アニメ アイドルマスターシンデレラガールズ 3rd SEASON (完結)   作:栗ノ原草介@杏P

11 / 60
第3話 〝Hers work make many happy〟
 Aパート 1


 

 

 

「きらり、巨大ロボットになるんだにぃ!」

 

 耳を疑う発言だった。

 

 人をダメにするソファでダメになっていた杏も、さすがに目を覚ました。

 伝達事項があるからと言って、事務所に集められたところまでは、覚えている。

 そしていつの間にか、眠っていた。

 

 意識を失った僅かな時間に、一体何があったのか……?

 

「巨大ロボット? それ、すごいかっこいいけど……」

「どういうことなの、きらりちゃん?」

 莉嘉とみりあの質問に、他のアイドル達もうなずき視線をきらりへ向ける。

 きらりは答えず微笑んで、プロデューサーへ視線を向ける。

 

「実は、演劇の仕事のオファーがありまして……」

 

 プロデューサーが、几帳面な字でホワイトボードに板書する。

 

〝鋼鉄公演 きらりんロボ〟

 

「諸星さんのキャラクターを生かした演劇をやりたい、という話をいただきました。いわゆる〝ヒーロー物〟の舞台になると、思います」

 

 アイドルの反応は、人それぞれだった。

 

 感心する者もいれば、苦笑する者もいた。

 きらりと巨大ロボ、という組み合わせが絶妙で、様々な感情を持ちつつも、最終的には納得していた。

 

 その中で一人、女優経験をもつアイドルの目が、鋭く光り――

 

「プロデューサー! それって、346プロオールスターになる感じ? もしかして、大女優本田未央ちゃんの出番がある感じッ?」

 

 立ち上がった未央を前に、プロデューサーは、首の後ろを手でさわって――

「今回は、〝オファーを受けての参加〟という形になりますので、出演は、依頼のあった方のみになります」

「そっかー、残念」

 未央は、落胆を全身で表現するかのように、ソファにどさっと腰を下ろした。

 

「未央、演劇、やりたいんだね」

 

 口元に笑みを作る凛に向かって、未央は大きくうなずいて――

「そりゃそうだよ。本当なら〝新撰組ガールズ〟で、みんなと舞台に立つ予定だったんだから。そのために、未央ちゃんは女優の卵として、情熱を燃やしていたのに、美城グループ業績不振で企画が消滅。あぁ! 私の中に残る情熱を、一体どこへ向ければいいんだっ!」

 

「他の仕事にぶつけたら?」

 

「クールすぎるよしぶりん! もっと熱い返しはないのかい? はい、ここで熱い返しを、しまむー!」

「うぇっ! えっと、その……。未央ちゃん、がんばりましょう!」

 

「出た! しまむーのがんばり芸!」

 

「げっ、芸とか言わないでください! そんなつもりじゃないですからぁ!」

 

 3人の笑い声に、プロデューサーの板書の音が混ざる。

 ホワイトボードにサインペンで書きこまれたのは、出演者の名前だった。

 

 諸星きらりに続いて、双葉杏の名前が書かれた。

 

「346プロには、諸星さんと双葉さんに、オファーがきています。諸星さんは主役の〝きらりんロボ〟というロボットの役で。双葉さんは、〝きらりんロボと交流する子供の役〟、とのことです」

 

「杏ちゃん、舞台デビューだねっ」

 

 隣に座っているかな子が、祝福してくれた。

 他のアイドル達の視線も、杏に集中した。

 

 杏は、勇ましくソファーの上に立ち上がり、得意のドヤ顔を浮かべて――

 

「杏、死体の役を希望しまーす。ずっと死んでて、動かないやつがいいな」

 

 かな子と智絵里のリアクションは速かった。

 

 訓練によって培われた反射速度で――

 本職に迫る切れ味を持って――

 

「なんでやねんっ!」

 

 2人に両サイドから突っ込まれた杏は、勢いそのままに、人をダメにするソファーに倒れた。

 お笑いの舞台さながらのやりとりに、笑いが起きた。

 

 アイドル達が笑う中で、杏は薄っすら目を開けた。

 

 ホワイトボードの脇に立つきらりの笑顔が、果たして〝本物の笑顔〟かどうか、吟味していた。

 

 * * *

 

「ほら、あれにゃ。みくの布団が、膨らんでるにゃ……」

 

「ゆりかごに忍ぶ小さき膨らみ。幼子の悪戯だろうか?」

「小さな子供、あー、それ、知ってます。ざしきわらし、ですね?」

 

