私事、織斑千冬は今とても緊張している。こんなに緊張したのはモンド・グロッソ決勝戦の時以来か、いやもしかしたら決勝戦よりも緊張しているかもしれない。
何故こうも緊張しているのか?それは私の隣でのんきにも笑いながら歩いている四五六のせいだ。
ことの始まりは学園行事も終わり長期休暇が始る直前に遡る。
この頃私と四五六の関係は教師と生徒、と言うよりも年の離れた兄妹のような関係になっていた。無論2人だけの時だが。
四五六から髪と目の色の相談を受けた頃から私たちはよく2人で会うことが多くなっていた。それこそいろいろな理由をつけて呼び出したりISの特訓と称して二人っきりになってみたりと、ちょっといき過ぎた感じになってしまっているが、まあ大丈夫だろう。別にやましい事などしていないからな。
さてそんな風に過ごしてきた時、四五六からこう切り出された。
「今度の長期休暇の時、一緒に出かけませんか」と。
私は特に考える事もなく引き受けた。その時、私は特に意識することもなくただ普段のやり取りの延長のように思っていたからだ。が、その意識を変えさせられたのは当日が近くなってきたある日の山田先生との会話だ。
「織斑先生、最近調子がよさそうですね」
「そう見えるか?」
「ええ。なんと言うか、こうイキイキしている感じが……」
「そう、かも知れないな」
私はそう指摘されて自然に微笑んでいた。その時に思っていたのは四五六とのやり取りだった。
だから次の山田先生の言葉に咽こんだ。
「織斑先生に好きな人が出来たって噂、本当だったんですね〜」
「ゴホッ!!何だって!?」
「だって最近の織斑先生は以前のような凜とした雰囲気が嘘みたいにやわらかい雰囲気になったって生徒の皆は言っているし、職員室でも時折優しい笑みを浮かべているじゃないですか?」
「な、な、な」
「だから生徒や教師の皆は織斑先生に彼氏ができたんじゃないかって皆噂していますよ?」
「ち、違う!!アイツとはそんな関係じゃ……はっ」
其処まで言って私は自身の失言に気がついた。
「アイツって噂は本当だったんですね!!」
「いや、それは……」
「普段は凛とした織斑先生が彼氏の前では一人の女性になって穏やかな笑みを浮かべて言葉を交わし、交際を重ねるごとにだんだんと2人の距離は短くなっていき、そして2人は……きゃーーー」
顔を赤く染め頬に手を当てて体をくねらせている山田先生を無視して私は考え込む。
(彼氏って四五六とはそんな関係じゃない!!アイツとはそのなんだ、親子のような関係であって決して彼氏などでは無い!!それに私の好みは私を
其処まで考えてみて思い直す。
(四五六は最初から私の事を
こうして思い直すと私は四五六の事をかなり見ていたのだ。
(うん。こうして考え直すと四五六は彼氏と考えるとかなりいい感じじゃないか……って違う!!そうじゃない!!と言うかそもそもアイツと私は教師と生徒じゃないかーーー!!!)
