アニメ アイドルマスターシンデレラガールズ 3rd SEASON (完結) 作:栗ノ原草介@杏P
Aパート 1
「あなたは、リーダーにふさわしくありませんわ」
レッスンスタジオに、櫻井桃華の声が響いた。
「全然、まわりが見えてませんもの」
攻撃的に光る緑の目を向けられて、莉嘉は一歩あとずさった。
「でっ、でも、あたしがリーダーって、P君が……」
「そうですわね。だからわたくし、しばらく様子を見てましたの。その上での、結論ですわ。この企画は、あなたのプロデューサーちゃまの発案ですけど、リーダーを誰にするかは、わたくし達で決めても構わないと思いますの」
桃華は、口元に笑みをたたえて、一歩踏みだして――
「リーダーは、もっと回りに気を配れて、気品を持った、落ち着いた人間でなくてはなりませんわ。そうですわね……、まあ、どうしてもと言うのであれば、わたくしが代役を引き受けても――」
「待ってください」
気持ちよく語っていたところを邪魔されて、桃華の口から笑みが消えた。
緑色の瞳を向けた先には、強い光を放つ黒い瞳が控えていて――
「城ヶ崎さんがリーダーに向いてないのは、私も同感です。だからといって、櫻井さんがリーダーになるのも、違う気がします。リーダーは、もっと知的で、大人びた人間でなければなりません。まあ、やってほしいということであれば、私がやってもいいですけど……」
橘ありすの控えめながら自信家の発言に、桃華の闘志が刺激される。
「じゃあ、勝負いたしましょう」
桃華の宣言に、ありすは無遠慮な溜息をおとす。
「そんな、子どもじみたこと――」
「あら、自信がありませんの?」
「そっ、そういうわけではありません。勝負したら、きっと、私が勝ちます。けど、そういう子供みたいなことは――」
「自信があるなら、よろしいじゃありませんか。誰がリーダーにふさわしいか、勝負して、決着をつけましょう」
桃華は、レッスンスタジオに沈殿している重い空気を吸い込んで――
「リトル・マーチングバンド・ガールズのライブを成功させるためにはどうすればいいか、考えてくるというのはいかがでしょう? リーダーにふさわしい人間なら、何をすればいいか分かるはずですわ」
「……分かりました。子どもっぽいことは嫌いですが、それで櫻井さんが納得するなら、それでいいです」
「城ヶ崎さんも、よろしくて?」
「えっ……」
うつむいていた莉嘉は、2人の視線に射抜かれて半口を開けた。
もちろん、リーダーの座をめぐっての勝負なんて、やめてほしい。
だけど、莉嘉の口からそれを言うことは、できなかった。
自分を見つめる二人の奥――
レッスンスタジオの隅でみりあに介抱されている市原仁奈・龍崎薫・横山千佳の姿が、無言で莉嘉を責める。
ライブまで、時間がなかった。
だから、レッスンが終わってからも、自主的にレッスンしようと提案した。
そうでもしないと、間に合わないと、思った。
自分はともかく、年下の3人は振りつけも完全でないし、体力も心細い。
ライブまで徹底的にレッスンして、鍛え上げなくてはと、思った。
自分はずっと、そうしてきた。
ライブのパフォーマンスに自信がなければ、それを得られるまでレッスンした。
影で膨大な努力をしてきた姉を見てきた莉嘉として、それは当然の行為だった。
だから今回も、徹底的にレッスンすれば、上手くいくと思ったのに――
「足が、痛てーです……」
聞こえてきた声が、莉嘉の胸を貫いた。
みりあに足首をさすられた仁奈が、泣く寸前の顔をしている。
隣でへたりこんでいる薫と千佳も苦しそうで、その顔に笑顔は無い。
明らかなオーバーワークだった。
3人だって、キッズアイドルであるから、踊ることには慣れている。
数々のステージを、経験している。
だけど、年下で、発育は未熟である。
上級生と体力の差は、歴然である。
キッズアイドル達の体力の限界を、遥かに越えたレッスンを提案してしまった。
その結果、仁奈は足を痛めてしまい、薫と千佳の顔から笑顔が無くなった。
そんな状況だったから、突きつけられた提案を、突っぱねることなんてできなかった。
莉嘉はただうつむいて、成り行きに身を任せるしかなかった。
* * *
「莉嘉ちゃんは、悪くないよ」
誰もいないレッスンスタジオに響いた慰めの言葉は、しかし莉嘉の心を通過する。
「ライブまで時間ないんだから、仕方ないよ」
励ましてくれるみりあに向けて、せめて笑顔を作りたいけど、顔が凍り付いてしまったように動かない。
「プロデューサーに、相談する?」
一瞬、息が詰まった。
そして莉嘉は、首を左右に振って、ツインテールを乱して――
「だっ、大丈夫。なんとか、するから。P君には、余計な心配かけちゃうから、だから相談とか、いいから」
「でも……」
「大丈夫だから! だから、P君には、言わないで……」
プロデューサーは、自分を信頼してくれている。
だって、リーダーを任された時に、言われたのだ。
――城ヶ崎さんなら、上手くみなさんをまとめてくれると、思いましたので。
真面目な顔で自分を見つめるプロデューサーに、莉嘉は言った。
――おっけーP君。カリスマJCアイドルの莉嘉にまかせちゃって! ちょーいけてるユニットにしちゃうんだから!
実際に、そう思っていた。
今まで、色んなアイドルとユニットを組んで、リーダーを務めたこともある姉を身近に見てきた莉嘉は、自分も同じようにできると信じて、疑わなかった。
自分だって、カリスマなリーダーになれると思っていた。
それなのに――
実際にやってみると、無謀なレッスンを提案して、年下の子に怪我をさせて、リーダーを下ろされそうになっている。
――あたし、すごくカッコ悪い……。
こんなかっこ悪いところ、自分を信頼してくれたプロデューサーには、見せたくない。
だから――
「あたし、絶対なんとかするから、P君には秘密にしといて! お願い!」
かろうじてつくった笑顔を、みりあへ向ける。
みりあは不安げな表情そのままに、小さくうなずいた。