エリート警察が行くもう一つの幕末 作:ただの名のないジャンプファン
神谷道場への襲撃が失敗に終わり、癋見、火男が当分使い物にならなくなり、四乃森は般若に神谷道場に居た赤髪で頬に十字傷のある男の調査を命じた。
「お頭」
「般若か‥‥」
「例の男、調べがつきました」
「報告しろ」
「ハッ」
般若は緋村剣心がかつて幕末の京都でその名を轟かせた人斬り抜刀斎である事を報告した。
「そうか、やはりあの男は人斬り抜刀斎だったか‥‥」
「ハッ」
(最強の維新志士‥人斬り抜刀斎‥‥)
四乃森の心の中で静かなる闘志が燃え始めた。
「それとお頭、例の女中の事ですが、気になる情報が‥‥」
「なんだ?」
「あの女中、実は‥‥」
般若は序に信女の事も調べていた。
剣心の事を調べている内に幕末の京都で活躍した新撰組。その新撰組の中で気になる人物が出たのだ。
今井異三郎‥‥新撰組監察方兼三番隊組長補佐を務めた人物‥‥。
箱館戦争後、その行方は分からず、死亡説も流れたが、どうやら名前を変えて生き延びた様だ。
その今井異三郎が‥‥
「あの女中と言う訳か‥‥」
(どおりで奴からは血の匂いがするわけだ‥‥しかし、新撰組の中に女が居たとはな‥‥)
「はい。しかも奴は今、警視庁の警官だそうです」
「警官?と言う事は此処へ来たのは観柳への密偵か?」
「恐らくは‥‥いかがいたしますか?観柳に知らせますか?」
「‥‥いや、放っておけ」
「は?」
「我らの狙いは最強の維新志士、人斬り抜刀斎だ。観柳如き、小物など、どうなろうと知った事ではない。警察に捕まるのであれば、所詮観柳はその程度の器だったと言う訳だ」
「御意」
(最強の維新志士、人斬り抜刀斎‥だが、その前に幕末の京都、そして箱館を生き抜いた新撰組の1人‥‥抜刀斎と戦う前の前座か肩慣らし程度にはなるか‥‥)
四乃森はそう思ったが、それは後にそれは大きな間違いであったと知る事になる。
河辺で剣心が観柳と四乃森が初邂逅をしたその日、信女はあの般若面の忍者からの監視はなくなった。
そのかわり‥‥
「‥‥」
「‥‥」
お頭こと、四乃森本人が信女の監視をしていた。
彼はあの般若面の忍者と違い、堂々と信女を監視していた。
「‥‥あの、何か用?」
竹箒でロータリーを掃いていた信女は手を止めて後ろを振り向き、四乃森に尋ねる。
「俺がお前を監視する理由‥それぐらいわざわざ言わなくてもお前ならばそれぐらい察しがつくだろう?」
「‥‥ふん」
信女は再び手を動かして掃除を再会する。
そして、あらかた掃除が終わった頃、
「お前は刀を振る時‥袴と洋装‥‥どちらが振りやすい」
「何を急に?」
信女は四乃森が何故この様な質問をしてくるのかその意味が分からなかった。
「質問に答えろ」
「‥‥ちっ、勝手な奴」
有無を言わさず、信女に答えを求める四乃森。
そんな四乃森に思わず舌打ちする信女。
「いいから早く答えろ」
「‥‥洋装」
「そうか‥‥」
そう言い残し、四乃森は踵を返して屋敷の中へと戻って行く。
「変な奴」
去っていく四乃森を信女はジッと見ていたが、彼女はこの後すぐに四乃森の言っている意味を理解するとになった。
高荷恵の居場所を掴んだ観柳は早速、行動に移した。
庭先の井戸で洗い物をする恵に般若が貸本屋のフリをして近づき、恵の口元を押さえ、試験管に入った何かを見せ付けると、恵は抵抗する事を止め、大人しく般若の後をついていった。
試験管の中身は水銀で、般若は恵に騒いだりしたら、水銀を井戸の中に放り込むと脅した為、彼女は大人しく般若の後を着いて行ったのだ。
彼女が連れて来られたのは、道場から少し離れた森の中だった。
そして其処には葉巻を吹かす観柳の姿があった。
「話って何よ?」
「言わなくともわかっているでしょう?いい加減戻って来てくれませんかねェ」
