アニメ アイドルマスターシンデレラガールズ 3rd SEASON (完結) 作:栗ノ原草介@杏P
Aパート 1
「きらり、巨大ロボットになるんだにぃ!」
耳を疑う発言だった。
人をダメにするソファでダメになっていた杏も、さすがに目を覚ました。
伝達事項があるからと言って、事務所に集められたところまでは、覚えている。
そしていつの間にか、眠っていた。
意識を失った僅かな時間に、一体何があったのか……?
「巨大ロボット? それ、すごいかっこいいけど……」
「どういうことなの、きらりちゃん?」
莉嘉とみりあの質問に、他のアイドル達もうなずき視線をきらりへ向ける。
きらりは答えず微笑んで、プロデューサーへ視線を向ける。
「実は、演劇の仕事のオファーがありまして……」
プロデューサーが、几帳面な字でホワイトボードに板書する。
〝鋼鉄公演 きらりんロボ〟
「諸星さんのキャラクターを生かした演劇をやりたい、という話をいただきました。いわゆる〝ヒーロー物〟の舞台になると、思います」
アイドルの反応は、人それぞれだった。
感心する者もいれば、苦笑する者もいた。
きらりと巨大ロボ、という組み合わせが絶妙で、様々な感情を持ちつつも、最終的には納得していた。
その中で一人、女優経験をもつアイドルの目が、鋭く光り――
「プロデューサー! それって、346プロオールスターになる感じ? もしかして、大女優本田未央ちゃんの出番がある感じッ?」
立ち上がった未央を前に、プロデューサーは、首の後ろを手でさわって――
「今回は、〝オファーを受けての参加〟という形になりますので、出演は、依頼のあった方のみになります」
「そっかー、残念」
未央は、落胆を全身で表現するかのように、ソファにどさっと腰を下ろした。
「未央、演劇、やりたいんだね」
口元に笑みを作る凛に向かって、未央は大きくうなずいて――
「そりゃそうだよ。本当なら〝新撰組ガールズ〟で、みんなと舞台に立つ予定だったんだから。そのために、未央ちゃんは女優の卵として、情熱を燃やしていたのに、美城グループ業績不振で企画が消滅。あぁ! 私の中に残る情熱を、一体どこへ向ければいいんだっ!」
「他の仕事にぶつけたら?」
「クールすぎるよしぶりん! もっと熱い返しはないのかい? はい、ここで熱い返しを、しまむー!」
「うぇっ! えっと、その……。未央ちゃん、がんばりましょう!」
「出た! しまむーのがんばり芸!」
「げっ、芸とか言わないでください! そんなつもりじゃないですからぁ!」
3人の笑い声に、プロデューサーの板書の音が混ざる。
ホワイトボードにサインペンで書きこまれたのは、出演者の名前だった。
諸星きらりに続いて、双葉杏の名前が書かれた。
「346プロには、諸星さんと双葉さんに、オファーがきています。諸星さんは主役の〝きらりんロボ〟というロボットの役で。双葉さんは、〝きらりんロボと交流する子供の役〟、とのことです」
「杏ちゃん、舞台デビューだねっ」
隣に座っているかな子が、祝福してくれた。
他のアイドル達の視線も、杏に集中した。
杏は、勇ましくソファーの上に立ち上がり、得意のドヤ顔を浮かべて――
「杏、死体の役を希望しまーす。ずっと死んでて、動かないやつがいいな」
かな子と智絵里のリアクションは速かった。
訓練によって培われた反射速度で――
本職に迫る切れ味を持って――
「なんでやねんっ!」
2人に両サイドから突っ込まれた杏は、勢いそのままに、人をダメにするソファーに倒れた。
お笑いの舞台さながらのやりとりに、笑いが起きた。
アイドル達が笑う中で、杏は薄っすら目を開けた。
ホワイトボードの脇に立つきらりの笑顔が、果たして〝本物の笑顔〟かどうか、吟味していた。
* * *
「ほら、あれにゃ。みくの布団が、膨らんでるにゃ……」
「ゆりかごに忍ぶ小さき膨らみ。幼子の悪戯だろうか?」
「小さな子供、あー、それ、知ってます。ざしきわらし、ですね?」
