BLEACH ~the decay eyes~ 作:バーサ
最後の表紙は二人というのはとても良かったです。
5/25 少し加筆修正しました。
5月に入ったばかりの朝はまだ少し肌寒く今時珍しいチャックの制服を首元まで閉じた少年──比企谷八幡は手に持っていた荷物を落としそうになりながら目の前の光景に目を瞬かせた。
引越しの挨拶をしようと思っていた家に穴が空いている。
幻覚でも見ているのかと思い目をこするが穴は塞がったりはしなかった。周りにいる野次馬の声を盗み聞くとどうやらトラックが夜中に突っ込んできたらしい。その情報に若干納得がいかず首を傾げるが、これでは挨拶に行くのは逆に邪魔になりかねないので仕方なくその場を後にすることにした。
「この場合はいつ挨拶しに行けばいいんだ……」
その呟きに応えてくれる者はおらず、虚空へと霧散した。
引っ越す際に新調したスマホのマップアプリを開いてコンビニと転校する学校を検索し、
「……一旦、コレ置いてくるか」
鞄と一緒に持っていた粗品に目を向け、道順を保存したスマホを閉じた彼は溜息を吐きながら一度家に戻っていくのだった。
◆
有能なスマホアプリの指示に従い迷うことなく空座町第一高等学校に無事辿り着けた八幡は朝練をしている熱心な部員の声が聞こえる校庭を尻目に予め説明されていた下駄箱を使う。朝早いためか静まり返っている校内を歩き進み職員室へ向かうと感心したような女性の声が彼の耳を打った。
「転入初日からこんな早く来るなんて真面目だな」
振り向くと長い髪を一つに結った眼鏡の女性が肩に出席簿を乗せながら歩いてきた。
「まぁ早く目が覚めたんで。越智先生こそ早いですね」
越智と呼ばれた女教師はその言葉に苦笑いを漏らす。
「お前以外にも転入生が一人いてな。準備がギリギリになっちゃったんだよ」
「俺以外にもいるんですか?」
驚いた様子の八幡を職員室へ向かうように促しながら越智は苦笑いを意地の悪い顔に変えてニヤリと笑った。
「ああ。女子だぞ〜? よかったな」
「いや、別に良くないですよ」
憮然として即答する八幡に越智は思わず転けそうになる。
「なんだよー高校生だろー青春しろよー」
「この世の高校生全員が青春してるとは限らないですよ」
ズレた眼鏡を直しつつブーたれる越智に八幡は嘆息した。
ため息に混じりのその言葉は諦めを多分に含み、期待など一切なかった。
この世は平等ではない。それは彼が経験してきた人生からよく学んでいる。
青春を謳歌する者もいれば謳歌しない者もいる。それはある意味当たり前のことなのだ。
この世に生まれた人間の全員が全員同じように、平等に生きられるのなら、そもそも負の感情なんてものはなくなり争いなど起こらないだろう。
世の中は不平等だからこそ争いが起こり、負の感情が渦巻く。
不平等だからこそ人は誰もが自分の人生に自分だけの幸せを見出し生きていく。
青春を謳歌することは幸せかもしれない。それは経験していないからわからない。だがただ一つ言えるのは青春を謳歌していない者は不幸せとは限らないのだ。
「──つまり俺は青春を謳歌してしないことに幸せを感じる」
「お前は何を言ってるんだ……」
いつの間にか口に出ていた言葉を聞いた越智は呆れた視線を向けながら職員室のドアを開けた。
まだ教員のほとんどがいない職員室には八幡と同じ制服を着た一人の少女が立っていた。
「む、来たか」
腕を組み、堂々と立つ少女の鋭い双眸に睨まれ八幡は少したじろぐ。しかし隣にいた越智は物ともせず少女に声をかけた。
「朽木ルキアさんだね?」
「うむ」
仰々しい肯定に思わず八幡は彼女をまじまじと見てしまう。
「む? 貴様は誰だ?」
「……比企谷八幡だ」
「ふむ。変な名前だな」
「お前もな」
「……私の名を愚弄したな?」
「お前が先にバカにしてきたんだろうが」
徐々に語尾が低くなりヒートアップしていきそうな二人の雰囲気に越智が手を鳴らす。
「おいおい喧嘩するのはいいが、そろそろ説明してもいいか?」
「大体なんだその目は腐敗しすぎだろう」
「おい、目は関係ないだろ」
それでも互いに視線をぶつけ言い合う二人に越智は八幡には出席簿を、ルキアには手刀を落とした。軽快とは言い難い音が職員室に響く。
