エリート警察が行くもう一つの幕末   作:ただの名のないジャンプファン

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第12幕 伝令

 

 

総裁室にて、榎本と土方はワインを飲みながら、仙台からこの蝦夷まで来たこれまでの経緯を語り合っていた。

その話の中で、榎本が蝦夷で描いた壮大とも言える夢について土方は、一時はその姿に近藤を重ねたのだが、今回の降伏と言う決意に土方は失望した。

しかし、榎本は決して蝦夷の地に薩長とは別の国を作る事を壮大な夢物語で終わらせるつもりではなく、本気で蝦夷の地に新国家を作るつもりでいた。

今となっては、それは完全に夢物語となってしまったが‥‥

榎本は土方と信女を連れて、展望台へと登った。

 

「大体、薩長がやっている事は何だ?新しい国を作るとか言って、徳川の造った国を分捕って山分けをしているだけじゃねぇか」

 

(確かに)

 

榎本の言う薩長がしている事には賛同する信女。

以前、信女が剣心に言ったことを榎本も思っていた様だ。

 

「でも、私は薩長の連中とは違う‥‥何もない所から、一から新国家を作ろうとしていた。見た前、この豊かで広々とした土地を‥‥水は清く、土も良く、そしてその下には鉄や銅や石炭が計り知れない量が眠っている‥‥私はこの地へ来た時、此処なら、新しい国が造れると確信した‥‥私は君達と違い、人を斬った事もない‥‥侍らしからぬ侍だった‥‥でも、あの日だけは気持ちが高ぶった。薩長に対抗して、此処に新しい国を作る‥‥」

 

「俺は今までアンタの言う通り、此処に死に場所を探し求めていた。そんな中、アンタは薩長に貼り合って本気で此処に新しい国を作り、連中に勝とうとしていたのか?」

 

「勿論だ。外国ではそういう偉大な夢を抱く者をロマンチストというのだよ」

 

「ロマンチ?いや、アンタはただのバカだ」

 

「お褒めの言葉と受け取っておくよ。しかし、夢は醒めた‥‥醒めたからには、私は潔く白旗を上げる。これからは私の夢に従ってくれた人々をいかに救うかが私の仕事だ」

 

榎本が夜空をジッと眺めていると、そこに大鳥がやって来て、今後の方針を聞きたいと各隊の指揮官たちが集まっていることを伝える。

榎本達は指揮官が集まっている作戦室へと向かった。

作戦室に集まった指揮官は皆不安そうな顔をしていた。

そんな指揮官達に榎本は言葉をかける。

 

「長い間‥‥ご苦労だった‥戦はもう終わりだ。皆、よく此処まで戦ってくれた。心から礼を言う」

 

「此処まで来て本当に降伏するんですか!?」

 

やはり、指揮官たちの間でも降伏は不服のようだ。

 

「我々はまだ戦えます!!」

 

「なんで、薩長の奴等に降伏なんてしなきゃならないんですか!?」

 

「総裁、最後まで戦いましょう!!」

 

指揮官たちの悲痛な願いを聞きつつ、榎本は降伏する意思を曲げず、降伏することを伝え、解散を命じた。

指揮官たちが帰り、榎本も総裁室へ帰ろうとした時、

 

「貴方は、彼らの言葉を聞いて何も思わないのか?」

 

信女が榎本に尋ねる。

 

「‥‥」

 

「貴方は諦めないと言う事を忘れた‥‥土方も生きることさえを忘れた‥‥でも壮大な夢を抱いたのであれば、その夢を諦めないのがロマンチストなのではないのか?」

 

「‥‥今井の言う通りだ‥‥俺はただ、この戦に死に場所を求めていた‥‥でも、大事なことを忘れていた様だ‥‥俺は昔、ある男を日本一の侍にするという事を夢見て人生を費やした‥‥どうやら、俺はアンタや今井の言うロマンチに付き合うのが性に合っているようだ」

 

「土方、ロマンチじゃない、ロマンチスト」

 

「しかしだね、今井君、夢はもう醒めたと言ったではないか」

 

