさ、どこかで冷めてたトコあった気がするんだよね~。皆でバイクに乗ってても、走ってる時でもね。何かしたいけど、何をすれば良いか分かんないみたいって感じ?

 だけど、今は……なんていうか、一つの目的に向かってがむしゃらになってるように見えるんだよね~」

「気のせいだろ」

 里奈の言葉に、拓海はそっけなく答えた。

「そうかな~……」

「お前の言う事は、八割は当てならねーからな」

 拓海のきつめの物言いに、里奈はニッと笑った。

「あたしもたくみんとつるんで長いから、大体わかるって。

 あの車に、ほれ込んでるんだよね。車の事に、今夢中になってるじゃん? だけど、たくみんのそういうトコ、結構好きだよ」

「……そうしゃべってると、トレーナーにどやされるぞ」

 そう言って、拓海はそっぽを向いた。

 里奈には、照れ隠ししているとすぐに分かった。

(相変わらず、素直じゃないなぁ~……)

 そんな拓海の反応が、里奈には微笑ましく見えた。

 

 午後四時になって、久永はようやく昼食を取っていた。

 昼食と言っても、クッキー形状の栄養補助食品とゼリー飲料という、とても簡素な物。傍から見れば、時間的にもおやつにしか見えない。

「あれ、久永さん? 変な時間に休憩ですね」

 休憩室に入ってきたのは、夏樹だ。

「木村さんですか。個別のレッスンは完了ですか?」

「まぁ……集中してたらこんな時間になってて。今から、昼休憩ですよ」

 そう言いながら、夏樹はコンビニ袋を見せびらかした。

「僕と同じですね」

 久永は苦笑いを浮かべた。

「でも、今回の仕事はあたしにとっては、特別ですよ。

 別ユニットのライブだけど、バックミュージックでギターを弾かせてもらえるんですから。こんな仕事だったら、タダでやってもいいくらいです」

 自分にお誂え向きの内容に、夏樹は終始ご機嫌だった。

「そういう訳にはいきませんよ。

 仕事として請け負う以上、報酬は発生させなければいけません。そうで無ければ、仕事に責任を負わせる事ができません。

 責任の無い仕事に、クオリティを求める事なんて、絶対に出来ません。だからこそ、責任を負わせる。

 それが、プロフェッショナルというものです」

 久永は断言した。

「へぇ……久永さんの持論ですか?」

「いえ。一般論ですよ」

 さも当然とばかりに答えた。

 

 サンドイッチを頬張りながら、夏樹は久永に思いついたように聞いた。

「そういえば、久永さんはどういうきっかけで車にハマったんですか?」

 頬張っていたビスケットを、ゼリー飲料で流し込む。ちょっと喉の通りは悪いが、しっかり飲み込んでから、久永は答えた。

「そうですね……。

 元々、中学生の時は航空機が好きだったんですよ」

「飛行機ですか……」

「ええ。飛行機と言っても、ジェット機とかじゃなくてですね……。第二次世界大戦で活躍していた戦闘機に、とても憧れていました。

 日本の戦闘機で言えば、零戦、紫電改、飛燕なんかが特に著名ですね」

(……全然しらん)

 当然、そんな知識は夏樹に持ち合わせている訳がない。

「当時の戦闘機が特集されている本なども合ったんですが、精々お年玉を貯めて買うくらいしかできなくて。しょっちゅう図書館で、戦闘機の図鑑を借りていました。

 絶対に乗れる訳がないんですけど……もしかしたら乗れるかもなんて、夢を見ていた時もありましたね」

「そりゃ、そうでしょうね」

 ちょっぴり照れくさそうに語る久永を見て、夏樹は苦笑いを浮かべる。

「だけど、どうして戦闘機から車に?」

「今日本にある自動車メーカーは、もともと大戦中に航空機を作っていた会社の流れを汲んでいるんですよ。

 例えば三菱なんかは今も同じ名前ですし、バイクメーカーのカワサキもそうですね。それに、中島飛行機は富士重工業と名前を変え、後のスバルとして派生したんです」

「へぇ……」

「飛行機も当然好きでしたが、手に入れるなら車の方が現実的ですからね。高校生になる事には、色々な自動車雑誌を読み漁る様になっていました。

 そして、大学生になって免許をとって。初めて手に入れたのが、AE101のレビンです。10万キロも走った、30万円のオンボロでしたけど、せっせとバイトでお金を貯めて手に入れました。

