エリート警察が行くもう一つの幕末   作:ただの名のないジャンプファン

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第16幕 観柳

 

 

 

田原坂を突破し、熊本城救出に大きく前進した政府軍とは裏腹に西郷軍は田原坂を突破されて以降、敗戦が続き、熊本から撤退し、鹿児島へと引き返す。

9月 追い詰められた西郷は城山へと立てこもる。

この時、西郷に付き従う士族は僅か400名足らずとなっていた。

西郷が立てこもる城山を40000の政府軍が城山を包囲した。

9月23日 山県は洞窟に潜む西郷にこれ以上の犠牲を出さぬためにも自害して戦いに終止符を打つべきだと言う内容の手紙を出す。

しかし、西郷からの返答はなかった。

翌日、政府軍は総攻撃を行う。

その時の攻撃により、西郷は腹と股に銃弾を喰らい、死期を悟る。

 

「もう、ここで‥よか‥‥」

 

西郷は付き従う士族の介錯を受けて、この世を去った。

西郷の死によって維新三傑と呼ばれた西郷隆盛、桂小五郎(木戸孝允)、大久保利通の内、2人が死んだ。

木戸は西南戦争勃発後の3ヵ月後の5月26日に病死していた。

嘗ての盟友、大久保利通は西郷の死にたいして、

 

「国家の為に賀すべし」

 

と一言呟いたと言う。

また、川路も西郷と同じ藩で共に戊辰を戦った西郷が反逆者となり彼と戦う事になった時、

国家とかつての恩師とも言える盟友、どちらをとるか選択を突きつけられていたが、川路は断腸の思いで国家をとった。

それは西南戦争で政府軍側の薩摩藩出身者すべてにそう言えたのかもしれない。

 

また、西郷の人柄を愛していた明治天皇は西郷の死を知って、

 

「朕は西郷を殺せとは言わなかった‥‥」

 

と、つぶやいたと言う。

 

西郷が自害した結果、西郷軍は総崩れとなり、西南戦争は終息へと向かった。

しかし、戦闘が終わったので、すぐに軍や警察が帰ると思ったら、それは間違いであった。

警察は逃げた西郷軍の残党や引き続き周辺の治安維持活動の任務が残っており、一部の幹部は政府や明治天皇への戦勝報告とやらで一足早く東京に戻ったが、斎藤と信女は未だに鹿児島の地に残って引き続き治安維持任務に就いていた。

そんな中、信女の下に東京に抜刀斎が現れ、辻斬り事件を起こしたと言う情報が入った。

 

(あの剣心が辻斬り?なんか腑に落ちないわね‥‥)

 

信女はあの剣心が意味なく人を斬るとは思えず、この辻斬り事件が本当に剣心の仕業なのか疑問に思った。

そんな中、ある任務が信女に下された。

 

『密命 佐々木総司警部試補は、東京において、武田観柳邸に赴き、かの人物の身辺調査を内密に行い、かの者の素性を調査せよ。現在、内偵により、かの者には、阿片製造及び武器密売の嫌疑がアリ』

 

「‥‥」

 

斎藤は警視庁からの指令書を見て、信女を呼んだ。

 

「武田観柳?」

 

信女は次の仕事に関する人物の名を口にする。

 

「そうだ」

 

「何で私が金持ちの所に...ソイツの警備とかでもしろって言うの?まだ、西南戦争の戦後処理が残っているんじゃないの?それとも例の黒笠がソイツの命を狙っているの?」

 

「いや、少し捜査でな...武田観柳は、表向きは青年実業家だが変な噂の絶えない奴でだ‥‥ちなみにお前の言う黒笠はもうこの世にはいない。先日、ソイツの死体が廃神社で発見された。」

 

「殺されたの?」

 

「いや、医者の見立てじゃ、自殺だそうだ。心臓に奴の脇差しが刺さっていた。ついでにお前が気にしていた例の辻斬り抜刀斎だが、偽物だった」

 

「偽物?やっぱり‥‥」

 

信女は辻斬り犯が剣心でなくて少し、安堵した表情を見せた。

 

(だが、気になる情報も入った‥‥偽抜刀斎事件に関して捕まった偽物の手下は本物の抜刀斎にやられたと証言する奴がいた‥‥それに黒笠の正体はあの鵜堂刃衛‥‥新撰組の裏切り者だった‥‥)

 

(医者の報告には、奴の右腕の神経は切断されて、周辺には何者かと戦った跡があった‥‥恐らく奴と戦ったのは抜刀斎‥‥部下に命じて黒笠事件についてはもう少し詳しく情報を集める必要がありそうだ‥‥)

 

(この10年、刃衛は辻斬り紛いな暗殺をして来たらしいが、全ての目標が皆、元維新志士‥‥コイツは何か裏があるのかもしれないな‥‥)