「いや、まだだ‥まだ、夢は醒めちゃいない‥‥これからは死ぬために戦うんじゃない‥生きるために戦うんだ。此処は俺に任せてくれ」

 

「中身次第だ。それで?どうする?」

 

榎本も信女と土方の言葉を聞いて、やる気を出してくれた様だ。

 

「まずは軍議だ」

 

「それでこそ、新撰組鬼の副長‥‥」

 

榎本達は作戦室へと戻り、策を練る事にした。

その作戦室では、大鳥が1人、立体模型をジッと見ていた。

 

「勝ちたい‥‥勝ちたい‥‥どうすれば、勝てる‥‥」

 

大鳥は同じ言葉を何度も繰り返す。

やはり、彼もこの戦に勝ちたかった。

大鳥自身も本音を言うと降伏には反対であった。

彼は将棋の駒を手に、立体模型の周りをウロウロしていた。

そんな時、彼の手から将棋の駒が落ち、駒は立体模型が置いてあるテーブルの下に落ちる。

 

「あっ‥‥」

 

大鳥がテーブルの下に潜って駒を手にした時、土方達が作戦室戻って来て、大鳥はそのままテーブルの下で縮こまった。

 

「散々見慣れた地図なのに、おかしなもんだ」

 

土方は大鳥の作った立体模型をジッと眺める。

 

「どういう事だ?」

 

「俺は今まで死ぬための策しか練ってこなかった。だが、今は生きるためにコレを見ている。そう思うと同じ地図でも別の様なモノ見えてくる‥‥決まった」

 

どうやら、土方の頭の中で策が練られた様だ。

 

「では、これより軍議を行う」

 

「お願いします」

 

「お願いします」

 

「名付けて‥‥桶狭間戦法」

 

「桶狭間?大きく出たな」

 

「これまでの策は攻めてくる薩長相手に守る一方だった。確かに箱館は守るとしては万全だ。南には天然の城壁箱館山、箱館湾には軍艦がある。これだけの守りがあれば、敵はやすやすと上陸は出来ない‥此処まではいいか?」

 

「ああ」

 

「だが、敵も同じことを考えている。奴らは北と西から取り囲むように攻めてくる。目的はこの五稜郭。奴らはまるで帯の様に横に連なって五稜郭に攻めてくるだろう」

 

土方は分かりやすく、首に巻いていたスカーフを脱いで、立体模型の上に置く。

 

「で?どうやって防ぐ?」

 

「防がない」

 

「は?」

 

「敵は一万に近い大軍勢だ。数で押し潰す勢いで攻めてくる。数でぶつかり合えば、当然、数が少ない方が負ける」

 

「それで?」

 

「少ない数の兵が勝つ手段‥‥それは奇襲だ」

 

「成程、兵が多ければ多い程、兵列が広がれば広がるほど、小さなほころびは見えにくくなる‥‥」

 

信女は模型に置かれたスカーフを榎本に持たせる。

 

「数が少ないのであれば、その小さなほころびを見抜いて、その一点を‥‥突く」

 

そして、置いてあったペーパーナイフで、スカーフを突き刺し、ナイフを上へと切込みを入れる。

切込みを入れられたスカーフは脆くなり、やがて、引き裂かれる。

 

「そうだ。信長が今川勢を破った時と同じだ。少ない兵で戦うのであれば守るのではなく、その少なさを利用して打って出るしかない」

 

「成程、それで桶狭間か‥‥」

 

「此処に土地の者しか知らない山道がる。この山道を一気に駆け抜けて、敵の本陣の背後を襲い、敵の大将の首を獲る」

 

「官軍参謀、黒田了介‥‥」

 

信女が自分達のターゲットである官軍の大将の名を呟く。

 

「必要な兵力は?」

 

榎本は土方に必要な兵の数を聞く。

 

「50で良い‥少ない方が、小回りが利くからな。その後、とって返して敵の背後から襲う。榎本さんは敵の乱れを見たら、五稜郭から出陣し、敵を挟み込む。これでアンタの好きなサンドウィッチだ」

