アニメ アイドルマスターシンデレラガールズ 3rd SEASON (完結)   作:栗ノ原草介@杏P

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 Aパート 2

 

 

 

「油断しちゃだめにゃ!」

 

 みくの言葉は、()いだナイフのように鋭い。小皿に取った〝それ〟を、じっと見つめて、すんすんと鼻を鳴らす。

 

「どうみてもハンバーグだって。みくちゃんのために作ってくれたんだって」

 

 呆れる李衣菜を、逆にたしなめるようにみくは指を立てて――

 

「最近の葵ちゃんは油断ならないにゃ。みくに分からないようにお魚を混ぜこんでくるにゃ」

 

「まるで、お母さんみたいですね」

 

 安部菜々にキャハ☆と笑われて、みくの顔が真っ赤になる。家族のやり取りを友達に見られたことを恥じる子供のように赤面する。

 

「みくちゃん、まだ魚を食べられないんですよ」

 

 李衣菜の半笑いがみくに追い討ちをかける。その言葉を否定するかのように、みくはハンバーグに噛みついた。

 

「しっかし、すごい量だな。これを一人で作ったのか、その首藤葵ってやつは」

 

 木村夏樹が、腰に手を当ててトレードマークのリーゼントをかきあげる。

 

「そうだよ! 葵ちゃん、わたしたちのために、ちゃんと好みを調べてお弁当を作ってくれたんだよ! ロックでしょ!」

 

 李衣菜の声は、いつもよりトーンが高かった。憧れの先輩に対する好意が漏れていた。

 

「李衣菜ちゃんは何でもかんでもロックにしちゃうにゃ~」

 

 聞き慣れた宣戦布告。

 唇に舌を走らせてハンバーグのたれを舐めるみくと李衣菜の視線がぶつかる。

 

「一人でこんなに沢山お弁当作っちゃうんだよ。その心意気がロックじゃん!」

「人のロックよりも自分のロックを気にしてほしいにゃー」

「わっ、わたしは、見るからにロックなアイドルだし!」

 

「ギターひけないのに?」

 

「そっ、そっちこそ、猫キャラのくせにお魚を食べられないとか、キャラがぶれてるよ!」

「にゃっ! みくのお魚より、李衣菜ちゃんのギターの方が問題にゃ!」

「お魚の方が問題だって!」

 

「ギターッ!」

「お魚ッ!」

 

 二人は至近距離で睨みあって――

 

 笑った。

 

 アスタリスクの二人は、いつも通りだった。

 仲良く喧嘩する二人は、いい笑顔だった。

 

「Pチャン、いってくるにゃ!」

「プロデューサーさん、いってきます!」

 

 プロデューサーは頷いて、アスタリスクの二人を見送った。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「たべものが一杯でごぜーます!」

 

 仁奈が歓声をあげて、千佳と薫も目を輝かせた。

 葵は、子供達のために甘い卵焼きや、絶妙な包丁さばきによるタコさんウインナーを用意していた。

 

「とってあげますから、食べたいものを言ってください」

 

 紙皿を持ったありすが、身長の低い仁奈達の代わりに弁当の中身を取り分けた。

 

「これからステージですから、あまり食べすぎないようにしてくださいまし」

 

 桃華の忠告もむなしく、仁奈・薫・千佳の三人はあれもこれもと注文してありすを困らせた。

 そして食欲が落ち着くと、急に静かになった。

 

「どうなさいましたの? まさか、食べすぎて眠くなったわけじゃありませんのでして?」

 

 腰に手を当ててため息を落とす桃華に、しかし三人は首をふる。

 

「何か、ドキドキしてきちゃった……」

 

 子供達は、ライブ経験が少ない。だから緊張しているのだと見て取れたが、桃華とありすも三人を励ませるほどの経験はなくて、だから言葉が出てこない。

 緊張という名の悪魔が、LMBGに忍び寄っていたが――

 

「みんな、おまたせー☆」

 

 部屋に飛び込んできた城ヶ崎莉嘉が、空気を変えた。

 

「リーダー、遅いです」

「そうですわ。待ちくたびれましたわ」

 

 ありすと桃華の抗議はどこか安堵の空気をまとっていた。

 

「えっへへ。実は、スペシャルゲストのメイクに時間がかかっちゃって☆」

 

 莉嘉に呼ばれて部屋に入ってきた人物に、子供たちの目が輝いた。

 

「知ってる! きらりんロボだ!」

 

 跳ねてツインテールを揺らす千佳が、きらりんロボの衣装をつけたきらりにまとわりついた。

 

「今日は特別に、きらりんロボがバックダンサーとして参加してくれるんだよ!」

 

 みりあの笑顔に、子供達の笑みが重なる。その顔から緊張の色は消えていた。

 

 ――みんな緊張しちゃうかもしれないから、サプライズ仕掛けたいんだけど、どうかなP君?