「なんでそれがみくの部屋にいるにゃ! そんなの、ノーセンキューにゃ!」
布団の外から聞こえてくる声に、杏は目を覚ました。
ミーティングが終わった後、眠かったので適当な部屋に入って仮眠をとったのだが、いつのまにかぐっすり眠ってしまっていた。
「どうしよう……。誰か、妖怪とか退治できる人いない? 蘭子ちゃん、そういうの得意だったりしない?」
「ひっ! わっ、我は闇の眷属ゆえ、闇の住人とは相性が……」
「あー、ここにいませんが、カリンが巫女さん、でしたね。呼んでみますか?」
「もたもたしてたらみくの部屋が乗っ取られちゃうよぉ……。とりあえず、Pチャンを呼んで――」
杏が、おもむろに起き上がった。
3人分の悲鳴が、部屋にこだました。
「だっ、誰かと思ったら杏ちゃん! 何でみくの部屋にいるの!」
「いやー、ちょっと仮眠をとろうと思ったら、いつの間にかぐっすりで……」
「もー、びっくりさせないで欲しいにゃ。てっきり座敷童子かと思ったにゃ」
「座敷童子なんてひどいなぁ。杏はかわいい妖精さんだよ? ファンの皆を魅了して、お礼に印税をもらうんだ」
「何か、嫌な妖精にゃ……」
杏があくびをしながら戸口へ向かうと、アナスタシアが心配そうに――
「キラリが、ずっと探してましたね。もう、帰ってしまいましたが」
「そっか、悪いことしちゃったな。あとでメールしておこう」
うさぎのヌイグルミを抱いて去ろうとする杏の前に、今度は蘭子が立ちはだかって――
「今、現世は漆黒の闇に支配されている。下界へ続く道は悪鬼の支配下にある」
「……えっと、外は暗いから危ない、ってこと?」
「うむ」
「大丈夫。プロデューサーに送ってもらうから」
杏は、3人を残して廊下を進んだ。
遅い時間だが、当たり前のように、事務所の窓から明かりがもれていた。
杏はプロデューサーに事情を話し、車で駅まで送ってもらうことになった。
* * *
「今回の舞台の件だけどさ、もしかして、とときらの関係者が関わってる?」
車内で2人っきりになったのを見計らって、単刀直入に訊いた。
運転席のプロデューサーは、まっすぐ前を見たまま――
「はい。とときら学園のディレクターが、諸星さんと双葉さんのキャラクターを、気に入ってくださいまして」
「そんなことだろうと思ったんだよね。あんきらンキングの時と一緒な感じがしたよ」
「……受けたく、なかったですか?」
「杏は別に、どーでもいいよ。だって、お仕事だからさ。杏ときらりの関係性が面白いってのも、分かるしね。おっきいきらりと、小さな杏。分かりやすいよね」
「……正直、話を聞いたときは、受けるべきか迷いました」
「でも、受けたんでしょ?」
「諸星さんに相談したところ、構わないと、返答されましたので」
「きらりもあれでちゃんアイドルしてるからね。自分の体が大きいの、コンプレックスだろうけど、だからって、そういう仕事を断ったりはしないよ。ってか、杏には、相談なかったよね。子ども役の杏には」
「あの、その、すみません……」
「冗談だよ、プロデューサー。プロデューサーは分かってると思うけど、杏はそういうの、気にしないから。どんな仕事でも、杏の意見は決まってる」
杏は、大きく息を吸い込んで――
「やりたくない!」
「…………」
「……これも冗談だからね。まあ、いいや。きらりが気にしないんだったら、杏も気にしないから」
ずっと暗かった車窓が、明るくなった。
見ると、駅前のロータリーに到着していた。
エンジンが止まって、カチカチというウインカーの音だけが残った。
「じゃあ、杏はこれで……」
「あのっ」
降りようとした杏を、プロデューサーの声が止めた。
「何か、気になることがあれば、教えてください。どんな些細なことでも、遠慮なく」
必要以上に真剣なプロデューサーの顔を見て、杏は安堵した。
プロデューサーは、気を使ってくれている。
きらりに巨大ロボットの役をやらせる事を、ちゃんと心配してくれている。
「りょうかーい」
杏は気の無い返事をしたが、その足取りは軽くなっていた。