楯無さんの思いを聞き、それに応えようとした矢先、何故か此処に簪の姿が現れました。
簪から見た俺の姿は地面に座り込む形で蛇腹剣を突きつけられておりさらに刃が掠ったのか頬から血が流れている状態である。
そしてそれをしているのが実の姉である楯無さんと言う現状。そして2人の仲はハッキリ言って好くない。そんな中で妹の彼氏が実の姉に刃物を突きつけられてしかも軽くとは言え怪我を負わされている。そんな所を見てしまったらどうなるか。
「姉さん……四五六に、何してるの」
「いや、これは、違うの」
無表情で感情のこもっていない声で問いただす簪。それを聞いて戸惑い怯えた様な表情で後ずさる楯無さん。
「何で、何で四五六が怪我をしてるの?ねえ何でなの、答えてよ姉さん!!」
「こ、これは……」
言いよどむ楯無さん。
「いつもそう、姉さんは私に何も言わないで、勝手に私の事を決めて、私から奪ってく。今度は四五六を奪う気なの!!」
「ち、ちがっ」
楯無さんの言葉も聞かず簪は大声で言い放った。
「姉さんなんて、姉さんなんて、大っ嫌い!!!」
「あっ」
簪からの言葉を聞きその場に崩れ落ちる楯無さん。
「嫌い!!嫌い!!姉さんなんて「落ち着け!!簪」っ!!」
其処まできて俺は簪を後ろから抱きしめて落ち着かせた。……もっと早くに止めるべきだった。
「離して!!あの人は四五六をに怪我をっ!!」
「落ち着けといってるだろう!!」
怒鳴るように簪に言う俺。その声に驚き、何とか気を落ち着かせる簪。
「ごめんなさい。私……」
「俺はもう大丈夫だから。それよりも……」
俺は落ち着いた簪から床に跪く楯無さんに目線を向ける。
「……めん、なさ……ごめ……」
床に跪き両手で頭を抱えて小さな声で謝り続ける楯無さん。その姿は普段の飄々とした雰囲気は無かった。
「楯無さん」
「ごめ、なさ……」
「楯無さん!!」
「ひっ、あ……」
大きな声で呼んでやっと反応を見せてくれた楯無さん。でもその表情は怯えしかなかった。
「立てますか?」
「え、ええ」
手を取り引き上げて何とか立たせたのだが楯無さんは簪に怯えるように俺の後ろに回りこんでしまった。それを見てさらに不機嫌になる簪。その不機嫌な簪を見てさらに怯える楯無さん。
「2人とも、場所を変えましょう。とりあえず俺たちの部屋に行こう」
そういって俺は2人を引き連れて部屋に向かう。移動の間3人には一切の会話は無かった。
長いようで短い時間を掛けて部屋に着いたのだが、簪と楯無さんは一切喋らない。……しょうがない。手荒だけど何とかするか。
「楯無さん」
「!!な、なにかしら」
声を掛けられてビクリと体を震わせてから此方に顔を向ける。
「さっきまで生徒会室で俺に話してたこと、簪にも話してもらえますか」
「!!そ、れは……」
楯無さんは戸惑いうろたえる。
「楯無さん。今ここに居るのは「更識家」の当主でもなく、生徒会最強の会長でもなくてただの更識簪の姉の更識楯無、ただそれだけです」
「し、ごろくん……」
そういって俺は楯無さんを簪の目の前に押し出した。
「いい機会じゃないですか。思ってる事全部吐き出しましょう」
「で、でも」
「じゃあ楯無さん。此処で逃げて一生後悔しますか?」
「っ!!」
「向き合う事から逃げて、一生簪と擦れ違ったまま過ごしていくんですか?」
「嫌!!そんなのは嫌よ!!」
「なら、此処で勇気をださないと、ね」
俺の言葉を聞き、簪と向き合う楯無さん。
「姉さん……」
「かんちゃん……」
そうして楯無さんはポツリポツリと話し始めた。
「更識家」という家柄、生徒会長という立場、様々な要因から簪だけを見ることができなかった事。仕事等を理由にして会う事をしなかった事。さらに長年擦れ違ってきたせいで簪とどう接していいのか分からず距離を置いてしまった事等など。いままで溜め込んできた物を全て吐き出していく楯無さん。
「ごめん、ごめんね、かんちゃん。こんな意気地の無い姉で」
ポロポロと涙をこぼし俯き謝る楯無さんを簪は優しく抱きしめる。
「泣かないで姉さん。謝るのは私。姉さんがこんなにも私の事を思っていてくれたのにそれに気が付かなかった、ううん。気が付こうとしなかった私が悪いの」
「か、んちゃん……」
「今まで擦れ違ってきたけど、これからは一緒に行こう楯無姉さん」
「うん、うん」