 

 そんな風に言われて承認したサプライズは、大成功だった。きらりんロボは、教育テレビで取り上げられて、子供達に大人気なのだ。

 

「P君、いってくるね☆」

 

 LMBGは、最高の笑顔でステージへ向かった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「天使の晩餐を、いざ、始めんッ!」

 

 ふわーはっは! と蘭子が上機嫌に笑う。その声に背中を押された星輝子が、重箱に近づき、驚愕(きょうがく)してヒャッハーの顔になる。

 

「マツタケ君……だとッ!」

 

 長い決別を経て再会する恋人のように、感動して、興奮して、ヒャッ――

 

「輝子ちゃん。ヒャッハーは、ステージに取って置かないと」

 

 白坂小梅に袖をひかれて、輝子はヒャッハーの口を閉じる。

 

「そ、そうだな。控え室で燃え尽きたら、もったいないもんな。フヒ」

 

 的確にキノコばかりを食べる輝子に、二ノ宮飛鳥がエクステを揺らして微笑む。

 

「人間は本能的に、自分と相性のいい食べ物を知っている。君の場合は、これかな?」

 

 湯飲みに入ったそれは和風プリンだった。蘭子の顔に天使の笑顔が出現した。

 

「まるで、ボク達の要求を予知していたかのようなメニューだ。感謝と敬意を創造主に捧げるべきだろうね」

(あお)の料理人は、我が(しもべ)達と肩を並べて時を待つ」

「ボク達は観測される運命にあるのか。ならば、予想を超えた振る舞いによって、それを賞賛の言葉としよう」

 

 何を言っているのか、さっぱり分からなかった。それでも、二人は意思の疎通に成功しているようで、笑みを交わしている。

 

「さあ、()こうか。祝祭の時間だ」

 

 エクステをひるがえして戸口へ向かう飛鳥に続き、輝子と小梅も表情を引き締める。

 

 歩きかけた蘭子が、振り返る。

 恥ずかしそうに、頬を赤らめて――

 

「あの……、プロデューサー! いってきます!」

 

 プロデューサーは頷いて、蘭子を見送った。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「志希ちゃん、きゅうけーい!」

 

 控え室に、レイジー・アイランドの名前に偽りのない光景が広がっている。

 並べた椅子に、一ノ瀬志希・宮本フレデリカ・双葉杏が川の時になって横たわっている。

 

 原因は、美味しすぎる弁当である。

 

 志希とフレデリカは、絶賛しながら弁当を食べて、食べ過ぎて、膨れたお腹をかかえて横になってしまった。それに便乗して杏も横になった。

 緊張しないように、と言っても緊張してしまうのがライブであるが、この三人にその心配は必要ない。

 むしろ、あまりにも緊張感が薄くて不安になってしまう。

 

「もうすぐ出番だから、これ食べて元気だして」

 

 かな子の用意したカラフルなマカロンが、三人の口に納められた。

 

「四つ葉のクローバーも、沢山見つけたから」

 

 智絵里が配った四つ葉のクローバーによって、三人は開眼する。

 

「サイロキシン、出てきたーっ! ライブやるぞー!」

「おーっ!」

 

 志希とフレデリカが立ち上がった。

 

「ライブを成功させて、引退だーっ!」

「なんでやねん!」

 

 杏のボケに、かな子が突っ込みをいれた。

 

「あの、プロデューサーさんも、これ……」

 

 智絵里が、四つ葉のクローバーを差し出してくれた。

 

「じゃあ……、行ってきます!」

 

 智絵里の背中は、堂々としている。

 観客におびえていた頃の面影は、どこにもなかった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「テマキ、スシーッ!」

 

 ナターリアが、手巻き寿司を頬張って満面の笑みを浮かべている。

 デビューライブの時は初々しい緊張をみせていた彼女だが、今はベテランの風格で寿司を食べている。

 

「おかげさまで、すっかりアイドルに慣れたというか、慣れすぎたというか……」

 

 765プロの女性プロデューサーが、腕を組んで苦笑した。

 聞けばナターリアは、デビューライブ以降、好調にアイドル活動を行っており、その顔にはいつも笑顔があるという。それはすべて、デビューライブで新田美波とアナスタシアが手を引いてくれたお陰だと、765プロの女性プロデューサーはメガネ顔をほころばせる。

 

 でも――

 

 言い置いて、765プロの女性プロデューサーはため息を落とす。

 

「ナターリア、ライブのたびに打ち上げで寿司を要求してくるんです。346さんで食べた寿司がよっぽど印象的だったみたいで、アイドル活動と寿司が結びついてるんですよ。アイドル活動したらご褒美に寿司がもらえる、みたいな」

 

 そういえばと、思い出す。

 ナターリアのデビューライブ前日に、美波の提案で葵が寿司を用意していた。本職顔負けの握り寿司をふるまっていた。

 

「しかも、すっごく食べるんですよ。回転寿司へ連れていっても、回らない寿司と同じくらいの金額を食べちゃうんですよ!」

 

 再びため息を落とした765プロの女性プロデューサーの元へ、ナターリアが駆けてくる。

 

「リツコ! ライブ終わったら、打ち上げでスシ、食べるナ! ミナミとアーニャも一緒に!」

 

 プロデューサーは、765の女性プロデューサーと目を合わせて、苦笑した。

 

「分かったから、がんばってらっしゃい。あっ、待って。ご飯粒ついてる!」

 