 

「それで、軍の指揮は誰が取る?」

 

「アンタでいいだろう?」

 

「いや、此処は大鳥にやらせよう」

 

「あの人は俺の策には絶対に乗らないさ」

 

「それは本人聞いてみよう。いい加減に出てきたらどうだ?」

 

榎本は声をかけると、テーブルの下から大鳥が出てきた。

 

「気づいていたのか?」

 

「足元だからね、気づくなと言う方が無理だ」

 

「大鳥さん、さっきアンタの顔を見た時に思ったよ」

 

「なんの話だ?」

 

「総裁が降伏するって言った時、アンタは其処に居た指揮官の中で一番悔しそうな顔をしていた」

 

「‥‥」

 

「計算だけの男には出来ない顔だった‥‥後は任せた」

 

「‥‥ああ、任せろ!!」

 

こうして旧幕府軍は降伏から一転し、抗戦へと方針を転換した。

先程解散した指揮官は再び集められ、作戦が伝えられる。

作戦が全軍に伝えられたのち、

 

「今井、ちょっと来てくれ」

 

「はい」

 

信女は土方に呼ばれた。

土方に呼ばれた信女は土方の部屋に入り、土方はテーブルの引き出しを開けて、何かを取り出す。

そして、押し入れから風呂敷包みを取り出した。

 

「今井、お前に仕事を頼みたい」

 

「何かしら?」

 

「多摩の日野に佐藤彦五郎と言う男がいる。俺の義兄だ。その男にコレを渡して貰いたい」

 

「は?」

 

信女は土方の言っている事が一瞬理解できなかった。

多摩とは江戸の郊外の多摩地方を指している。

此処は蝦夷(北海道)の地、此処から多摩に行くと言う事は、一日二日で行って帰ってこれる距離ではない。

つまり土方は信女に戦線離脱を命じたのだ。

 

「ちょ、ちょっと待って‥‥」

 

「それから、沖田ミツと言う女性にコレを渡してくれ、総司の姉さんだ。場所は彦五郎さんに聞けばわかる」

 

土方はシャンパンのコルクが入った巾着も手紙や写真、遺髪と共に小さな風呂敷の中に入れる。

 

「ちょっと待って土方!!」

 

「なんだ?」

 

「どういう事なの?」

 

「言った通りだ。お前にはこれから多摩に向かってもらう」

 

「多摩って江戸の郊外よね?」

 

「それ以外、どこに多摩がある?」

 

「なによ‥それ‥‥」

 

信女は絞り出すような震える声で言うと、土方に詰め寄る。

 

「そんな命令きけると思っているの!?今更ここまで来て、私だけおめおめ逃げろって言うの!?敵前逃亡は士道不覚悟じゃないの!?冗談じゃないわ!!そんな任務お断りよ!!」

 

「敵前逃亡じゃねぇ、立派な伝令任務だ。お前の監察方の俊敏な動きを見越してな」

 

「伝令だったら、他の人を行かせればいいじゃない!!私は貴方の専属の小姓なのよ!!伝令じゃないわ!!」

 

「命令に背くか‥‥ならば、上官犯行罪で斬る‥‥」

 

土方は抜刀し、信女に切っ先を突きつけるが、

 

「こんなくだらない伝令任務をするくらいなら、斬られた方がマシよ!!」

 

信女は突きつけられた切っ先をグッと握る。

土方の愛刀、和泉守兼定の刀身には信女の血がツゥーっと伝わり、やがて床にポタポタと滴り落ちる。

 

「‥‥」

 

「‥‥」

 

土方と信女‥‥両者が睨み合っていると、先に引いたのは土方の方だった。

 

「なぁ、今井‥‥」

 

「やめて、聞きたくないわ!!」

 

「‥‥それでも聞いてもらいたい。確かに俺は今まで死にために戦ってきただが、さっき言ったように、これからは生き残るために戦う‥それでも、生き残れる保証はない。だからこそ、俺が生きた証を残してもらいたい‥‥新撰組が薩長相手にこの箱館でどんな戦いをしたのかを‥‥故郷の多摩の人達に語り継いでもらうために‥‥」

