アニメ アイドルマスターシンデレラガールズ 3rd SEASON (完結)   作:栗ノ原草介@杏P

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第10話 〝Not girl , But idol〟
 Aパート 1


 

 

 

 先送りにするのはよくない。

 いつか伝えなければならないのだから、早く伝えたほうがいい。

 

 思いつつも、プロデューサーは伝えられないでいた。

 卯月をユニットのメンバーから外すように指示されたことを、本人に伝えられないでいた。

 思い悩んでいるうちに、(あらかじ)め組んでいたレッスンが始まってしまった。

 

「そこまで!」

 

 ベテラントレーナーが手を叩いて、踊っていた三人がその場に倒れた。

 レッスンスタジオに、荒い呼吸が入り乱れる。

 

「小日向! もっと機敏に動け! 笑顔を忘れるな!」

「は、はいっ」

 

 フローリングに倒れていた美穂が、癖毛をふらふらと揺らした。

 本人は長い癖毛以上にふらふらしている。

 

「五十嵐! ところどころ振り付けに間違いがあった! 次までに完璧にしてこい!」

「……はい!」

 

 響子も満身創痍だった。

 ベテラントレーナーの容赦ないレッスンに、足の筋肉が悲鳴をあげて痙攣(けいれん)していた。

 

「島村! ――は、まあ、悪くなかった。でも、現状に満足するな! もっと上を目指せ!」

「はい!」

 

 卯月は、すでに回復していた。

 トレーナーに笑顔を向ける余裕があった。

 

「よし。今日はここまで! 体をほぐしとけよ!」

 

 強気な笑みを浮かべるトレーナーに、三人分の「ありがとうございました」が送られた。

 

「卯月ちゃん、すごいね! フリも完璧だし、体力も」

 

 まだ軽く息を切らせる美穂に、卯月は気恥ずかしそうに頬をかきながら――

 

「実は、養成所でレッスンさせてもらってるんです。色々と不安だったんで」

「そうなんだ。わたしも、どこかでレッスンしようかな……」

「じゃあ、一緒にやりませんか? よければ、響子ちゃんも一緒に、三人で!」

 

 三人の様子を遠巻きに眺めていると、肩を叩かれた。

 ベテラントレーナーだった。

 

「ちょっと、いいですか?」

 

 プロデューサーは頷いて、彼女と一緒にスタジオを出た。

 エレベーターの脇にある人気(ひとけ)のない場所に着くと、トレーナが神妙な顔で――

 

「島村をユニットから外すというのは、本当ですか?」

 

 息が、詰まった。

 反射的に、トレーナーの目を見て、慌ててそらした。

 

 その様子から回答を悟ったのか、トレーナーはそれ以上何も訊いてこなかった。

 ただ、独り言のように――

 

「島村は、優秀ですよ。元々、それほどダンスが得意なほうじゃない。それなのに、今日のレッスン、完璧でした。このままステージにあげても、問題ないくらいです。相当、努力したんでしょうね」

 

 トレーナーは、そこで言葉を切って、それ以上、何も言わなかった。

 けど、何を言いたいのかは、分かった。

 卯月を外すことに反対だと、腰に手を当てて落とされた嘆息(たんそく)から、伝わってきた。

 

 もちろん、プロデューサーだって同じ気持ちである。

 

 今の卯月をユニットから外す理由は、どこにもない。

 過去の失敗を理由にしても理不尽な指示である。

 

 ――だからと言って、美城常務の命令を反故(ほご)にも出来ない。

 

 卯月にユニットから外れてもらい、代わりの候補を立てなくてはならない。

 ライブまでのスケジュールを考えると、もはや一刻(いっこく)猶予(ゆうよ)もない。

 

 プロデューサーは、トレーナーに頭をさげてその場を離れた。

 レッスンスタジオへ行って、柔軟をしている卯月に声をかけた。

 

「このあと、時間、よろしいでしょうか。話したいことが、ありまして……」

「あっ、はい! 大丈夫ですっ」

 

 向けられた笑顔に、罪悪感を覚えた。

 ユニットの今後についての話だと、明るい話題に違いないと、信じているような笑みだった。

 ちぎれんばかりに尻尾をふって喜ぶ犬のように瞳を輝かせていた。

 

 これから自分は、卯月の期待を砕き、その笑顔を曇らせてしまうかもしれない。

 

 でも、やるしかない。

 これもプロデューサーの、仕事なのだから。

 

「おまたせしましたっ!」

 

 ジャージから制服に着替えた卯月が、声をかけてきた。

 その顔には、輝かしい航海を喜ぶ船乗りみたいな笑顔があった。

 

 プロデューサーは、胸の奥に痛みを覚えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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