アニメ アイドルマスターシンデレラガールズ 3rd SEASON (完結)   作:栗ノ原草介@杏P

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第9話 〝Lost star〟
 Aパート 1


 

 

 

「高森藍子の、ゆるふわタイムー」

 

 〝おさんぽカメラ〟のBGMが流れ、録音開始を告げるランプが点灯した。

 向かいに座る構成作家の視線を受けて、高森藍子が口を開く――

 

「今日は、リスナーのみなさんに、素敵なお知らせがあるんです。実はわたし、新しくユニット活動をさせてもらえることになったんです。今年の夏に行われるライブ――〝トライ・キャッスル・ストーリー〟の連動企画で、事務所の枠を超えたユニットを作ろう、という話になりまして……、それでわたしに、お話がきたんですっ」

 

「そうなんですっ! とっても熱い、お話なんですっ!」

 

「あっ、茜ちゃん。今紹介しますから、もう少し待ってくださいね」

「あっ! つい、うっかり……ッ!」

 

 藍子が笑って、そこに作家の笑い声も混ざる。

 

「ちょっとフライングしちゃいましたけど、今日は、ユニットでご一緒させてもらう二人を、ゲストとしてお迎えしているんです。もう元気一杯で、待ちきれないみたいなんで、さっそく呼んじゃいましょうね。茜ちゃーん」

「はいっ! リスナーの皆さん、こんにちはっ! 日野茜ですっ! 今回は、藍子ちゃんと一緒にユニット活動できるということで、私、すっごく燃えているんですっ! 嬉しくて、全力疾走したい気分なんですっ! 全力疾走、しちゃいましょうか! ふぁいやぁぁああ――ッ!」

「だっ、駄目ですよ茜ちゃん。ラジオブース内で走ったら、機材がっ」

 ガシャンドカンと、物がぶつかり壊れる音が響き渡る。

 暴走した茜が機材を蹴散らして走っている――

 

 わけではない。

 

 それは(あらかじ)め用意された効果音で、構成作家による台本の演出である。

 茜がフライング気味に声を出したのは、台本にない行動だったが、それをアドリブで軽やかに受け流すことが出来る程度に、高森藍子はラジオパーソナリティとして経験を積んでいた。

 

「そして、今回のユニットは、もう一人、仲間がいるんです」

「そうなんですっ! ポジティブパッションの名前に相応(ふさわ)しい、熱い仲間がっ!」

「茜ちゃん、ユニット名、まだ言っちゃ駄目ですよー」

「あっ、つい、うっかり……ッ!」

 

 藍子と茜の笑い声が交差して、そこに作家の笑い声も重なった。

 

「それでは、もう一人のユニットメンバーに、自己紹介してもらいましょう」

 

 藍子が、視線だけで合図をする。

 それを受け取った未央は、台本とマイクを交互に見て――

 

「えっと、346プロの、本田未央ですっ。今回は、藍子ちゃんと、茜ちゃんと、一緒にユニットを組むことになって、その……、嬉しいですっ」

 

 未央の喋り方は、ぎこちなくて、固かった。

 それまでの藍子・茜のやりとりに比べ、面白みに欠けていた。

 淡々と台本を読んでいるかのような、単調さがあった。

 

「あの子は、ラジオ慣れてないのかなぁ?」

 

 ラジオブースの外。

 ガラス越しに収録の様子を見守っていたプロデューサーに声をかけたのは、番組のディレクターだった。

 腕を組んで、口をへの字にしていた。

 

「ちょっと、硬いっていうかぁ、ぎこちないっていうかぁ……」

 

 ディレクターは、ぽりぽりと頭をかくと、操作卓に近づいた。

 ボタンを押して、マイクへ口を近付けた。

 

「未央ちゃん? 台本はさぁ、そんなに気にしなくていいから。もっと、普段の調子でばんばん喋っちゃって。変なこと言っても、藍子ちゃんがカバーしてくれるから。黙るのが、一番よくないからさぁ」

 

 トークバックと呼ばれる、出演者にしか聞こえない通話を通じて、ディレクターの指示が未央へ伝えられた。

 未央は真面目な顔で頷いて、しかし更に口数が減ってしまった。

 

「なんだろなぁ、新人ってわけじゃ、ないんでしょ?」

 

 ディレクターは、誰ともなしにつぶやいて、プロデューサーを横目で見た。

 

 未央は、もちろん新人ではない。

 ラジオの収録だって、テレビの収録だって、充分な経験を積んでいる。

 現場を引っ張って成功させるだけの能力を持っている。

 それなのに、どうしてラジオのディレクターに苦言(くげん)(てい)されてしまうのか。

 

 このディレクターが悪いわけではないと、プロデューサーは思う。

 

 当然の結果であると、言わざるをえない。

 

 今、ラジオブースの中にいる未央は、その能力を半分も出せていない。

 新人に見劣りしてしまうくらいに、喋れていない。

 

 その理由は、恐らく――

 

 プロデューサーは、未央がユニットのリーダーを辞退したいと言ってきた時のことを、思い出した。

 

〝だって、あーちゃんも茜ちんもさ、私より先輩じゃん? だったら、リーダーは二人のうちのどちらかにやってもらった方が、いいよね〟

 

 そんな理由に、もちろんプロデューサーは騙されない。

 未央の性格を考えれば、そんな遠慮はしないはずだし、高森藍子や日野茜が、未央のリーダー役に異論を唱えることはないと、言い切れる。

 三人をユニットとして結びつけて、そのリーダーに未央を据えて、何も問題が発生しないと、熟考を重ねた上の人選だった。

 実際に、高森藍子と日野茜は、未央とのユニット活動を伝えると、一瞬の迷いもなく喜んでくれた。

 笑顔で快諾(かいだく)してくれた。

 

 だから、誤算だった。

 

 一番ユニット活動を喜んでくれるはずの未央に、曇った笑顔でリーダー役を辞退されるとは、思ってなかった。

 

 何故、彼女がポジティブパッションの活動に対して消極的なのか。

 

 その理由を、早急に解明する必要があると思った。

 

 だって――

 

 未央がラジオブース内で浮かべている笑顔。

 

 それは、〝いい笑顔〟とは程遠い代物だったから……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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