英雄を怪物が支えたいと思うのは間違っているだろうか   作:暇潰しと思いつきの人

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二章 ヘスティア

 エイナさんと別れ、すっかりと薄暗くなったオラリオの帰路に着く。

 魔石の換金で得たお金は、900ヴァリス程。以前、参考までにエイナさんに聞いた話によると、Lv.1の冒険者五人パーティーで一日に稼げるのが二万五千ヴァリスほどらしい。

 今日の稼ぎの半分はファミリアの共用生活資金に入れるので、その例に比べれば僕の稼ぎなどまさに雀の涙。無駄遣いなんて絶対に出来ないようなお金だ。

 僕とベルは、お互いに出来るだけ自分たちで倒したモンスターの魔石を管理するようにしている。

 冒険者の荷物や倒したモンスターの魔石を回収してくれる支援者――サポーターが雇えるくらいになれば話は別だが、今は自分たちがどれだけモンスターを倒せているのかを確認するためでもある。

 僕は壁役(ディフェンダー)であり、武器ではなく防具の大型盾(カイトシールド)を両腕にひとつずつ装備しているため、討伐数はベルに劣る。

 役割的に攻撃するよりもベルのカバーに入ったり、この体格を活かして敵の足止めをしたりと防御が主になるから、仕方が無いと言えばそうかもしれない。

 それでも討伐出来ているのは、やはりこの体格のおかげだ。単純に僕は重いし、恩恵(ファルナ)を僕らの主神から受けたことにより、ただでさえ無駄にあった筋力が上がったからでもある。

 敵の攻撃を盾で受け止め、そのまま押し潰したり。弾いて隙が出来たところを蹴り飛ばしたり。時には殴り殺すこともある。

 相手が『本物』のモンスターだから出来ることだ。それに、ベルが居なければ僕だけで戦うことなど考えられない。

 ベルなら、例えソロであっても冒険者として探索を長く続けられるだろう。彼の持ち味は高い俊敏さから繰り出される攻撃の手数だ。それに、ベルには悪いけどあの身長と素早さは攻撃の回避率を上げていると思う。

 逆に、今の僕は攻撃力とリーチ、そして耐久が高いとは言え肉弾戦が主体だ。盾でいくら守れているとは言え、回避自体苦手な僕は的になりやすい。

 一体や二体なら物の数じゃない。三体や四体もなんとかなる。だが、五体六体と増えていけば僕の体に刻まれる傷は深くなる。

 その相手が下等のモンスターであっても、群れと遭遇(エンカウント)したならば命懸けだ。逃げるにしても、戦うにしても、絶対に負傷は免れない。

 こういう時に、負傷しているか否かで先が長いか短いかが決まると僕は思っている。体力が無駄に高くても、精神力で補っても、傷はジワジワと命を握りつぶす。

 怪我を負うというのは、死神の鎌が少しずつ首に迫ってきているようなものだ。小さな怪我が原因で、死に至るなど何も嘘じゃない。ありふれた話である。

 ――ダンジョンでは何が起こるかわからない。それは今日、身を持って知ることとなった。良い教訓だと思うしかないだろう。嘆くだけなら誰だって出来るのだ。

 

「……よい、しょ」

 

 そうこうと考えている内に、住んでいる家に着いた。

 オラリオの外れにある教会の『跡地』。長く手入れがされていなかったせいで、外観はボロボロで崩れているところまである。

 雑草の繁茂している玄関口前の庭を抜けて建物の中に入れば、これまた閑散としていて寂れた空気が僕を包み込んだ。

 さみしい場所。初めてここに足を踏み入れた時、僕はそんな感想を抱いている。

 僕はその奥の右側、地下へ向かう階段の扉を開いて、体を屈めながら窮屈さを感じつつ降りていく。

 ベルやヘスティアなら十分な広さを持つこの通路も、僕からしてみれば背を丸めなければならないのが難点だ。

 もう慣れたことだけれど、もしもお金が入ったらここの改装をしてもらいたいな、という切実な願いが僕にはあったりする。

 さて、階段を降りた先には木製の扉がある。ドアノブにゆっくりと手を伸ばして回して開けば、そこには僕の家族(ファミリア)の二人が待っていた。

 のだが、どうやらベルがやらかしたらしく、ヘスティアの表情があまりよろしくない。

 

「ただ、いま」

「……あ、おかえりアステル! 今日は本当にお疲れ様!!」

 

 僕が帰ってきたことを告げると、早速と反応したのはベルだった。

 そんな彼を見て、僕らの主神――女神『ヘスティア』がよろしくなかった表情を一転させて僕の方へと飛び出してくる。

 