「いッ……何をする!」
「うッ……ねぇちょっとおかしくない? なんで俺は出席簿の角なの?」
「転校生同士仲がいいのもいいが、いい加減にしろよ?」
ニッコリと額に青筋を浮かべて言う。
頭を押さえ不承不承というように頷き黙った二人に越智はこの後の説明をしていく。
教科書は後日届くことや部活動は入っても入らなくてもよいこと、二人の担任は越智で、ホームルームで自己紹介をしてもらうなど。特に最後の話の時に八幡が露骨に嫌な顔をしたが越智は無視した。
「で、あとは何か質問はあるか?」
「特にないです」
「私もない」
「そうか。じゃあまだホームルームまで時間はあるし、校内を見て回ったらどうだ? ホームルーム前にまた職員室前に来てくれれば自由にしていいぞ」
「わかりました」
特にこのまま職員室にいる理由もない八幡とルキアは越智に頭を下げて出て行こうとする。ちらほらと集まり始めた教員たちの視線を掻い潜って扉に手をかけたところで、二人の背に越智の声が届く。
「あーそうだお前たち」
越智は不思議そうな顔をして振り向く二人に出席簿で肩を叩きながら不敵な笑顔で言った。
「ようこそ、私たちの学校へ。一度きりの青春楽しめよ」
その言葉を向けられた八幡とルキアは互いに顔を見合って首を傾げた。
◆
「マックスコーヒーがない……だと……」
職員室から出てどう時間を潰そうかと考えた八幡はとりあえず購買の隣にある自動販売機に向かった。ひとまず一息ついてからと思っていたのだが、彼の
目を見開き大袈裟に驚く八幡の様子を隣で見ていたルキアは不思議そうに自動販売機を見る。見たこともないものだった。好奇心に負け、恐る恐るいくつもあるボタンを押すが何も起こらず思わず頭を横に傾け、その頭にはハテナマークが浮かぶのがありあり見えた。
「その“まっくすこーひー”とやらは何なのだ?」
「この世の唯一の成功品、神なる飲み物だ」
「そ、そんな飲み物があるのか…」
素直に信じ、ゴクリと生唾を飲んだルキアに少し心配になるが、正直八幡にはそれは今どうでもいいことだった。
「てか、なんでお前はついてきたんだよ」
仕方なくお茶を買った八幡はルキアに尋ねる。
しかしルキアはそれに答えず、八幡の動作を見て自動販売機の使い方を理解し、手のひらをポンと叩く。
そんなルキアの様子に八幡はただただわけがわからない。
少なくとも十数分前には一触即発な関係だったはずなのだが、どういうわけかルキアは普通に隣に立ち、同じように飲み物を買おうとしている。自身の悲しい経験談的に『もう二度と関わってくんじゃねえぞ』という空気のもと、これからの学校生活では一切関わらなくなるのが常なのだがいつもと違う状況に少し戸惑っていた。
そんな八幡の戸惑いに気づく様子もなくルキアは苺牛乳のボタンを押した。出てきた苺牛乳に若干びっくりしながら取り出し満足そうに頷くと八幡に向き合った。
「お前ではない。朽木ルキアだ」
「あ、ああ……悪い」
「うむ。……む?」
名前の訂正を求め、満足そうな顔していたルキアは眉を顰めた。
その様子に何か間違えたかと八幡は思ったが、紙パックの飲み物を持ったまま固まるルキアを見て理解した。開け方がわからないのだろう。
唸るルキアに八幡は無意識に手を差し出ていた。
「む?」
「開けてやるから貸してみろ」
言って、しまったと八幡は思った。
女子の飲み物を開けてやるなどイケメンや気の許せる仲でなくては許されない行為だ。ましてや自分など──。
「おお! 頼む!」
予想外の反応に少し放心した八幡にルキアは首を傾げる。
「どうした?」
「いや」
すぐに我に返った八幡は紙パックの横についたストローをとって手渡した。そして「なるほど……」と呟いているルキアにもう一度問う。
「で? なんでついてきたんだよ」
紙パックを両手で持ち、可愛らしくストローを吸うルキアは、プハァと息を吐いてまっすぐ八幡を見つめた。
「先程のことを謝ろうと思ってな」
「謝る?」
「……職員室でのことだ」
「……ああ」
謝られること自体があまりない八幡はそこでルキアがついてきた理由を理解した。
