アニメ アイドルマスターシンデレラガールズ 3rd SEASON (完結) 作:栗ノ原草介@杏P
Aパート 1
それは、とあるプロデューサーの物語。
彼は常に最善を尽くしてきた。
持てる熱意を、あますことなく向けてきた。
アイドルのプロデューサーとして、その姿勢は間違っていない。
成果を出さなければ
だから、彼を責める者はいなかった。
次の機会に、また頑張ればいいと言われた。
その言葉が気休めでないことを証明するかのように、新しいプロジェクトの担当をまかされた。
それはもしかしたら、優しい上司の計らいだったのかもしれない。
汚名を返上する機会を、作ってくれたのかもしれない。
しかし――
プロデューサーは、引きずっていた。
自分の元を去っていったアイドル達の、その表情。
担当になったばかりの頃は、きっと笑顔があったのに、立ち去る彼女の顔は笑顔を失っていた。
――自分のせいだと思った。
自分のプロデュースが、間違っていた。
だから、担当アイドルの顔から笑顔が消えてしまった。
自責の念は、彼の表情に表れた。
彼は笑顔を失った。
彼の元を去ったアイドルは、彼の顔から笑顔を持ち去っていた。
――それが理由、かもしれない。
自分は笑顔を失ったから、それがどれだけ大切なのか、分かっている。
笑顔を失ったアイドルが、どうなってしまうのか、知っている。
――だからこそ、アイドル達が笑顔でいられることを、何よりも優先した。
結果として、シンデレラ達は笑顔のままで輝いている。
しかし――
プロデューサーは、戸惑っていた。
自分の顔に笑顔が戻っていると言われて、動揺していた。
「プロデューサーさん」
かけられた声に、プロデューサーは思考を中断した。
振り返ると、そこに首藤葵がいた。
「お弁当、持ってきたっちゃ。どこに持っていけばよかと?」
葵の後ろに、旅館の従業員だろうか、重箱の弁当をかかえている人達がいて、物珍しげな視線をライブ会場へ向けている。
「では、控え室にお願いします」
プロデューサーは、葵をアイドルの控え室に案内した。ライブの合間にアイドル達が休憩をする場所である。軽食を置いておくには理想的である。
「了解っちゃ! みなさんが戻る前に、用意するっちゃ」
葵の指示によって、弁当が運び込まれた。想像していたよりも、量が多かった。
「なかなか、つくりごたえがあったっちゃ」
肩を回して笑顔で退室しようとする葵を呼び止める。
そして提案する――
「関係者席を、用意しました。よろしければ、ライブを見ていきませんか?」
葵は、少しだけ遠慮する気配をみせたが――
「人の好意は素直に受けとれと、お父ちゃんも言っとったし、ここはお言葉に甘えてアイドルのみなさんの晴れ舞台ばみせてもらうっちゃっ」
プロデューサーは、アイドル達に心のこもった料理を作ってくれる葵も、シンデレラプロジェクトの一員であると思っていた。
だから、アイドル達の晴れ舞台を、見て欲しかった。
その気持ちは、きっとアイドル達も一緒だと、思っていた。
「では、ついてきてください」
プロデューサーは、葵を連れてステージへ向かう。
関係者用の薄暗い廊下に、やがて歓声が聞こえてくる。地鳴りの迫力をもってその存在を誇示している。
炸裂する火薬の音に反応して銃を構える兵士のように、プロデューサーは自然と口元を引き締めていた。
「何か、すごい声が聞こえるっちゃ……」
最後のドアを前にして、葵がつぶやく。その声は、怯えの色を含んでいた。
――無理もないと、思った。
ライブの迫力は、慣れない者を圧倒する。暴徒の
――しかし、両者には決定的な違いがある。
アイドルのライブには、圧倒的に、絶対的に、笑顔が満ちあふれている。
開けたドアの向こうには、ライブ真っ最中のステージがあって、歌声があって、歓声があって。
そして何よりも――
ファンの顔にも、アイドルの顔にも、まばゆく輝く笑顔があった。
プロデューサーは、呆然とする葵の手を引いて、関係者席へ案内した。そこに並ぶ先客が視界に入るなり、反射的に背筋が伸びた。
関係者席に並ぶ黒いスーツの一団。
美城グループの重役が横顔を連ねている。このライブに346プロの存続がかかっているのだと、
シンデレラ達のライブを見れば、その輝きの価値を理解してくれるはずだと信じている。その気持ちは、実際にステージを見上げて強くなるのだが――
重役達の表情に色は無い。
何を考えているのか、まるで分からなかった。