アニメ アイドルマスターシンデレラガールズ 3rd SEASON (完結) 作:栗ノ原草介@杏P
もう一度、会って直接、話をする必要があった。
メールや電話ではなくて、顔をあわせて、視線を交わして、きちんと伝える。
自分が、トライアドのことを、どう思っているのか。
だから凛は、加蓮と奈緒にメールを送った。
〝明日、会えないかな〟
いつもどおり、そっけない文面だった。メールを修飾するのは、得意じゃない。
返事は、すぐに来た。
一緒にいるのだろうか、奈緒が二人分の返事をしていた。
* * *
そして翌日、いつものファーストフード店に向かった。
まだ、二人の姿はなかった。
適当な飲みものを頼んで、いつもの場所に座って待った。
傘についた水滴が全て床に落ちるころ、奈緒が現れた。
一人だけだった。
「加蓮は?」
挨拶も抜きに、訊いてしまった。
もしかして、もう会ってくれないのかと思った。
曖昧な態度が許せなくて、それで……。
「加蓮さ、風邪ひいちまってさ。昨日までは調子よさげだったんだけどな。まあ、加蓮はそういうの、結構あるんだよ」
凛の不安を、奈緒の笑みが
「そう、なんだ……」
当たり前のように話す奈緒を見て、胸の奥がチクリと痛い。
加蓮と奈緒の二人と、自分の間に距離を感じた。
同じユニットを組んでいるのに、知らないことが多い気がする。
「――で、話ってのは、やっぱりこの前のことか?」
凛は頷いて、立ち上がる。
「あのさ、これから、加蓮の家、行けないかな? 迷惑じゃなければだけど、お見舞いってことで……」
「へ?」
座りかけていた奈緒が、動きを止める。
珍しいものでも見るように、じっと凛を見てから――
「それはいいな。きっと加蓮、よろこぶぞ!」
嬉しそうに、歯を見せて笑った。
奈緒は、まるで自分のことのように、加蓮のことを考えている。
その距離の近さを、少しだけ羨ましく思った。
自分も、もっと二人と距離を詰めたいと思った。
未央のように、すぐに誰とでも親しくなってしまえればいいのだけど……。
「じゃあ、お見舞いの品を持っていかないとな」
奈緒は、レジカウンターへ向かうと、迷うことなく大盛りポテトのテイクアウトを頼んだ。
奈緒は、まるで自分のことのように加蓮の好みを分かって――
いや――
「病人にフライドポテトは、重くない?」
「具合の悪い時こそ好きなものを食べたほうがいいんだよ。加蓮、ポテト大好きだからな。きっと喜ぶぞ」
「そうかな……」
凛は半信半疑だが、奈緒は自信満々だった。
そして二人は、フライドポテトの入った紙袋を持って加蓮の家へ向かった。
* * *
「奈緒、重いよ」
フライドポテトを差し出された加蓮は、苦笑して遠慮した。
「あれ。でも、加蓮ポテト好きだよな」
慌てる奈緒に、加蓮は笑みを絶やさずに――
「そうだけど、今はこんな状態だからね。その気持ちだけもらっとく。ありがと」
加蓮は、ベッドの中で体を起こしている。
パジャマ姿で、髪もほどいて。
そんな状態の加蓮に、強い言葉を向けていいのか迷い、凛は話を切り出せない。
「遠慮はいらないよ」
その気持ちを見透かしたかのように、加蓮が言った。
微笑みの
「この状態でも、凛の言葉、受け止めるくらいはできるから」
大病の告知を覚悟した患者の眼差しで、見つめられた。
奈緒も、同じような顔をしている。
凛は、二人を交互に見つめて、幾度となく頭の中で復唱した言葉を口にする――
「私も、トライアドを諦めたくない」
発した言葉が、加蓮と奈緒に染みこむのを待ってから――
「私も、ずっと考えてた。加蓮と奈緒が別の事務所に移籍して、それからトライアドをどうすればいいのか。分からないから、何も言えなかったけど……、でも、三人で活動したいって気持ちは、ずっと持ってる。どうにかしたいと、思ってる」
しばらく、窓を叩く雨の音だけが聞こえた。
かさりと、音がした。
奈緒が、ポテトの入った紙袋で、加蓮の肩を叩いていた。
「ほらな、あたしの言った通りだろ? 凛だって、ちゃんとトライアドのこと、大事に思ってくれてるんだよ」
加蓮は、何かを隠そうとするかのように、顔をそむけた。
雨の滴る窓を見たまま、湿っぽいため息を落として――
