英雄を怪物が支えたいと思うのは間違っているだろうか 作:暇潰しと思いつきの人
すごく不定期な更新になりますが、よろしくお願いします。
主人公のアステルはF〇Oを参考元にしていますが、別人です。クロスオーバーではありません。
※追記
アステリオスってそういえば原作にいたのを思い出したので名前を変更しました。
この世界にはたくさんの『お話』が存在する。
その中には英雄譚も多く含まれる。僕はそんな英雄譚というものが、あまり好きではなかった。
――だって、僕はただのヒューマンのはずなのに。
英雄になりたいと夢を持つ青年が、牛人によって迷宮に連れさらわれたとある国の王女を助けに向かう物語がある。
滑稽で、カッコ悪くて、英雄譚ではなく、喜劇として有名な童話。それでも、アルゴノゥトが確かに英雄として語られている物語がある。
僕はそんな
――だって、それが原因でずっと怖がられていたのだから。
僕はそれでも、彼のおかげで今を生きている。生きる希望を持てている。
彼に感謝しても、当たり前のように謙遜するだろう。でも、僕は彼が大好きだから。
出会えた彼らが、大好きだから。
僕は、彼らの役に立ちたい。その隣に居たい。そう、思ったんだ。
◇
僕は多分、生まれつき体が大きいみたいだ。多分と言ったのは、僕は気が付いたらひとりだったから。
薄暗い場所だった。たまに薄い光を放つ石を持った女の人が僕のいる場所――小さな部屋のような所――を照らすけれど、僕の前にはたくさんの硬い棒が邪魔して、遮っている。
女の人に僕は何度も尋ねた。女の人に僕は何度も叫んだ。女の人に僕は何度も、何度も聞いた。
だけど、いつも女の人は僕を冷たい目で見るんだ。食事やひまをつぶすためのおもちゃ、そして時々勉強の道具と本を数冊と持って来てくれるけれど、女の人はいつもイヤそうな顔をしていた。
そして、決まって僕のいる場所から離れる時に言う言葉があった。蔑むように、非難するように、怯えるように、何かを隠すように、冷たい視線で僕を一瞥してから言うんだ。
『この、バケモノが』、と。
◇
僕があの女の人と初めて喋ったのは、二回くらい同じ季節が来てからだった。僕の体はどんどん大きくなっていた。六歳の時だった。
年齢がわかったきっかけは、僕が本を読んでいるときに『誕生日』というものがこの世に存在するのを知って、あの女の人に尋ねたからだ。
女の人はその時、やっぱり僕をイヤなものを見るような目で見ていた。何も答えてくれないで僕のいた場所から居なくなろうとしたとき、僕は必死にお願いだと叫んだ。
すると、この時だけ僕に答えてくれた。
『六歳だ。 ……これ以上バケモノが喋るな、気持ち悪い』
初めて会話が成立した。初めて質問に答えてくれた。きっと悪い意味の言葉が最後についていたかもしれないけれど――それでも僕はすごく嬉しくて、女の人に初めてありがとう、と言った。そうしたら、女の人は顔色がどんどん悪くなって、僕と彼女を隔てている棒のひとつを強く蹴った。
僕は突然のことで驚いて、ごめんなさいって言いかけた。僕はその時、喋るなって言われたのを思い出して慌てて口を閉じた。彼女は怒ったんだって、その時思った。
その時以降、僕は彼女と喋ったことはない。そして僕は、外に出るまで誰とも話すことはなかった。
◇
僕の体はどんどん大きくなっていった。勉強で文字が読めるようになってから、本を読むのがすごく楽しくなった。
そして、僕の身長はあの女の人よりも大きく、たくましくなっていた。七歳の頃だ。季節がまた一周したから、確かそうだったと思う。
その歳になって、僕は自分が『大きすぎる』ことに気付いた。いくらなんでも子供の僕が大人の女の人よりも大きいなんておかしいと思った。
だけど、なんでって聞けばあの女の人が何をするかわからない。気まぐれで答えてくれるかもしれないし、初めて喋った時みたいに怒るかもしれない。
そう思うと、イヤな気持ちになった。胸が張り裂けそうだった。何より、今以上に嫌われたくなかった。
だから、僕は自分が『普通』じゃないからこんな目にあっているんだと思った。僕のせいだって、ずっと思っていた。
――僕が『バケモノ』だから、僕が『普通』じゃないから、僕が『全部悪い』んだ。だから、我慢しよう。変なことをしなければ、僕はここからいつか出られるかもしれない。
そう、心の底から信じた。それがただの子供の勝手な思い込みだと知るのは、また季節が一周する頃だった。
◇
八歳になった頃、転機は突然訪れた。
いつもどおり、僕は『更に大きくなった』体を丸めて、勉強と読書をしていた。