 

「斎藤?」

 

「ん?なんだ?」

 

「いや、『なんだ?』じゃなくて、突然無言のまま固まったから‥‥大丈夫?」

 

「ああ‥‥それでだ、武田観柳邸の捜査を警察上層部がお前に『やれ』と命じてきた。やれるか?」

 

斎藤が信女に武田観柳の内偵を出来るかと尋ねると信女は、

 

「いや」

 

即答で拒否した。

 

「.....」

 

信女の返事に斎藤はピクッと眉を動かすが、

 

「って言いたいけど...そいつの屋敷は確か東京にあるのよね?」

 

「あぁ‥そうだ」

 

「なら行ってあげる」

 

と、信女は武田観柳の内偵をやると言いだした。

 

「何だ?東京に何か用があるのか?」

 

「.....別に」

 

信女は斎藤からプイッと視線を逸らす。

 

「そうか、まぁ、詳しくは聞かないでおこう」

 

(大方、抜刀斎の事が気になったのだろう)

 

「武田邸潜入時は女中として潜ってくれ。すでに手配は出来ている様だ」

 

そう言って斎藤は煙草を咥えて火をつける。

 

「女中?何で?警官なんだし、堂々と屋敷内の警備とかでもいいでしょ?もしくは手っ取り早く‥‥」

 

と信女は鞘から刀を抜く。

 

「これで、口を割らせればいい」

 

「警察が警備するより女が女中で入った方があっちも油断すんだろうが、あほぅが。それに情報では、奴は既に独自の私兵団を所有している。警備の人手は足りているとさ」

 

と斎藤はふぅと煙草の煙を吐き、

 

「そういう事で頼んだ、それともし東京に抜刀斎がいるならそいつのチェックも頼んだ。特に今の奴の実力をな‥‥」

 

「.....!」

 

「何だ?その反応は?まさか知らないとでも思っていたのか?抜刀斎が動けばそれは飛びっきりでかい知らせになるだろう。ましてあの時代を生き残った者達は特にな」

 

「...そうね、なら早速、東京へ行くわ」

 

「あぁ」

 

信女はこの日の内に荷物を纏め、東京行きの船に乗り、東京へと向かった。

それから数日後‥‥

 

 

~side武田邸~

 

「ほぉ~君が新しい女中かね?」

 

「はい」

 

信女の姿は東京にある武田観柳の屋敷にあった。

 

「名前は?」

 

「.....今井」

 

「今井?下の名は?」

 

「そ...」

 

(総司と名乗るか...それとも本名で名乗るか...)

 

「ふん、まぁいい、しっかりと働いてくれたまえ...そうすればちゃんと給金は出そう。田舎の両親にも孝行したいのだろう?」

 

「は、はい‥‥よろしくお願い致します‥‥ご、ご主人様‥‥」

 

信女は女中が着る女物の着物の上にフリルのついたエプロンを着け、観柳に挨拶をした。

しかし、「ご主人様」の部分を言う時、僅かに顔を引き攣らせていた。

 

(私はどう言う設定で此処に送り込まれてきたんだろう?)

 

自己紹介を何とか切り抜けた信女は仕事をしながら武田邸の内部を観察していた。

 

(武田観柳‥‥なんか馬鹿っぽかった。...今の所は、何の問題もない...でも、さっきから...)

 

と信女は周りを見回すと血の気の多い男達がゴロゴロいた。

廃刀令が敷かれた筈のこの世間で堂々と日本刀を所持している男連中やヤクザっぽいガラの悪い連中、果ては拳銃を所持している者も居た。

しかし、信女自身はどれも自分より格下だと思い気にはしていなかった...あの男以外は‥‥

 

(さっきから感じるこの視線の主は‥‥)

 

できるだけ相手に視線を気づれない様に自分に視線を向けてくる主の所で、その姿を見た。そこには黒髪に長身でロングコートを着た男がいた。

腰に差しているのは日本刀ではなく小太刀。

 

(確か、この男は‥‥)

 

と信女は昔を思い出そうと考えたが、信女が思い出す前にその男は信女に近づいてきてそっと耳元で囁いた。

 

「女中にしては物騒なものを懐に入れているな?」

 

「っ!?」

 

男の囁きに対して、信女はできるだけ顔には出さずに反応した。

 

「.....昔も今も女は自分を守れないといけないの。あなた達男がしっかりしてないから...それに此処にはケダモノが沢山いる‥‥そいつらがいつ襲ってくるかわからないから護身用...それに最近の女中は主を守る役目も仕事の内なの‥‥」

と言う。

 

「...なるほど...」

 

信女のこの言葉にこの男もそこで一旦下がった。

しかし、完全に納得はしている様子はなく、逆に警戒を強めてしまったかもしれない。

 

