アニメ アイドルマスターシンデレラガールズ 3rd SEASON (完結)   作:栗ノ原草介@杏P

16 / 60
第4話 〝Little Marching Band Girls〟
 Aパート 1


 

 

 

「あなたは、リーダーにふさわしくありませんわ」

 

 レッスンスタジオに、櫻井桃華の声が響いた。

「全然、まわりが見えてませんもの」

 攻撃的に光る緑の目を向けられて、莉嘉は一歩あとずさった。

「でっ、でも、あたしがリーダーって、P君が……」

「そうですわね。だからわたくし、しばらく様子を見てましたの。その上での、結論ですわ。この企画は、あなたのプロデューサーちゃまの発案ですけど、リーダーを誰にするかは、わたくし達で決めても構わないと思いますの」

 桃華は、口元に笑みをたたえて、一歩踏みだして――

「リーダーは、もっと回りに気を配れて、気品を持った、落ち着いた人間でなくてはなりませんわ。そうですわね……、まあ、どうしてもと言うのであれば、わたくしが代役を引き受けても――」

 

「待ってください」

 

 気持ちよく語っていたところを邪魔されて、桃華の口から笑みが消えた。

 緑色の瞳を向けた先には、強い光を放つ黒い瞳が控えていて――

「城ヶ崎さんがリーダーに向いてないのは、私も同感です。だからといって、櫻井さんがリーダーになるのも、違う気がします。リーダーは、もっと知的で、大人びた人間でなければなりません。まあ、やってほしいということであれば、私がやってもいいですけど……」

 橘ありすの控えめながら自信家の発言に、桃華の闘志が刺激される。

 

「じゃあ、勝負いたしましょう」

 

 桃華の宣言に、ありすは無遠慮な溜息をおとす。

「そんな、子どもじみたこと――」

「あら、自信がありませんの?」

「そっ、そういうわけではありません。勝負したら、きっと、私が勝ちます。けど、そういう子供みたいなことは――」

「自信があるなら、よろしいじゃありませんか。誰がリーダーにふさわしいか、勝負して、決着をつけましょう」

 桃華は、レッスンスタジオに沈殿している重い空気を吸い込んで――

「リトル・マーチングバンド・ガールズのライブを成功させるためにはどうすればいいか、考えてくるというのはいかがでしょう? リーダーにふさわしい人間なら、何をすればいいか分かるはずですわ」

「……分かりました。子どもっぽいことは嫌いですが、それで櫻井さんが納得するなら、それでいいです」

「城ヶ崎さんも、よろしくて?」

 

「えっ……」

 

 うつむいていた莉嘉は、2人の視線に射抜かれて半口を開けた。

 

 もちろん、リーダーの座をめぐっての勝負なんて、やめてほしい。

 

 だけど、莉嘉の口からそれを言うことは、できなかった。

 自分を見つめる二人の奥――

 レッスンスタジオの隅でみりあに介抱されている市原仁奈・龍崎薫・横山千佳の姿が、無言で莉嘉を責める。

 

 ライブまで、時間がなかった。

 だから、レッスンが終わってからも、自主的にレッスンしようと提案した。

 

 そうでもしないと、間に合わないと、思った。

 自分はともかく、年下の3人は振りつけも完全でないし、体力も心細い。

 ライブまで徹底的にレッスンして、鍛え上げなくてはと、思った。

 

 自分はずっと、そうしてきた。

 

 ライブのパフォーマンスに自信がなければ、それを得られるまでレッスンした。

 影で膨大な努力をしてきた姉を見てきた莉嘉として、それは当然の行為だった。

 

 だから今回も、徹底的にレッスンすれば、上手くいくと思ったのに――

 

「足が、痛てーです……」

 

 聞こえてきた声が、莉嘉の胸を貫いた。

 みりあに足首をさすられた仁奈が、泣く寸前の顔をしている。

 隣でへたりこんでいる薫と千佳も苦しそうで、その顔に笑顔は無い。

 

 明らかなオーバーワークだった。

 

 3人だって、キッズアイドルであるから、踊ることには慣れている。

 数々のステージを、経験している。

 だけど、年下で、発育は未熟である。

 

 上級生と体力の差は、歴然である。

 

 キッズアイドル達の体力の限界を、遥かに越えたレッスンを提案してしまった。

 その結果、仁奈は足を痛めてしまい、薫と千佳の顔から笑顔が無くなった。

 

 そんな状況だったから、突きつけられた提案を、突っぱねることなんてできなかった。

 

 莉嘉はただうつむいて、成り行きに身を任せるしかなかった。

 

 * * *

 

「莉嘉ちゃんは、悪くないよ」

 

 誰もいないレッスンスタジオに響いた慰めの言葉は、しかし莉嘉の心を通過する。

「ライブまで時間ないんだから、仕方ないよ」

 励ましてくれるみりあに向けて、せめて笑顔を作りたいけど、顔が凍り付いてしまったように動かない。

 

「プロデューサーに、相談する?」

 

 一瞬、息が詰まった。

 そして莉嘉は、首を左右に振って、ツインテールを乱して――

「だっ、大丈夫。なんとか、するから。P君には、余計な心配かけちゃうから、だから相談とか、いいから」

「でも……」

「大丈夫だから! だから、P君には、言わないで……」

 プロデューサーは、自分を信頼してくれている。

 だって、リーダーを任された時に、言われたのだ。

 

 ――城ヶ崎さんなら、上手くみなさんをまとめてくれると、思いましたので。

 

 真面目な顔で自分を見つめるプロデューサーに、莉嘉は言った。

 

 ――おっけーP君。カリスマJCアイドルの莉嘉にまかせちゃって! ちょーいけてるユニットにしちゃうんだから!

 

 実際に、そう思っていた。

 今まで、色んなアイドルとユニットを組んで、リーダーを務めたこともある姉を身近に見てきた莉嘉は、自分も同じようにできると信じて、疑わなかった。

 

 自分だって、カリスマなリーダーになれると思っていた。

 

 それなのに――

 

 実際にやってみると、無謀なレッスンを提案して、年下の子に怪我をさせて、リーダーを下ろされそうになっている。

 

 ――あたし、すごくカッコ悪い……。

 

 こんなかっこ悪いところ、自分を信頼してくれたプロデューサーには、見せたくない。

 

 だから――

 

「あたし、絶対なんとかするから、P君には秘密にしといて! お願い!」

 

 かろうじてつくった笑顔を、みりあへ向ける。

 

 みりあは不安げな表情そのままに、小さくうなずいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。