「そう言われて『はい』って答えると思って?あんたの所に戻るんなら死んだ方がマシよ!!」
恵は強気な態度をとる。
すると、紫煙を吐き出した観柳は、今までと表情を冷徹なものへと変えた。
「そうですか。それじゃあもう一言…あなたが戻らないんなら、神谷道場を焼き討ちします」
「なっ!」
観柳の言葉に恵は驚愕した。
私兵団と御庭番衆、周辺のヤクザを総動員し、総勢五百人という数で道場を囲み、火を放つと観柳は言い放った。
彼の言葉に恵は唇を噛み締めた。
悔しいが、観柳の財力を使えばそれぐらいは出来る。
「いい加減、夢を見るのは止めにしませんか?」
それまでの表情とは変わり、再び観柳の顔は優しいものへと変わった。
しかし、その表情は何か悪巧みを考えていますと言う表情だった。
「あなたが人を死に追いやる阿片を精製したことは揺るぎない事実ですよ。例え運良く家族と会えたとしても、あの誉れ高いあの高荷家の娘がそんなことをしていたなんて知られたら、家族の方々はどう思うでしょうかねェ?」
家族に再会する夢。
彼女の夢を打ち砕くような観柳の残酷な言葉にショックを受ける恵。
観柳はニヤッといやらしい笑みを浮かべる。
「今更逃れようともう無理なんですよ。あなたと私、それと阿片はもはや一蓮托生。この先ずぅ~っとね」
焼き討ちは今晩零時。それまでに戻って来いと遠回しに言うと観柳は姿を消した。
恵は1人、森の中で跪き、涙を流した。
やはり、どう足掻いても観柳からは逃げる事が出来ないと実感させられたのだから、ショックも大きかった。
「何故、あの様な回りくどい事をする?」
四乃森が観柳に声をかける。
「そもそもあれで高荷恵は戻って来るのか?」
「そうでなくちゃ困りますよ。あの十字傷の剣客が伝説の人斬り『緋村抜刀斎』だとわかった以上、力押しに事態を進めてその逆鱗に触れるのは避けた方が得策、『高荷恵は自分の意志で去っていった』 そうなれば、抜刀斎が動く理由は何処にも無くなりますよ。ほっほっほっほっ」
観柳はそう言って意気揚々と屋敷へ戻っていく。
その様子を四乃森はフンと鼻を鳴らし、観柳の後を着いて行った。
観柳の屋敷では、信女が屋敷内の掃除をしていると、神谷道場の近くの森から帰ってきた四乃森が手に風呂敷包みを持ってやって来て、信女に風呂敷包みを押し付けると、
「これに着替えてあの林まで来い」
と言って去って行った。
「?」
信女が警戒しながら手渡された風呂敷包みを開けると、そこには白いYシャツに黒いベストとズボン、そして黒い皮手袋が入っていた。
(そう、そう言う事‥‥)
信女は四乃森の意図を読み取り、彼に言われた通り、手渡された服に着替え、髪の毛を皮の紐でポニーテールに結び、一振りの日本刀を持って、般若と邂逅したあの林へと向かった。
(なまくらだけど、贅沢はいってられないわね‥‥それ以前に渡されたこの服‥‥サイズがピッタリなんだけど‥‥アイツら忍者じゃなくて変態集団ね)
一度鞘から抜いた日本刀を見て、急いで仕入れたものだからなまくら品なのは仕方ないと割り切る。だが、四乃森から手渡された服のサイズがピッタリだったことに驚く信女。
何時の間に自分のサイズを測ったのだろうか?
それとも監視と言う名の視姦でもしていたのかと思う信女であった。
やがて、あの林へと行くと其処には元御庭番衆お頭、四乃森蒼紫は静かに佇んでいた。
~side林~
「待っていたぞ」
「わざわざこんな所に呼び出して...」
「新選組三番隊組長補佐、今井異三郎」
「っ!?」
四乃森の発した言葉に信女は驚いた。この話は新選組そして剣心しか知らないはずの情報の筈
一体何処でこの男は掴んできたのだろうか?
「俺の情報網と収集能力もなかなか優秀だろう?般若の奴に調べさせたらすぐにお前の素性もわかった。それに...伝説の人斬り抜刀斎の事もな‥‥」
(伝説の人斬り抜刀斎...まさかっ緋村の事!?)
