エリート警察が行くもう一つの幕末 作:ただの名のないジャンプファン
四乃森は恵を屋敷の3階にある展望室へと運んだ。
それからすぐに恵は目を覚ました。
「気がついたか…」
「…ここ…は、展望室?いったい…」
「神谷道場の男達が、お前を奪回しに攻めて来た」
蒼紫の言葉に、恵は呆然とした。
「…うそ」
「事実だ。だが、ヘタに希望は持たない方がいい。奴等はここまでたどり着けはしない。一時間後にお前を待つのは、救済でなく観柳の拷問による死だ」
「‥‥」
「お前の短刀だ。苦痛の生か安息の死か。せめて自分で望む方を選べ」
四乃森は恵に短刀を投げ、展望室から去って行った。
庭先の私兵団員をかたずけ、玄関ロビーに入ると其処には般若面の忍者が居た。
御庭番衆の中でも上級の実力者である般若であった。
般若は腕に施された赤と黒の横縞模様の刺青で、腕を短く見えるよう錯覚を起こさせる伸腕の術で剣心を翻弄させたが、逆刃刀を物差し代わりにし、剣士は般若の伸腕の術を破り、般若を倒した。
般若を倒し先へと急ぐ剣心達。
すると、剣心は急に立ち止まった。
「‥‥」
「剣心?」
「どうしたんだよ?」
急に立ち止まった剣心を見て左之助と弥彦は首を傾げる。
すると、通路の奥からコッコッコッと革靴の音がした。
2人目の御庭番衆かと警戒する剣心達。
しかし、姿を現した人物を見て、剣心は目を大きく見開いた。
剣心達の前に現れたのは、他ならぬ信女だった。
「あっ、アンタこの前の‥‥」
左之助は信女を指さしながら声を上げる。
「あの時はどうも‥‥」
信女は左之助に一礼する。
「オメェ、観柳のとこの私兵だったのか?」
左之助がドスのきいた声で信女に尋ねる。
「私兵?違う‥‥私は‥‥」
「「「私は?」」」
「私は‥‥
信女の背後には『ドーン』と言う文字が浮かび上がるように自分は女中だと宣言する。
「め、
「んな訳あるか!!そんな格好している
男装し帯刀している女中が何処に居るとツッコム弥彦。
「冗談はさておき、久しぶりでござるな、信女」
「そうね。緋村」
「えっ?剣心、アイツを知っているのか?」
親しげに話す剣心を見て弥彦が剣心に尋ねる。
「今井信女‥‥かつて拙者と剣の修業を共にした同門の仲でござるよ」
初恋の人とはさすがに言えず、剣心は同門の仲だと2人に説明する。
「剣心の‥‥」
「同門‥‥アイツが‥‥」
まさか、剣心に女の同門の仲がいるとは思わず、絶句する弥彦と左之助。
「それにしても信女には驚かされてばかりでござるな。幕末の京都で会った時もそうでござった」
「そう?でも、緋村、あの時よりも優しい目になったわ‥‥」
「おろ?そうでござるか?」
「ええ」
「そうでござるか‥‥しかし、信女、お主の目は変わらぬでござるな。相手の動きを警戒する鋭い目‥‥武人の‥‥人殺しの目のままでござるよ」
「この目は生まれつき、それに人を斬るにしても辻斬りの様な真似はしていないわ‥‥さあ、そろそろ始めましょう?」
信女はそう言って抜刀術の姿勢をとる。
「できれば、お主とは戦いたくはないのだが‥‥」
剣心も渋々抜刀術の構えをとる。
口で説得できる相手ではない事は昔から知っている。
「貴方達は侵入者で私はこの屋敷の女中‥‥戦う理由はそれだけで十分でしょう?」
2人は互いに抜刀術の姿勢を構え合う。
「なんつう、威圧感だ。」
両者が出す場を飲み込む威圧感それに加え一手で決まるかのような緊張感が空間を支配していた。
赤報隊そして喧嘩屋としてそれなりの場数を踏んできた左之助だが剣心と信女の対峙を見てレベルの違いを見せつけられた。
またまだまだ剣客として駆け出しの弥彦も左之助程ではないがこの異様な空気に飲み込まれていて言葉が出ない。
そして弥彦は冷や汗が流れ地に落ちた時に‥‥
ガキーン!
鋭い金属音が耳に響いた。
神速VS神速の戦いが始まった。
だが‥‥
(信女...一体何を考えている?)
ここからは左之助達が入ってこられない領域...だが剣心にはわかった。信女の動きが不自然だという事を
「左之、弥彦!お主達は先に行くでござる!!拙者には信女と話がある。だが恵殿の事も心配だ。お主達にはさっきに行って恵殿を助けてくれ、くっ!」
ガキーン!!