 対して速くも無いけれど、ステアリングを握った時は……丸で戦闘機のパイロットになった様な気分でしたね」

 久永の言葉を聞き、夏樹も不意に昔を思い出した。

「あたしも……似たような感じですね。

 小学生の頃に、たまたま見たロックスターのライブのDVDを見て、単にカッコイイって思ったのが最初でした。いつかロックスターになりたいって思って、どうにかギターを買ったんです。

 当然お年玉だけじゃ足りなくて、新聞配達もやってせっせと貯金して。それでようやく買えたのが、中古品のストラトキャスターのバッタ物に、5アンペアのちんけなアンプ。それと、しょぼいヘッドホンでしたね。それでも、トータル5万以上してて。

 だけど、ギターを握った瞬間の気分だけは、ロックスターになってました」

 夏樹は、懐かしむように言った。

「……三つ子の魂百まで。この諺をご存知ですか?」

 夏樹は首を横に振った。

「全然、わかんないです。国語は昔から苦手なんですよ」

「その人間の性格は、三歳までに形成されると言われます。

 簡単に言ってしまえば、子供の頃の事は大人になっても簡単には忘れられない。そう言う意味の言葉です」

 久永はそう説明した。

「なんとなくだけど、わかる気はしますね」

 夏樹の言葉に、久永はフッと微笑した。

 

 

 夕方に、美世は事務所に帰還した。

 灼熱のスーパーGTタイラウンドへの同行ですっかり日焼けしてきており、小麦色を通り越して肌が赤みがかっていた。

「……だいぶ焼けてるな」

「美世っつぁん、もう夏は終わってるっしょ?」

 拓海と里奈は、土産を手渡す美世にそう言った。

「タイはまだまだ暑かったからねぇ~。日焼け止め塗ったんだけどさ……。おかげで、まだシャワー浴びるとヒリヒリしちゃってね……」

 笑みを見せながら、美世はそう答えた。

「あら? 美世ちゃん帰ってきたのね」

 そこに顔を見せたのは礼子だ。

「あ、お疲れ様です」

 美世はペコリと、軽く会釈する。

「随分、焼けてきたわね……」

「いや~……タイの日差しが凄くてですね」

 美世は頭をポリポリと掻きながら答えた。

「ふふ。私も初めてグァムにグラビアを撮りに行った時にね、真っ赤に日焼けしちゃった事を思い出すわ」

 礼子はクスリと笑みを浮かべた。

「あ、そうそう。大事なことを忘れる所だったわ……」

 改まった様子で、礼子は肝心なことを伝えに来たようだった。

「拓海ちゃん、来週の水曜日に仕上がるみたいよ」

「マジっすか……。ありがとうございます」

 礼子にそう言われ、拓海はちょっとだけニッとした。

「じゃ、そういう事だから」

 それだけ伝えて、礼子は部屋から出て行った。

「たくみん。仕上がるって、Zの事?」

 里奈は、つい聞きただす。

「まぁな……」

 拓海は鼻の下を、指でこすりながら言った。

「へぇ~。でも、車預けるのと、礼子さんって何か関係あるの?」

 美世は、湧いた疑問を聞く。

「ああ。あのZさ、礼子さんの実家の車屋に預けてたんだ」

(そう言えば、礼子さん34のZに乗ってたよね……)

 拓海の回答を聞き、美世はその事を思い出した。

「あのZを預けてる、礼子さんの実家の車屋。

 Zのチューニングで、結構有名らしいんだ。WINDYって名前の店だったけど……美世は知ってるのか?」

 拓海はまっすぐに美世を見つめた。

「有名なんてレベルじゃないよ……。

 “WINDY”って言えば……Zの神様、高橋九弐輝のショップじゃない。礼子さんのお父さんだったなんて、全然知らなかったよ……」

 美世は驚きを通り越して、息を飲むしかなかった。

 