 

「‥。お前が見た限り、あの女中‥どう思う?」

 

信女から離れたその男は誰も居ない通路で誰かに話しかけた。

だが、周りには誰も居ない。

にも関わらず、

 

「お頭が気づいたようにあの女中、怪しいです。気づかれない様に振舞っていますが、あの動き、周辺への警戒感、ただの女中ではありません」

 

何処からか別の男の声が聞こえて来た。

 

「それに奴は懐の中に‥‥」

 

「獲物を隠し持っている‥それに袖の中にもな‥獲物は恐らく俺と同じ小太刀だ‥‥」

 

「はい‥‥それでいかがいたしましょうか?」

 

「今は放っておけ」

 

「しかし、アヤツが観柳の命を狙っている暗殺者かもしれませんが?」

 

「その時は観柳の首をアイツに取らせて、アイツの首を我等で頂く‥‥そうだろう?」

 

「御意」

 

(そうだ‥‥我等が欲しいモノは金などではない‥‥強者を倒しつづけ、最強と言う名の称号を得る‥‥それこそが、我等御庭番衆の存在意義なのだ)

 

元御庭番衆お頭、四乃森蒼紫はグッと拳をつくり、力を込めた。

 

信女が武田邸に女中として潜り込んでから、しばらく経った。

それまで、信女は夜、観柳の私兵団からの夜這いを何度か受けたがそのどれもを返り討ちした。

私兵団員もまさか、女相手に返り討ちされたと知られたくないので、黙っている連中が多かった。

そんな中でも信女は常に何処からか視線を感じていた。

一つはあの黒髪コートの男。もう一つはどこからか正確には分からない。常に移動しながら自分を監視している事から相手は恐らくプロの忍び‥‥。

視線は、確実にその視線は信女を捉えている。

 

(忍び連中には憎さしかないのよね‥‥)

 

沖田を殺したのは忍びと言う事で、信女は忍者に対してあまりいい印象は持っていなかった。

視線は観柳を観察している信女を観察している為か、あちらから動いてくる様子は今の所なかった。

しかし、視線は四六時中感じ、それは買い物で武田邸を出た時も常に信女に張り付いていた。

そんな中、ある日信女は何時もの賄い様の食材の買い出しの為、屋敷の外へと出た。

背後なのか?

それてとも右か?左か?

常に自分を監視する視線を感じながら‥‥

買い出しが終わり、帰ろうとしている時、前から着物を着崩したちょっとガラの悪そうな男がすれ違い様に信女の身体に自分の肩をぶつけてきた。

 

「おいおい、人様にぶつかっておいて謝りも無しに素通りか?」

 

この男の行為は所謂当て屋と呼ばれるものだった。

 

「ぶつかって来たのは貴方の方、むしろそっちが謝って」

 

「なんだと!!このアマ!!」

 

そう言って男は懐から短刀(ドス)を取り出す。

短刀(ドス)の登場で周囲がざわつくが助けに入ろうとする度胸のある者はいない。

 

(こんな雑魚、瞬きする間に倒せるけど、あの視線が‥‥)

 

信女は此処で下手な動きは取れなかった。

 

「くらえ!!」

 

信女に短刀(ドス)が迫る中、

 

パシッ

 

何者かが短刀(ドス)を持つ男の腕をつかんだ。

 

「おいおい、昼間っから、そんな物騒なモノ振り回してんじゃねぇよ。それも丸腰の女に」

 

男の腕をつかんだのは、赤い鉢巻きに鳥を連想させる様な髪型の男だった。

 

「あん?なんだ?テメェは?」

 

「通りすがりの元喧嘩屋だ」

 

「喧嘩屋だぁ?ふざけんじゃねぇ!!このアマは俺にぶつかっておいて謝りもしない無礼な奴なんだぞ!!」

 

元喧嘩屋と名乗る男の腕を振り切って、元喧嘩屋に食って掛かる。

 

「テメェの方でぶつかっておいて無礼もなにもねぇだろう?」

 

どうやらこの元喧嘩屋は事の発端を見ていた様だ。

 

「あん?テメェいちゃもんをつけるのもいい加減にしろ!」

 

男は今度、その元喧嘩屋に殴りかかって来たが、

 

バキッ!!

 

「ぐはっ!!」

 

喧嘩屋を名乗るだけあって絡んだ男は拳一発で簡単にノックアウトされた。

 

「大丈夫か?」

 

「あっ‥‥え、ええ、ありがとうございます」

 

「なあに、良いって事よ。それじゃあな」

 

元喧嘩屋の男は踵を返して去って行った。

その男の着ている上着の背中に書いてある『悪』と言う文字がとても印象的だった。

 

 

・・・・続く




ではまた次回。
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