「ふふ、どうやら貴方には聞かないといけない事が山ほどあるようね」
信女は刀を抜いた。
そして
「ほう‥‥」
四乃森も小太刀を抜く、
信女の体勢は右腕を前に出して左腕を下げた。
「それが噂に聞いた新撰組隊士独自の技、平突きか?」
「この技はそんな生易しいものじゃないわよ.....やっぱり忍びは許せない‥‥忍は彼を殺した...それにあなた達が変態集団だと言う事も分かった‥‥」
ぐっと苦虫をかみ潰した顔をした。そしてまた
「此処で貴方を殺したら観柳の皮もめくりやすくなるでしょ?」
敵を目の前に信女は自分を抑えきれなくなってきていた。
「ほう、俺達を変態と抜かすか‥‥」
変態と言われ、四乃森もちょっと怒っている様子。
「同じ元幕府側の人間であるが、今の貴様は政府の狗に成り下がった飼い犬‥‥抜刀斎との戦いの前の肩慣らしには丁度いい」
「元幕府側?そう‥‥でも、貴方の顔、戦場では一度も見なかったわ‥‥私が飼い犬なら、貴方は戦いもせず、尻尾を巻いて逃げた負け犬ね」
2人の剣気と闘気がぶつかり合い、木の葉が地面に落ちたその瞬間、
一斉に動いた。
信女が牙突で一気に四乃森へ距離を詰める。
(速い!!)
四乃森は紙一重で信女の牙突を躱す。
信女の放った牙突でそれを喰らった木が倒れる。
「回転‥‥」
「飛天御剣流‥‥」
「剣舞!!」
「龍巻閃!!」
2人の技がぶつかり合い、倒れてきた木は粉々に粉砕される。
(コイツ‥‥)
四乃森は、信女は抜刀斎の戦いの前の前座だと思っていたが、今剣を交えてみて、予想以上の強さを持っていた。
観柳邸の林を舞台に激しい斬り合いが行われる。
四乃森が木に飛び上がれば、信女も木に上がり、四乃森の後を追う。
(コイツ、本当に新撰組隊士なのか?)
信女の身体能力の高さに四乃森は信女が新撰組隊士なのかと疑う。
自分と同じ忍びの者だと言われた方がしっくりくる。
信女は背中に仕込んだ小太刀も取り出してやや本気モードで四乃森とやりあう。
小太刀は通常の日本刀より軽く、小回りが利くので四乃森の基本戦闘は小太刀で相手の攻撃を防御し、拳法で相手を仕留める戦術であるが、信女も小太刀を取り出した事でその戦術が崩れた。
四乃森の小太刀を信女も小太刀で受け止めてそこを刀で攻撃する。
流石の四乃森も拳で日本刀を受けきることは出来ない。
信女と距離をとる四乃森だが、信女は神速で四乃森と距離を常に詰める。
四乃森と信女の戦いを密かに影で見守っている者が居た。
(お頭が押されている?いや、そんな筈はない‥‥)
(お頭は最強の武人‥‥たかが新撰組隊士ごときに遅れをとる筈がない‥‥)
般若の仮面で表情は分からないが、彼は今自分達のお頭が押されている事に冷や汗を流し、驚愕している。
(アイツ、あの時はわざと手を抜いていたと言うのか?)
眼前でお頭である四乃森と互角‥‥いや、互角以上に戦っている元新撰組隊士の実力を見て、あの時、自分と対峙した時、あの元新撰組隊士は手加減していたと思いそれが無性に腹がたった。
そう思っていた矢先、
ガキーン
信女が四乃森の小太刀を弾き飛ばす。
「これで終わり‥‥」
「お頭!!」
真剣勝負の中、水を差される事を四乃森は嫌っている事は般若自身も良く知っている。
しかし、今ここで四乃森蒼紫という自分達の光を失う訳にはいかない。
この距離から出は間に合わない。
そこで、般若は信女に向かってクナイを投げつけた。
「っ!?」
当然信女も般若の投げたクナイには反応した。
しかし、刀で弾けば、隙が生じる。
そこで、信女はやむを得ず四乃森から距離をとった。
「般若!!」
「申し訳ありませんお頭‥‥しかし、今我等はお頭を失う訳にはいかないのです」
般若は四乃森を守るかのように彼の前に立ち、信女と対峙する。
すると、
「ふん‥‥つまらない‥‥」
信女は四乃森との戦いに飽きた様な顔で刀を鞘に納めた。
「貴様、どういうつもりだ?」
「この勝負はもともとそっちが仕掛けてきた勝負‥‥一対一かと思ったら、伏兵なんか忍ばせて‥‥やっぱり忍びは好かない‥‥」
信女はクルッと踵を返して屋敷へと戻って行った。
(こんなつまらない奴から緋村の情報を聞きだすのは何か癪‥‥)
信女は本当ならば、剣心の事を知りたかったが、やはり忍は嫌いで例え聞いてもコイツ等が本当の情報を教えるのか疑問に思ったのだ。
しかし、彼女は間もなく、その探し人と再会する事になる事をこの時はまだ知る由もなかった。
そして、去っていく信女の後姿を四乃森と般若はジッと見つめていた。
・・・・続く
ではまた次回。