アニメ アイドルマスターシンデレラガールズ 3rd SEASON (完結) 作:栗ノ原草介@杏P
Aパート 1
先送りにするのはよくない。
いつか伝えなければならないのだから、早く伝えたほうがいい。
思いつつも、プロデューサーは伝えられないでいた。
卯月をユニットのメンバーから外すように指示されたことを、本人に伝えられないでいた。
思い悩んでいるうちに、
「そこまで!」
ベテラントレーナーが手を叩いて、踊っていた三人がその場に倒れた。
レッスンスタジオに、荒い呼吸が入り乱れる。
「小日向! もっと機敏に動け! 笑顔を忘れるな!」
「は、はいっ」
フローリングに倒れていた美穂が、癖毛をふらふらと揺らした。
本人は長い癖毛以上にふらふらしている。
「五十嵐! ところどころ振り付けに間違いがあった! 次までに完璧にしてこい!」
「……はい!」
響子も満身創痍だった。
ベテラントレーナーの容赦ないレッスンに、足の筋肉が悲鳴をあげて
「島村! ――は、まあ、悪くなかった。でも、現状に満足するな! もっと上を目指せ!」
「はい!」
卯月は、すでに回復していた。
トレーナーに笑顔を向ける余裕があった。
「よし。今日はここまで! 体をほぐしとけよ!」
強気な笑みを浮かべるトレーナーに、三人分の「ありがとうございました」が送られた。
「卯月ちゃん、すごいね! フリも完璧だし、体力も」
まだ軽く息を切らせる美穂に、卯月は気恥ずかしそうに頬をかきながら――
「実は、養成所でレッスンさせてもらってるんです。色々と不安だったんで」
「そうなんだ。わたしも、どこかでレッスンしようかな……」
「じゃあ、一緒にやりませんか? よければ、響子ちゃんも一緒に、三人で!」
三人の様子を遠巻きに眺めていると、肩を叩かれた。
ベテラントレーナーだった。
「ちょっと、いいですか?」
プロデューサーは頷いて、彼女と一緒にスタジオを出た。
エレベーターの脇にある
「島村をユニットから外すというのは、本当ですか?」
息が、詰まった。
反射的に、トレーナーの目を見て、慌ててそらした。
その様子から回答を悟ったのか、トレーナーはそれ以上何も訊いてこなかった。
ただ、独り言のように――
「島村は、優秀ですよ。元々、それほどダンスが得意なほうじゃない。それなのに、今日のレッスン、完璧でした。このままステージにあげても、問題ないくらいです。相当、努力したんでしょうね」
トレーナーは、そこで言葉を切って、それ以上、何も言わなかった。
けど、何を言いたいのかは、分かった。
卯月を外すことに反対だと、腰に手を当てて落とされた
もちろん、プロデューサーだって同じ気持ちである。
今の卯月をユニットから外す理由は、どこにもない。
過去の失敗を理由にしても理不尽な指示である。
――だからと言って、美城常務の命令を
卯月にユニットから外れてもらい、代わりの候補を立てなくてはならない。
ライブまでのスケジュールを考えると、もはや
プロデューサーは、トレーナーに頭をさげてその場を離れた。
レッスンスタジオへ行って、柔軟をしている卯月に声をかけた。
「このあと、時間、よろしいでしょうか。話したいことが、ありまして……」
「あっ、はい! 大丈夫ですっ」
向けられた笑顔に、罪悪感を覚えた。
ユニットの今後についての話だと、明るい話題に違いないと、信じているような笑みだった。
ちぎれんばかりに尻尾をふって喜ぶ犬のように瞳を輝かせていた。
これから自分は、卯月の期待を砕き、その笑顔を曇らせてしまうかもしれない。
でも、やるしかない。
これもプロデューサーの、仕事なのだから。
「おまたせしましたっ!」
ジャージから制服に着替えた卯月が、声をかけてきた。
その顔には、輝かしい航海を喜ぶ船乗りみたいな笑顔があった。
プロデューサーは、胸の奥に痛みを覚えた。