英雄を怪物が支えたいと思うのは間違っているだろうか 作:暇潰しと思いつきの人
ベル・クラネルとアステルという少年は、ボクの大事な【
昨晩は色々と思うところがあって――我ながら子供みたいな話だが、【ロキ・ファミリア】関係の嫉妬が殆ど――突き放すようなことをしてしまったが、大事だという思いに偽りはない。
そんな彼らがボクと暮らす
それも、満身創痍としか言い表せないような姿で。
数多の打撲痕と切り傷が体中に刻まれ、全身を赤色と褐色に汚した格好。血と土に塗れた彼らを見て、ボクは帰ってきたという安堵が一転して焦燥へと変わった。
アステル君の腰にしがみつくようにしながら歩いていたベル君が言うに、一晩中ダンジョンに潜っていたのだという。
護身用の短刀を持っていたベル君はまだしも――比較的マシなだけであって、愚行には変わりない――何の装備もせずにアステル君がそれに同行していたのが、信じられなかった。
二人は慎重だ。無謀なことなんてしないと思っていた。そんな装備状態でダンジョンに夜通しで挑むほど、命知らずでも間抜けでもないはずだった。
だが、その理由を二人に尋ねても答えてくれなかった。
ボロボロになって、どこか暗い雰囲気を醸し出す二人に叱りつける気も失せたボクは、諭すように優しく語りかけてみたのだが、二人は一向に話してはくれない。
この二人は意外と頑固だ。無理矢理聞き出そうとしてもきっと、無駄なのだろう。
だからボクは聞くのを止めて、二人にシャワーを浴びさせて寝かしつけることにした。
アステル君には本当に悪いと思っている。物理的な問題もあるのだが、いつかはのびのびとベッドに横になって眠れる環境にしてあげたい。
しかし、ボクも現金なもので……ベル君がベッドで一緒に眠ってくれると言ってくれたことに、胸をトキメかせてしまった。
アステル君。本当にすまない。君を蔑ろにするつもりは一切ないんだ。わかってくれ。
少しの後ろめたさもあったが、これが彼らが帰ってきてからの顛末になる。
そして翌日の朝――ボクはベル君だけでなく、アステル君にも起こった変化に戦慄を覚えた。
◇
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アステル
Lv.1
力:F 340→F 383
耐久:F 380→E 421
器用:I 43→I 72
敏捷:I 35→I 68
魔法:I 10
《魔法》
《スキル》
【
・力と耐久が早熟する。
・
・
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手を止めて、発現させてしまったスキルの内容をマジマジと見てしまう。
彼の丸めた背中にある【
ベル君の時も思ったが、彼ら【子供達】はなんて変わりやすいのだろうか。何か、そうなるきっかけがボロボロになった原因なのだろうか?
【
アステル君の体格はまさに【規格外】だ。ベル君の二倍近くある身長なんて、このオラリオ中を探したって見つかりやしない。そもそも、ヒューマンの中で特に大きいと言っても、せいぜいが2
力と耐久が伸びやすいのも、それが関与していると思っていたのだけれど……どうやら、それに拍車を掛けるスキルが発現してしまったようだ。
ボクだけが知っているベル君のスキル――『
(アステル君の前にベル君の更新もしたけど、彼も『飛躍』するとでも言うのかい……?)
