エリート警察が行くもう一つの幕末 作:ただの名のないジャンプファン
東京の某所にある屋敷の庭で、あの神風隊のリーダー格の男がテラスにて、その屋敷の主と思われる男と話をしていた。
「腕利きの刺客‥‥ですか?」
主の男は吸っていた葉巻の紫煙を吐く。
「今後、相手が大物になればなるほど警備は厳重になろう。今までの様に簡単にはいくまいて‥ならば、神風隊も戦力を補強せねばなるまい。居らぬか?かつて京でその名を轟かせたあの人斬り抜刀斎の様な刺客は?明治のこの時代にちと、無理な相談か?」
「‥‥1人心当たりが」
「ほう?居るのか?」
「はい。腕さえ鈍っていなければ、かの抜刀斎に勝るとも劣らないでしょう」
「よかろう。お前に任せる」
「ハッ」
神風隊のリーダー格の男は屋敷の主に一礼し去って行った。
~side信女~
警官とはいえ、24時間365日働いている訳では無い。
ちゃんと非番と言う休日がある。
信女は今日、そんな非番の日、藤田家の夕飯の買い出しに出ていた。
斎藤(藤田五郎)が居ない中、藤田家は今、信女と斎藤の妻、時尾の2人で、信女と時尾は互いに交代制で食事当番をしていた。
そして、今日は非番と言う事で信女が夕食当番であった。
(今日は良い大根が買えたから、山芋と一緒に煮ものにして、菜っ葉は油で炒めようかな?大根の葉は、お味噌汁にでも入れて‥‥)
買い出しした材料から今日の夕飯のメニューを考えながら川辺を歩いていると、土手では沢山の男達が修繕作業を行っていた。
その男達の中に先日あったあの堀部平八郎の姿があった。
(あっ、あの男は‥‥)
信女は鶴嘴を振りかざしている堀部に気づいてその様子をジッと見ていた。
「おーい、先生もその辺にして一服しねぇか?」
「明日もあんだから、そんなに精を出すこたぁねぇべ」
仲間の男達は堀部に休憩しないかと誘う。
「あと、少しでひと段落つきますんで」
そう言って再び鶴嘴を振り始める。
すると、マントに詰襟を着た怪しい男が堀部に突如斬りかかって来た。
「っ!?」
「たぁぁぁぁぁー!!」
マントの男の刀と堀部の持つ鶴嘴がぶつかり合い、鶴嘴が折れる。
しかし、堀部は折れた鶴嘴をそのまま木刀と同じ要領で持ち続け、マントの男に鋭い突き技を繰り出した。
マントの男の刀と堀部の折れた鶴嘴は互いに体に刺さる事無く寸止めされた。
「‥‥流石だ」
「誰だ?」
「お久しぶりです。堀部さん」
「お主、東馬?榊東馬か?」
「安心しましたよ‥腕は鈍っていない様だ‥‥」
「お主一体‥‥」
「いずれまた、近いうちに‥‥失礼」
神風隊のリーダー格の男こと、東馬は堀部に一礼し、その場から去って行った。
「でぇじょぶかい?先生」
「今のは、一体なんだったんだべぇ?」
仲間の土木作業員の男達は堀部と東馬のやり取りが分からず、2人のやり取りをポカーンとした顔で見る者、刀で襲われた堀部を案じる者と分かれた。
(あれは、火野派一刀流の技、紫電の太刀‥‥すると、やっぱりあの男は間違いない‥‥元京都見廻組、堀部平八郎‥‥)
信女と堀部は面識がない訳では無く、彼女が山を下りて見廻組の隊士募集の受付をしていたのが、堀部だった。
その後も新撰組と見廻組は京都において互いに協力したりいがみ合ったりした仲で信女は何度も堀部の顔を見ていた。