お互いに泣きながら、でも笑顔でお互いを強く強く抱きしめあう2人。それを離れた場所で眺めていた俺ももらい泣きしていた。そして俺はこっそりとその場を後にする。今この時は二人だけにしてあげるべきだと思ったからだ。
しばらくして2人が此方に来た時、二人とも目もとに泣いた後がハッキリと付いていたが、2人ともとてもスッキリとした表情だった。
「2人とも、もう少ししたら夕食が完成するから先にシャワーでも浴びてきたらどうかな?」
そういって俺は自分の目もとを指差す。
「かんちゃん。先に浴びてきたらどう?」
「えっと……」
「私はほら、着替えを取りにいかないといけないから」
「そっか。そうだねじゃあ先に浴びてくるね」
「いってらっしゃい」
簪に先に浴びてくるようにすすめる楯無さん。
「……四五六君」
「何ですか?」
調理の手を止めて振り向く。
「本当に、本当にありがとう」
真剣な表情で頭を下げる楯無さん。
「四五六君が居なかったら私たちは擦れ違ったままで過ごしていって、何れ取り返しの付かない所までいくところだったわ」
「そう、ですかね。俺がいなくてもきっと仲直りできたと思いますけど」
「ううん。四五六君が居たから私たちは仲直りができたの」
「そうですかね?」
「ええ。きっとそうよ」
この時の楯無さんの笑顔はとても素敵だった。
2人がシャワーを浴びてスッキリした頃に俺が作った料理があらかた完成したので3人で遅めの夕食に。このひと時は3人にとってとても楽しく、穏やかな時間だった。
「ふ~。おいしかった。ほんと四五六君の手料理は美味しいわ~」
「そうだね、楯無姉さん」
「そう言ってくれると作るかいが出ますよ」
「なんていうか私たち姉妹、四五六君に餌付けされてるわよね~。ねえかんちゃん?」
「ふふ、そうだね楯無姉さん。私たち四五六に餌付けされてるよね」
「そんな気は無いんだけどな~」
食後、穏やかに過ごす3人。
「そうだ、楯無さん」
「何?四五六君」
「今日は泊まっていってください」
「え?」
「せっかく2人が仲直りできたんだから今日ぐらい簪と一緒に寝たって罰は当たりませんよ」
「でも、四五六君は何所で寝るのよ?」
「俺は、生徒会室にでも忍び込んで寝ますよ」
「そういう事を生徒会長の前で言うのかしら?」
「いえいえ、今の楯無さんは“生徒会長”ではなくて“簪の姉”、でしょう?」
そういったら楯無さんは苦笑した。
「四五六君にはかなわないわね」
「いえいえ、楯無さんには負けますよ」
お互いに笑い合う。
「では、また明日」
「あ、四五六君、これ」
楯無さんが何かを投げてくる。
「これは、カギ?」
「私ったら着替えをとりに行ってるあいだにカギを落してしまったみたいなの。拾った人が“勝手に”生徒会室に入ってしまってもしょうがないわよね?」
「そうですね。“勝手に”入って一晩過ごしてしまうかもしれませんね」
「そんな悪い子を見つけたらお仕置きが必要よね?」
「そうですね。“見つかったら”大変ですね」
お互いに含み笑いで会話する。
「それでは失礼しますね」
「ええ。今日はありがとうね、四五六君」
「本当にありがとう、四五六」
「いえいえ」
俺は軽く手を振り部屋から出て行った。これで2人の仲がよくなってくれるといいんだけど、まああの感じなら大丈夫かな?
読者の皆様、壁殴りしてもいいのよ?
IF 簪が恋人ではなかったら
「ねえ、かんちゃん」
「なに楯無姉さん?」
2人は同じベットの中で顔を見合わせていた。
「かんちゃんって四五六君のこと好き、でしょ」
「……うん」
「そっか……」
何所か納得したような表情を浮かべる楯無。
「その、楯無姉さんも?」
「ええ。私も四五六君の事が好きよ。異性としてね」
「そ、うなんだ」
「四五六君って私の事をただの女の子として扱うのよ。生徒会長とでもなく「更識家」の当主としてでもなくね」
「……私もそう。楯無姉さんの妹じゃなくて更識簪として見て扱ってくれるの」
「手料理はとってもおいしくて餌付けされちゃったしね」
「さりげない気遣いもしてくれるしね」
「……」
「……」
お互いに無言で見つめあう二人。
「かんちゃん、私は負けないわよ」
「私だって負けない」
お互いに宣戦布告する。でも2人の表情は笑顔だった。
「でも2人ともお嫁さんにして貰うのもアリかしら」
「……いいかも」