「おかえりアステル君! ベル君から話は聞いたよ本当に無事でよかった!!」

「へすてぃあ、くすぐっ、たい」

「おっと、ごめんよ。ベル君は死にかけたって言うし君とはぐれたとも言っていたし、本当に心配したんだからね」

 

 僕の体中をペタペタと小さな手で触りながら怪我がないかと見渡すヘスティア。ひんやりとした手の温度が少し気持ちいいけれど、箇所によってはくすぐったく感じた。

 もう、と頬を膨らませて「いいかい、アステル君」と上目遣いに僕を見ながらヘスティアが言う。

 

「本当に無茶して命を落とすようなこと、しないでくれよ? ボクの家族は君とベル君の二人しかいないんだから」

「う、ん。ぼくも、へすてぃあ、と、べる、とわかれたく、ない」

「うんうん、本当にアステル君はいい子だねぇ。……さっき言ったけど、これはベル君にも言っているんだからね!」

「わかってますよ、神様」

「だったら、ダンジョンに出会いを求めるのはどうなんだい? ヴァレン何某(なにがし)のことといい……」

 

 ジト目になって、ヘスティアがベルのことを見やる。

 ああ、今日のことはもう話したのか。だからヘスティアの機嫌があまりよくないと……。

 

「それ、が、べる、だから」

「アステル君も止めてよ」

「むり」

 

 それがベルの夢なら、僕はそれを支えるだけだ。彼が出会いを求めてダンジョンに潜るなら、その時死んでしまわないように僕が彼を守る。

 英雄を目指すなら、そのために僕が出来ることをする。そのために僕は、ベルと一緒にいるんだ。

 僕はベルを支えられるようになりたい。一緒に強くなりたい。彼の夢を果たさせてあげたい。そんな一心で、冒険者を続けている。

 モンスターの攻撃も、彼を守るためなら怖くない。痛いけど、我慢出来るんだ。

 

「ぬぐぐ……! まぁ、良いさ。そうやって女の子たちとの出会いにうつつを抜かして、大怪我したって知らないんだから」

「そんなぁ……」

 

 悔しそうに可愛らしく拗ねるヘスティアの態度に、ベルが本気で困惑するような姿を見せる。

 彼女はそんな風に言っているが、そうなった時一番心配するのはヘスティア自身だろう。そんな姿がありありと思い浮かぶ。

 とはいえ、大怪我させないのが僕の役割だ。そんなことになって、狼狽するヘスティアの姿も、怪我に呻くベルの姿も見たくない。

 

「だいじょう、ぶ。べるは、ぼくが、まもるから」

「アステル……!」

「だからって、アステル君が大怪我を負うようなことになったら本末転倒なんだからね? 肝に銘じておいてくれよ、本当」

 

 ヘスティアの心配が嬉しくて、僕はハニカミながら大きく頷く。

 僕を本気で心配してくれるような人がいるなら、命を粗末になんて出来ない。僕を『バケモノ』じゃないって言ってくれる人が、そう言ってくれるなら僕は僕を大切にしようと思う。

 大怪我をしないよう、もっと強くなろう。そう強く、改めて思った。

 

 

 今日の稼ぎの半分を共有生活費をまとめてある袋に入れて、僕たちは夕御飯を食べた。

 今日はヘスティアがアルバイトしている出店でもらってきた、ジャガ丸くんがたくさんあって、美味しかった。

 

『それにしても、ボクの【ファミリア】に加わりたいという子は相も変わらず皆無だよ』

 

 と、黙々とジャガ丸くんを頬張る僕とベルに言っていた落ち込み気味のヘスティアの姿もあったけど。

 今は、まだ良いと思う。急に増えても、僕にとっては……少し怖い。もちろん、ヘスティアやベルに家族(ファミリア)が増えたら嬉しいとも思う。

 だけど、僕のことを新しく加わってくれた人はどう思うのだろうか。ヘスティアとベルは特別だ。時間をかければ打ち解けられるのも、エイナさんが証明してくれている。

 でも、そんな人なんて少ないんだ。多くの人は、僕を見て何かしらの思いを抱く。

 だから、それが、ちょっと……怖いと思ってしまう。

 

『二人に負担をかけるのは、ボクとしては心苦しいんだけど……』

 

 そんな僕の思いも知らないヘスティアだけれど、それだって僕たちのことを思っての言葉だ。

 パーティは一人(ソロ)よりも二人、二人よりも三人。数が増えるほどに対応出来る幅も広がるし、効率だって良くなる。

 複雑な感情を抱くが、それは僕のワガママだとわかっている。でも、モンスターよりも人間の方が僕はよっぽど怖く思えてしまうのだ。

 

「アステル君、【ステイタス】の更新が終わったよ」

 

