東方妹従者 ~変態の潜む紅魔館~   作:丁太郎

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2.【変態の一日】

 基本的に従者の業務とは主人の身の回りの世話、スケジュール管理、あとは命令されたことや自分で考えて行動したりだとか、そんな感じだ。これでも私はフラン様の執事をさせてもらっている以上、これらの仕事は全て私の業務だ。

 だが、業務内容にも優先度がある。私の場合、

 

「蒼波ー」

「何でしょう?」

 

 こうしてお嬢様に呼ばれれば何事よりも優先して駆けつける。

 さて、呼ばれたはいい物の何の用だろうか。あまり大変なものでなければいいのだが……。

 

「お姉さまのところ行こ?」

「勿論です」

 

 間髪いれずに即答。

 いやー姉妹の仲が良いことで。どうせ世間話しながらお茶でも嗜むだけだとは思うけど、むしろそれが良いね。

 仕方がない、なんて態度を取りながらすこし表情を崩したレミリア様と、如何にもお姉さまと会話するのが楽しい、と目を輝かせるフラン様が向かい合って。それがいつ見ても微笑ましくて、こっちが骨抜きにされてしまう。それに、二人を鑑賞するのもいいけど咲夜と駄弁るのもいいかもしれない。最近はどこぞの誰かさんの襲撃もない様だし、仕事のほうもそんなに多くはないだろう。

 そう言えば時間の指定がなかった気がするが、今から向かうのだろうか?

 

「レミリア様も暇そうでしたし、今から向かいますか?」

 

 そう私が尋ねると、フラン様は輝かんばかりの笑顔で

 

「うん!!」

 

と頷いた。

 …………今日は、ドライフルーツでも添えておくか。

 

 

 主に私の鉄分的な意味で。

 

 

 

 

 

 

 

 

      *    *    *    *

 

 

 

 

 

 まあ、結論からいえばお茶会のほうは滞りなく進んで、今はパチュリーも交えて三人で談笑している。

 フラン様がレミリア様とパチュリー様の話についていけるか疑問が残るが……。

 

「でもこうして咲夜を独占するのも捨てがたい」

「何言ってるのよ」

 

 ちなみにパチュリーと私達従者組は、図書館の掃除や片付けなど仕事の関係で日ごろから話しているので今回は遠慮させて貰った。

 そんなわけで私は厨房の一角で咲夜を独り占めしている。

 

「だって久し振りでしょう? 咲夜と二人きりなんて」

「そう……でもないわよ。この前だってホールのシャンデリア、一緒に綺麗にしたじゃない」

「仕事はカウントしないわよ。それに妖精メイドも近くにいたし、二人きりでもなかったし」

「まあ、確かに後は休憩時間で話すぐらいよね。寝る前に蒼波と会いたいけど……」

「フラン様が離してくれないからね。私も夜には強くないし」

 

 さっき言った通り、久し振りの時間と言うこともあってどんどん話が盛り上がる。ちなみに置かれている茶菓子(咲夜の手作り)は遠慮なく頂く。うん。ハーブが練りこんであって実に美味い。少し行儀が悪いが二枚同時に口に入れてみ、うっ……。

 

「ぐ……」

「どうしたのよ急に。美味しくなかった?」

 

 そんなことはないぞ咲夜。普通の色のクッキーは結構しっかりとした甘さだけど中に軽い酸味があってくどさがなくていい感じだし、濃いめの色のクッキーはココア特有のほろ苦さと一緒にミントのような爽やかさが絶妙なバランスの上で成り立っているし、要はすごくおいしい。

 決して不味いわけじゃないんだ。そんなこと言うやつは【自主規制】して【青少年保護育成条例により規制されました】してやる。

 

「あ、詰まってるの?全く……」

 

 ふおおおおおおおお!!!!

 咲夜が背中を撫でてくれるなら、気管の一つや二つ、いくらでも犠牲にしてやる。さあ、もっと苦しもうじゃないか!!

 けど、あっさりと喉を通りぬけてしまった。畜生……。

 

「……ッ……ハァ~」

「馬鹿ね。欲張るからよ」

「本当。ところで一つ頼みたいことがあるんだけど」

「何?」

「さっきの続き」

「ちょ………」

 

 どうしよう。欲望が止まらない。

 こりゃ怒らせたかもしれないけど、どうしたものか。とりあえずここは大人しく撤退しないとナイフが飛んできそうだし

 

「…………………これでいい?」

 

 再びあの感触が戻ってくる。服の上からでもわかる咲夜の柔肌。私よりも少しだけ高い体温。軽く染まった頬。

 慈愛込められた瞳で私の背中をさすってくれる咲夜が愛おしくて、だけど言葉にすることは出来なかった。

 

「ん…………」

 

 

 

 いい加減恥ずかしくなって、つい視線をそらしてしまう。

 同時に頭が冷え、ふと嫌な視線に気付いた。

 

 

「パ、パパパ、パチュリー様!!?」

「ええ!?」

 

