アニメ アイドルマスターシンデレラガールズ 3rd SEASON (完結) 作:栗ノ原草介@杏P
Aパート 1
「ミニライブッ!」
事務所にいたアイドルが、同時に声を張り上げた。
ホワイトボードに板書していたプロデューサーが、思わず振り向いてしまうくらいの大声だった。
その声の大きさが、アイドル達の驚きの大きさを表していた。
「そういうの、大丈夫なの? 346プロ、お金のかかることはできないんじゃ……」
未央の声に、卯月と凛が同時に頷く。
他のアイドル達も、それぞれの仕草で肯定を示す。
346プロの経済状態が芳しくないことを、その身をもって思い知っているアイドル達は、ミニライブを喜ぶと同時に心配していた。
「Pチャン、無理しちゃだめにゃ。無理して失敗したら大変にゃ。みく達、野良アイドルになっちゃうにゃ……」
「そうだよプロデューサー。一か八かの挑戦はロックだけどさ……」
みくと李衣菜の意見が、珍しく一致した。
「いくら経営不振でも、やけになっちゃ駄目だよプロデューサー。景気の悪い時は下手に動かないほうがいいんだよ? 働かざること山の如し、って言うじゃない」
ドヤ顔と共に胸を張って〝働いたら負け〟Tシャツの格言を強調する杏に、かな子と智絵里も同意する。
そしてすぐに首をかしげる。
「動かざること山の如し、だったような……」
かな子の言葉に、智絵里もツインテールを揺らして同意する。
「わたしも、そっちだった気が……」
「まあ、細かいことはいーじゃない。ようは、もっとどっしり構えてチャンスを待ったほうがいいんじゃないかって、杏は思うんだよ」
それ以上の言葉を拒絶するように、杏は〝人を駄目にするソファー〟に寝転がってその半身をクッションに沈めた。
「みりあはミニライブに賛成だよっ! みんなでライブ、やりたいもんっ!」
「あたしも賛成! カリスマJCアイドル莉嘉のセクシーなライブでファンのみんなを悩殺しちゃうんだからっ!」
立ち上がった莉嘉が、両手を腰に当てて胸を張った。
それを見上げるみりあの口元に、イタズラっぽい笑みが浮かんで――
「莉嘉ちゃん、セクシーなんてできるの?」
「もっちろん。お姉ちゃん譲りのセクシーが爆発するよ!」
「ほんとにぃ……?」
「あーっ! 疑ってるな! そんなみりあちゃんはこうしてやるっ」
「ちょっ、やめっ、くすぐったい!」
くすぐられて笑うみりあの声に、ホワイトボードを走るペンの音が混ざる。
板書を再開したプロデューサーがペンを置いた時、アイドル達の困惑はさらに加速していた。
「今回は、少し変わった企画になります」
プロデューサーは、前置きを入れてアイドル達に身構えてもらってから、説明を始めた。
「企画自体は、今までやってきた仕事と変わりありません。去年、池袋でおこなったミニライブを、今年も開催しようと考えています。出演ユニットも、ニュージェネレーションズとラブライカで考えています」
未央と卯月と凛が、視線を交わして微笑んだ。
それは美波も同様で、隣に座るアナスタシアと笑みを交わした。
嬉しさと、同時に期待がこみ上げた。
ホワイトボードに書かれた言葉は、新しい何かを示唆している。
冒険の予感に、胸が高鳴った。
「今回のミニライブは、765プロとの合同ライブになります。765プロのアイドルと、一緒にライブを行うことになります」
「それって、765プロのユニットが来るってこと?」
未央の問いに、プロデューサーは首を横に振った。
それが見間違いでないかと、本当は肯定の仕草をしたのではないかと、思って美波はプロデューサーをじっと見た。
美波も、未央と同じことを考えていた。
ホワイトボードに書かれた〝765プロとの合同ミニライブ〟という文字は、すなわち〝765プロのユニット〟との合同ライブだと思っていた。
「今回は、765プロのアイドルを346プロのアイドルのユニットに参加させる、という形での合同ライブを考えています」
どういうことなのか、すぐには理解できなかった。
それは他のアイドルも同じようで、眉根を寄せたり首をかしげたりしていたが――