 頬に残ったご飯粒を取られて、ナターリアは恥ずかしそうに舌を出した。

 

「じゃあ、行ってくるナっ!」

 

 美波・アナスタシア・ナターリアは、手を繋いでステージへ向かった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「これは、ただものじゃないよ。こんなおいしいポテト、初めてかも……ッ!」

 

 フライドポテトを見つめた加蓮が、赤い目を見開いている。握ったポテトに伝わる震えが、彼女の動揺の大きさを物語っている。

 

「大げさだな、加蓮は。いつも食べてるのと変わらな――何コレうまっ!」

 

 奈緒のふわふわな髪の毛が大げさに揺れたのは、しかし大げさな演技ではなかった。

 

 対加蓮用特製ポテト。

 

 そんな名前ではないが、ポテト評論化を気取る女子高生をうならせる代物が出来上がっていた。

 それは、凛の仕業だった。

 葵がライブ当日の弁当を作ってくれると聞いて、頼んでいた。最高に美味しいフライドポテトを作ってもらえないと。

 

 そのオーダーは、葵の料理人魂に火をつけた。

 

 コストを度外視して最高の材料が集められた。ファーストフード店で出したら材料費で店が傾くような高級フライドポテトである。それを腕に覚えのある板前が作ったのである。赤い髪のポテト評論家が感動するのも当然である。

 

 ポテトに夢中な加蓮と奈緒を、凛は遠巻きに眺めて微笑む。

 

「ねえ。あたしの今の気持ち、分かる?」

 

 プロデューサーは凛の顔を見て、予想しようとしたが――

 

 考える必要は無かった。

 その顔にあふれている感情を、そのままに読み取って――

 

「楽しい、ですか……?」

 

 すると凛は、笑って――

 

「あたりっ」

 

 彼女は黒髪をなびかせて加蓮と奈緒の元へ行き、トライアドとしてステージに立った。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「ラストスパートだよ、茜ちん!」

「分かりました、未央ちゃん!」

 

 未央と茜が、フードファイターの剣幕で残ったお弁当を食べている。

 

「二人とも、もっと、ゆっくり……」

 

 悲鳴を上げる藍子に、しかし未央と茜は容赦しない。ほらほらもっと食べて! と藍子の紙皿におかずを乗せた。お弁当を食べ切ってしまうと、スタミナドリンクを差し出した。

 

「一気に飲んで、パワー充電だよ!」

「分かりました、未央ちゃん!」

 

「ちょっと、もっと、ゆっくり……」

 

 未央と茜が、腰に手をあててスタミナドリンクを飲み干した。

 一呼吸遅れて、藍子もドリンクを飲み干した。

 

「ポジティブパッショーン……」

「ファイヤぁぁああ――ッ!」

 

「ポジティブパッショーン……」

「ボンバぁぁああ――ッ!」

 

「ほらっ、あーちゃんも一緒に! ポジティブパッショーン……」

「えっ、あの、おーっ!」

 

 体育会系の円陣を終えて、ポジティブパッションの三人は気合い充分にステージへ向かう。

 

「プロデューサー、行ってくるね。フォローは任せたよっ!」

 

 未央が走り出して、茜と藍子もそれに続いた。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「ご飯、無くなっちゃったみたいですね……」

 

 卯月の視線の先には、みごとに空になった重箱が並んでいる。

 葵は相当な量を用意してくれたが、ライブに向けてエネルギーを蓄えようとするアイドル達の食欲は旺盛(おうせい)で、ついに全ての食べ物が無くなってしまった。

 

「あの、もしよければ……」

 

 響子が、お弁当箱を持っていた。

 

「これ、響子ちゃんが作ったの?」

 

 目を丸くする美穂に、響子は胸を張って――

 

「お料理は、得意なんですっ♪」

 

 ピンク・チェック・スクールの三人は、響子のお弁当でエネルギーを補給して、クライマックスを迎えるステージへと向かう。

 

「なんか、あっという間だね……」

 

 美穂の言葉に、響子と卯月は同時に頷く。

 

 ライブは、あっという間に終わってしまう。

 一度始まってしまえば、ダムから放流した水が川を下るように、怒涛(どとう)の勢いで過ぎ去ってしまう。

 

「でも、まだこれからですから」

 

 卯月の言葉に、美穂と響子は首を傾げる。

 プロデューサーも、疑問に思って耳を向ける。

 

「ライブが終わっても、アイドルは終わりません。だから、まだこれからですっ!」

 

 頷いて、笑みを交わして、ピンク・チェック・スクールの三人はステージへ向かった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 セットリストの、最後の曲が終了した。

 あとは、アンコールを残すのみである。

 

 観客のアンコールに急かされるように、アイドル達が駆け回って衣装を着替える。

 最後の忙しさを見せる舞台裏に、彼女は現れた――

 

 美城常務。

 

 プロデューサーは、反射的に、訊いていた――

 

「あの、重役の方々は……?」

 

「もう、帰られた」

 

 彼女は、感情のよめない無表情で、言い放つ――

 

「これ以上見る必要はない、とのことだ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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