 二人そろって素っ頓狂な声を上げて驚いてしまう。さっきまで漂っていた空気は一瞬にして消え去り、気恥かしさだけが互いの心の内に残った。

 耳まで真っ赤になった私達を見て、からかうようにパチュリー様は告げた。

 

「プッ……大丈夫よ。レミィとフランには秘密にしておくわ」

「ま、まあ確かにパチュリー様なら……」

「いいわけないじゃない!」

 

 咲夜は必死に言い訳を考えているようだが、正直パチュリー様なら信用してもいいと思う。それに私は色々なことを彼女に相談してるし、今更秘密の一つや二つ、ばらされることもないだろう。

 

「えーっと、とりあえず秘密は守ってくださいねパチュリー様」

「わかったわ。それじゃ私は戻るわよ」

「ちょっと……」

 

 慌てた様に咲夜が引きとめるが、既にパチュリー様はドアを閉め立ち去ってしまっていた。

 …………こんなこと言うのも野暮とは思うが、時を止めればいいと思うのは私だけだろうか?

 

「そこまで止めなくてもパチュリー様なら秘密を守ってくれるわ」

「そこじゃない! 最近、魔理沙が来てないの!?」

「たしかにそうだけど」

「もし、もし魔理沙が『最近紅魔館で何かあったか?』とか聞いたらパチュリー様、簡単に話すわよ!?」

 

 げっ、そういやそうだった。確かに魔理沙に聞かれた断れないだろう。パチュリー様、完全に惚の字だからなあ、魔理沙に。

 

「そこから霊夢に……いや、立ち聞きしてた小悪魔から直接お嬢様達に………」

「あー、でも別にいいんじゃない? 正直、お嬢様達にばれて、それが何だって言うの」

「よくない! お嬢様に知られたらまた………」

 

 フラン様なら「何してたのー?」とか聞いてくるんだろうな。幻想郷こっちくるまでなかなか外に出なかったし、そういう人間関係の機微はまだ難しいはず。

 となると、レミリア様のほうが問題になるかも。でもまあ、咲夜がなんとかしてくれるでしょう、うん。

 

「私が言うのもおかしいかもしれないけど………頑張って」

「本当にねっ!」

 

 おっと、ここで咲夜が出て行った。でも、紅茶とか手つかずだし………

 

「さて、全部貰っていきますか」

 

 ふむ、ちょっと冷めてきたけどまだまだいけるなこの紅茶。いい仕事するな咲夜。

 こっちのクッキーとか温度関係ないし、うん。充分に続行出来る感じかな。お嬢様達のお茶会はちゃんと耳に届いてるし、問題ないだろう。

 あ、これオレンジの皮も練りこんであるじゃん、いや違うな。一回マドレーヌにしてからかな? こっちはラズベリーで…………

 

 

 

 

      *    *    *    *

 

 

 

「食べ過ぎた………」

 

 さっきから凄い口の中が甘い。そりゃあクッキーだから仕方ないとは思う。ちなみに途中で紅茶が切れちゃったせいでこうなっている。ま、淹れなおすこと前提だから基本。自分で入れようかと迷ったけど、咲夜の後に自分のは飲みたくない。結局、最後の一欠けらまで口に放り込み、今こうして甘さで苦しんでるわけだ。

 

『さて、今日はもうこの辺にしときましょうかフラン』

 

 お?

 

『うん! お姉様とお話ができてすっごく楽しかった!!』

 

 おお……、あ、ちょっと鼻血が。油断してしまった。

 

『そう言えば咲夜。蒼波はどうしてるの?』

『まだ休憩室にいると思います。フラン様がお呼びになればすぐに参るでしょう』

『えへへー』

 

 当たり前だッ!!フラン様が呼べば、たとえ火の中水の中。ベッドの中から浴室の中まで私は馳せ参じる覚悟だ!!

 それにしても今の会話の流れだともうお茶会は終わりかな? なら、そろそろ移動でも始めた方がいいだろうか。

 

「よっこら………む?」

 

 長い時間座っていたのと、食べ過ぎで重たくなった体を椅子から起こすと、ふと部屋の隅に何か見えた。

 あれは…………盗撮用カメラか?

 

「十中八九、にとりが文に頼まれて作り、魔理沙が仕掛けたものでしょう」

 

 ちなみにほぼ私の経験則と人物観で推測したものだ。まあ、あながち間違ってはいまい。

 とりあえず文が主犯なのは絶対に間違いないだろう。

 

「証拠として持っておくのもいいけど……」

 

 掌に少し私の能力を集中させる。中で微かに動いている電流・の向きを少し変えるだけで簡単に壊れた。これなら見た目はほとんど変わんないし、証拠としても機能するだろう。

 私はそれをポケットにしまい、お嬢様達がいる部屋へ歩き始めた。

 

 

 

『蒼波ー』

 

 

 

 

 訂正。ドアの前まで全力疾走した。

 

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