アニメ アイドルマスターシンデレラガールズ 3rd SEASON (完結) 作:栗ノ原草介@杏P
「いっちにー、にゃーんしっ」
「いっちにー、いっちにー」
「ちょっと李衣菜ちゃん! ちゃんと掛け声を合わせるにゃ!」
「えー、いいでしょ別に、動きがあってれば……」
「よくないにゃっ! そういうところから気持ちを合わせていかないとダメなの!」
「えー、面倒くさいなあ……。もう終わりでいいよ。終わり終わり」
「あっ、ちょっと!」
マーチングバンドの行進の真似事をしていたみくと李衣菜だったが、些細なことから気持ちが決裂してしまい、そして恒例の解散合戦が始まった。
「あの2人、ほんと仲いいね」
かすかな笑みを浮かべた凛に、二つの人影が迫った。
「私達も負けてられないってことだね、しぶりん! よし、こっちも負けずに行進だ、しまむー!」
「はいっ! 行進、がんば――」
「それはがんばらなくていいから!」
卯月と未央が笑って、凛の隣に座った。
事務所の中に、体育祭を控えた教室の空気が漂っている。
それをもたらしたのは、壁に貼られたポスターである。
〝リトル・マーチングバンド・ガールズ〟
マーチングバンドの衣装に身を包んだアイドル達が、ユニットライブの告知をしている。
「ねー、プロデューサー! 何でマーチングバンドなの?」
未央の質問に、プロデューサーはパソコンのモニターから視線を外した。
未央・凛・卯月の三人が、同じソファーに座って、こちらを見上げている。
「アイドルとマーチングの組み合わせが、新鮮かと思いましたので」
首の後ろをさわりながら答えると、未央は腕を組んで、うなずいて――
「なるほど。そう言われると、アイドルのマーチングバンドユニットって、あまり聞かない気がするね。さすがプロデューサー、目の付け所がちがうねっ!」
「いえ、それほどのことでは……」
「でもさ――」
2人の会話に、凛が鋭く切り込んできた。
「何で、他の事務所と合同なの? うちの事務所だけでやったほうが、良かったんじゃないの?」
「それは……」
プロデューサーは、口を閉じて考えた。
今回のユニットは、年齢の低い、もしくは小さいアイドルだけで構成することになっているので、346プロ以外の事務所からキッズアイドル達を出してもらって、ユニットを組んだ。
――ということになっている。
もちろんそれも、本当の理由であるのだが、実のところ、もう一つ狙いがある。
今回のユニット企画は、〝立案した企画を実現させるための準備段階〟という側面がある。
今回のユニットが成功することによって、シンデレラ達に大きな舞台を用意するための企画が、一歩前進する。
しかし、それはまだ、伝えるべきではないと思った。
企画の実現のめどが立つまで、アイドル達には黙っておいたほうがいい。
だからプロデューサーは、表情を和らげて――
「子どもたちによるマーチングバンド、というコンセプトのユニットですので、他の事務所のキッズアイドルとユニットを組む必要がありまして――」
「そんな! 結局プロデューサーも、若い子のほうがいいのねっ!」
芝居がかった未央の演技に、凛が苦笑しながら――
「未央、そんな歳でもないでしょ? それとも、もっと子供に見られたいの?」
「……うーん、それもちょっと嫌かもね。子供扱いされるのは嫌だけど、若くみられたい乙女心! っていう感じ?」
「ごめん、ちょっと分かんない」
「むー」
不満げに頬を膨らませる未央に、大きな影がゆらりと迫る。
「ちっちゃくてかわゆい子がいいんなら、アンズチャンなんていいんじゃない? アンズチャンも、マーチングの仲間にしちゃうのはどうかな、Pチャン!」
きらりの振った視線の先に、しかし自堕落なアイドルはいない。
人を堕落させるクッションに、杏の形をしたくぼみだけが残っている。
「杏ちゃん、嫌な予感がするのでこれにて失礼って、どこかいっちゃいました」
智絵里の報告に加え、かな子もマカロンを持った手をドアへ向けて――
「音もなく外へ出て行きました。まるで忍者みたいでした」
「もうっ、アンズチャンってば! せっかくマーチングの仲間になれそうだったのに!」
口を尖らせたきらりの見つめるドアが、ゆっくりと開いた。
