英雄を怪物が支えたいと思うのは間違っているだろうか 作:暇潰しと思いつきの人
走る。走る。走る。
僕は肩で息をしながら、後悔と自責の念に駆られる。顔色は自分ではわからないが、きっと青ざめていることだろう。見ようと思っても、兜をかぶっているので誰にもわからないかもしれないけど。
顔色のことは置いておいて、僕は今ダンジョンの五階層の中を走っていた。時折ゴブリンやコボルトの姿が見えるが、僕のことを見向きもせず逃げ去っていく。
理由は簡単だ。この五階層には今、居るはずのないモンスターが居るからである。
ミノタウロス――僕が最も『嫌い』なモンスターだ。僕が走り続けているのもそのモンスターが原因であり、僕が『
僕が自責の念に駆られているも、後悔しているのもそうだ。
(僕がちゃんと、ベルをとめてれば……)
いくら後悔しても遅いとしても、止めることが出来ない。
半月前に冒険者登録を済ませたLv.1が二人パーティを組んだところで、下の階層に行くなんて間違いだったんだ。
二人でならゴブリンも、コボルトの対処をすることだって出来た。僕が敵の攻撃を受け止めて、ベルが敵に攻撃する。
まだ行けるはもうだめだ。冒険者は冒険しちゃいけない。帰ればまた来ることができる。
口酸っぱく、僕らの
(僕のせいだ)
僕がもっとしっかりしていればと、そう思う。
僕の方が一歳でも上なのだから、ベルが先に進もうと言っても大丈夫だってあの時思わなければ。
後悔ばかりが先に立つ。胸が苦しくなって、兜の中で歯を食いしばる。
でも……。
「みつけ、ない、と……!」
幼少期、殆ど喋ることがなかったせいで滑舌と発声が苦手なせいでカタコトになっている声で僕は呟く。
ベルがミノタウロスから逃げきっていると願いながら、僕は再び足を踏み出す。
だけど、なぜLv.2にカテゴライズされているミノタウロスが五階層に現れたのだろうか。
あのモンスターはもっと中階層に現れるはずなのに……。
そう思っていれば、僕の方に殺気が飛んできた。思わず振り向き、『両手に持った盾』を重ねて体の前に構える。
どうにか防御体勢が間に合ったが、殺気と共に放たれたらしい投げナイフが両手の盾を貫通してむき出しの右肩に突き刺さった。
「ああ! う、ぁあ……!」
「二枚盾!? 面白い!」
ナイフと殺気を放った大元が、痛みに目が霞む中で見えた。大胆に露出した衣装で、見える肌の色は褐色。一部を除いて瓜二つの少女が僕の方へと『武器を構えて』向かってきている。
あの特徴はたしか、
「あまぞ、ねす……!?」
驚愕すると同時に、奥歯をがっちりと噛み締める。ここで意識を手放したらだめだ。僕が子供の頃、なんて呼ばれていたのかわかっているだろ!
心の中で苦虫を噛み潰すと同時に、心臓を鷲掴みされたような痛みが胸を襲う。
僕は――!
「ぼく、は……!」
穴だらけの盾を構えなおし、泣きそうになりながら叫んだ。
肩に深々と突き刺さったナイフが筋肉に力を込めたことで動き、激痛を起こす。
目の前まで迫る小さな方のアマゾネスが振り上げた大柄な武器の刃を避けようと、後ろに体を動かすが遅い。
僕のステイタスで一番低い部分が、この時になって足を引っ張る。体が大きすぎる分、こういった奇襲に弱いのが僕の弱点だ。
普段ならベルが居て、盾も健在故になんとか防ぐことが出来る。だが、目の前に居る少女は僕たちよりも格段に強い冒険者なのだろう。
僕はここで、モンスターと間違われて死ぬのだろうか。そう思った刹那、もう一人のアマゾネスが大声を発した。
「待ってティオナ! その人、冒険者よ!」
その声がちゃんと聞こえたのか、名前を呼ばれた僕の命を奪おうとしていたアマゾネスがピタリと止まる。
兜越しに目と目があうと、視界がどんどんと明るくなっていく。刃は、僕の頭を両断する寸前にまで届いていた。つまりは、そういうことだ。
「え、えあ……!?」
僕の素顔を見た彼女は、素っ頓狂な声をあげた。顔から血の気が引いていくのがわかる。僕も同じようになっているだろう。
死にかけた。殺されかけた。死なせかけた。殺しかけた。
錯乱するには十分だ。同じ冒険者を勘違いで殺したとなれば、自己責任だと言われるダンジョン内であれ心に重くのしかかる。
まぁ、今回は『僕』だから仕方ない。事故も同然だ。
「ごめんなさい!」
「ごめんなさい!」
慌てる彼女に大きい方のアマゾネスが追いつくと、すぐに頭を下げて謝罪された。
僕はそこでようやく勘違いが解けたのだと思った。その拍子に我慢していた痛みに負けて、尻餅を付く。膝が笑ってうまく立てなかった。
「きに、してない、から……」
笑顔を無理やり取り繕って、僕は言う。殺されかけたのは確かだが、何もこれが初めてというわけじゃない。
昔からよくあったし、モンスター扱いなんて今更なことだ。まぁ、最近はベルが居てくれたおかげでそういうこともなかったけれど。
だからか、久々に誤解されたせいで、かなり動揺していたみたいだ。元々そういう存在なのを忘れそうになっていたのかもしれない。
それは僕が所属している『ファミリア』の主神様が優しいからか。
僕は『怪物』なのを忘れてしまうくらい、浮かれていたのだろうか。
「気にするよ! というか気にしてよ!」
「その、仮にも殺されかけたのよ? 他に言うことがあると思うんだけど……」
そうやって自己嫌悪と反省をしている僕の反応で目を丸くした二人は、それぞれで真逆の態度を示した。
「だんじょん、は……じこせきに、んって」
「勘違いで殺しちゃったら流石に目覚めが悪すぎるって!!」
アワアワとしながらハッキリと戸惑いをあらわにするティオナさん。
でも、こんな兜をかぶった『普通』のヒューマンの倍近い大きさと体格を持った男が居れば、勘違いもすると思うんだ。
だから、僕は突き刺さったままのナイフを左手で抜こうとして――
「あ、れ?」
まったく力が入らないことに気が付いた。
ナイフはしっかりと深くまで突き刺さっており、よく見てみれば左腕は真っ赤に染まっている。というより、視界が真っ赤になっていって――。
「ちょっと、大丈夫!? まずい、気を失いかけて……ティオ……! ……みん……!!」
「べ……る……」
大きい方のアマゾネスの声が遠くなっていくのを聞きながら、僕はその場で意識を手放した。