エリート警察が行くもう一つの幕末   作:ただの名のないジャンプファン

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第10幕 土方

 

 

 

 

 

 

5月11日、新政府軍は箱館総攻撃を開始、海陸両方から箱館に迫った。

午前11時ごろには箱館市街は新政府軍によって制圧された。

箱館市街を制圧した新政府軍は一本木関門方面に進出する。これに対して、土方歳三は孤立した弁天台場の救出に向かうが、一本木関門付近で指揮中に狙撃され戦死した。

5月12日には五稜郭に対して箱館湾の甲鉄による艦砲射撃が始まり、古屋作久左衛門が重傷を負ったほか、死傷者が続出した。また、旧幕府軍では脱走兵が相次いだ。

5月16日、千代ヶ岱陣屋が陥落、これが箱館戦争最後の戦闘となった。

翌17日朝、総裁・榎本武揚、副総裁・松平太郎ら旧幕府軍幹部は、亀田の会見場に出頭、陸軍参謀・黒田清隆、海軍参謀・増田虎之助らと会見し、榎本ら旧幕府軍幹部は無条件降伏に同意。

5月18日、早朝、実行箇条に従い、榎本ら幹部は亀田の屯所へ改めて出頭し、昼には五稜郭が開城。郭内にいた約1,000名が投降し、その日のうちに武装解除も完了した。ここに箱館戦争及び戊辰戦争は終結した。

 

これが箱館総攻撃から戊辰戦争終結までの大まかな流れであるが、時系列は箱館総攻撃から数日程、過去に遡る。

 

 

箱館近くの海岸、七重浜。

そこには新政府軍の物資集積所があった。

その近くの森には、新政府軍の集積所を睨む武装した集団が居た。

地面には煤で汚れた朱色の下地に金色で誠と書かれた旗がある。

 

「間違いありません、あの天幕は政府軍の物資集積所です」

 

「そうか、よくやった、相馬」

 

斥候を務めた男の名は相馬主殿、そして、今この部隊を此処まで率いたのは土方ではなく、彼の代理で一時的に指揮権を任された新撰組頭取、島田魁だった。

 

「よし、突っ込むぞ」

 

島田は部下達に突撃を命令する。

 

「えっ?良いんですか!?」

 

この場にはまだ土方が到着していない。

勝手に戦端を開いてよいモノなのかと相馬は島田に尋ねる。

 

「もう、これ以上は待ってられねぇ、俺達だけでやろう」

 

島田が突撃命令を出そうとしたその瞬間、新政府軍の兵士2人が自分達の方へと近づいてくる。

恐らく周辺の見回りに来たのだろう。

慌てて、身を隠す島田達。

このまま物音を立てなければやり過ごせるかもしれない。

しかし、島田が身を潜めたその場所には運悪く、アオダイショウが居り、島田はそのアオダイショウと鉢合わせする形となり、アオダイショウを見て島田はびっくりして思わず声を上げてしまった。

 

「うわぁぁぁ!!」

 

「ん?」

 

「其処に居るのは誰だ?」

 

見回りの新政府軍の兵士が島田達の下へ近づいてくる。

兵士達は地面にあった新撰組の隊旗を見て、驚き、

 

「新撰組!?」

 

「っ!?」

 

1人は銃を構え、もう1人は呼び笛を鳴らそうとする。

 

ザシュッ

 

ブシュッ

 

しかし、その兵士達の銃から銃弾が放たれることも、呼び笛が鳴る事も無く、彼らの腸からは日本刀の刃が生える。

日本刀の刃が引っ込むと、兵士達はその場に斃れる。

 

「土方さん。それに今井さんも」

 

兵士達を突いたのは土方と信女だった。

 

「待たせたな」

 

「ど~も~」

 

「御二方、遅いですよ」

 

島田が土方と信女に集合時間に遅れていると指摘する。

 

「うるせぇな、俺だって他の所を見回ったりして色々忙しいんだよ。んで、今井は俺の補佐をしていたんだ」

 

「土方さんは陸軍奉行並ですからね」

 

「偉くおなりで‥‥」

 

相馬と島田が皮肉めいたように言う。

 

「なんだよ、それ?」

 

「京に居た頃はこんなんじゃなかった‥‥土方さんはいつも俺達の傍にいてくれたよな?尾関」

 

「ちょっ、俺に振らないでくださいよ!!」

 

突然、島田から会話を振られた隊士、尾関雅次郎は面倒事は御免だと言う感じで言い返す。

 

「くそっ、ほんのちょっと遅れたぐらいで、なんでこんなに言われなきゃいけねぇんだ?」

 

土方が島田らの態度に愚痴る。

 

「お遊びはこれぐらいにして‥‥此処は戦場よ」

 

信女がいい加減切り替えろと言う。

 

「今井の言う通りだ‥それで、奴らの兵糧は?」

 

「あそこです。あの天幕の中です」

 

相馬が新政府軍の天幕を指さす。

 

「よし、行くぞ‥‥」

 

土方が号令をかけると、隊士達は皆頷く。

 