 

「だから、他の人にやってもらって‥土方、貴方だって私が戦っている理由ぐらい知っているでしょう?私は新撰組の正義と総司の思い、その両方を胸に抱いて戦っているのよ!!それに、新政府軍の総攻撃が近いと言う中、私を戦線から遠ざける余裕なんてあるの!?」

 

「お前が総司の思いを抱いて戦っているなら、俺だって総司の思いを汲んで、こうしてお前に伝令任務を頼んでいるんじゃねぇか」

 

「総司の思い‥ですって?」

 

「そうだ。総司はお前が戦場で死ぬことを望んでいると思っているのか?お前は会津で斎藤に言ったよな?『生き恥を晒してもいい、絶対に死ぬな』って‥‥お前が斎藤にそう言っていたように、総司だってもし、この場に居ればそう言うんじゃねぇのか?」

 

「‥‥」

 

「お前が本当に総司の思いと共に戦っていると言うのであれば、お前はこの先、生きて、生き抜いて、見届けろ!!俺達新撰組を受け入れなかった新時代が‥‥薩長の連中が徳川から奪った時代がどんな時代になるのかを見届けろ!!」

 

「‥‥」

 

土方の言葉を聞き、信女は膝から崩れ落ちる。

 

「行ってくれ‥‥頼む‥‥」

 

崩れ落ちた信女の肩に土方は優しく手を置く。

 

「‥そんな言い方‥ずるいわ‥‥土方‥‥貴方はずるい人よ‥‥」

 

信女は渋々、土方からの伝令任務を受けた。

その際、今の指揮官っぽい服装では官軍に怪しまれると言う事で、先程、押し入れから取り出した風呂敷包みを開ける。

其処には官軍兵士の詰襟の軍服が入っていた。

途中で変装して、多摩へ向かえと言うのだ。

信女は土方から託されたモノを大切に預かり、多摩への長い旅路へつこうとする。

 

「なぁ、今井‥‥」

 

そんな信女に土方は最後の言葉をかけてきた。

 

「何かしら?」

 

「お前が女だって言うのはあの時、道場に居た連中が知っていたが、お前の本当の名前、何って言うんだ?まさか、本当に今井異三郎って名前じゃないだろうな?」

 

「今井は本当の苗字よ‥‥でも、私の本当の名前が知りたかったら、土方、貴方も生き残りなさい、生きて多摩に戻って来なさい‥‥多摩で待っていてあげるから‥‥その時、私の本当の名前を教えるわ」

 

「‥‥ふっ、まったくお前は食えない女だよ」

 

「それじゃあ、多摩で待っているから‥‥」

 

信女はそう言い残し、箱館から離脱した。

 

信女が箱館から離脱した数日後、新政府軍は箱館山を一晩かけて登り、箱館市街に奇襲をかけてきた。

それは一の谷の崖を駆け下りて、平家の福原の都を奇襲した源義経の様だった。

突然の奇襲に箱館市街の守備に当たっていた新撰組は大混乱なり、この奇襲で土方が立てた桶狭間戦法は実行不能となった。

そして、土方は新撰組が立てこもる弁天台場へと救援に向かうが、その途中、敵の狙撃に合い戦死した。

また、この箱館市街戦で土方や島田と共に池田屋に斬り込んだ蟻通も戦死した。

 

箱館から多摩へ向かっている信女は市村鉄之助と名乗り、多摩を目指した。

箱館離脱から約2ヵ月後に官軍の包囲を掻い潜り、土方の親戚・佐藤彦五郎家に到着した。

しかし、その途中、信女は土方の戦死と五稜郭陥落、そして戊辰戦争の終戦を耳にした。

土方の戦死を聞いた信女は、箱館の方の空を見上げて、

 

「嘘つき‥‥」

 

と一言呟いた。

その時の信女の目からは一筋の涙が流れた。

 

 

・・・・続く




ではまた次回。
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