ある日俺は死んだ。
人が死ぬとどうなるのか、常日頃から考えて……いなかったよ。当たり前だろ! 俺は死んだ後のことなんかどうでもよかったんだから。
昔読んだ本に書いてあった。人間は死ぬと精神だけの存在になると。
精神だけの存在ってなんだ? 魂か?
そんじゃ、死んだ人間の魂とやらはそのあとどこに逝くんだ?
天国や地獄?
いやいや無に還る?
……どれも違った。
俺は目を覚ましたら……猫になってたよ。三毛猫の雄に、な。
猫、にゃんこ、にゃんにゃ、キャット……三毛猫ならホームズとかの方が有名か?
いや、そんなことはどうでもいい。
重要なのは、死んだはずの俺が猫として生きてるってことだ。
ああ……なんだってこんなことに。
思い当たる節なら……ある。
あの日、コーヒーが不味いというある意味有名な喫茶店でアイスコーヒーを飲みながら読書していた読者バカと出会ったせいで。
俺は死んだんだ!
風間春樹。高校生。
それが生前の俺。
趣味は読書。漫画、ラノベ、推理物……基本的には読みやすい作風のものを好んで読む普通の高校生。自他認める凡人。特技は無差別流格闘術……の再現。
火中の栗を拾う修行を毎日欠かさず行うのが日課。
運動神経はまあ、そこそこ。
成績は日本史はそこそこ。
他は……聞くな。
好きなものはもふもふしてる小動物。もふもふしてるなら、犬や猫など種族は問わない。モフらせろ!
どこにでもいる至って普通な一般人。
……のはずだったんだけど。
「あら、何か不満でもあるのかしら? この馬鹿猫」
「ありまくりだ! この貧乳」
現在、俺は簀巻きにされて吊るされている。
ん? 意味がわからないだと?
ああ、ま、そうだろうな。
俺にもわからん。なんで俺、吊るされてんだろう。
「猫の活け造りって美味しいのかしら?」
「うおっ⁉︎ ちょ、馬鹿、早まるな! しまえ! 今すぐそれしまえ!」
右、左、右と体を揺らしながら俺は叫ぶ。
簀巻きにされている以上、体を揺らすことしかできない。
くっ、両手さえ使えれば……こんなヤツ。
「両手さえ使えれば……何をするのかしら?」
「いやー、今日もいい天気だなー……なーんちゃって」
あははは! と笑って誤魔化すが。
目の前のこの問題児には冗談や隠し事は一切通じない。
「そうね。いい天気ね。絶好のいい天気よね。馬鹿猫を解体するのには」
「解体するのは犬だけをお願いします!」
「おい、待て! 俺を売るな!」
隣で同じように吊るされているミニチュアダックスフンドのクロがきゃんきゃんと吠えてきた。
ああ、もう、うるせえ。
きゃんきゃんやかましい。
お前はドMなんだから、おとなしく切り裂かれてろよ。ハサミで!
「おい、待て! 誰がドMだ! あの担当編集者と同じ性癖にするな!」
「安心しなさい。二匹切り裂いたところで、私のハサ次郎は傷ひとつ付かないのだから」
「「お前は黙ってろ! この貧乳!!!」」
____ザシュ……。
「「あ____……」」
ハサミはズルい。ハサミ怖い。何あのハサミ。
砲弾真っ二つにしたり、仕込み箒刀を受け止めたり、何でハサミでそんなことできるの。
実は、ハサミというのは仮の姿で、本当はハサミの形をした斬鉄剣、とか。エクスカリバーがハサミになった、とかそういうオチ?
ねえ、そのハサミ何?
何なの?
あ、ちょっと……待って。
ハサミ置こうよ? ラブ&ピース。
貧乳って言ったこと謝るから。
だから、ね? ハサミやめて!
ハサミは嫌……もう、毛を刈られるのは嫌なんじゃ______!!!!!
「死になさい、馬鹿猫」
それが俺が見た最期の光景だった。
というのは冗談だが、ハサミで切られる日常を送っているのは本当だ。
何で俺がこんなバイオレンスな日常を送ることになったのか。
それは……全てはあの日、新稲葉七不思議の一つ。潰れない喫茶店でアイスコーヒーを飲んだことから……始まったのだ。