「……私さ、不安だったんだよね。346プロが、あんなことになっちゃって。凛と別の事務所に、なっちゃって。ニュージェネがミニライブをやるってきいて、でもトライアドは音沙汰なしで。もしかしたら、凛はもう、トライアドなんてどうでもよくなっちゃったのかなって」
「そんなことっ――」
言いかけた凛を、加蓮の手が制止した。
凛は椅子に座りなおして、加蓮の言葉を待った。
「……私さ、神さまに嫌われてるんだよ。子供のころ、大きな病気してさ。自分は何も悪くないのに、ずっと病室に閉じ込められて。これはもう、神さまに嫌われてるんだなって、ずっと思ってた。だけど、だからって――」
加蓮が、顔をこちらへむけた。
泣き顔、ではなかった。
むしろ何かを
「運命に負けて泣き寝入るつもりは、なかった」
その表情と、語気の強さに呆然とする凛へ、加蓮は続ける――
「病気なんて、絶対治してやろうと思った。そして、思いっきり、やりたいことやろうと思った。そんでもって、イジワルな神さまを、見返してやろうと思った。あんたが気まぐれにいじめた北条加蓮は、残念ながら毎日を最高に楽しんでますよ、って。笑顔で好きなことやってますよ、って。まあ、私にとって、そのやりたいことってのが、アイドルだったんだけど……」
加蓮の目が、凛と奈緒を、交互に見て――
「この人だ! って思える子と出会えて、ユニットでデビューできて。さあこれからだって時に、事務所があんなことになっちゃって。離れ離れになっちゃって。あー、またか、って思ったよ。私は、どこまでも神さまに嫌われてるんだなって……。でも、もちろん――」
加蓮は、歴戦の勇士を思わせる、頼もしい笑みを浮かべて――
「運命に負けて泣き寝入るつもりは、ないから」
加蓮の赤い瞳は、今、まっすぐに、凛へ向けられて――
「凛の気持ち、ちゃんと届いたよ。いつになるか、わからないけど、でも、絶対にまた、トライアドでステージに立とうね」
「加蓮……」
凛は、呆然と半開きだった口元を引き締めて、頷いた。
〝別々に悩んでいるのは、よくない〟
誰かに言われた言葉が、脳裏をよぎった。
意外なほどに強い力で腕をとられて、強い言葉を向けられた。
あれは、そうだ。卯月だ。
自分がトライアドに参加することを伝えて、未央がソロ活動を宣言して。
ニュージェネがユニットとしてどうなってしまうのか、雲行きが怪しくなってしまった時に、卯月が言ってくれたのだ。
「あの、さ……」
凛は、気恥ずかしさに、二人から目をそむけながら――
「二人のこと、もっと、話してほしいな、って。あたし、知らないこと、結構ありそうだから……」
言葉にすると、恥ずかしさが加速した。
それに追い打ちをかけるように――
「なんだか、告白みたいだね」
「いやっ、違っ――」
頬に熱を感じて否定するも、嬉しそうな加蓮の顔に毒気を抜かれてしまう。
「凛って結構、情熱的だよな」
奈緒にまでそんなことを言われて、どうしようもなく恥ずかしくなった。
でも――
まあいいかと、思った。
だって――
二人がとても、嬉しそうに笑っていたから。
「じゃあ、凛のリクエストにお答えして、奈緒が好きなアニメの話をしまーす」
がさっと、紙袋の音がした。
奈緒の動揺が、激しく振られた紙袋に表れていた。
「なんでそーなるんだよ! もっと他に話すことあるだろ!」
「えー、でもー。私は今、柄にもなく真面目な話をして、恥ずかしくて。凛は素敵な告白をして、恥ずかしくて。じゃあ、次は奈緒が恥ずかしくなる番だよ」
「何だよそれっ! 何で順番に恥ずかしくならなきゃいけないんだよ! それに、アニメの話は恥ずかしくないからな!」
「じゃあ、いいじゃん。ほら、よくハンバーガーと一緒にお人形もらってるじゃん。ボコボコちゃん、だっけ?」
「フルボッコちゃんだ! あーっ、もう、しょうがないなーっ!」
身振り手振りを加えて熱弁を振るう奈緒を見て、いつのまにか口元が緩んでいた。
楽しそうに笑う加蓮を見て、胸の奥に暖かさを覚えた。
そして凛は、決意する。
トライアドの活動を再開するために、声をあげようと。
例え届かなかったとしても、声をあげることだけは、してみようと。
自分だって、運命に負けて泣き寝入りなんて、してはいけないのだ。
だけど、行動を起こす前に、やることがある。
自分は、トライアドプリムスの渋谷凛であると同時に、ニュージェネレーションズの渋谷凛である。
だからまずは、卯月と未央に――。