 そして拓海は、美世にこう切り出した。

「そんでもって、あたしはあのZでTCFに出たいんだ。

 TCFに出ても恥ずかしくない様に、あたしにドラテクを教えてほしい」

「…………」

 美世は答えない。しかし、拓海は言葉を続ける。

「頼む。今のあたしじゃ、あのZと対等にはなれねぇ。

 あいつを満足に走らせるには、あたし自身が上手くなるしかねぇんだ。あのZは……特別なマシンだって。あたしはそう思ってる」

「……ん~。あたしじゃむつかしいね」

 美世は難色を示した。

「……なんでだよ」

 拓海はムッとするが、美世は構わず言葉を続ける。

「……久永さんのスープラの製作を手伝わなきゃいけないし、チームのスケジュールだってあるからさ。正直、予定が一杯なんだよね。

 あたし自身もTCFに出る予定だから、教えたいのは山々なんだけど……。

 あたしさ……あんまりFRは上手くないんだよね」

(……上手くねーって言っても、レースに出れるなら十分だろ)

 美世の断る理由に、拓海は内心で思った。

「でもさ……。

 そういう事なら、とっておきの講師を紹介するよ。あたしよりも、教える事には長けてるからね」

 そう断言した。

「……講師って。そいつは何者なんだ?」

「ま、拓海の事は教えておくからよ。スケジュールは合わせるようにしてね」

 美世は、含みのある笑みを見せていた。

 

 数日後。

 時刻は七時を過ぎ。拓海は礼子と共に、WINDYに向かう最中だ。最新モデルである、Z34フェアレディZでの長旅は、実に快適だった。

「オートマは楽だな……」

「そりゃそうよ。マニュアル車で都内走る人間なんて、変わり者しかいないわよ」

 なお、礼子のZのハンドルを握るのは拓海。

「スイスイ走れるし、エアコンも効くし、ライトも明るいし……こりゃ良いわ」

 東京からずっと運転してきた拓海だが、疲労感は全くない。車をべた褒めする拓海に、礼子は得意な顔をみせる。

「快適な車じゃなきゃ、私は乗らないわ。それに、あんまり運転もしないのよ」

「どうしてまた?」

「飲めないじゃない」

「……さいですか」

 割とどうしようもない理由だった。

 

 そして、目的地に到着した。

「こんちわ」

 車から降りて、拓海は真っ先にガレージの方へ駆け寄った。

「おう。よく来たな、嬢ちゃん」

 高橋が出迎える。

「あのさ……Zは?」

「おう。すぐにでも乗れるぜ。つっても慣らしは必要だけどな」

 そう言って、指さした先には拓海の愛機が待ち構えていた。ご丁寧に、すぐにでも走り出せるように、外の駐車場に停車させてある。

「……ところで、あたしの車は速くなったのか?」

「知らん。そいつはお前さん次第だ」

 高橋は連れない答えを言った。

「……そりゃそうかもしれないけどさ」

 拓海は渋い顔つきで答える。

「ま、乗ればわかるぜ。このZにな」

 高橋は得意げに言い放つ。

 しかし、その自信あり気な顔に、拓海は息を飲んだ。

「とりあえず、1000キロは5000リミットで慣らし運転。それが終わったら、もう一回持ってきてくれ。

 そこで油と水のすべて交換したら、全開でオッケーだ。良いな?」

「……はい。わかりました」

 拓海はまっすぐに高橋を見た。

「さて、今日は店じまいだ」

「ありがとうございました。

 ところで、礼子さんはどうするんですか?」

 拓海に話を振られ、礼子は少し考える素振りをみせる。

「そうね……。折角だから、今日は家で寝ていくわ。明日はオフなのよね」

 そう答えた。もっとも、礼子の場合だと、元々オフなのか強引にオフにしたのか定かではないが。

「そうですか。じゃ、また事務所で」

 そう言って、拓海はZに乗り込む。

 