「別に気にしてないぞ。俺も売り言葉に買い言葉で返しちゃったしな」
「それでもだ。けじめはつけたい」と言ってルキアは佇まいを直し、「すまなかった」と頭を下げた。
その行動に八幡はぎょっとする。謝ると言っても口頭だけのものだと思っていたのだ。
それが身体を九十度曲げ、頭を下げられた。間違いなく今この場を誰かに見られたら何か勘違いされる。
「ちょっ……そんな大袈裟にしなくていいから」
「名とは個を重んじる大切なものだ。言い訳に聞こえるかもしれないが変といったのは別にバカにしたわけではなかった。だが、私の言葉でお前の気分を害させてしまったのだったらしっかりと謝罪したいのだ」
ルキアは自分の
八幡はルキアがなぜそんなにも名に拘るのかわからなかったが、その真剣さにハァと息を吐いて頭を掻いた。
「わかった。じゃあ一つだけ
ルキアが顔を上げ、八幡を見つめる。その視線に耐えられなくなった八幡はルキアから視線を逸らしながら言う。
「俺は
言われてルキアは間抜けな顔をする。そして先ほど自分が言った言葉を思い出し、小さく笑った。
「そうだな。すまなかった八幡」
「──っ! あ、ああ。俺も悪かった」
「うむ」
お互い納得のいく落とし所を見つけられルキアは満足そうに頷いた。
「……」
「……」
「あー……その、だな……その口調は素なのか?」
名前で呼ばれ内心動揺した八幡が気恥ずかしさからか沈黙に耐えられず珍しく自分から話題を振った。
咄嗟に出た話題だが、実はずっと気になってたことだった。
「そうだが何か変か?」
「……まあ今時は珍しいな」
「むぅ……」
ルキアは顎に手を置く。昨日は色々と忙しくそこまで気を回していなかったのだ。言われてみればここは
「そうか……。だが私は現代語にそんな詳しくないのだが……」
険しい顔で悩むルキアはペットボトルを地面に置いた八幡が鞄を漁り何かをこちらに差し出すのに気づいた。
「なんだこれは?」
「ラノベだ」
「らのべ?」
聞いたことのない言語にルキアは頭を傾げる。
「あー……えっと、読みやすい小説だ」
「小説……書物のことか」
「ああ。これの登場人物の言葉は現代語だからこれを真似すればいい」
「おお! なるほど!」
まるで天啓を得たというような反応のルキアは差し出されたラノベを手に取る。
何やら可愛らしい絵柄が最初の数ページに存在し、八幡に視線を向けると「登場人物だ」と答えてくれた。
それにルキアは感心する。これなら登場人物像を想像しやすく物語に入り込めそうだと思った。今時の書物はすごいななどと思っていると少し伺うような八幡の様子が目に入った。
「どうかしたのか?」
「いや、その絵とかに何か思わないのか?」
「? 可愛らしい絵だと思うが……」
何を聞きたいのかわからないというルキアに八幡は息を吐く。小中と馬鹿にされた記憶があり、少し不安だったのだが目の前の少女には特に変なものだと思われなかったらしい。
「いや何でもない。……これを貸すからクラスでの挨拶までに多少はなんとかなるだろ」
「そうか! かたじけない!」
「お前は武士か」
気がつけばもうホームルームの時間になる頃だった。
おまけ
そしてホームルーム。
「みなさんごきげんよう。朽木ルキアと申します。よろしくお願い致しますわ!」
「oh…そのキャラ参考にしちゃったか…」
教卓の前で密かに八幡が頭を抱えたのは言うまでもない。
◆原作との違い
・ルキアのお嬢様のようなキャラは八幡のラノベによる影響。通称ドラちゃん。
おまけのおまけ
一護「その気色悪い喋り方やめろ!」
ルキア「む。きさ…貴方と同じ男子高校生から勧められた(本の登場人物の)話し方ですのよ?」
一護「誰がそんなこと言いやがったーッ」
八幡「…なんか誤解されてる気がする」
あと1、2話くらい日常回のようなものが続きます。そのあとは徐々に八幡が巻き込まれていきます。遅くてすみません。
あらすじの注意書きのようなところに書き忘れていたことを追加しました。登場人物の詳しい説明はいずれ書きますのでお待ち下さい。
ちなみにですが、越智先生とキャラが被るので平塚先生の登場は無くなりました。御愁傷様です。