アニメ アイドルマスターシンデレラガールズ 3rd SEASON (完結) 作:栗ノ原草介@杏P
Aパート 1
「高森藍子の、ゆるふわタイムー」
〝おさんぽカメラ〟のBGMが流れ、録音開始を告げるランプが点灯した。
向かいに座る構成作家の視線を受けて、高森藍子が口を開く――
「今日は、リスナーのみなさんに、素敵なお知らせがあるんです。実はわたし、新しくユニット活動をさせてもらえることになったんです。今年の夏に行われるライブ――〝トライ・キャッスル・ストーリー〟の連動企画で、事務所の枠を超えたユニットを作ろう、という話になりまして……、それでわたしに、お話がきたんですっ」
「そうなんですっ! とっても熱い、お話なんですっ!」
「あっ、茜ちゃん。今紹介しますから、もう少し待ってくださいね」
「あっ! つい、うっかり……ッ!」
藍子が笑って、そこに作家の笑い声も混ざる。
「ちょっとフライングしちゃいましたけど、今日は、ユニットでご一緒させてもらう二人を、ゲストとしてお迎えしているんです。もう元気一杯で、待ちきれないみたいなんで、さっそく呼んじゃいましょうね。茜ちゃーん」
「はいっ! リスナーの皆さん、こんにちはっ! 日野茜ですっ! 今回は、藍子ちゃんと一緒にユニット活動できるということで、私、すっごく燃えているんですっ! 嬉しくて、全力疾走したい気分なんですっ! 全力疾走、しちゃいましょうか! ふぁいやぁぁああ――ッ!」
「だっ、駄目ですよ茜ちゃん。ラジオブース内で走ったら、機材がっ」
ガシャンドカンと、物がぶつかり壊れる音が響き渡る。
暴走した茜が機材を蹴散らして走っている――
わけではない。
それは
茜がフライング気味に声を出したのは、台本にない行動だったが、それをアドリブで軽やかに受け流すことが出来る程度に、高森藍子はラジオパーソナリティとして経験を積んでいた。
「そして、今回のユニットは、もう一人、仲間がいるんです」
「そうなんですっ! ポジティブパッションの名前に
「茜ちゃん、ユニット名、まだ言っちゃ駄目ですよー」
「あっ、つい、うっかり……ッ!」
藍子と茜の笑い声が交差して、そこに作家の笑い声も重なった。
「それでは、もう一人のユニットメンバーに、自己紹介してもらいましょう」
藍子が、視線だけで合図をする。
それを受け取った未央は、台本とマイクを交互に見て――
「えっと、346プロの、本田未央ですっ。今回は、藍子ちゃんと、茜ちゃんと、一緒にユニットを組むことになって、その……、嬉しいですっ」
未央の喋り方は、ぎこちなくて、固かった。
それまでの藍子・茜のやりとりに比べ、面白みに欠けていた。
淡々と台本を読んでいるかのような、単調さがあった。
「あの子は、ラジオ慣れてないのかなぁ?」
ラジオブースの外。
ガラス越しに収録の様子を見守っていたプロデューサーに声をかけたのは、番組のディレクターだった。
腕を組んで、口をへの字にしていた。
「ちょっと、硬いっていうかぁ、ぎこちないっていうかぁ……」
ディレクターは、ぽりぽりと頭をかくと、操作卓に近づいた。
ボタンを押して、マイクへ口を近付けた。
「未央ちゃん? 台本はさぁ、そんなに気にしなくていいから。もっと、普段の調子でばんばん喋っちゃって。変なこと言っても、藍子ちゃんがカバーしてくれるから。黙るのが、一番よくないからさぁ」
トークバックと呼ばれる、出演者にしか聞こえない通話を通じて、ディレクターの指示が未央へ伝えられた。
未央は真面目な顔で頷いて、しかし更に口数が減ってしまった。
「なんだろなぁ、新人ってわけじゃ、ないんでしょ?」
ディレクターは、誰ともなしにつぶやいて、プロデューサーを横目で見た。
未央は、もちろん新人ではない。
ラジオの収録だって、テレビの収録だって、充分な経験を積んでいる。
現場を引っ張って成功させるだけの能力を持っている。
それなのに、どうしてラジオのディレクターに
このディレクターが悪いわけではないと、プロデューサーは思う。
当然の結果であると、言わざるをえない。
今、ラジオブースの中にいる未央は、その能力を半分も出せていない。
新人に見劣りしてしまうくらいに、喋れていない。
その理由は、恐らく――
プロデューサーは、未央がユニットのリーダーを辞退したいと言ってきた時のことを、思い出した。
〝だって、あーちゃんも茜ちんもさ、私より先輩じゃん? だったら、リーダーは二人のうちのどちらかにやってもらった方が、いいよね〟
そんな理由に、もちろんプロデューサーは騙されない。
未央の性格を考えれば、そんな遠慮はしないはずだし、高森藍子や日野茜が、未央のリーダー役に異論を唱えることはないと、言い切れる。
三人をユニットとして結びつけて、そのリーダーに未央を据えて、何も問題が発生しないと、熟考を重ねた上の人選だった。
実際に、高森藍子と日野茜は、未央とのユニット活動を伝えると、一瞬の迷いもなく喜んでくれた。
笑顔で
だから、誤算だった。
一番ユニット活動を喜んでくれるはずの未央に、曇った笑顔でリーダー役を辞退されるとは、思ってなかった。
何故、彼女がポジティブパッションの活動に対して消極的なのか。
その理由を、早急に解明する必要があると思った。
だって――
未央がラジオブース内で浮かべている笑顔。
それは、〝いい笑顔〟とは程遠い代物だったから……。