アニメ アイドルマスターシンデレラガールズ 3rd SEASON (完結) 作:栗ノ原草介@杏P
「私は、納得できない」
馴染みのファミレスに、凛の声が響いた。
めずらしく感情をあらわにした声は、相席する卯月と未央へ向けられている。
「まあ、しぶりんの気持ちも分かるよ。ちょっと、急な話だよね……」
未央は注文したフライドチキンをじっと見つめて、ため息を落とした。口をつけていないそれは、すっかり冷めてしまっている。
「卯月はどう思う? 急に移籍とか言われて」
卯月は、ぼんやりと凛のチョコパフェを眺め、考えていた。
気持ちの整理がつかなくて、視線がテーブルの上をさまよって、プロデューサーから渡された封筒が視界に入ると、胸の奥に痛みを覚えた。
「卯月?」
「はっ、はい! ……すいません、今、ぼーっとしちゃってて」
慌てて、向かいに座る凛を見た。
じっと見つめる緑色の瞳が、自分に意見を求めている。
「あの、その、えっと……」
テーブルの上に、沈黙が降りた。
その沈殿した空気が、三人の心境だった。
いつもなら活発に飛び交う言葉が、今は全然出てこない。
「2人は、今、どんな気持ち?」
訊かれて、卯月は顔を上げた。
凛の緑色の瞳が、自分を見て、未央を見て、半分くらい溶けているチョコパフェへ向けられて――
「私は、何か、裏切られた気分。こんな風に封筒渡されておしまいなんて、そんなの、ちょっとひどい……」
裏切られた気分。
その言葉が、卯月の胸に深く刺さった。
今、自分はそういう気持ちなのだと、はっきり自覚できた。
自分は、事務所が無くなることにショックを受けているのではなくて――
あの人の行動に、ショックを受けているのだ。
だってあの人は、笑顔を失ってアイドルの世界から抜け落ちてしまいそうだった自分を、助けてくれたのだ。
不器用ながらも手を引いて、道を示してくれたのだ。
地図を渡して突き放すような薄情な真似は、全然あの人らしくないのだ。
「……なんでか分からないけど」
未央の手が封筒を開ける。
中から出てきた、名だたる事務所のパンフレットを見下ろし――
「全然魅力を感じないんだよね」
冷め切ったフライドチキンをつかんで、かじって、飲み込んでから――
「1年前だったらさ、入れたら大喜びの事務所ばかりだよ。それなのに、今は全然――」
未央は最後まで言わず、言葉を濁した。
でも、何を言いたいのか、分かった。
卯月も、同じ気持ちだった。
たとえ、今この場に、他の事務所のプロデューサーが現れて、破格の条件でスカウトしてきたとしても――
きっと自分は、首を横にふる。
「あの、わたしも――」
卯月が気持ちを言葉にしようとした時、凛の携帯が鳴った。
「ごめん、加蓮から」
手仕草で侘びながら、携帯を耳にあてる凛。
しばらく話しているうちに、彼女の顔色が変わる。
「分かった。待ってる」
そう言って、電話を切った。
「どうしたの、しぶりん? 何か、ヤバイ話……?」
未央の問いに、凛はうなずく。携帯を投げ捨てるようにテーブルに置いて――
「加蓮の話だと、シンデレラプロジェクト、存続する予定だったって。346プロに残りたいっていうアイドルのために、残しておく予定だったって」
「……それ、誰情報?」
テーブルに身を乗り出す未央。
卯月も身を乗り出して凛を見つめる。
「美城常務。加蓮と奈緒、移籍の話聞いた時、トライアドとして活動したいって言ったんだって。そしたら、シンデレラプロジェクトへ転属しろって言われて。でも急に、シンデレラプロジェクトも無くなるって話になって、それで私に電話してきて」
「でも、プロデューサーの言い方だと、問答無用で無くなっちゃう感じだったよね?」
「うん。だからちょっと、加蓮達から話を訊こうと思って。今、事務所にいるみたいだから、すぐ来るって」
「なるほど。じゃあこれから、重要参考人の取調べといきますか!」
未央の口元に、笑みが戻った。冷めたフライドチキンを、おいしそうにかじった。
卯月も、すっかり溶けてしまったアイスを、スプーンで口に運んだ。
甘い……。
卯月は自然と、笑みを浮かべた。
見ると、凛もチョコパフェにスプーンを入れて、微笑んでいた。
何故、未央と凛が笑っているのか、卯月には分かった。
きっと2人は、今の自分と同じ気持ちなんだろうなと、思った。