頭を抱えて唸りだす私。隣には未だに体をくねらせ妄想に入り浸っている山田先生。たまたまこの光景を見てしまったL・Bは後にこう語った。
「あの光景は私にとってのトラウマだ」と。
そんな感じに私が四五六との関係を思い直してから数日が立ち、四五六と出かける当日になった。
前日に私はその、どんな服を着て行こうかで迷ってしまいなかなか寝ることができなかった。こんな事を相談できるような人物はいなかったからだ。山田先生はきっと妄想に耽ってしまいそうだし、生徒に相談するわけにもいかず、一夏や束などは持っての他だ。
そうして朝、寝坊してしまい慌てて服装を整えて待ち合わせの場所に向かった。
「あ、こっちですよ〜」
「すまない。遅れた」
「いえいえ、俺も来たばっかりですから」
先に待ち合わせの場所に来ていた四五六に呼ばれて其処に向かうと……まあ普段通りの地味な感じの四五六がいた。
失礼だと思ったがその姿に安心した。四五六の普段の姿に先日までの彼氏彼女などと言う思いはなくなったからだ。
「じゃあ、いきましょうか」
「ああ……そういえば今日は何所に向かうんだ?」
「まずは服屋さんですね」
「服屋?」
そうして四五六に言われるがままにつれて来られたのは少し路地に入った小さな個人経営の服屋だった、
「此処が俺がお世話になってる服屋です」
「おや、ごろじゃないか。よく来たな」
店の置くから現れたのは白髪交じりの髪をした優しそうな雰囲気の老人だった。
「あ、おじさん。こんにちは」
「こんにちは。今日はどうしたんだい?こんな別嬪さんを連れて?」
「えっとこの人に似合う服を見繕ってくれますか?後俺の服も」
「服をねぇ。ごろはいつも通りでいいんだね?」
「……ううん。“自分”に似合う服でお願いします」
「!!……そうかい。分かった先にこの人から見繕うからごろは少し待ってな」
「お願いします」
「では、お嬢さん。此方に」
「あ、ああ」
そう言われ私はこの老人に連れられて店の奥にある試着室につれて来られた。
「さて、どんな服がいいかねぇ。素材がいいから迷っちまう」
「あの、ご老人は四五六とはどの様な関係で?」
四五六と親しく話すこの老人のことが気になり私は聞いてみた。
「なぁにごろとは、ごろがガキの頃からの付き合いなだけさ。まあワシにとって孫みたいなものよ」
「そうなんですか……」
「さ、時間もないしさっさと見繕っちまおう。お嬢さんその鏡の前に立ってくれるか」
「はい」
そうして鏡の前に立った私の後ろで老人は私の体の寸法を測り服のサイズを直し始めてた。
「……ごろはな」
「え?」
「ごろは小さい頃はそれはもう可愛かった。まるでお人形さんのようにな」
「……」
老人が四五六の昔話をし始めたのを私は黙って聞きく。
「小さい頃はよくワシの店に来て毎日楽しそうにわらっとったよ」
時計の音と老人の仕立ての音だけが響く。
「だがある時期を境に笑わなくなっちまった。それに綺麗だった髪と目の色を変えちまってな」
その頃を思い出し手を止める。
「だが最近はまた笑うようになったのよ。誰のおかげかは知らんがの」
そう言いつつもその顔は私を見ながら優しく笑っていた。
「さ、できた。着てみてくれるか?」
「な!!これをですか!?」
渡された服を見て私は驚愕した。
「んん?着方が分からんのかね?」
「違います!!そうじゃなくてこんな服は私には……」
「大丈夫だ。お前さんならきっと似合うわい」
「だ、だが……」
どうしてもこの服を着ることに抵抗があった私に老人は呟く。
「ふぅ……ごろがやっと自分の髪と目の色を戻そうとした相手がこれかねぇ」
「戻すってどういう事ですか?」
「ごろはさっき“自分”にと言った。それは今のように色を変えた俺ではなく変える前の自分に似合うように、と言う意味で言ったのだ。ごろにとって髪と目の色を元に戻すのは相当の覚悟がいることだ。それを決心させた相手がこんなんじゃねぇ……まあよいか。着たくないならしょうがない。今のごろに釣り合う地味な服装で……」
「待って、待ってください」
「どうしたんだい」
「……ます」
「うん?なんだって」
「この服を着ます、と言ったんです!!」
「ホッホッそうかいそうかい着てくれるか」
「……うぅ」
意地の悪い顔で笑う老人を背に私は試着室に入り服を着替える。……うぅ、こんなスースーする服は恥ずかしい。
「……き、着れました」
「ホッホッ、ごろの目利きは確かだね」
「うぅ」