「よそ見?随分余裕ね、緋村。その間に死んでも知らないわよ?」
あっけに取られていた左之助と弥彦だが剣心の言葉にハッとなり、
「わかった!元同門だか何だか知らねぇがしっかりけりつけてこい!」
と弥彦を摘んだ。
「おい、左之助!剣心を置いていくのか!!」
「バカヤローがあの戦いの中、俺達がどうやって入り込むっていうんだ!?」
「だがよ...」
弥彦は心配そうに剣心を見た
だが弥彦も男だ。
「.....剣心!先に待っているからな!!」
と言われ剣心は瞳のみで合図をした。
剣心は床に刀をやりそして、
「飛天御剣流、土龍閃!!」
強い斬撃で飛び散った石のつぶてが信女を襲う。
だが信女は空を飛んだ。しかし信女の行動は、彼女の手の内を知っている剣心もまた次の技に入った。
「「飛天御剣流」」
信女は刀を振り落とす体勢、剣心はそれに向かい合うかのような体勢で、
「「龍翔(槌)閃!!」」
上からの地上に急降下する龍と空中に登る龍がぶつかり合った。信女は一回転して着地をした。
「...貴方達維新志士が望んだ新時代はこんなものなの」
斬り合う中、信女は剣心にこの明治の世の事を尋ねた。
「何が言いたい?」
「この時代...腐りきった政府により消える武士達、武士は消えたくない為に力の証明をした。...私達もそれをしたわ...だけど貴方は言った...『動乱を終わらせて平和な時代を作る』私には今の時代殺し合いがないだけ...それだけの狂った時代に見える」
キン!カンカン!キン!!
信女は新撰組が無くなっても悪・即・斬がモットー
「貴方もそう思うでしょ?」
剣心もよく知っていた。明治政府の方針で士族は力も富も失い不遇の目に遭っていた弥彦もその1人その為に犯罪に手を染めた事を...
「金持ちは金持ちで人の命より自分の財産に執着するだけ...これが貴方達維新志士が望んだ新時代?」
斬り合いの中信女の問に剣心は
「確かに、今も昔も人は変わらぬ、欲に目がくらみ、人を苦しめる...」
その言葉を言った時に剣心は信女に向かって行った
「だが!それでも拙者は人が変わると信じている!!」
キン!
信女と剣心の刀がぶつかりあった。
「時代が人を作るか...人が時代を作るか...拙者は時代が変われば病んだ人の心を救えると信じて刀を振ってきた!!不殺を決めて!!」
剣心の追撃に信女は防戦一方...と言うより剣心の答えを聞くかの様に守っていた。
「それは、理想論にしか過ぎない!!そんな甘い考えで人は救えない!!そんな甘い理想は捨てないと私には勝てない!!それに殺しを貫いても守れない事だってある!!それなのに不殺で人を守るなんて論外!!」
信女の脳裏には総司を始め多くの仲間達の顔が浮かぶ。
「.....拙者はこの戦いでお主にただ勝つつもりは無い、お主にもわかってほしい、あの時代を生き抜いて手に入れた平和を上ばかり見て決めずに下を見て幸せを感じてほしいあの頃には無かった笑顔があるという事を!!」
「飛天御剣流!」
剣心の追撃がさらに激しくなった。
「龍巣閃!!」
相手の急所を激しく追撃するこの技、いくら手の内を知っている信女でもこの技を全て封じることは出来なかった‥‥しかも剣心の剣筋がだんだんと鋭くなっていった。
剣心の思い...守りたい大切な者の命の為に、わかってほしい信女の為に
「...やっぱり...甘い.....そんな
「全て救えるかはわからぬ...」
「ならさっさとーーー」
「だが目の前の灯火位なら守れる!!」
剣心の気迫に凄みがましこの時の剣心の気迫はあの時以上と感じた信女
「!?」
そしてまた剣心は信女に暖かい表情に戻り
「それから拙者は絶対諦めない、理想を掲げてこその維新志士でござる。」
信女はこの時少し俯いた。誰も気が付かなかったが少し口角が上がっていた。
「剣心...貴方が理想を捨てないなら...必ずまた力がいる時がくる...私がしてあげられるのはこれぐらい」
と刀を前に向けて、
「飛天御剣流...」
剣心は
(なんだ...これは!?龍巣閃...いや、あれよりも鋭い‥‥一体この技は‥‥)
信女の殺気の為か自分に起こる事が頭に湧いた。
(防御しきれぬ...)