「なんでそれがみくの部屋にいるにゃ! そんなの、ノーセンキューにゃ!」

 

 布団の外から聞こえてくる声に、杏は目を覚ました。

 

 ミーティングが終わった後、眠かったので適当な部屋に入って仮眠をとったのだが、いつのまにかぐっすり眠ってしまっていた。

 

「どうしよう……。誰か、妖怪とか退治できる人いない? 蘭子ちゃん、そういうの得意だったりしない?」

「ひっ! わっ、我は闇の眷属ゆえ、闇の住人とは相性が……」

「あー、ここにいませんが、カリンが巫女さん、でしたね。呼んでみますか?」

「もたもたしてたらみくの部屋が乗っ取られちゃうよぉ……。とりあえず、Pチャンを呼んで――」

 

 杏が、おもむろに起き上がった。

 

 3人分の悲鳴が、部屋にこだました。

 

「だっ、誰かと思ったら杏ちゃん! 何でみくの部屋にいるの!」

 

「いやー、ちょっと仮眠をとろうと思ったら、いつの間にかぐっすりで……」

「もー、びっくりさせないで欲しいにゃ。てっきり座敷童子かと思ったにゃ」

「座敷童子なんてひどいなぁ。杏はかわいい妖精さんだよ? ファンの皆を魅了して、お礼に印税をもらうんだ」

 

「何か、嫌な妖精にゃ……」

 

 杏があくびをしながら戸口へ向かうと、アナスタシアが心配そうに――

 

「キラリが、ずっと探してましたね。もう、帰ってしまいましたが」

 

「そっか、悪いことしちゃったな。あとでメールしておこう」

 うさぎのヌイグルミを抱いて去ろうとする杏の前に、今度は蘭子が立ちはだかって――

 

「今、現世は漆黒の闇に支配されている。下界へ続く道は悪鬼の支配下にある」

 

「……えっと、外は暗いから危ない、ってこと?」

「うむ」

「大丈夫。プロデューサーに送ってもらうから」

 杏は、3人を残して廊下を進んだ。

 

 遅い時間だが、当たり前のように、事務所の窓から明かりがもれていた。

 

 杏はプロデューサーに事情を話し、車で駅まで送ってもらうことになった。

 

 * * *

 

「今回の舞台の件だけどさ、もしかして、とときらの関係者が関わってる?」

 

 車内で2人っきりになったのを見計らって、単刀直入に訊いた。

 運転席のプロデューサーは、まっすぐ前を見たまま――

「はい。とときら学園のディレクターが、諸星さんと双葉さんのキャラクターを、気に入ってくださいまして」

「そんなことだろうと思ったんだよね。あんきらンキングの時と一緒な感じがしたよ」

 

「……受けたく、なかったですか?」

 

「杏は別に、どーでもいいよ。だって、お仕事だからさ。杏ときらりの関係性が面白いってのも、分かるしね。おっきいきらりと、小さな杏。分かりやすいよね」

「……正直、話を聞いたときは、受けるべきか迷いました」

「でも、受けたんでしょ?」

「諸星さんに相談したところ、構わないと、返答されましたので」

「きらりもあれでちゃんアイドルしてるからね。自分の体が大きいの、コンプレックスだろうけど、だからって、そういう仕事を断ったりはしないよ。ってか、杏には、相談なかったよね。子ども役の杏には」

「あの、その、すみません……」

「冗談だよ、プロデューサー。プロデューサーは分かってると思うけど、杏はそういうの、気にしないから。どんな仕事でも、杏の意見は決まってる」

 杏は、大きく息を吸い込んで――

 

「やりたくない!」

 

「…………」

「……これも冗談だからね。まあ、いいや。きらりが気にしないんだったら、杏も気にしないから」

 ずっと暗かった車窓が、明るくなった。

 見ると、駅前のロータリーに到着していた。

 エンジンが止まって、カチカチというウインカーの音だけが残った。

「じゃあ、杏はこれで……」

 

「あのっ」

 

 降りようとした杏を、プロデューサーの声が止めた。

 

「何か、気になることがあれば、教えてください。どんな些細なことでも、遠慮なく」

 

 必要以上に真剣なプロデューサーの顔を見て、杏は安堵した。

 

 プロデューサーは、気を使ってくれている。

 

 きらりに巨大ロボットの役をやらせる事を、ちゃんと心配してくれている。

 

「りょうかーい」

 

 杏は気の無い返事をしたが、その足取りは軽くなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。