 そんな風に夕飯時の出来事を思い返していれば、背中からヘスティアの報告が聞こえてきた。

 今の僕はこの教会の隠し部屋のリビングの床に寝そべっていて、その背中にヘスティアが乗っている状態だ。

 これが僕の【ステイタス】更新――ヘスティアが僕の背中に刻んだ【神聖文字(ヒエログリフ)】をいじり、僕が得た【経験値(エクセリア)】を能力に反映する際の姿である。

 ベルは寝室のベッドに寝そべって行っているそうだが、僕はベッドに入りきらないため地べたに横になるしかない。

 神様たちには、【神の眷属(ファミリア)】となった冒険者を成長させる力がある。【経験値(エクセリア)】とはそのままの意味だ。日々の努力や出来事で培われる、目に見えない経験の値。これを神様たちは見ることが出来て、料理して、僕らの【ステイタス】に反映させることが出来る。

 ちなみに、この【ステイタス】は基本的に他者に見せないように、とヘスティアから直々に言い渡されている。万が一、他の神々や冒険者に漏らさないようにするためだとか。

 僕とベルは他人に見せるようなことはないけれど、主神の言葉に素直に従っている。だから、僕はベルの【ステイタス】の詳しい数値も知らないし、ベルも僕の数値を知らない。

 それ故に、ベルは僕が【ステイタス】の更新をしている最中は寝室で待機している。今頃、残ったジャガ丸くんを小動物よろしく頬に詰めているだろう。余ってたらわけてもらいたいな。

 

「……耐久がすごく伸びていたね。何かあったのかい?」

「あー……」

 

 更新が終わり着替えを済ませたところで、ヘスティアが僕の【ステイタス】の更新を書き写した用紙を差し出しながら尋ねてくる。

 その表情は怪訝なもので、僕にも心当たりが大いにあったせいか思わず間延びした声を出してしまった。冷や汗が頬に浮かぶ。

 おそらくというか、十中八九、ティオナさんとティオネさん(あの二人)に襲われたせいだろう。『第一級冒険者』からの攻撃。それを身に受けたのだから、成長も納得だ。

 

「まさかとは思うけど、ミノタウロスからの攻撃を受けたとか言わないよね」

「……ちが、う」

 

 ミノタウロスからの攻撃は受けていない。しかし、他の冒険者に『モンスター』と勘違いされて攻撃されたことをヘスティアに説明する。

 彼女は僕の話を聞いて、「そんなことするなんてどこのどいつだ!? 今度そいつの所属するファミリアの神に文句言ってやる!!」と憤慨し始めた。

 そうなるからあまり言いたくなかったのだが、神であるヘスティアに嘘をついても簡単に見抜かれてしまう。だから、誰にというよりも冒険者という記号を用いてはぐらかすことにした。別に嘘を言っているわけじゃない。ただ、詳しくは言っていないだけ。

 それでも悪いことをしているような気持ちになって、胸が痛む。でも、わざわざティオナさんとティオネさんの不名誉を吹聴することはないと思っている。勘違いは仕方ない。だって僕なのだから。

 だから、『事故』は『事故』でしかない。ヘスティアには悪いけど、全部詳しく話すつもりはないのだ。彼女が全てを知れば、きっともっと怒ると思うから。

 

「……そう、いえば。すきるは、でた?」

「スキル? ……うん、出てなかったよ。まぁ、そうポンポンと生える力でもないからね」

 

 受け取った用紙の中身を見る前に尋ねて、返ってきた答えに僕はため息を吐く。

 ヘスティアの言う通りなんだろうけど、僕としてはもっと強くなりたい。ベルを守るためにも、支えるためにも、早く強くなる必要がある。

 今日みたいな情けない思いをするのは、嫌なのだ。

 それでも、気長にやっていくしかないだろう。そう思いながら、用紙を見やる。

 更新された数値に、空欄の《魔法》と《スキル》のスロット。その空欄を見るだけで、またため息が僕の口から漏れた。

 

「でも、相変わらず君の力と耐久は規格外だよ。冒険者を始めてまだ半月なのに、能力段階がFになるなんて」

「……だけ、ど」

「その力がベル君の助けになるのは間違いないさ。そうだろう、アステル君」

 

 規格外。『普通』じゃない。そんな僕の能力値が、ベルの助けになるとヘスティアは言う。

 ……そうだね、と。僕は前向きに思った。そんな風に思えたのは、二人の存在があってこそだ。

 夜は更けていく。素直には喜べないけれど、『ヒューマン』として僕を認めてくれている人が居るなら……。

 

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アステル

Lv.1

力:F 300→F 335

耐久:F 310→F 370

器用:I 35→I 41

敏捷:I 30→I 34

魔法:I 10

《魔法》

 

《スキル》

 

 

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