最も今と昔の堀部の顔は似ても似つかないくらい変わって居り、幕末の京都では凛々しい侍と言うイメージがあったが、今の堀部は頬がこけて髭を蓄えている姿で、元見廻組の武士とは思えない姿であった。
しかし、剣の腕は剣心と違い衰えている様子はなかった。
そんな堀部に斬りかかったあのマントの男‥‥
(怪しい‥‥)
堀部とあのマントの男は全く面識がないとは思えなかった。
この廃刀令が敷かれた明治の世で刀を振るっていると言う事は警察か軍人なのかもしれないが、一警官や軍人に今は民間人となった堀部に刀を向けるのはあまりにも不自然だった。
(しばらくあの男の傍を張り込んでみよう‥‥)
信女は堀部の周辺を張り込んであのマントの男の正体を突き止めることにした。
それから暫くの間、信女は堀部が住んでいる長屋を張り込んでいた。
すると、ある日の夜、堀部の下にマントを着た男達が訪ねて来て、彼を町はずれの神社へと連れ出した。
「堀部さん、先日はどうも失礼しました」
神社の境内にはあの時、堀部に斬りかかって来た東馬が待っていた。
「東馬、今更この私に何の用があるのだ?」
「私が火野派一刀流を学んでいた頃、貴方は師範代、私はまだ青二才に過ぎなかった‥‥」
「しばらく会わぬうち相当腕を上げたようだな」
「恐縮です」
「その間、一体何人、人を斬って来た?先だってのお主の太刀筋は明らかに血を吸った殺人剣‥‥」
「剣は人を斬る為にあるもの‥‥貴方の剣も一緒の筈だ‥‥その殺人剣‥‥もう一度活かしてみませんか?」
「暗殺か?」
「維新政府は我等士族を軽んじる一方、権力を利用して金儲けに現を抜かす輩が牛耳っているしまつ‥‥この腐った政府を叩きのめすには‥暗殺もやむを得んでしょう?」
「それで変わるか?この世の中が?」
「変えてみせますよ。この剣でね‥貴方だってこのまま一生を終えたくはない筈だ。どうです?再び日の当たる表舞台に立たれては?」
「どんな理屈があろうと、殺人を犯した者が日を浴びる事など無い。そんなバカな事、あってはならんのだ」
「なに?」
「今の私は剣を捨てた代わりに学問塾の子供達と言うかけがえのない宝物と出会えた。そして少しでもあの子達の力になってやることが、世の為であり、私が殺めた人達への罪滅ぼしと思っている。東馬、お主とは二度と会うことはないだろう」
堀部は東馬に決別の別れを言って踵返す。
「待て、我々神風隊は狙った標的は絶対に逃さない‥‥貴方とて同じだ‥‥どんな事があっても同志になってもらう」
「‥‥」
堀部は何も言わず去って行った。
(やっぱり、アイツらが今、噂になっている神風隊か‥‥)
(どうする?此処でコイツ等を皆殺しにするか?)
(いや、それだとコイツ等の黒幕へ辿り着けないかもしれない‥‥鵜堂刃衛の背後には出資者の存在が居た可能性があった。それなら、コイツらにも隠れ家や資金、暗殺の依頼をする黒幕が居る筈‥‥)
(‥‥仕方ない、とりあえず、今日は引いて、後日、堀部にあの東馬って奴の素性を聞くか‥‥)
信女は堀部や東馬に気づかれる事無く、その場から去った。
~side翌日~
日が登った翌日、時間も午後の頃合に信女は堀部の開いている私塾を訪れた。
(何かあの人みたい...)