ベル君の成長はまさに『飛躍的』なものだ。熟練度など10以上もポンポンと上がるのは最初の内だけ。すぐに壁を迎えて頭打ちにされることの方が多いと聞いたことがある。
でも、彼らは違う。二人はきっと、そうじゃない。
――『レアスキル』だ。間違いない。この二人には間違いなく、殆ど同じようなものが発現している。
そもそもスキルというものが発現するのは稀なもので、そして共通項目が多く存在する。でもボクは、
仲が良いのは知っているが、まさかこんなところまで似通うとは思わなかった。
(仕方ない。ベル君と同じ措置を取るかな……)
こういうことをするのは本当に気が引ける。だけど、こういうことをしなければ不味いことになる。
ベル君はまだ、あまり
彼という【規格外】は、神達から見れば絶好の興味対象になっているのだ。なんとかボクが言い聞かせて留めているが、そろそろ限界かもしれない。
特に、ガネーシャ。【民衆の主】を自称するあの暑苦しい神は、アステル君に興味津々なのだ。殆ど会う予定もなかったのに、今ではちょくちょく彼と会わせて欲しいとバイト先の屋台にまで来る始末。
ガネーシャのことだからボクと契約済みのアステル君を自分の【ファミリア】に勧誘することはないと思うけど、それにしたってと思う。
きっと、ガネーシャとアステル君の相性はすごく悪い。注目を集めるようなことが大好きな彼と、注目されることを良しとしないアステル君は対照的だ。
思わずため息が出そうになるが、我慢する。
取り敢えず、ベル君と同じように口頭で【ステイタス】の内容を伝えて、残りの【
「ベル君にも言ったけど、どうか約束して欲しい、無理はしないって」
彼にもきっと、冒険者の才能がある。ベル君とは違うベクトルのものだと思うけど、それはこの半月を生き残り、六階層から生還したことからも伺える。
だからボクは、ベル君と取り付けた約束をアステル君ともすることにした。
ボクは二人が大切だ。ベル君は異性としても――と言ってしまってもいいが、アステル君は弟のような可愛さがある。
体は大きいけど、とても優しくて気遣いが出来る子なのだ。そんな彼にだってしてあげたいことが沢山ある。ベル君のハーレムを応援しているところだけは、どうにかして欲しいけど。
「わかっ、た。へす、てぃあ、ごめん、ね。もう、しんぱい、させない、から」
「その答えが聞これば、もう安心かな」
そう言った彼の頭を撫でながら、ボクはにっこりと笑って見せた。
やっぱり、可愛い。大きな小動物という矛盾に満ちた言葉だが、彼の愛嬌はそう言い表すべきだろう。
(……よしっ)
そんな彼らのために、ボクが出来ることはするべきだと心の中で決心が付く。
食器棚の前に移動して、中段ほどにある引き出しの中身を漁って目当てのものを探すと、あった。
『ガネーシャ主催 神の宴』と書かれた、ある催しへの招待状だ。
(……ヘファイストスも来るよね?)
彼女の力を借りる。きっと、この催しにも出てくるだろう。それを利用しない手はない。
まぁ、必然的にガネーシャと顔を合わせることになるとは思うけど……それだって仕方ない。今のボクが二人にしてあげられるとしたら、こういうことしかないのだ。
開催日を確認する。今日の夜だった。
「げっ……!」
「どうしたんですか、神様」
これは不味いと思って慌ただしく動き始めると、寝室から出てきたベル君に尋ねられる。
振り向くとアステル君もどうかしたの、という視線を送って来ていた。
「ベルくんにアステルくんっ、ボクは何日か部屋を留守にするよっ。構わないかなっ?」
「えっ? あ、わかりました、バイトですか?」
「たいへ、ん、そう、だ、ね?」
「いや、行く気はなかったんだけど、友人の開くパーティーに顔を出そうかと思ってね」
久しぶりにみんなの顔を見たくなったと付け足せば、二人は快く了承してくれた。
勝手で悪いと思いながらもボクは頷いて、クローゼットやその他荷物を整理する。それからシフトを頼み込まないと……。
「そうだ、二人とも。今日もダンジョンへ行くのかい?」
「う、ん」
「……やっぱり、ダメですか?」
「ううん、いいよ、行ってきな。ただし引き際は考えるんだよ? 君達はまだ怪我をしているんだからね」
どうやら先に約束を交わしただけに自重するべきかと思ってはいるらしいけど、それをボクが止めるのもなと思って返答する。
無理さえしなければいいのだ。無事に帰ってきてくれれば、ボクはそれで良い。
そんなボクに嬉しそうに頭を下げるベル君たちにえくぼを作って、ボクは部屋を後にした。
待っててね、ベル君、アステル君。きっと、いいものをプレゼントしてあげるよ!