アニメ アイドルマスターシンデレラガールズ 3rd SEASON (完結) 作:栗ノ原草介@杏P
「ポジティブパッションの、何でも相談室~」
〝情熱ファンファンファーレ〟のBGMが流れて、コーナーが始まる。
パーソナリティーの高森藍子が、作家の合図を待って、口を開く――
「リスナーさんの悩みを、わたし達ポジティブパッションの三人が、ポジティブに解決しちゃいまーす。じゃあ早速、最初のお悩みメールです。えっと、ゆるふわネーム、パンキチさんです。私はパンが好きなんですが、パンは私をどう思っているか、分からなくて悩んでいます。どうしたらパンと
藍子の視線を受けた茜が、ぎゅっと握りこぶしを作った。
「パンキチさんは、もっとパンと仲良くなりたいんですね。だったら、パンと一緒に、グラウンドを走りましょう。スポーツを通じて、友情を
「いやっ、トライしちゃダメでしょ! 食べられなくなっちゃうよ!」
未央のツッコミが入って、作家が笑った。
「じゃあ、パンキチさんは、食べられる程度に、パンとコミュニケーション取ってみてくださいね」
「えっ! これで解決なの! すっごいざっくりしてるけど!」
「次は、ゆるふわネーム、ドナキチさんです。私はドーナツが好きなんですが、ドーナツは私をどう思っているか、分からなくて悩んでいます。どうしたらドーナツと
「これ、同じ人だよね! さっきと質問、ほとんど一緒なんだけど!」
「ここはやはり、一緒にグラウンドを走って、最後にトライを――」
「しちゃダメだって! 食べ物はトライしちゃ駄目だからっ!」
全力でボケる茜を、未央が全力でツッコむ。
そこに藍子が天然ボケを差し入れて、混乱が加速する。
それが悪い状態でないのは、時折入る作家の笑い声で分かる。
アイドルの顔を見れば分かる。
きっとリスナーにも伝わっているはずだと思った。
ポジティブパッションの、楽しそうな笑顔が。
「駄目だな……」
ディレクターの言葉に、プロデューサーは耳を疑った。
ラジオの収録に関しては素人だが、だからこそ、このラジオがリスナーを楽しませていると、確信が持てた。
駄目と言われても、納得できない。
抗議をするべきだと思って、ディレクターを見ると――
彼は、嬉しそうに笑っていた。
そしてスタッフに――
「音声だけじゃ駄目だ。次回から、動画配信できないか?」
スタッフは、同感であると言わんばかりに大きく頷いた。
「と、言うことなんですが、次回から動画配信、いかがでしょうか?」
ディレクターに問われて、もちろんプロデューサーに異論はない。
プロデューサーも、同じことを思っていた。
それくらい、ポジティブパッションの三人は、いい笑顔だった。
是非ともファンに見てもらいたいと、思える笑顔を輝かせていた。
* * *
ラジオ局を出たプロデューサーは、都内にある喫茶店に向かった。
梅雨明けを喜ぶ初夏の日差しが、容赦なく黒いスーツの上着を焦がす。
たまらずスーツの上着を脱いで、腕にかかえて
待ち合わせの時間に、遅れてしまいそうだった。
几帳面な彼女はきっと、時間通りに到着して自分を待っているだろう。
「いらっしゃいませ」
喫茶店に入るなり、店員がカウンター席へ案内してきた。
帽子とメガネで素性を隠している少女が、こちらへ小さく手を振った。
プロデューサーは頷いて、少女の向かいに腰を降ろした。
「突然呼び出して、申し訳ありません」
プロデューサーが頭をさげると、少女は、はにかみながら変装をといた。
「これ、未央ちゃんから借りたんですけど、上手く変装できてましたか? バレたらどうしようって、ドキドキしちゃいました」
向けられた笑顔は、初めて会って魅了されたそれよりも、格段に輝いていた。
宝石の原石が磨き抜かれて本当の輝きを見せるように、彼女の笑顔も、アイドルを目指し活動する課程で磨き抜かれ、輝きを増していた。
「あの、それで、お話って……」
卯月の控えめな
カバンからファイルを取りだして、アイドルのプロフィールを二つ、卯月の前に並べた。
一つは、小日向美穂。
もう一つは、五十嵐響子。
「夏のライブに向けて、もう一組、他の事務所との合同ユニットを立ち上げようと、考えています。小日向美穂さんは、ご存知だと思います。五十嵐響子さんは、876プロの新人で――」
プロデューサーは、言葉を切った。
美穂のプロフィールを見つめる卯月の顔に、笑顔と泣き顔が入り乱れていた。
「……ごめんなさい」
卯月は、涙を振り切るように笑顔を作って――
「前にやろうとした、美穂ちゃんとのユニット、わたしのせいで上手く出来なくて。それがずっと、申し訳なくて、悔しくて……。だから、また美穂ちゃんと、ユニット活動できるんだと思ったら、嬉しくて……」
美穂と卯月のユニット――正統派キュートは、卯月の不調により自然消滅の結末を迎えている。
あの時の卯月は、アイドルを続けられるかどうかの、瀬戸際にいた。
笑顔を失い、自信を失い。
アイドルの世界から去ってしまっても、おかしくなかった。
彼女がアイドルとして踏みとどまれたのは、彼女自身の力であると、プロデューサーは思っている。
確かに自分は手を差し伸べたが、それを掴んで、アイドルの世界に戻ってきたのは卯月である。
どん底、といって
その気持ちこそ、アイドルを目指すうえでもっとも大切なものであり、どん底にあってもその気持ちを守り抜いた卯月を、プロデューサーは信頼していた。
きっと卯月なら、どんな苦境に
仲間が笑顔を失っても、手を差し伸べて助けてくれる。
未央を助けて、くれたように。
「今回は、状況が特殊です。絶対に失敗出来ないライブを控えての、ユニット活動となります。876プロの新人が、ユニットのメンバーになります。かかる負担は、大きなものとなってしまうかもしれません。それでも、今の島村さんなら、やりとげてくれると考えています」
プロデューサーは、あらためて卯月を見据えて、いつも以上に硬い口調で――
「小日向美穂さん、五十嵐響子さんとのユニット――ピンク・チェック・スクールのリーダーを、お願い出来ますでしょうか」
卯月は、プロデューサーの視線を受け止めて、
「島村卯月、がんばりますっ!」
その笑顔に、プロデューサーはユニットの成功を確信した。