だけど、いつまで経ってもあの女の人は来ない。今日の分のご飯を持ってきてくれるはずだった。これは僕が物心付いてからずっとだったから、きっとあの女の人は、そういう役目を持っていたと思っていたのに。
時間が刻々とすぎても、彼女は来なかった。もしかしたら、僕は見捨てられたのかもしれない。そう思った。
だけど、様子がおかしいことに気が付いた。本来ならあの女の人以外の足音は聞こえないはずなのに、妙にドタバタとしている。
それに加えて、この部屋に近付いてきていることも。
誰かが『
しかし、現実はそうじゃなかった。僕は『
現れたのは、見知らぬ誰かだった。それもひとりじゃない。三人いた。手には、赤く濡れたナイフが握られていた。奴らは全員、血濡れていた。
――変だった。おかしかった。怖かった。嫌だった。体が震えた。心臓が早くなった。息が苦しくなった。足が震えて、うまく立てなくなった。視界が白く、黒く変わっていった。
そうして僕は、気付いたら外に居た。僕は初めて、『
◇
僕は――田舎のような場所の近くにあった、捨てられた廃屋に住んでいた。
かつて住んでいた場所はもうない。僕が外に居て、振り返ると家は燃えていた。あの『
この家からは大きな大きな塔が遠くに見えた。『バベル』、というものだったと思う。
転々とする途中に拾ったボロボロの『
英雄譚は嫌いだけど、そこに出てくる英雄たちは好きだ。本を初めてちゃんと読めた時、僕は文字が読めて本当によかったと思うくらいには。
いつか許されるならば――そう思うこともある。オラリオで冒険者になって、仲間を作ってそして『英雄』になって。
――でも、そんなことは絶対に……むりだ。僕は普通じゃない。これまでだって何度も怖がられたじゃないか。魔物と間違われることもあったし、武器を向けられることだって。
僕は『ヒューマン』だ。でも、僕を見た人たちは決まって『モンスター』だと言う。
神様が居るなら、なぜ僕のことを助けてくれないのだろうかと思っていた。だけど、僕は『バケモノ』だから当たり前だと思っていた。
でも……今は違う。
この場所に来て、僕は初めて――友達が出来たのだから。
◇
少年は走っていた。
人の目を盗み、顔を綻ばせて。少ないけど、きっと喜んでくれる。大事に抱えたバスケットを一瞥してから、友人のもとへ走る。
少年は小さかった。髪は雪のように白く、瞳は紅玉のように紅かった。体格とその見た目から兎を思わせる彼は、村を外れてから笑みをいっそう深くした。
――彼と出会えたのは、本当に偶然だった。
たまたま村はずれの森で遊んでいた――一人でだけれど――少年は、森の中で『大男』と出会った。自分と同じ白い髪に、紅い瞳。体格こそ大幅に違う彼は、森林の木漏れ日に当たりながら本を読んでいた。
全体的にボロボロで薄汚れている本を持つ手は自分の祖父よりもずっと大きかった。自分ならば抱えて持つようなサイズのそれを、その『大男』からすれば手のひらサイズなのだろう。
ページをめくる手は慎重そのもので、ゆっくりと目を動かして文字を辿っていく。
少年がマジマジとその様子を見ていると、その本の表紙が見覚えのあるものだということに気付いた。
――『
ボロボロで、それでもなんとかわかるくらいのそれだったけれど、少年は自分が大好きなソレを見逃すことはなかった。
そこからの行動は早い。自分が好きなものを誰かと共有出来る。そう思ったら子供は何も考えずに行動する。
『大男』は最初、少年の登場にひどく驚いていた。その表情から焦りが見えて、瞳はまるで怯えているようでもあった。
少年はそんなことに気付くこともなく、無邪気にその本の持ち主との会話を試みた。
初めてだった。祖父以外にその物語を知っている人物が。
初めてだった。自分と同じ色の髪と瞳を持っている人物が。
初めてだった。それから打ち解けて、楽しく会話してくれる人物が。
少年は知らない。この大男が『バケモノ』と呼ばれていることを。村で不穏の種として噂され始めていた、そういう存在であることを。
されど、嗚呼、されど――これは奇妙な運命である。これは数奇な偶然である。これは数多にある中で最初の奇跡である。
彼らはまだ知らない。未来にどんな試練が待ち受けているのかを。
彼らはまだ知らない。将来にどんな出会いが待ち受けているのかを。
彼らはまだ知らない。行先にどんな戦いが用意されているのかを。
歯車は回り始める。くるくると緩やかに回り始める。
彼らは出会った。『
次回から本編です。しばらくお待ちください。