アニメ アイドルマスターシンデレラガールズ 3rd SEASON (完結) 作:栗ノ原草介@杏P
Aパート 1
「それでは、リハ、始めまーす」
スタッフの合図を受けて、スポットライトが点灯する。
特設ステージの中央に立つ、二人のアイドルに注目が集まる。
「みなさーん。退屈、してますかー?」
十時愛梨の掛け声に、スタッフ達が「退屈でーす」とレスポンスをする。
愛梨の隣に立った川島瑞樹が、うんうんと頷いて――
「わかるわー。じゃあ、そんな退屈を、対決で解決しちゃいましょうっ!」
司会の二人が、息を合わせて――
「頭脳でどん! ブレインキャッスル。スペシャル特番!」
BGMが流れて、すべてのライトが点灯する。
「こうして二人で並ぶのも久しぶりね、愛梨ちゃん」
「そうですね、川島さん。懐かしい衣装を着て、懐かしいステージに立って、何だかとっても嬉しいです」
「わかるわー。でもね愛梨ちゃん、今回の特番は、ただ懐かしいだけじゃないのよ。なんと、クイズで優勝したチームには、とってもすごい賞品があるの」
「今までは、勝てばアピールタイムゲットで、負けたチームは罰ゲームでしたが、今回は――」
「なんと、新曲のCDを製作する権利をゲットできまーす!」
「うわぁー、これはすごいですね。なんとしても優勝して、権利を勝ち取りたいですね」
「新曲のCDをかけてクイズで対決するチームは――」
「この4組ですっ」
出場を控え、暗幕の裏で待機する智絵里の、手と足が震えていた。
もちろん、緊張もある。
けど、それ以上に、この仕事に対する意気込みがあった。
久しぶりに、キャンディアイランドの衣装で、テレビに出演できる。
そして、クイズで優勝できれば、CDを――
「かわいいボクと――」
「野球!」
「どすえー」
聞きなれた声がして、ステージが盛り上がる。
この番組の常連ユニット――KBYDの登場に、顔馴染みのスタッフ達が歓声を上げる。
「この番組といったら、この3人は欠かせませんね」
愛梨の声に、フフーンという得意げな鼻息が続く。
「まあ、ボクのかわいさがないと、番組が成り立ち――」
「今回は、優勝目指してホームラン、狙っていくよ!」
「いつもより、気張っていきたいと、思っておりますぇ」
「ちょっと! ボクの台詞が途中ですよ! もっと、ボクのかわいさを、みなさんに伝え――」
「はい、それでは続いてのチームは、こちら!」
「ちょっと川島さん! ボクの台詞がまだ――」
閉じられていたカーテンが、開いた。
ライトのまぶしさに、一瞬、目を閉じた。
良く磨かれて滑りやすい床。
パステル調の色彩を放つ特設ステージ。
その先に、川島瑞樹と十時愛梨の笑顔があって、KBYDの三人が、不敵な笑みを浮かべている。
一年前の収録を思い出す光景だが、あの時とは、違っている。
違っていると、思いたい。
初めてのTV収録を前に怖気づき、観客をカエルに見立ててステージに上がったあの時よりも、成長していると思いたい。
「KBYDの公認ライバル、キャンディアイランドのみなさんです!」
愛梨の紹介に続いて、3人で声をそろえる。
視線だけでタイミングをはかり――
「キャンディアイランドでーす!」
声が、ぴったり揃った。
自然な笑みを添えるだけの、余裕があった。
「ひさしぶりですね」
小指を立ててマイクを持った幸子が、宣戦布告とばかりに笑う。
「以前は引き分けでしたが、今日は負けませんよ。なんたって、ボクのかわいさを世に知らしめるスペシャルなCDの製作がかかっているんですから!」
「え、そんなCDなの?」
「さあ……。さちこはんの中では、そうなってるみたいどすぇ」
怪訝な顔をする姫川友紀と小早川紗枝の意見を、幸子はコホンと空咳を入れて一蹴し、再びキャンディアイランドへ視線を向ける。
「とにかく、今回のクイズは、この世界一カワイイこのボクが――」
「はーい幸子ちゃん。そんなところで、続きは本番でよろしくね」
「えっ、ちょっと、川島さ――」
「続いては、この番組を〝終わらせた〟という伝説を持つ、あのチームの登場です!」
BGMが鳴り響いた。
カーテンの向こうから、及川雫と大沼くるみが現れた。
男性スタッフから、今までとは毛色の違う歓声が飛んだ。
「もぉー、及川牧場から来ました、及川雫と――」
「あのっ、大沼くるみでしゅ……。クイズは、苦手でしゅけど、がんばりまっ、あっ……」
くるみが、盛大に転んだ。
「くるみちゃん! 大丈夫ですか? つかまってください」
雫が、手を貸して起こした。
湿度の高いくるみの目から、大粒の涙がこぼれた。
「ううっ、ごめんなしゃい……。くるみ、どじだから、ぷろでゅーしゃーにも、気をつけるようにって、言われてたのに……」
「大丈夫ですよー。怪我はないですかー?」
「ふぁい……」
二人のやりとりに、スタッフの間から拍手が起きた。
暖かい雰囲気に、司会の愛梨も、笑みを浮かべて――
「ということで、BBチームのお二人です。よろしくお願いしますね」
愛梨の視線を、瑞樹が受け取る。
スタッフに合図を送り、照明を落とす。
「そしてラストは、初登場のダークホース。その実力は未知数の、このチーム!」
スポットライトが、ステージの入り口を照らしだす。
BGMの代わりに、鼻歌が響く。
「フンフンフフーン、フンフフー……」
スポットライトに金髪を輝かせるのは、黙っていれば美人の称号をほしいがままにする――
「フレデリカ!」
宮本フレデリカが、楽しそうに笑った。
そしてその後ろに、もう一人のアイドルが。
彼女は、花の香りがすると自称するフレデリカのにおいに釣られるように、鼻を鳴らして――
「スンスンススーン、スンススー……」
学者のように白衣をはおり、怠惰な服装の中に色香をただよわせる――
「志希デリカ!」
「ちょっと志希ちゃん、混ざってるよー?」
「にゃははー、フレちゃんのにおいをハスハスしてたら、あたしの中で化学反応が起きて半分フレちゃんになっちゃった」
「そっかー、じゃあしょうがないね」
「そゆことー」
「いやっ、誰か突っ込んでよ! そのままスルーしちゃだめでしょ、この会話!」
瑞樹に突っ込まれても、二人のアイドルは穏やかに笑っていた。
見るからにマイペースな二人に、威圧感は無かった。
BBチームと同じく、盛り上げ役なのかと思われたが――
志希とフレデリカのチーム――〝レイジー・レイジー〟は、ずば抜けていた。
リハーサルとはいえ、台本無しの真剣勝負でクイズ対決が行われた。
それが終わった時、スタジオは異様な空気に包まれていた。
レイジーチーム以外の点が、0だった。
一ノ瀬志希が、誰よりも早く、クイズの問題に正答した結果だった。