アニメ アイドルマスターシンデレラガールズ 3rd SEASON (完結)   作:栗ノ原草介@杏P

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 Bパート 2

 

 

 

 荒廃した都市。

 かつての繁栄は見る影もないゴーストタウンで、蘭子は飛鳥と対峙する。

 どこからともなく吹いてくる風に、エクステをなびかせる飛鳥を見据えて――

 

「あす……、あすっ……、あすッ……」

 

「何をしているんですか? もう今日の撮影は終わりですよ」

 視界に飛び込んできた少女に、蘭子の集中力は乱されて――

 

「ありすッ!」

 

「いっ、いきなりなんですか……。あと、橘です」

 今日から現場入りした橘ありすは、不満げに細い眉をハの字にすると、エクステをたどるようにして飛鳥を見上げた。

「遊んでないで、帰りますよ。プロデューサーさんから、飛鳥さんがよく分からないことをして時間を無駄にしないように見張ってほしいと言われてるんです」

 ありすの言葉に、飛鳥は余裕の笑みを浮かべる。

「よく分からないこと、か。しかし、己の行動の意味を把握している人間が、果たしてどれ程いるのだろうか? 大多数の人間は、己の行為の意味をしらない。だからこそ、それを知るために試行錯誤を繰り返す」

「……飛鳥さんの言っていることは、論理的じゃありません。抽象的すぎます」

「ボク達は、明確な〝解〟を持たない曖昧な存在だ。その存在を、不完全な言葉で表そうとするから、表現が抽象的になってしまう。いうなれば、これは〝言葉〟の限界だ。言葉に頼らず、相手の心を理解しようとする行為こそ、コミュニケーションの真意だと――」

「いいから、もう行きますよ」

 ありすが、飛鳥の服の裾を引っ張って歩き出す。

 

「あっ……」

 

 離れていく飛鳥を、蘭子はとめることができない。

 

 ――今日こそはと、思ったのに……。

 

 諦めかけた蘭子だったが、ふいに飛鳥の動きがとまる。

「ありすちゃん。スタッフさんが、苺シュークリームを、さしいれて、くれたぞ」

 今日も全身をキノコに侵食されているキノコゾンビの輝子が、アリスの前に立ちはだかった。

「お茶の準備も、ある、よ」

 高いクオリティで腐っている小梅が、簡易テーブルの近くで〝おいでおいで〟をしている。

 特殊メイクでゾンビになった小梅が手招きをしている様子は、まさにホラー映画の一場面だったが、ありすの小さな喉は物欲しげな動きを見せた。

「せっ、せっかくさしいれを貰ったのであれば、いただかないと失礼ですね。あと、橘です」

「お、おう。そうだったな。すまんすまん」

 輝子が、ありすをテーブルの方へ誘導する。

 一瞬、蘭子の方を見て、右目を閉じた。

 

 下手クソな、ウィンクだった。

 でも、意図は伝わってきた。

 

 テーブルの方を見ると、ティーポッドを持った小梅が、励ますような笑みを向けてくれた。

 

 二人は、蘭子に告白のチャンスを作ってくれた。

 その気持ちに、応えるためにも――

 

「あす……、あすっ……、あすッ……」

 

 蘭子は、両手でスカートの裾を掴み、背筋を伸ばして――

 

「アスタリスクッ!」

 

 頭の中に、にゃんとロックなアイドルが出現した。

 

 ――違う、そうじゃない!

 

 かぶりを振ってみくと李衣菜の幻影を振り払い、赤い瞳を飛鳥へ向ける。

 

 飛鳥と、目があった。

 

 彼女は、いつもの挑戦的な笑みを浮かべて――

「キミが何かを伝えようとしていることは、すでに観測されている。ボクにとって、それがすでに大きな意味を持っている。もはや内容は、些細なことだ。言葉など、しょせんは心を通わせるためのツールに過ぎないのだから」

 

「飛鳥……」

 

 飛鳥のエクステが、揺れた。

 大きく、頷いてくれた。

 自分の中に、力がこみ上げてきた。

 

 そう。魔力は満ちて、今こそ、覚醒の時――

 

「我は片翼の堕天使。翼をもがれ、天界へ戻ることは叶わない。しかし、その瞳は常に空を見上げている。飛び立つことを、諦めていない」

 

 指を伸ばし、綺麗にネイルされた爪をしなやかに躍らせる。漆黒を切り裂く(やいば)を振るうは悪魔ごとき赤い目をした、しかし慈悲深い天使の笑みをたたえる少女で――

 

「我は、捜し求めていた。失われし翼を補う、唯一無二の存在を。そして、見つけた。我の魔眼が、我の(アルマ)が、翼を持つ堕天使の存在を!」

 

 蘭子の手が、さし伸ばされる。

 天使を誘惑する悪魔のように、妖艶(ようえん)な魅力を持って――

 

「飛鳥よ。我と共に深淵を目指そう。二人の翼を、一つに……」

 

 心臓の音が、耳に痛い。

 伸ばした手が、とても重い。

 油断すると、弱い気持ちに支配されて、手を引っ込めてしまいたくなる。

 

 しかし――

 

 ここまできたら、引き下がれない。

 

 〝言葉〟が届いていることを信じて、蘭子は手を伸ばし続ける。

 

「いいだろう」

 

 言葉に続いて、待ち焦がれた抱擁(ほうよう)

 

「ボクは、孤独の海を漂っていた。己の価値観で己を傍観することがボクの全てだった。しかし、たまには趣向を変えることも必要だ。変化のない日常は、観測者を怠慢にしてしまう。それに――」

 

 飛鳥は、笑みを消して、目をそらして――

 

「誰かに求められている。それはとても、嬉しいことだ……」

 

「飛鳥……」

 

 二つの闇が交差して、新しい深淵がセカイを覆う。

 

 ダークイルミネイト。

 

 他に類を見ない、独自の世界をもったユニットが誕生した瞬間だった。

 闇の眷属として互いを認める二人の間に、もはや言葉は不要だった。

 

 不完全な〝言葉〟で繋げるまでもなく、二人の魂は、すでに結ばれていたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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