アニメ アイドルマスターシンデレラガールズ 3rd SEASON (完結) 作:栗ノ原草介@杏P
「勝手なことを、しないでください」
プロデューサーは、美城常務と対面するなり、言い放った。
いきなり剣を抜いて襲いかかるがごとき、無礼な一撃だった。
当然、美城常務の表情は険しくなる。
部屋の温度が、少し下がったような気がした。
「それは、こちらの台詞だ。島村卯月は、ユニットから外せと言ったはずだ。レッスンの必要はない」
プロデューサーは、視線を強めて、手に持っているブリーフケースを強く握った。
美城常務は、同じ土俵で争うつもりはないとばかりに視線を外し、パソコンのキーボードを叩きながら――
「人選は終わったのか?」
プロデューサーは、無言のまま、ブリーフケースからプロフィールをとりだした。
それを渡された美城常務の、表情が変わる。
「どういうつもりだ?」
あからさまな
それも当然で、プロデューサーが美城常務に渡したのは――
島村卯月のプロフィール。
「私は、君に要請したはずだ。人選をやりなおせと。何故、命令に従わない?」
立ち上がった美城常務を、プロデューサーは真っ直ぐに見据えて――
「人選をやりなおした、結果です」
「……どういうことだ」
「ピンク・チェック・スクールのリーダーは、島村さん以外に考えられません。これが、再考の結果です」
「そんな理屈が通るとでも――」
プロデューサーは、美城常務の言葉をさえぎるように、一枚の封筒を差し出した。
それを見た美城常務の、目の色が変わる。
「どういうつもりだ」
受け取らず、突き刺すような視線を向けてくる。
差し出された封筒には、こう書いてある――
辞表。
「何かあったら責任をとる、――とでも言いたいのか? それが通用するのは、責任を取れる人間だけだ。ユニットが失敗して、ライブが失敗して、その時、君は責任をとれるのか? 君の首をはねて、それで346プロが存続できるのか?」
「そういうつもりでは、ありません」
「じゃあ、どういうつもりだ」
プロデューサーは、養成所で見た卯月の笑顔を思い浮かべて――
「島村さんは、一人前の、アイドルです。プロダクションの命運をかけたライブのユニットを、任せるにふさわしいアイドルです。これは、熟考の末にたどり着いた結論です。それが間違っているのであれば、私は、プロデューサーとしての能力を
「……君は、島村卯月の人選に、
プロデューサーは、頷いた。
美城常務は、差し出された辞表を眺めながら――
「随分と、無責任だな。君が抜けたら、シンデレラプロジェクトはどうなる? 君の受け持っているアイドル達は、どうなる?」
「シンデレラプロジェクトのアイドルは、問題ありません」
「……どうして?」
「彼女達は、もう灰かぶりではありません。みな、舞踏会で注目を集めるに値する、シンデレラです。私の役目は、終わっています」
美城常務と、視線を交わす。
どちらも無言で、譲らない。
互いの瞳の奥にある、
部屋の時計が、動いてカチっと音がした。
美城常務の手が、プロデューサーの辞表を掴んだ。
「どこまでも、灰かぶりの夢を守りたいと、そういうことか……」
独り言のように、つぶいた。
プロデューサーは、美城常務に頭を下げて、退室――
「待て」
かけられた声に、振り向いた瞬間――
乾いた音と共に辞表が破かれた。
「どうやら、君と私では、見える景色が違うらしい」
美城常務の手が、卯月のプロフィールを持ち上げる。
「今回は、現場の意見を優先しよう。私には見えないものが、君には見えているようだからな……」
プロデューサーは、しばらく動けなかった。
まさか、美城常務が意見を曲げるとは、思っていなかった。
このまま、346プロを去る覚悟を決めていた。
「ただし、こういう真似は二度とするな」
美城常務の視線が、破かれた辞表へ向けられる。
プロデューサーは、深々と頭を下げて退室した。
胸の中で、こみあげる安堵と歓喜が渦を巻いた。
とりあえず卯月に報告しようと思って、携帯を取り出して、しかしすぐに考え直す。
これは、直接報告したほうがいい。
正式にリーダーとしてユニットに参加できると、知った時に卯月がどんな笑顔をみせてくれるのか。
想像すると、強張っていた口元から自然と力が抜けた。