……はいすみませんでした。気を付けますですハイ。
日常というのは、ほんの些細なことで崩れる。
私はその事を身をもって体感していた。
「ゴホッ」
「まだ咳が出てるじゃない、本当に大丈夫なの?」
「多分ダメ」
「全く……夏だからって体調管理を怠るからよ」
おっしゃる通りでございます。
だがまあ、あれだ。
こうして咲夜に看病してもらえるなら多少息苦しいのは我慢しようじゃないか。
「何言ってんのよ、冗談言えるような状態じゃないでしょうに」
「そんなことはいいから紅茶プリーズ」
「……いつものお茶だと思わないことね」
「何を言ってるの。咲夜が入れればどんな粗茶だって最高峰の玉露並みにうええぇぇぇ」
ナニコレ、まずっ!
え、これ咲夜が淹れた奴じゃないの?
「淹れたのは私だけど、お茶じゃないから。永琳特製の薬湯よ」
「じゃあ多少ひどい味でも我慢して飲むか」
「正確に言うと永琳レシピで鈴仙が作ったものね」
「おえええええええぇぇぇ」
劇薬じゃないか!!
あぁ、だんだんと感覚が鈍くなっていく……あんなに私を苛んでいた頭痛が鈍く……。
「めちゃめちゃ効くんだけどこれ」
「彼女、別に腕が悪いなんてことはないのに」
「いや、偏見というかわけじゃないんだけど……鈴仙って何となくそんな感じしない?」
「きっとあなただけよ。言っとくけど、彼女、結構苦労人なのよ」
まさかの我々と同じ
初耳なんだけど。むしろ生真面目だけど一向に医術の腕が上がらない雑用係的な感じかと思ってたんだけど。
意外だわー。
「あなたが自分のことを苦労人だと思ってることのほうが意外なんだけど」
「何言ってんの。苦労ばっかりよ」
「……元気そうで何より。じゃ私はお嬢様のところへ戻るから」
「嘘ですいつも咲夜様にはご迷惑をおかけしております不肖の身ではありますが誠心誠意謝罪致しますので添い寝をしては頂けないでしょうか」
あれ? 最後におかしなこと言った気がする。
「…………。」
「…………。」
あ、これはやりましたわ。また欲望が漏れたパターンですわ。ほれ今にナイフが飛んでくる………ん?
「……治ったらね」
うおおおおおおおおお!?
マジでか!マジですか!? えっ、いいの! 咲夜の※※※とか※※※※とか※※※※を好きにしていいと!? メイドと執事の背徳的な夜ですか! 最高だぜイヤッフウウウウウウウウウ!!
「あ、鼻血でた」
いっけね、興奮しすぎた。
あれ、咲夜さん。プルプル震えてどうしました?
「なっ、何考えたのよ!!?」
そりゃあ、ねぇ?
もうくんずほぐれつですよへっへっへ。
咲夜が一緒に寝るってねぇ、言ってくれたんでこっちはもう辛抱できねぇよゲッヘッヘ。
「咲夜との夜を想像してました」
おいおいおい、誰が正直に言えっつったよ。せめてもうちょい捻ろうや。普段意識せんでも回る舌のくせして、なんで嘘がでないかなおい。
しょうがない。ここは知性派らしく弁舌をもってこのピンチを切り抜けるとするかね。
「どうやって添い寝からエロいことしようかなって」
なんてこったい。
どうやら私にあるのは痴性らしい。言葉の響き的には同じだからセーフです。
しかしこれだけ連続して地雷踏み抜いて咲夜さん、怒って…ますわ。
ナイフ構えてますやん。いや、愛さえあればナイフなんて痛くも痒くもないわ!
「蒼波のバカッ!!!」
痛いです。
※ ※ ※ ※
「吸血鬼の部下が貧血って
「下らないこと言ってるようならまた刺すわよ」
「やめて下さい。失血死してしまいます」
「ちょうど良いじゃない。貴女、たまには血を抜いた方がいいわ」
多分、痴をヌいた方がいいんじゃないですかね?
いや、流石にこれ以上は勘弁して頂きたい。本当に死んじゃうし。せめて咲夜に膝枕されながらお嬢様を抱き締めて逝きたい。最高だぜ。レミリア様がそっぽ向いて紅茶飲んでたらなおよし。
待て待て。
まだ死なんて。危ないところだったわ。
「そろそろ薬が完全に効いたところじゃない? 体温も下がってるようだし」
それは冷たくなりかけてたからではないでしょうか咲夜さん。
いやでも、確かにさんざん私を苦しめていた頭痛も、焼けるような喉の痛みもなくなっている気がする。異常なまでの倦怠感も綺麗に消え去っている。
うどんげスゲェな!
「治った」
「えっ、本当に効いたの?」
「なにその反応!」
咲夜も信じてなかったのかよ。
「冗談よ。薬師としての腕前はよく知ってるもの。とりあえず、良くなったんならまた悪化しないようそこで大人しく……どこ行くつもりよ」
「お嬢様の様子を見に行こうかなーって」
あの天真爛漫な笑顔を見ないことには私は回復したとは言えないのだ。というか今すぐ抱きしめたい。「ちょっと苦しいよ蒼波ー」とか言いながらギュッと私の背中にその小さな手をまわしてくれたらなおよい。いやいや、むしろお嬢様の方から勢いよく抱き着いてくれる可能性もあるわけで……うむ。
「誰が何と言おうとも私は進むことをやめない」
「……わかったわ。だけどメイド長として伝えるけど、業務に就くのは禁止よ。妖精メイドならいくらでも借りていいから、あなたが動き回るのは極力控えて頂戴」
承諾しかねるんですが。え、お嬢様を着替えさせるのも洗ってあげるのも寝るまで一緒にいるのも全部ダメ?
ないわー。
「条件が厳しすぎるんだけど」
「むしろ問答無用で寝かせるよりは相当優しいと思うんだけど」
「ええい、いくら咲夜とはいえ私の楽しみを奪うことはまかり通らんぞ」
「そんなだから行かせたくないの」
「ぬぅ……」
ここは押してもだめだな。咲夜としてはここが最大限の譲歩だろう。つまり私が頑なに意見を通そうとすれば彼女も頑なになり、話し合いは平行線を辿るだろう。迅速に物事を処理するには……
「あー、悪化してきたー。お嬢様の世話しないと治りそうにないわー」
「…………」
ふふふ。我ながら妙案すぎる。これで咲夜は私を行かせるほかないのだろう。悪化してしまうのは咲夜としても避けたいはずだからな。
この反撃には流石に沈黙するほかないようだな。貴方の選択肢はそのまま黙認するしかないのだよフフフ。
「そのまま黙って通させてくれっ……」
「…………あのね」
「ん? どうしたの?」
「私はね、黙ってるんじゃなくて呆れてるのよ」
「なんで!?」
どこに呆れる要素があったというんだ。完璧すぎて負け惜しみか。
「………はぁ」
ため息までつかれてるよ。
「……妖精メイドを一人、フラン様の部屋の前で待機させとくわ。何かあったらすぐに伝えること。いい?」
「了解」
これは了承を得たということでいいのかな?
そうと決まれば! 不肖、空切蒼波! お嬢様の下へ参ります!!
ヒャッハーーーーーーー!!!!
「大丈夫よね……」
…………。
「そう――倒れ――」
「……やっぱ強引にでも止めるべきだったわ」
パチンッ。
そうして結局私は、安静にするようにと足を縛られベッドへ戻されたのだった。
蒼波がそもそもどんな喋り方だったか忘れてた……マジで。
ごめんね蒼波。