ソファと一体化していた杏が、ゆらりと起き上がって共犯者の笑みを浮かべた。
「ふっふっふ、杏は分かったよ。765プロの新人アイドルの面倒を見るかわりにライブ費用を出してもらう。そういう魂胆だねプロデューサー!」
杏のドヤ顔がプロデューサーを直撃した。
彼は目を見開いて驚きをあらわにしてから、普段の仏丁面に戻って頷いた。
「おおむね、双葉さん言ったとおりです。現状の346プロでは、単独で大きな興行をおこなうのは、資金的に厳しいものがあります。しかし、765プロとの合同ライブ、という形であれば、費用を負担してもらえますので、ライブを行うことが出来ます。765プロにとっては、新人を効果的に売り込むことができる、というメリットがあります」
「なるほど、お互いに得があるってわけだね。よーしっ」
満面の笑みを浮かべた未央が、肩をグルグル回し始めた。
「他の事務所とはいえ新人の面倒をみるなんて、腕が鳴るよプロデューサー! どうせなら美嘉姉みたいなカリスマな先輩になりたいな!」
先輩風を巻き起こす未央を見て、プロデューサーは首の後ろをさわった。
それは、プロデューサーが困った時に見せる仕草である。
もしかすると、765プロの新人アイドルは――
美波は、息を呑んで身構えた。
「765プロのアイドルは、ラブライカとのコラボレーションを予定しています。ニュージェネレーションズは、普段どおり三人でお願いします」
「えーっ! 私もコラボしたいよプロデューサー!」
「またの機会に、お願いします」
「むーっ!」
腕を組んでむくれる未央。
それを見た凛が、いつものように笑いかけながら――
「でも、またニュージェネでライブできるんだから、それを喜ぼうよ」
「そうですよ未央ちゃん! しかもデビューライブと同じ場所でまたライブできるんですよっ!」
「デビューライブ……」
未央の顔から、笑みが消えた。
卯月が、発言を取り消そうとするかのように口に手をあてた。
しかし未央は、すぐに笑顔を取り戻し――
「今度は、お客さん一杯来ちゃうかな?」
プロデューサーは、ためらうことなく頷いた。
「今回の企画を765プロが承認したのは、ニュージェネレーションズとラブライカの人気を加味してのことです。たくさんのファンを呼べると思ったからこそ、負担する費用以上に新人アイドルを売り出すことができると、考えてもらえました。この企画が成立したのは、一重にニュージェネレーションズとラブライカの実力を評価された結果であると、考えています」
プロデューサーの説明を聞いた未央は、それ以上何も言わなかった。
頭の後ろで手を組んで、嬉しさと気恥ずかしさの混ざった笑みを浮かべていた。
その笑みは卯月と凛に伝染し、遠目に見ていた美波も自然と微笑んでいた。
去年のデビューライブの時、観客はほとんどいなかった。
歓声も、拍手も、BGMにかき消されてしまうくらいに少なかった。
それが今年は、観客を動員できると見込まれて企画が成立してしまうのだ。
アイドルユニットとしての成長を、嫌が応にも実感できて、嬉しくなった。
しかし、それと同時に――
新しいプレッシャーを覚えた。
今までは新人であったが、今回は先輩として新人の世話をする立場になる。
果たして上手くできるだろうか。
高垣楓や城ヶ崎美嘉のような、立派な先輩になれるだろうか?
不安がないと言えば、嘘になる。
しかしそれ以上に、美波は期待していた。
だって――
先輩アイドルになるということは、〝新しい冒険〟なのだ。
きっと、新しい景色を見ることができるのだ。
アイドルになって初めて見ることのできたあの景色のような、素晴らしい景色が待っているかもしれないのだ。
「新田さん。アナスタシアさん。765プロのアイドルとのコラボレーション、お願いできますか?」
美波は、隣に座るアナスタシアへ視線を向けた。
その青い瞳の中に、決意の色を確認し――
「はいっ」
「ダーっ」
二人同時に返事をした。
プロデューサーが頷いて、765プロとのコラボライブが決定した。