「尾関」

 

「はい!!」

 

尾関が新撰組の隊旗を持ち、旗を掲げる。

 

「突撃!!」

 

『おおおおおー!!』

 

新撰組隊士達は抜刀し、土方を先頭に新政府軍の物資集積所へ切込みをかけた。

夜襲を受けた物資集積所の警備兵達は大混乱となった。

此処は集積所のため、兵の人数もそんなに多い訳ではなかった。

集積所はあっという間に新撰組隊士達の手により占領された。

 

「物資は持って行けるだけ持っていけ、残りは全部、燃やせ!!」

 

持ってきた荷車に持てるだけの物資を乗せて、残った物資に関しては敵に再び奪われない様に篝火の火で燃やし、土方達は敵が戻って来る前に撤退した。

 

箱館山の山麓に布陣している新撰組の陣に戻った土方は、隊士達に言葉をかけた。

 

「お前達は実によく戦ってくれている。俺は心から褒めてやりたい。これからもいいか?徳川にも骨のある奴がいる事を薩長の奴等に思い知らせてやれ!!」

 

『おおおー!!』

 

「ささやかだが、先日の二股口での約束の品だ。これより、皆に酒を馳走する」

 

酒を振る舞うと聞いて、隊士達は浮かれ始める。

 

「ただし、言っておくが、大した酒じゃねぇ‥‥今しがた、薩長の奴等から分捕ってきた酒だ。好きなだけ飲めと言いたい所だが、此処は戦場だ‥あんまり飲んで、へべれけになっても困る。1人、一杯までだ‥‥相馬、皆に配ってやれ」

 

「はい。では、一同。各々器を持って一列に並んでくれ」

 

隊士達は自分の器を持って酒樽の前に並び始める。

 

「1人一杯だぞ!!素知らぬ顔をして、何度も並ぶな!!」

 

酒樽の前に並ぶ隊士達を見て、笑いながら注意を促す土方。

 

「‥土方も随分と変わった‥そう思わない?」

 

信女は島田と尾関に土方が人として変わったのではないかと尋ねる。

 

「ええ、鬼の副長と言われていた頃が嘘みたいですね」

 

「近藤先生が亡くなってから、あの人は変わった‥‥見て見ろ‥‥隊士達は皆、土方さんに惚れている」

 

土方の周りにはいつの間にか若い隊士達が土方を囲っている。

京に居た頃、隊士達は恐れおののいて、自ら進んで土方に近づく者は少なかった。

しかし、今隊士達は土方に自ら進んで近づき話をしたり、彼の話を聞いている。

 

「京に居た頃は無理矢理法度で縛った頃もあったが、今はそんなものは要らん」

 

「皆、心の底から土方を慕っている証拠‥‥」

 

信女は器に入っていた酒を一飲みした後、土方にこの後の予定を言いに彼に近づく。

島田と尾関も信女の後に続く。

 

「土方さん、皆、喜んでいますよ」

 

「敵の酒って言うのがいいだろう?」

 

「これからもちょくちょく分捕りに行きますか?」

 

「ソイツはいいな、ハハハハ‥‥」

 

土方達が笑っていると、

 

「土方‥そろそろ時間‥‥」

 

信女が懐中時計を取り出し、土方に時間だと知らせる。

 

「今日はこの後、武蔵野楼で榎本達と会合がある」

 

信女からこの後の予定聞かされ、ちょっと顔を歪ませる土方。

 

「アイツらと飲んでも楽しくねぇんだよな‥‥」

 

「でも、榎本達は土方を待っている‥‥」

 

「いいんだよ、真打は最後に登場するのが、芝居の鉄則だろう?」

 

「大丈夫なんですか?」

 

島田が心配そうに尋ねる。

 

「大丈夫だ。それより、今井、お前はここでちょっと待っていてくれ‥山野、蟻通、お前達は来てくれ」

 

「「は、はい」」

 

土方は島田、尾関の他に山野八十八、蟻通勘吾の4人を連れて、ある小部屋の中に入る。

 

「敵の様子を見てどう思った?」

 

土方が4人に敵の様子の意見を求める。

 

「兵の数が減っているように思えます」

 

「流石、元監察、よく見ているな」

 

「敵の兵が減っているのは分かっていたのですが、その理由は一体どういう事なんでしょうか?」

 

尾関は敵兵が減った理由として、敵に何があったのだろうかと投げかける。

 

「俺達に恐れをなしたんだろう?」

 

島田は、敵は撤退を始めたのではないと言うが、

 

「いや、敵は広範囲に分散配置させているのだろう」

 

土方の見解は違っていた。

 

「と、言う事は‥‥」

 

「敵は本気だ‥‥総攻撃は恐らくこの数日中にあると見て間違いないだろう」

 

「そう言う事だったのか‥‥なんだか、ゾクゾクしますね」

 

島田が武者震いをしながら言う。

 

「池田屋に皆で斬り込んだ時のことを覚えているか?」

 

土方は新撰組の名前を大きく知らしめることになったあの池田屋事件の事を口にする。

信女が新撰組に入ったのはこの池田屋事件の後だった。

 