剣心のイメージに湧いたのは体の部位の九つの部分が貫かれるイメージだ。
(九頭竜閃)
剣心が知らない飛天御剣流...剣心は全ての修行を終えずに山を降りた。
だが信女は最後まで修行をした為に恩師から授かった奥義。
それを覚える為の技‥それがこの九頭竜閃。
これを完全に防ぐには神速を超える速さで迎え撃つしかない。
だが、今の剣心にはまだ無理なので‥‥
「龍巣閃」
似た技で防ぐしか無かった。
九頭竜閃と龍巣閃の大きな違いそれは‥‥
圧倒的な‥‥
『威力』
だった‥‥。
ただ急所を追撃する龍巣閃と違い九頭竜閃は全てが必殺技に近い威力だ。
子供の龍と大人の龍と言うぐらいの違い、剣心に勝ち目はない...だが剣心は、
(負けぬ!!負けられぬ!!)
此処で終わってしまっては信女に何も伝わらないし、自分の気持ちも伝えられない。それだけではなく恵を救う希望さえも無くなってしまう、剣心のそのような気持ちが奇跡を生んだ。
パキーン!
信女の刀は技の威力に耐えきれずに折れてしまった。
「ちっ、やっぱりなまくら‥‥」
刀が折れた事で、九頭竜閃は不完全な形となり、威力は激減し、剣心は軽い傷を負いながらも無事だった。
元々信女も剣心を殺すつもりはなかった。
斎藤の言うように今の剣心の実力を知りたかった。
「今回は私の負け‥‥」
折れた刀を捨て、ソレを見た剣心も逆刃刀を鞘に納刀する。
「とりあえず、傷の手当だけはしてあげる」
ポケットから傷薬と包帯を取り出し、剣心へと近づく信女。
「信女‥‥」
「何?」
信女が剣心の手当の為に近づくと、彼女は突如、剣心から抱きしめられる。
「ひ、緋村っ!?」
「‥‥信女‥‥逢いたかった‥‥」
剣心はまるで迷子になった子供が母親を見つけ、感極まって抱き付くように信女に抱き付いた。
「私も‥‥緋村‥‥」
長い抱擁の後、信女は剣心の傷の手当てを行う。
傷の手当てをしている中、信女は自分が得た情報を剣心に与える。
四乃森は小太刀と共に拳法を併用する忍者であることを‥‥
「信女、また会えるでござるか?」
剣心としてはこのまま信女と居たかったが、彼にはまだ恵を助けると言う目的があり、このまま此処に居る訳にはいかない。
「私には私のやるべきことがあるけれど、こうして会えたのだから、まだ会える‥‥」
「必ずでござるよ」
「ええ」
後ろ髪引かれる思いで剣心は先へ急いだ。
信女は阿片密売の証拠を手に観柳の屋敷を出て行った。
信女の持ち込んだ証拠品を見て、警察署の浦村署長は警官隊を率いて観柳邸へ急行し、ダンスホールで伸びている観柳を逮捕した。
しかし、阿片製造に関わっている恵も当然、無罪と言う訳にはいかないが、剣心のベタな茶番と剣客警官隊の事件、黒笠事件で剣心に借りがある浦村署長は懲戒免職覚悟で剣心の言葉を信じ、恵を見逃した。
だが、四乃森蒼紫だけは、観柳の手によって殺された仲間達の遺体と共に行方知れずになった。
後日、剣心は、
「それで、署長殿、此処で働いていた女中達はどうなるでござるか?」
剣心は屋敷で働いていた使用人の処分を尋ねる。
「一応、事情聴取はとり、犯罪と関わりが無いと判断されれば釈放します」
「その中で、今井信女と言う女中はいなかったでござるか?」
「今井信女?」
浦村署長は関係者の名前が載った書類を見るが、
「その様な名前の使用人はいませんが?」
「そんな筈は‥‥」
剣心が書類を見て見ると、其処には信女の名前は載っていなかった。
元々信女は下の名前を観柳に伝えていなかったため、使用人名簿に名前が載っていなかった事と信女が浦村署長に口止めしていたことで、剣心は信女の手掛かりをつかみ損ねたのだ。
意気消沈して帰って行く剣心を警察署の署長室から見ている浦村署長。
「‥‥良かったのかね?あれで?」
浦村署長は署長室に居るもう1人の人物に声をかける。
「ええ‥‥」
其処には警官の制服を着た信女が立っていた。
(今、私が緋村の隣に居れば、緋村の実力を今よりも落してしまうかもしれないから‥‥)
信女は剣心の剣椀が昔より落ちていた事を憂いそれを案じたのだった。
ではまた次回。