 キーを捻る。イグニッションオン。燃料ポンプのノイズが室内に流れ込む。

 セルモーターが動き、フライホイールとクランクシャフトを回していく。プラグが火花を放ち、内燃機関が始動。

 VG30DETTが、雄たけびを上げる。

「……っ!!」

 その図太い轟音が拓海の全身を包むと、全身から鳥肌が立つ。

「行こうぜ……相棒!!」

 ギアを1速に入れ、フェアレディZは走り出した。

 

 

 拓海は国道1号線から西湘バイパスを乗り継ぎ、再び国道1号線へ。そのまま東京方面へひた走り、横浜新道に乗る。この周辺は、さんざんバイクで走り回った道。スマートフォンのナビゲーションに頼るまでもない。

(こりゃ……いい!!)

 丸でZが生まれ変わったかと思うほど、乗り味が違っていた。特に高速に乗ってからのクルージングでは、抜群の仕上がりを見せる。

(アクセルに忠実に反応する……。シフトの感覚もクラッチの感覚も、すげぇダイレクトだ……)

 手足と体が、車と結合しているような一体感。

(単車に乗ってるときみてぇに……自由に動かせるぜ)

 拓海のハンドルを握る手が震える。

(慣らしが終わってからが楽しみだ……)

 運転の最中、スマートフォンに一通の連絡が届いた。拓海は横目で、画面を見た

(……美世からだ)

 そして、画面には一通のメッセージが記載されていた。

 “大黒でまってるよ”と。

「……オッケー」

 拓海はZを走らせる。

 

 時同じ頃。

 高橋は、娘の持ってきた上物の日本酒で晩酌していた。

「……注ぐわよ?」

「おお……悪ぃな」

 せっかくの親子水入らずの時間も、最近では珍しくなってきたのか。礼子は進んでお酌をした。

「……ねぇ。お父さん、拓海ちゃんの車に何かしたの?」

「……そこまで何かはしちゃいねぇ。単に消耗品を変えて、嬢ちゃんに合わせたセッティングをしただけよ」

「拓海ちゃんに合わせる?」

「ああ。見た所、あの嬢ちゃんはあのクルマに慣れることが先決だと思ったからな。

 ま、オーバーホールも兼ねてたしな。水回り関係やらメタル関係に、ゴムパッキンの交換。それと、タービン回りのガスケット類の新調くらいで十分だ。タービンもワンサイズ小さい奴の、リビルト品を組み合わせた。

 後は、低速トルクを重視してリセッティングした程度だ。元々、VGはトルク型のエンジンだから、上までぶん回すタイプのエンジンじゃねぇのさ。

 それと、ゴムブッシュの関係は補修した様だが、有り合わせで直した程度みたいだったからな。全部新品の強化品に打ち変えた。もちろん、エンジンとミッションのマウントも強化品にな。当然、タイヤも新品を入れた。

 慣らしが終わる頃には、あの嬢ちゃんもZに慣れるハズだぜ」

 一気にしゃべってから、高橋はコップの酒を一口あおった。

「ふーん……」

 礼子は、その内容が全く分からない様だった。

「ま……出世払いでもしてくれりゃ御の字だ」

 そう、高橋は笑い飛ばしていた。

 

 保土ケ谷JCTで、首都高神奈川2号三ツ沢線に流れ込む。そのまま横羽線に合流し、生麦JCTを湾岸方面へ。5号神奈川大黒線を走れば、約束の待ち合わせ場所まであと一息だ。