信女はかつて自分の人生を最初に変えるきっかけとなったあの人の事を思い出した。
牢屋の中であの人は、信女に投獄される前、自分は私塾を開いていた事、そこで学んでいた弟子たちの事をよく信女に語っていた。
そんなことを思いながら信女は入っていった。中では元気よくはしゃいでいる子供達がいた。子供達は信女の姿を認識すると
「あれ?お姉ちゃんだれ?」
興味がありながらもちょっと不安そうに尋ねてくる子供。
「...おまわりさんよ」
信女はちょこっと微笑んで、自分の身分を子供達に教える。
「おまわりさん?」
「なんで、おまわりさんがココに?」
「まさか先生の事を捕まえに来たの!?」
子供達の反応に信女はからかう様に、
「だったら?」
と、悪乗りしてみる。
信女のこの返事に子供達は怖がる者も居たし後ずさりをする者も居た更には、
「お、お前なんかに先生は渡さないぞ!!先生は僕が守る!!」
と1人の少年が突進してきたので信女は手で少年の頭を押さえた。すると
「騒がしいな、何事だ?菊松」
と私塾の中から信女の目的の男が現れた。
「貴方はこの前の‥‥」
「どうもおまわりさんです。」
信女は少年の頭を押さえている方とは別の手を上げて堀部に挨拶をした。
少し落ち着いて子供達も遊び回っている中、信女は
(確かに緋村が言ったように子供達の笑顔は和むわね...)
信女は子ども達の遊び回る姿を見て少し心が和んでいた。
(元気にしているかしら、あの子達‥‥)
子供達がはしゃぐ姿を見ると、やはり総司と共に新撰組の屯所の近くのお寺で総司や子供達と遊んだことを思い出す。
「で、本日はどのようなご要件で?この前のひったくり犯の件ですか?」
堀部が信女に今日此処へ来た要件を尋ねる。
「...もっと大きな事...子供達に聞かれたくなかったら少し2人で‥‥」
信女の提案に堀部は、
「わかりました。菊松」
「はい」
「先生はこのおまわりさんとちょっと大事な話がある。みんなの事を少しの間、見ていてくれ」
「わかりました」
と教室の中に信女と共に入っていった。
「今回来たのは先日のひったくりとは別件よ...元見廻組、堀部平八郎」
「っ!?何処でそれを...」
と身構えた堀部これに対して信女は
「別に殺りあいたいけど、今の貴方は刀がない...それに今日、私が此処に来たのは昨日、貴方に接触したあのマントの男について話が聞きたいの」
「驚いた‥まさか、あの場所にいたんですか!全く気配に気付かなかった」
「それで、話して貰える?」
「は、はい‥‥」
堀部は話した。
「東馬がああなってしまったのは、元々私のせいなんです‥‥今の東馬はかつての私そっくりだ‥‥」
「‥‥」
「あの頃の私は、本気で剣一本で維新志士達からこの国を守ろうと思っていた‥東馬はそんな私に憧れ、私が京都に行った後も血がにじむ稽古を続けたに違いない。だが、これからの日本に必要なのは、もはや剣ではない。東馬は新しい時代についていけなかった可哀想な男だ‥‥しかし、私には責任がある。これ以上罪を重ねさせない為にも東馬を止めなければ‥‥」
堀部は昨日の榊東馬が自分の兄弟弟子で彼の性格を自分が作ってしまった事を信女に語った。
「.....だいたいの事情はわかった、私はここら辺を張らしてもらう、もし彼が来たのなら、捕えて彼の暗殺を止めることが出来る。貴方にとっても子供達の用心棒にもなる。これで良いでしょう?」
「それはありがたい、子供達に危害が及ぶのは...」
「ええ、私も子供は好きだから‥‥」
前の世界ではこんな感情を持ち合わせなかった信女であったが、この世界へ来て、様々な出会いと別れを経験して、ただ言われて人を斬る暗殺人形と言う駒から、今井信女と言う1人の人間へと成長させていった。
堀部の言葉に信女は頷いて学問塾の近くに身を潜め神風隊が来るのを待った。
~side信女~
信女は身を潜めながら神風隊を待つ中、連中の事を考えていた。
(彼等のような奴、何が目的でこんな事を...自分達の存在感を出すためか...あるいは...)
そんな事を考えていると、
(っ!?来たか‥‥)
気配に気付き信女は学問塾に忍び込もうとしている不届き者に声をかけた。
「こんな所で何しているの?失礼だけど何か身分を証明できるものは無い?」
「何者だ?貴様」
神風隊の隊員が刀を構えると信女は、
「おまわりさんよ」
信女は無表情で答えた。
・・・・続く
ではまた次回。