「アンズチャン――かと思ったら、みりあちゃん! おっすおっす☆」
現れたのは、みりあだった。
普段なら、元気一杯に飛び跳ねるような挨拶をするのだが、軽く手を振るだけだった。
「みりあちゃん、今日レッスンでしたよね? 疲れちゃいました?」
気遣う卯月の言葉に、みりあは首を横に振る。
「あの、プロデューサーに、話があって……」
自分を見上げてくるみりあに、プロデューサーはうなずいて――
「どうか、されましたか?」
「うん、えっとね……」
みりあは、事務所を見回して、両手をすり合わせながら――
「ないしょの話なの! だから、どこか別の場所で……」
まるで、愛の告白でもするような言い方だった。
アイドル達の顔に、冷やかすような笑みが浮かんだ。
しかし――
みりあの顔に、笑みはない。
そわそわ動く黒い瞳に、何か良くない事が起きているのでは、と心配になった。
「分かりました。別の部屋でうかがいます」
プロデューサーはみりあを従えて、部屋を出た。
* * *
「ここなら、大丈夫です」
旅館の使われていない部屋に入って言葉をうながすと、みりあは、ちいさな握りこぶしをつくって、プロデューサーをまっすぐ見上げて――
「あのね、莉嘉ちゃんには言わないでって、言われたんだけどね、でも、このままじゃ良くないなって、思って……」
細い眉をハの字にするみりあの言葉を、プロデューサーは待った。
みりあは、しばらく無言でうつむいてから、強い視線を、プロデューサーへ向けて――
「莉嘉ちゃんね、リーダー、あんまり上手くいってないの……」
「えっ」
思わず、声が出た。
そんな話は、聞いてないし、そんな素振りも、見当たらなかった。
レッスンが始まってからは、ライブの準備で忙しいので、現場に行けてなかったが、顔を合わせた時に調子を訊くと、ばっちり完璧だよP君! と言って笑っていたのだが……。
「莉嘉ちゃん、プロデューサーにリーダー任された時、すっごい喜んでたの。プロデューサーの期待にこたえなきゃって、はりきってたの。だから、言えなかったんだと思うの……」
「そう、ですか……」
今回のユニットは、複数の事務所の合同ユニットであるから、まとめ役が必要だった。
普段の振る舞いを見て、莉嘉に任せれば、うまくユニットをまとめてくれるだろうと思ったのだが……。
「状況を、詳しく教えてもらえますか?」
「うん。あのね――」
みりあの語るところによると、原因は、ライブまでの練習時間の少なさによるものだと分かった。
今回のライブは、子供だけのユニットのライブなので、その日程をゴールデンウィークの子どもの日に設定したのだが、そのせいでスケジュールが厳しくなってしまった。
リーダーの莉嘉に様子を聞いて、場合によっては振りつけの簡略化や、ライブ時間の短縮も考えていた。
「分かりました。何か、対策を考えてみま――」
みりあが、プロデューサーの腕を引っ張って言葉をさえぎった。
そして、首を横に振った。
「あのね、莉嘉ちゃん、プロデューサーにこのこと知られたくないって言ってたの。だから、プロデューサー以外の人が、莉嘉ちゃんを助けてくれるように、してほしいの」
「しかし……」
プロデューサーは、眉根に力を入れて考えた。
このユニットは、続く企画を成功させるためにも、絶対に成功させなくてはならない。
すぐにでも事務所を出て、対策を講じたいのだが――
しかし――
自分の腕を掴むみりあから、強い気持ちが伝わってくる。
莉嘉を、傷つけないでほしい。
自分が出て行けば、確かに解決できるかもしれない。
しかし、それと代償に、莉嘉を傷つけてしまうかもしれない。
そして、彼女から、笑顔を奪ってしまうかもしれない。
それだけは、絶対に、してはいけない。
じゃあ、どうすれば……。
プロデューサーは、目を閉じて、自分に問いかける。
誰か、信頼して頼める人は、いないだろうか?
莉嘉に適切なアドバイスを、できる人は……。
そしてふと、記憶がよぎった。
凸レーションのイベント。原宿駅。交番。カリスマ。
プロデューサーは目を開けて、みりあへ視線を向ける。
自分の腕にしがみついて、今にも泣き出しそうな彼女に、問いかける。
「城ヶ崎美嘉さんと、連絡はとれますか?」