白と濃い青をベースに所々にフリルのレースを使用した、詰まる所ゴスロリのような服装を着せられていた。さらに変装用なのか度の入っていないメガネにフリルがついたカチューシャを着け髪形も普段の髪形からポニーテールのようにひと括りしてあった。ただ問題があるとすれば
「どうしてスカートの丈がこんなに短いんだ!!」
「ホッホッホッ」
そう、この服装やけにスカートの丈が短いのだ。
「なぁに心配するな。大丈夫似合っておるからな」
「そういう問題では……」
「ではお嬢さんはここで待っておってくれ。ワシはごろを着替えさせてくるからの」
「な、ちょっと……」
そういってそそくさと出て行く老人。
「ど、どうしよう。勢いで着たは良いものの私にこんな服は……」
そう言いながら改めて自身の姿を鏡で見る。
「……」
其処に写っていたのは紛れも無い自分自身。だが似合わないと思ってはいたのだがこうして見て見るとだんだんと似合っている気がしてきた。
私とて女だ。可愛い服を着てみたいという思いはある。だが流石にいい年してミニスカートは……
「先生?」
「!!し、四五六か!?」
急に後ろから声を掛けられて驚き振り向いた場所にいた四五六は……
「その、似合いますか?この格好」
其処にいたのは普段の黒髪黒目の四五六ではなくサラサラの銀髪に赤と青のオッドアイで服装も一流モデルさえ霞むようなコーディネートで少し照れくさそうにしている四五六の姿だった。
「どう、ですかね?似合いますか?」
「……」
「先生?」
「あ、いや、うん。その……似合っているぞ」
「よかった。そう言ってくれて。先生もとっても可愛いですよ」
「か、かわ!!」
カッコいいとか凛々しいとかは言われた事は有っても可愛いとは言われた事がなかった。……体の温度が上がっていくのがわかる。
「ホッホッホッ、お2人ともよく似合っておるな」
老人が穏やかな顔つきでそういう。
「そうだ、記念に写真を一枚どうかね?」
「写真?そうだね、記念にお願いします」
「ま、待て四五六、この姿で撮るのか!?」
「ダメ、ですか」
ええい、そんなカッコいい姿で捨てられた子犬のような雰囲気を出さないでくれ。
「……一枚だけだからな」
「はい!!」
そうして私たちは写真撮影をした。一枚だけのはずが四五六と老人の言葉巧みな話術で結局数十枚は撮られた。
「現像できたら連絡するからな」
「ありがとう。おじさん」
老人に挨拶をして外に出た所で私は気がつく。
(この姿で外で出歩く?……この姿で!?)
改めてこの姿を思い出しまた顔が赤くなる。
「さ、いきましょう先生。あ、外で先生はダメか……じゃあ千冬さんいきましょう」
「え、あ、まって……」
私が考えているうちに四五六は私の手をとりどんどん先に進む。私はこの服装と急に名前で呼ばれたことで軽い混乱状態に陥り抵抗ができなかった。
「見てあの2人。何所のモデルかしら」
「うわ〜2人とも素敵だな〜」
「銀髪オッドアイの美青年に黒髪ロングのゴスロリ美女。……くっ負けた」
「くそぅ、イケメンリア充爆発しろ!!」
私たちの姿を見た周りの人たちがなにやら囁いているが今の私には聞こえていない。こうやって異性とて、手を繋ぎながら外を出歩くのは初めてのことだし、こんなフリフリが着いた服を着るのも初めてなのだ。もういろいろと一杯一杯だった。
「千冬さん?どうかしましたか」
「え、いやなんでもない。大丈夫だ四五六」
「でも顔が赤いですよ?熱が有るんじゃ……」
「だ、大丈夫だ。問題ない」
私が緊張のせいで顔が赤くなっているのを熱があるのと勘違いした四五六のとった行動は
「う〜ん、熱はないようですね」
私のおでこと四五六のおでこを当てて熱を測るという行動だった。
「な、な、な!?」
パニックに陥る私。
「きゃ〜〜!!いいわ、いいわ!!」
「羨ましい、私もあんな彼氏が欲しい!!」
「パルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパル」
そして四五六の行動にざわめく周囲の人々。そんなやり取りをしながら私たちは町を歩く。
その過程で一夏たちと出くわしそうになったり正体がばれそうになったりしたがそれはまたの機会に語るとしよう。
後日、老人から送られてきた写真は私の部屋の机の中に大事に仕舞ってある。これは私と四五六の2人だけの宝物だ。
2人で出かけて数日後、町に美男美女の2人組みが出現した、との話で持ちきりだったのは余談である。
服装は水〇燈見たいな感じで。
普段は凛とした雰囲気を出している千冬さんが頬を赤く染めゴスロリを着こんで(ミニスカで)小声で「み、見ないでくれ……」と呟く。
この攻撃に耐えられるか!?