「忘れた事なんてありません」

 

島田が言うと、尾関、山野、蟻通の3人も頷く。

 

「あの時の仲間で今も残って居るのは俺達5人だけだ」

 

「あれ?お前らそんなに前から居たか?」

 

島田は尾関達に池田屋事件の時から居たのかと尋ねる。

ちょっと酷い‥‥

 

「すみません‥目立たなくて‥‥」

 

山野が『どうせ、俺達は影が薄いよ‥‥』と言う感じで島田に言う。

 

「俺は新撰組の副長として、お前らに命じる‥此処を何としてでも死守し、箱館の町を守れ、箱館湾を取られたら、この戦、俺達の負けだ」

 

「土方さんはどうするんですか?」

 

「俺は五稜郭に戻る」

 

「えっ?俺達と一緒に居てくれないんですか?」

 

「俺は向こうで、全軍の指揮を執る」

 

「だったら、俺も土方さんの傍にいてぇな」

 

「それはだめだ」

 

「土方さんと一緒に戦いたいんですよ」

 

「私もです」

 

「一緒に連れてってください」

 

島田同様、尾関達も土方と共に戦いたいと言う。

 

「気持ちはありがたいが、此処は我慢してくれ」

 

「いや、我慢できねぇ」

 

真っ先に島田が拒否した。

 

「テメェはガキか?」

 

「ガキで結構!!」

 

「京に居る頃も、箱館に来た時も、新撰組の役目は市中の民を守る事じゃねぇのか?」

 

「わかっていますよ!!」

 

「だったら、此処に残れ」

 

「じゃ、じゃあ‥‥こうします‥誰か別の奴を頭にします。それで、俺は土方さんについて行く‥‥」

 

島田は震える声で、誰が自分の代わりが良いかを探す。

 

「尾関は古株だが、いまいち頼り甲斐がねぇしなぁ‥‥」

 

「島田、分かってくれ、俺はお前らに新撰組を率いて欲しいんだよ」

 

「そ、そうだ、相馬が良い‥‥アイツは若いが、頭が回る男だ‥‥うん、アイツが良い‥‥」

 

島田は土方の言葉を無視する様に代わりの人選に相馬を選ぶ。

 

「島田!!」

 

「土方さん!!俺は最後までアンタと一緒に戦いてぇんだよ!!」

 

「島田さん!!‥‥よしましょう‥‥」

 

「我等、身命を賭してこの箱館を守ってみせます!!」

 

「頼んだぞ‥‥島田、尾関、山野、蟻通‥新撰組はお前らに託した‥‥心配するな、戦はまだ続く‥すぐにまた一緒に戦う時が来る‥‥」

 

島田は最後まで、土方と共に戦いたいとごねたが、土方と尾関らの説得で何とか従ってくれた。

 

 

「待たせたな」

 

「遅い‥‥また遅刻よ‥‥多分、大鳥あたりが、きっとネチネチと小言を言うわ」

 

信女はやれやれと言った感じで土方に言う。

 

「あの人の扱いにも慣れた」

 

土方と信女は馬に乗り、五稜郭へと向かった。

 

 

「土方は‥‥」

 

「ん?」

 

「土方は榎本が嫌い?」

 

五稜郭に向かう途中、信女は榎本について尋ねる。

 

「あまり好きにはなれねぇな‥‥西洋の仕来りとか言って、兵士達が必死で戦っている中、のんびりと部屋で菓子を食っている男を信用しろと言うのには無理がある」

 

「でも、あれは幕府軍の大将‥‥」

 

「一門の人物だと認めるが、理屈で物を考えすぎる。そう言うお前はどうなんだ?」

 

「あの人は軍人と言うよりも政をする人‥でも、私達に戦場を‥戦う場所を用意してくれた人‥‥総司や皆の仇を討つ場所を与えてくれた人‥‥それだけ‥‥」

 

信女は自分が抱いた榎本の印象を土方に言う。

 

「それに関しては俺も同じだ‥‥近藤さんをこのまま罪人扱いにするわけにはいかねぇ‥‥これは弔い合戦だ‥‥近藤さんの名誉を回復できるのであれば、俺は命を落としても構わねぇ‥‥」

 

「‥‥」

 

この時、信女は土方が死に急いでいるように見えた。

 

五稜郭についた土方と信女は、作戦室へと通されたが、其処には榎本の姿はなかった。

自分達がこの五稜郭に来た事は榎本にも知らせが言った筈。

ならば、此処で待っていれば、榎本が来るだろうと思い、土方と信女は待った。

作戦室には、大鳥が造った立体模型が鎮座しており、土方と信女はその模型をジッと見ていた。

 

(こんなモノを作っている暇があるなら、もっとマシな作戦を立てればいいのに‥‥)

 

信女は立体模型を見ながら、そう思った。

やがて、奥から足音がして、土方と信女がその方向を見ると、作戦室にやって来たのは、榎本ではなかった‥‥。

 

 

 

・・・・続く




ではまた次回。
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