 拓海がZをパーキングに滑り込ませると、時刻は深夜0時を過ぎていた。

「……すっかり遅くなっちまったな」

 パーキングエリアに停車しているのは、休憩中の長距離トラックが少々。人の気配はあまり無い。

 しかし、駐車場の片隅に真っ赤なR33GT-Rと、白いEK9のシビックタイプRが止まっていた。この手の車は、離れていても目立つからよく分かるものだ。

「……おっ。来たね~」

 Zの姿を見つけ、右手を上げて合図を送ったのは、美世。呼び出した張本人だ。

 GT-Rに横付けし、拓海はZから降りた。

「よう。こんな所に、なんでわざわざ呼び出したんだよ?」

 拓海は美世の意図が気になって仕方ないようだ。

「それはね、講師を紹介しておこうって思ってね。

 あたしよりも、教えるのもドラテクも全然上手いしね」

 そう言って手を指した先に居たのは、山田だった。

「……まぁ、車見た瞬間に想像は出来たけどよ」

 拓海は肩をすくめながら答えた。

「よろしくじゃん。向井さん」

 山田はパチリとウインクして答えた。

「しかしなぁ……。プロのドライバーが、一介の素人に教えるなんて、随分と豪勢な事してくれるじゃねぇかよ。いいのか?」

「まぁね。その辺は、あたしにも考えがあるからさ」

 美世はそう言いながら、親指を立てる仕草を見せる。

(……ま、ありがてぇけどさ)

 心の内では、美世が裏で手を回してくれている事に、感謝していた。

「じゃ、あたしはまだ仕事があるからさ。後は二人でうまい事やってね。それじゃ!!」

 そう言い残して、美世はさっさとGT-Rに乗り込む。そして、そのまま大黒パーキングを後にした。

「……あわただしい奴だな」

 拓海はあきれ半分で肩をすくめる。

「ま、仕方ないじゃん。

 それはそうとして……このZ。結構良い感じの仕上がりじゃん?」

 山田はそう断言した。

「見ただけで分かるもんなのか?」

 拓海は思わず聞き返してしまう。

「なんとなくだけどね。

 レーシングカーでもそうなんだけど、決まってるマシンは……何かが違うんだ」

 山田はそう言い切る。

「……山田さん。あたしは、どうやったらこのZを速く走らせれるんだ?」

「そうだね。まずは、クルマを理解して走らせる事じゃん。

 ちょっと、運転してみても良いかな?」

「ええ。でも、慣らし中みたいだから、上まで回せないですけど」

「ゆっくりでも、大丈夫さ。インプレッションさせてもらうじゃん」

 そう答えて、山田はキーを受け取った。

 

 山田がハンドルを握り、助手席にはオーナーの拓海。パーキングから大黒線へ合流。横浜環状を左回りで一周するルートだ。

「……で、どうですか?」

 まだコーナーを一つも曲がっていないにも関わらず、拓海は聞く。

「エンジンのトルクは太いね。向井さん何かだと、こういうエンジン特性の方が運転しやすいよ。上まで回すエンジンは、トルクバンドのキープがむつかしいからね」

 そして、生麦JCTで横羽線を、横浜方面に。

「……足は柔らかいね。サーキットだと、ちょっと苦しいかもね」

「…………」

 山田の言葉に、拓海は自然と耳を傾ける。

 そしてZは、石川町JCTから3号狩場線に乗り、本牧JCTでそのまま湾岸へ合流。クルージングしながら、横浜環状を周回し大黒パーキングに戻ってきた。

「大体車の具合は分かったし、向井さんをどうすれば良いかも大体定まったじゃん」

 山田の言葉に、拓海の顔はパッと明るくなった。

「本当ですか?」

「ああ。TCFに出る為にどうするかだけどさ……。

 TCFの開催サーキットの富士スピードウェイを、徹底的に走り込むしかないじゃんか」

「富士を走り込むしかない?」

 山田の助言に、拓海は首をかしげる。

「ま、付け焼刃の手段に近いけどね。

 他のドライバー達に比べたら、間違いなく向井さんは経験が無さすぎるじゃん。ただ、それをある程度のレベルまでもって行くなら、やっぱり富士のライン取りを徹底的に覚えるしかないじゃん。

 それに、このZも富士専用に足回りを仕上げれば……食らいつくまでにはなれるかもしれないね」

 山田の言葉に、拓海はこう答えた。

「わかりました……。富士の走り方を教えてください」

 そして、拓海は山田に向けて敬礼を見せた。

 

 

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